奈良と南山城の特別公開寺院を巡る 2015年11月1日-3日

11月1日(日)

高松塚古墳壁画の見学は旅行2日目の11月2日。初日はどこに行こうか悩んだが、20年ぶりくらいに浄瑠璃寺に行くことにした。

奈良へ

新幹線を京都で降りて近鉄に乗り換えると、途中で不吉なアナウンスが。なんと事故で近鉄奈良線が運転見合わせとか。JRにしときゃよかった、とは思ったもののもう手遅れだ。西大寺駅に着くと、案の定、奈良行きはしばらく待てという話。順調だったら近鉄奈良駅で、1時間に1本しかない浄瑠璃寺行きバスにちょうど接続していたのに。
やむを得ず、浄瑠璃寺は後回しにして、西大寺駅から近い法華寺に行先変更。バスに乗る。奈良交通のバスフリーきっぷが欲しかったが西大寺駅では売ってない(近鉄奈良駅で買うはずだったのに・・・)。車内でも売ってない。ちょっと損した気分だが仕方ない。

法華寺

法華寺本堂
法華寺本堂(重文)(09:27)
法華寺は8年振りで、そのときも秋の特別公開期間中だった。なかなかお目にかかれない宝物を見られるのは嬉しい。
朝早いせいか、寺は空いていた。相変わらず十一面観音像は優しくおわします。なぜこんな無茶苦茶な手の長さでこうも美しいのか、まったく不思議でしょうがない。均整とかバランスとか、そんなものを完全に超越した存在なのだろう。
宝物館の阿弥陀三尊及び童子像の仏画もお気に入り。蓮華の花びらが散っていて美しい、3幅なのに幅が均等じゃない珍しい来迎図。というか、来迎図と自分は思ったのだが、そもそも童子を含んだその構成からして、どういう目的の画なのか議論が分かれているという話。学術的にはその辺を突き詰める必要はあるだろうが、美術的にはそんなのものを超越した美しい画である。

海龍王寺

海龍王寺五重小塔
海龍王寺五重小塔(国宝)(10:16)
海龍王寺西金堂
海龍王寺西金堂(重文)(10:28)
法華寺を出て、ぐるりと裏に回って海龍王寺へ。ここも十一面観音が特別公開中。彩色が美しい。
いつも中の五重小塔ばかり気にしてしまう西金堂は、建物をちゃんと見たのは初めてかも。屋根と本体のバランスが絶妙と思った。簡素な美しさがある。

不退寺

不退寺南門
不退寺南門(重文)(10:46)
不退寺本堂
不退寺本堂(重文)(10:57)
浄瑠璃寺へのバスは13時発だが、まだ10時半。時間はたっぷりある。そこで不退寺にも寄ることにした。
海龍王寺からは歩いて15分くらいで着いた。ここも奇妙なくらい人が少なかった。花が多いことでも知られる寺だが、時期的に花はあまりなかったし、紅葉にも早い。
こちらの聖観音は年中公開だ。耳元のリボンが特徴的だ。業平の肖像画が特別公開だったが、なんかぱっとしなかった。

JR奈良駅へ

奈良駅
すっかりモダンになったJR奈良駅西口(12:23)
新大宮駅まで歩き、そこから近鉄に乗ることにした。駅の手前(北側)に小洒落た蕎麦屋を発見したので、11:30のオープンを待って昼食とした。
食事後に店を出て改めて地図を見ると、ここからJR奈良へは歩いても15、6分みたいだ。じゃあ歩こう。浄瑠璃寺行きバスの始発は近鉄じゃなくてJRの奈良駅だから、席も確保できるだろう。
奈良駅に着いてみて、超モダンになっていてびっくりした。前に来たのは遷都1300年記念の2010年で、ちょうど工事中だったっけ。ショッピングモールをうろうろすると、酒屋があって、「風の森」とか「小角」とかいう日本酒がラベルもきれいで気になった。帰りに買って帰ろう。
奈良交通の窓口はバスターミナルからは離れた、駅の改札付近にあった。ここでフリーきっぷを買った。フリーきっぷは奈良市内版だと木簡を象ったきっぷなのだが、我々の選択した全域 2days 版はフツーの紙だったのは残念。

浄瑠璃寺

浄瑠璃寺三重塔
浄瑠璃寺三重塔(国宝)(14:10)
浄瑠璃寺本堂
浄瑠璃寺本堂(国宝)(14:15)
バスに乗ったのは数人だったが、近鉄奈良で大勢乗ってきて、満席となった。20分ほどで浄瑠璃寺に着いた。浄瑠璃寺は、法華寺に比べると混んでいた。
拝観料を払って靴を脱ぎ北の隅から本堂にあがる。順路は背後(西)の縁を廻るので、まだ堂内を窺うことができないが、そのために期待が高まり、もうワクワクが止まらない。南側に回って引戸を開け内陣に入ると、20年ぶりに見る九体阿弥陀の厳かな空間が広がり、素直に感動した。
ここの鑑賞ポイントは正面からの中尊と、なんといっても端(左右どちらでもいい)から、九体がずらりと居並ぶ姿を斜めに見ることだ。三十三間堂もこのずらり感を味わえるが、ここ浄瑠璃寺の方が静かだし、ほどよくこじんまりとしていて落ち着く。さらにこの日は1000円切手で有名な秘仏の吉祥天が特別公開だった。彩色もきれいでふっくらとした頬が美しい。彩色の残る四天王像も平安期の名作だ。広目天が東博に寄託されているので、上野に行くと見ることがあるが、やはり博物館とお堂とでは味が違う。
三重塔初重内部の秘仏薬師如来像は、内部が真っ暗でほとんど見えなかった。玉眼だけがぎょろぎょろしていた。
バスが残り2本しかないので、岩船寺に行くのはやめて、奈良市内に戻ることにした。帰りの14:45発のバスは座れなかった。

興福寺北円堂

興福寺北円堂
興福寺北円堂(国宝)の組物(15:45)
興福寺南円堂
興福寺南円堂(国宝)の組物(15:53)
近鉄奈良でバスを降りたときは15時を過ぎていた。近いうえに特別公開中の興福寺北円堂に行くことにした。また8年前と同じで我ながら安易だと思うが、あそこが開いてるんじゃ行かざるを得ない。
興福寺は中金堂の建築工事中で、北円堂に行くのに東金堂から南円堂前を通ったりとずいぶん遠回りさせられた。あちこちにドローン飛行禁止の立て看板があった。北円堂じたいも周囲の塀が工事中で、外観を味わうにはちょっと味気なかったが、中に入るとそこは変わらないあの濃密な仏像空間だった。無着・世親は見る位置によっては玉眼に照明が入って、うるうるしているように見えた。双眼鏡で間近に見ると、実に優しい、ありがたい顔である。どうも無着・世親に注目してしまうのだが、実は本尊弥勒如来が素晴らしい。この空間をきっちりと束ねている。そしてギョロ目の四天王。めくるめく陶酔感に浸りながら内部をじっくり回っていたら、なんと「団体さんがまいりまーす」とのお告げ。仕方ないので3周で撤退した。

興福寺東金堂

興福寺東金堂
興福寺東金堂(国宝)の組物(16:07)
興福寺東金堂
興福寺東金堂(国宝)(16:09)
16時になった。東金堂に向かった。ココは奈良交通のフリーきっぷ提示で割引が適用されるのだ。十二神将は6体ずつ左右に固まっていた。うーん、見難い。前は12人が正面にずらっと並んでいたはずだ。これはあんまりだ。

興福寺国宝館

国宝館(ここもフリーきっぷ割引の対象だ)に入ったのは16:20近くになった。閉館まであと40分ほどだが、どの仏もみんなお馴染みだから、それだけ時間があれば充分だろう。
順路を進むとまず板彫十二神将がずらり。前に来たのはリニューアルオープンの日、2010年3月1日で、そのときは全く目がいかなかった。その後、2013年に東京芸大の興福寺仏頭展で見たときに初めてその良さが分かったのだ。今回はじっくりと鑑賞した。やっぱり上手下手の差がだいぶんあるなあ。振り返るとずいぶん高いところに仏頭があった。
千手観音の裏を回って反対側の翼に出ると、仁王像天燈鬼・龍燈鬼だ。龍燈鬼の顔を双眼鏡で見ると、牙が木ではないのがよくわかった(水晶だっけ)。
さらに裏に進むと法相六祖(谷啓に似た一番お気に入りの善珠ぜんじゅがいた)を経て、十大弟子・八部衆コーナー。ここには順路整理のコースガイドがあり、阿修羅見物の混雑に対処している。閉館間際のこの時間は人は少なかったが、日中なんかは相当混むのだろう。前にも思ったが、ここはやはり像がケースに入っていないのが素晴らしい。沙羯羅さからの酸っぱいものを食べた顔の質感なんかは、ガラスがないから感じられるのだと思う。鳩槃荼くばんだは前に見たときは高橋真麻と思ったが、この日正面から見たらTMレボリューションに見えた。
となると、法相六祖もガラスなしで見たいところ。十大弟子はさほど好きでないので、法相六祖と場所替えてほしいとか思ったりした。
ひととおり見終えてからまた最初に戻って2周め開始。国宝館は閉館の15分前までで入館〆切。この時間を過ぎれば館内は空くに違いない。16:40になると係員氏が入口近くに陣取り時計を見始めた。もう入ってくる人はいない。16:45になると係員氏は観客のしんがりに付いた。16:50になると唐突に「あと10分で閉館です」と大音声で宣ったので、ドキっとした。
もう人はかなり少なくなり、天燈鬼・龍燈鬼前のたまりに5人くらいになった。じっくり味わえて嬉しい。係員氏は観客の逆走を防ぐように通路に立ちはだかっている。16:53、我々も八部衆コーナーに移動。もうコースガイドは取り払われていた。16:55、今度は館内放送で「あと5分で閉館」のアナウンス。ご丁寧に「ミュージアムショップも17時で閉館いたします」という。まあこのへんが潮時かな、ということで16:58に国宝館を出た。すると入口前にたくさんの人だかりが。もう閉館なのにどうしたんだ、と思ったら、17時きっかりに係員に導かれて入って行った。見ると三越の旗を持ったガイド風の人がいる。閉館後に見物できるツアーみたいなのがあるようだ。

奈良の夜

焼き物
「利光」の焼き物:マナガツオと鱈白子(18:46)
日本酒
「のより」の日本酒(20:11)
宿に向かう。三条通沿いは洒落た店が増えていた。時間があったら寄ってみたい。宿は奈良ワシントンホテルプラザというビジネスホテルで、ここに連泊することにした。
チェックインして部屋に荷物を置いて身軽になって夕食へ向かう。日本料理の「利光」という店を予約してある。宿から店へは住宅街の中を抜けていく。そんな中にもぽつんぽつんと料理屋があったりした。利光ではコースで懐石料理を楽しんだ。奈良の酒が揃っていたので、テキトーに選んで呑んだ。奈良駅の酒屋で見かけた風の森もあって、これはなかなか旨かった。料理も美味しくて、ゆっくり楽しみたかったが、大将の手際が良すぎて1時間半ほどで食事が終わってしまった。夜は長い。そこでさっき三条通で通りかかった、酒屋を改装したらしいバー「のより」に行くことにした。
ちょっとしたつまみと、奈良の酒がたくさんあった。好みの味を告げておすすめをもらったところ、花巴の山廃純米無濾過生原酒がぴったしきた。他の客との会話を盗み聞きすると、ラインナップも結構レアなもののようだった。あーでもないこーでもないと7種類も呑んでしまい、相当いい気分になった。店の冷蔵庫の商品札に風の森があったが売り切れたらしく、そこだけ空っぽだった。

11月2日(月)

飛鳥駅
雨の飛鳥駅(10:07)
今日はこの旅行の主題である高松塚古墳壁画見学だが、前々からの予報どおり、朝から雨で、うすら寒い。
朝食はその辺の店でモーニングセットでも、と思っていたが、昨夜の痛飲でやや頭が重く、宿の目の前のローソンでおにぎりを買って軽めの食事で済ませた。
近鉄奈良から電車を乗り継いで飛鳥に着いたのは10時少し過ぎだった。当選した見学の班は10:25集合だから、ちょうどいいはずだ。

高松塚古墳壁画修理作業室

受付
公園事務所の受付(10:18)
傘をさしてとぼとぼと歩く。記念公園を目指して行ったら、途中に看板があり、公園事務所が受付だった。駅から10分とかからなかった。この班は定員に満たなかったらしく、当日申し込みの人がいた。それでも結局は満員にはならなかったようだ。受付が終わるとまずレクチャールームでスライドを見ながら高松塚古墳の説明を受けた。それからまた傘をさして、いよいよ修理室へ。思ったよりも小さい建物だ。
裏口のような所から中に入ると、いきなり玄武が見えた! 壁画の石は全部で16枚で、4x4の陣形で平らに並べられていた。それを見学廊下からガラス越しに覗くのだ。この様子は公式サイトに出ていたので、双眼鏡必須と考えて、美術展に行くときに使っているニコンのミクロン7x15を持参した。オペラグラスの貸出もあったが、倍率3倍のちゃちいやつだった。7倍双眼鏡でも足りないくらいだったのに、そんなんじゃこの壁画の魅力は半減だ。見ると、双眼鏡持参は自分だけだったみたいだ。
今回初お目見えの星宿図は中央手前に2枚。金ぴかの星はわかったが、星座を表す赤線は、赤く見えなかった。貸出オペラグラスでは金の星もごみのように見えた。正直なところ、星宿図はぱっとしなかった。しかし飛鳥美人(女子群像) は素晴らしかった(右下隅に置いてあった)。見学時間の10分が過ぎると、ブザーが鳴って総員退出となった。長いような短いような、不思議な特別な時間だった。

飛鳥資料館

山田寺東回廊
復元された山田寺東回廊の一部(重文)(11:59)
石の模造品
猿石と人頭石の模造品(12:06)
この壁画公開に合わせてシャトルバスが運行されており、公園事務所から飛鳥資料館への便と、飛鳥資料館から飛鳥駅への便があった。飛鳥資料館では「キトラ古墳と天の科学」とかいう展示があるようだったので、とりあえずシャトルバスで飛鳥資料館へ行くことにした。
展示は正直言ってあまり面白くなかったが、キトラ古墳の模型があって石棺や壁画のようすがわかったのは良かった。なるほど、これが有名な白虎か。キトラ古墳は(国宝でないので)これまであまり関心がなかったが、こうして高松塚のあとに見ると、ちょっと興味が湧いてきた。半獣半人の図像が古墳時代に存在していたことにも驚いたが、なんといっても絵としてのレベルがかなり高いと思った。先日見た、最も古い絵巻という絵因果経の記憶が新しいが、それよりずいぶん絵が上手い。
飛鳥散歩もしたかったが、雨も降っているし、今回は散歩よりも仏像見物の気分と相棒が言うので、とりあえず飛鳥寺に行くことにした。資料館からは歩いても10分程度だが、雨も降っていることだし、フリーきっぷもあるので、わずかバス停1つだけだがバスに乗ることにした。バスが来るまで資料館の庭の飛鳥の謎の石たち(もちろん模造)を眺めていた。

飛鳥寺

飛鳥大仏
険しい顔の飛鳥大仏(重文)(12:27)
飛鳥大仏
優しい顔の飛鳥大仏(重文)(12:34)
飛鳥寺は相変わらず簡素なままだった。庭の木にカワラヒワの群れがいて、美しい声を響かせていた。
飛鳥大仏は写真撮影可。右と左で表情が異なり、印象も違って見えるという。そう言われればそんな気がしないでもない。寺を出るころには雨はすっかり上がっていた。予報どおりだ。

岡寺

岡寺仁王門
風格を感じさせる岡寺仁王門(重文)の佇まい(13:10)
岡寺仁王門
岡寺仁王門(重文)を後ろから眺める(13:13)
次は岡寺へ。バスは石舞台を経由して岡寺前に行き、そこでバスを降りてからかなりの坂道を登る。雨があがっていてよかった、と思えるくらいの急坂だ。拝観受付をして仁王門屋根組物が阿吽の狛犬だ)をくぐり、なおもゆるゆると坂道を登る。我々以外の参拝客は女性2人組しかいない。静かな環境がありがたい。
本堂におわします本尊如意輪観音坐像は本邦最大級の塑像である。本堂正面の窓から顔だけがまずにょっと見えて、思わず「おおー」と声をあげてしまう。お堂にあがって仏前に座ると、手前の仏具で観音坐像の腰から下が隠れるが、そうして見ると、地中からぬっと立っているように錯覚し、ますます巨大に思える。左の不動明王、右の愛染明王とともに三尊を形成するが、この両脇侍が堂内の中2階のようなところに安置されているのも珍しいと思う。
境内の奥をひとまわりした。ちょっとした山道で、雨があがっていてよかった、とここでも思った。三重塔の前からは眺めがよかった。

石舞台

古代米カレー
夢市茶屋の古代米カレー(14:09)
次は、桜井行きのバスで安倍文殊院に行くことにした。始発は石舞台。歩いて戻る。15分くらいだった。
朝食がおにぎりだけだったので、さすがに腹が減ってきた。石舞台のバス停のところに食堂があったのを相棒が覚えており、その「夢市茶屋」という店で昼食をとることにした。バスの出発まで20分くらいしかないので、すぐに出てきそうな古代米カレーと古代米おにぎりを食べた。

安倍文殊院

安倍文殊院山門
安倍文殊院山門(14:47)
安倍文殊院白山堂
安倍文殊院白山堂(重文)(15:22)
石舞台から安倍は意外と近く、バスで20分ほどだった。安倍文殊院は仏像は上野で何度か見たことがあるが、来たのは初めてだ。
趣きのある山門からのアプローチを進む。内部は意外にも広かった。拝観受付は本堂と池に立つ金閣浮御堂とに分かれ、それぞれの券と共通券が売られていた。金閣浮御堂では安倍清明の肖像かなんかが特別公開で見られるということだったが、特に惹かれなかったので、本堂のみの拝観にした。受付を済ませて本堂へあがると、まずは座って抹茶と菓子をいただき、ひと呼吸置いてからすぐ隣の大広間へ。
巨大な空間に巨大な文殊像。話には聞いていたが、これはすごい。岡寺に続いて「おおー」が出る。善財童子ポロンちゃん須菩提は過去に上野で見たことはあるが、本尊はもう比較にならない大きさである。たしかにこれほどでかい文殊像ってのは見たことない。唐獅子のすっとぼけた顔もいい。
奥にある室町期の白山堂を見てから寺を出た。

桜井から奈良へ

奈良駅
JR奈良駅東口の夜景(17:28)
このあとは割と近い聖林寺行きを画策したが、帰りのバスにいい時間のがないのでやめにして、早めに奈良駅に戻ることにした。その分、駅で日本酒選びでも楽しむこととしよう。
桜井までのバスもしばらくないので30分ほど歩いた。着いたらなんと次のJR電車は30分も来ない。仕方ないので駅1階にあるカフェに入って休んだ。
奈良駅に着いて、昨日見かけた酒屋で奈良の地酒(風の森がたくさんあった!!)を8本買い、宿に帰った。宿は奈良駅から見えるほどで、ほんのわずかな距離だった。

奈良の夜・2日目

羆
「イ・ルンガ」の羆のビステッカ(19:54)
食後酒
食後酒でゆったりまったり(20:38)
荷物を置いて身軽になってから、夕食を予約しておいたイタリアン「イ・ルンガ」へ。歩いて20分くらいかかった。
コースはメインにジビエを選べたので、相棒は蝦夷鹿、自分はヒグマを注文した。意外なことに、ヒグマよりも蝦夷鹿の方が野性味があった。選んでもらったワインもよく合った。食後酒まで楽しんでから店を出た。目の前がバス停で、まだバスが走っていたので、JR奈良までバスに乗って(もちろん、フリーきっぷを使って)、宿に戻った。

11月3日(祝)

奈良駅
霧の奈良駅(07:39)
奈良のうまいものプラザ
奈良のうまいものプラザで朝食を(07:42)
最終日は、加茂にある海住山寺かいじゅうせんじに行く。駅からは1時間ほど歩くが、ここはタクシーを使うことにした。節約した時間で宇治あたりに行けるだろう。帰りの新幹線は京都発が15時過ぎだ。
奈良市には濃霧注意報が出ていて、外は物凄い霧だった。今日は朝食は普通に食べよう。​新しい奈良駅にはなんか食事どころがあるだろうと行ってみたら、1階の「奈良のうまいものプラザ」とかいう店に朝メニューがあったので、その「極上たまごかけごはん」セットを食べることにした。テーブルでほっと一息つくと、奈良の地酒の飲み比べセットの文字が目についたので、ついでに朝からちょっと引っ掛けることにした。おお、また風の森だ。う、旨い。

海住山寺

海住山寺文殊堂
蟇股の美しい海住山寺文殊堂(重文)(09:42)
海住山寺五重塔
海住山寺五重塔(国宝)の組物(10:01)
濃霧で電車は遅れていた。加茂駅で降りると、改札前に観光協会かなんかの人が臨時案内をしており、観光パンフをもらった。寺へはタクシーで10分ちょいくらいで着き、料金も1500円でお釣りがきた。着いたのは拝観開始の9時ぴったりだった(電車が遅れたおかげだ)。
国宝五重塔はこじんまりとして品があった。なんでも、屋外の五重塔としては室生寺五重塔の次に小さい塔なんだとか。特別公開の初重は三方が放たれて明るく、浄瑠璃寺三重塔と違って、仏像はもちろん、内陣の壁画までばっちり見えた。この塔の建築史的なキモは、心柱が初重の上で止まっている最も古い例ということだ。おかげで、中央に厨子が鎮座ましましている。また、鎌倉時代の五重塔は、ここだけだという。さらに、裳階のある五重塔は法隆寺五重塔とここだけ。しかも、あちらと違ってこちらは裳階に壁がない。さらにさらに、組物が二手先の五重塔は珍しい。とにかくなんか凄いくらいオンリーワンな塔なのだ。
本堂に移る。本尊十一面観音はすぐ間近で拝観できた。味わい深い、素朴な像だ。外陣には、奈良博に寄託中の文化財などが帰省していて、所狭しと並んでいた。中でも目を引いたのは、かつて五重塔内に安置されていたという四天王像。高さ35cmほどのリアルな像で、彩色もきれいによく残っていて、実にハデハデで見事だった。踏んづけられてる邪鬼にもちゃんと玉眼が施されている。
本坊の本尊十一面観音もこちらにおわします。こ、これは素晴らしい。腰をわずかにくねらせて美しく、小像ながらも風格が漂う。
本坊からは庭の眺めが味わえた。まだ紅葉には早かったが、盛時はさぞ美しいことだろう。野生の猿がギャーギャー喚いて走り回っていたのには辟易したけど。
とにかく、朝一番で(猿以外は)静かで最高の環境だった。『海住山寺の美術』なる本を売っていたので、思わず買ってしまった。四天王様のどアップ写真に溜息が出る。

西明寺

加茂駅でもらった木津川市の観光パンフ「社寺探訪 木津川市のほとけたち」を見ると、周辺のあちこちの寺で特別公開をしているらしい。そこで、最も近い西明寺に行くことにした。またタクシーで移動。
西明寺は、住宅の中の小さな寺だった。寺に付き物の門もなく、道から奥まった、通りからは一目では見えない場所にひっそりと建っていた。拝観料は300円だったが、拝観券はなく、そういう点からも、滅多に公開していないだろうことが想像できた。薬師如来像はパンフの写真では良さそうだったが、いかんせん暗すぎた。

大仏鉄道ハイキングコース

道標
大仏鉄道ハイキングコースの道標(10:57)
道
のどかな田園風景の中を歩く(10:59)
続いて高田こうでん寺へ。スマホのお告げでは、西明寺から歩いて25分ほどかかるという。その程度ならと歩くことにした。道は川沿いを行く。いかにも野鳥がいそうだなあと思ったら、ノビタキ(初見!!)やホオジロが見られた。日差しが強くて暑かった。
途中に標識があって、読むと、大仏鉄道ハイキングコースと書いてあった。大仏鉄道なんて初めて聞いたが、どうやら明治時代の短い期間に存在した鉄道らしい。その遺構が点在しているようだ。意外にも歩いている人が多い。手に持っているのは我々のと同じ木津川市のパンフのようだった。

高田寺

高田寺
高田寺(11:38)
関西本線の線路をくぐると(大仏鉄道の遺構が隣接していたらしいが全く知らずに通り過ぎた)、間もなく高田寺に着いた。こじんまりとした、集落の中心にある昔ながらの寺、という雰囲気だった。近所の子供が境内で遊んでいそうな感じ、とでも言おうか。
本堂に上がってみると、なんとも優美な定朝様の薬師如来がおわします。数人が集まったところで住職が由来などを説明してくれた。なんと写真も撮っていいと言う。「仏さんも喜んでくれはるでしょう」と。おお、ありがたやありがたや。
加茂駅へは歩いて戻った。30分弱。この後はやはりパンフで知った神童寺と国宝仏のある蟹満寺と迷い、とりあえず、なかなか機会のなさそうな神童寺にまず行くことにした。

神童寺

神童寺本堂
神童寺本堂(重文)(12:42)
木津まで行って奈良線に乗り換えて、と思ったら、なんと電車が30分も来ない。考えて、木津からタクシーで行くことを思い付いた。
木津から神童寺じんどうじは思いのほか近く、2000円かからなかった。途中の道で、いかにも寺巡りっぽい歩行者を数人抜いていった。
寺は坂の途中にあった。拝観を申し込んで本堂を開けてもらうと、中央に巨大な蔵王権現が鎮座していた。我々のほかにも数人集まったところで(さっき車で抜いた人たちだ)、住職の説明があった。曰く、蔵王権現を本尊とする寺は珍しく、また、これほどの巨像も、吉野金峯山寺に次ぐものだと言う。脇に童子の絵があって、それがこの秋の特別公開のものなのだが、特段の文化財指定はないようだった。
続いて重文仏像6体がおわします収蔵庫へ。石段をひと登り。雨だったら滑りそうなイヤな感じだ。小さい収蔵庫には、様々な仏像がひしめいていた。愛染明王は宙を射る珍しい形式。阿弥陀像は上品下生のこれまたあまり見ない形式。そして自分の目を引いたのは白不動だった。弁髪を結わない童子形で、これは三井寺の有名な黄不動と同じだ(あちらは絵だけど)。住職の話では、この形の不動明王像は10例ほどしかなく、その全てが京都と滋賀に集中しているんだとか。

帰路

棚倉駅
JR棚倉駅(13:48)
打ち上げ
新幹線で軽く打ち上げ(15:15)
神童寺でじっくり拝んだせいで、残り時間がビミョーになった。蟹満寺にはよらずに京都へ向かうことにして、田舎道を棚倉駅まで歩いた。下りなのでラクだった。棚倉は住宅開発が進んでいるのか、駅前広場はヘンテコなオブジェがいっぱいあったりしてモダンな雰囲気を醸し出していたが、線路をくぐって駅舎に行くと、まさにザ・無人駅で、ギャップが凄まじかった。
昼を食ってなかったので、京都駅でトンカツサンドと鯖寿司を買って新幹線に乗り、ビールとワインでプチ打ち上げをしつつの遅めの昼食とした。酔っ払ってそのまま爆睡してこの旅行を終えた。
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