滋賀と京都の特別公開 2014年11月15日-16日

11月15日(土)

新横浜駅
ようやく列車が来て、様子を撮影しながらホームへ向かう人々(07:21)
名古屋までのぞみに乗り、ひかりに乗り換えて米原へ、そこから在来線で河瀬まで行く。
新横浜に着き、ホームに上がると、新幹線が遅れているとのこと。そのときは「ふうん、次の乗り継ぎに間に合うといいけど」くらいに軽く考えていた。しかしそのうち、ホームに救急隊が来たりして何やら不穏な空気に。そしてとうとうホームから全員退避させられた。人身事故との情報だったが、なぜかコンコースには停電とある。どういうことかとヤキモキしながら待った時間はなんと80分。事件の内容は後で知った。確かに人身事故でもあり、停電でもあり。が、それにしても迷惑な話だ。

滋賀へ

最初の目的地は西明寺。紅葉シーズンのみバスが運行されるが、それは来週から。そこで地元のタクシー会社の「愛のりタクシー」なる乗合タクシーを利用するのだが、これが出発の1時間前までに予約しなければならないというもの。今回は旅行の前日にしっかり予約していたのだが、新幹線の遅延でそれにも乗れなくなった。まったく、迷惑な話だ。
さてどうするべ、と考えたところでどうにもならず、結局、河瀬駅で普通にタクシーを呼ぶこととなった。西明寺までは愛のりタクシーなら2人で1,800円だが、タクシーでは3,000円ちょいだった。のっけからのハプニングに先が思いやられる。

西明寺

西明寺二天門
西明寺二天門(重文)の紅葉(10:41)
タクシーだと中腹まで上がってもらえるのでラクできた。次の金剛輪寺行き愛のりタクシーは11:30だが、今は10:40で予約期限(出発1時間前)を過ぎている。歩いて行くことも考えたが、なにやら雲行きがあやしい。予報を見ると昼過ぎには雨という。そこでその次の12:30の便をまず予約した。2時間近くあるが、のんびり見て、昼飯でも食えばそれくらいの時間にはなるだろう。
中腹の入り口付近は紅葉が始まっていて、きれいだった。ピークにはもっと良くなるのだろう。二天門との対比は実に絵になる眺めで、みんなバシバシ写真を撮っていた。それにしても寒い。

西明寺本堂

西明寺本堂
西明寺本堂(国宝)(10:45)
蟇股
西明寺本堂(国宝)の優美な蟇股(10:47)
我々もひとしきり撮影したあと、まず本堂へ。蟇股が美しい。よく見ると3種類あり、お堂の正面中央のものが一番手が込んでいるようだった。
内部は外陣をぐるっと一周する。組物は緻密に組まれていた。

西明寺三重塔

西明寺三重塔
西明寺三重塔(国宝)(10:53)
三重塔はこじんまりとしている。11月には内部を特別公開している。特別拝観料1,000円也。前に来たときは12月で見られなかったので、これは是非とも見たかった。内部を傷つけないようにと入り口で鞄の類は没収されて(櫃に入れて預かってくれる)手ぶらで入塔。高額の拝観料のためか、中にいたのは係員ひとりのみ。で、この人が詳しく説明してくれる。
3間四方の塔内部は、中央の一間が内陣のため人の入れるスペースは少ない。それにしても、写真である程度知ってはいたが、これほど美しいとは。パンフレットにも他例を凌ぐ残存状態の良さを誇っていると、高らかに謳っている。壁画は法華経の場面。天井は格天井で、花模様で細かく彩られている。四天柱は曼荼羅を構成しており、特に正面左手前、目の前の高さにある菩薩が美しかった。光菩薩というそうな。

金剛輪寺

金剛輪寺本堂
金剛輪寺本堂(国宝)の紅葉(13:08)
金剛輪寺本堂
金剛輪寺本堂(国宝)(13:13)
昼食に門前の蕎麦屋で温かい蕎麦を食べて温まってから金剛輪寺へ向かう。予約していた愛のりタクシーに乗ったところで、とうとう雨が降ってきた。
1時間後の稲枝駅行き愛のりタクシーを予約してから拝観スタート。総門から本堂への山道は、なかなかの距離である。しかも雨で足元に気をつけねばならない。たっぷり10分かかった。
本堂周りには三重塔もあった。飾り気のない、簡素な塔だ。また、本堂も、同じ頃の建立である西明寺の繊細に対し、豪快と言われている。外陣の虹梁がぶっとくて、なるほど、と思う。西明寺では優美な蟇股であるところが、ここではさらりと簡素な間斗束であるところも、その印象につながっているかもしれない。

大津市歴史博物館「三井寺 仏像の美」展

見終わって愛のりタクシーに乗る。新幹線の遅れから時間がずれまくって、百済寺に行くのは止めることにした。ではどこに行くかと言うとあてがない。ネットで情報収集し、いろいろ考え、結局、大津市歴史博物館で開催中の「三井寺 仏像の美」なる展覧会に行くことにした。
草津を過ぎたあたりで雨はあがり、雨雲予想を見てもこの先はもう降らない感じだった。膳所駅で京阪に乗り換え、別所で降りて徒歩数分で博物館に着いた。
国宝の展示は2009年にサントリー美術館で見た五部心観梵夾程度で、正直1,000円は高いと思ったが、実は護法善神立像といった三井寺の主だった面々が集まっており、今回この時期にお寺だけを観たのではおそらく消化不良になったであろう。時間つぶしで寄ったのだが、これは実にラッキーだったのだ。全体としては仏像の展示が多く、文化財指定の有無にかかわらず良いものも多くあった。特に、飛び跳ねているような愛子立像が気にいった。
あと、いっぷう変わっていたのは、作品にキャッチコピーが付いていたこと。梵夾円珍が興奮して手にした姿が目に浮かびますと控えめだったが、中には実は500人の子供がいる肝っ玉母さん(訶梨帝母像)とか、腰のくびれがかっこいい平安ビューティー(不動明王像)とか、結構面白いものもあった。しかもそれが全作品(100点以上)についているのだから、これを考えるだけでも大変だったろうなあと、変に感心してしまった。

大津の夜

夕食
ダイニングMOOで近江牛と日本酒を愉しむ(19:03)
キャッチコピーに満足して今日の活動を終了することとし、宿へと向かった。大津駅に近いビジネスホテルだ。夕食は、食べログで見付けた『ダイニングMOO』という店に行った。近江牛のコースと日本酒を楽しんだ。店のすぐ近くにある平井酒造という蔵の酒を推しているので、それを中心に、同じ滋賀県の酒をいくつか呑んだ。地方だと禁煙の店がなくて苦労するが、ここはばっちり店内禁煙。満足の夕食だった。

11月16日(日)

三井寺へは歩いて行くことにした。特別公開の客殿2棟を早朝の人の少ないうちに見たい。

三井寺へ

紅葉
大津市内でもそこかしこで紅葉が(07:47)
旧東海道
旧東海道を往く(07:51)
途中の道は旧東海道で、いかにも宿場町っぽい家の並びだった。大津事件の石碑があったりした。
三井寺の入場口はいくつかあって、最も南側の神社寄りのところから入った。何だか料金体系がわかりにくい。ここで買える特別公開券は円珍坐像や宝物館が対象で、国宝の書院に入るにはまたそれぞれに現地で払うとか。

勧学院

勧学院
奥に勧学院客殿(国宝)の屋根が(08:45)
急な石段を登って行くと、近江八景の一つ、観音堂の展望台だった。国宝書院のうち、ここから近い方の勧学院に直行する。
鍵形に曲がった生垣の間を進んだ奥に玄関が。靴が2足あったがそれは係員のものだったらしく、中は誰もいなかった。内部撮影禁止は残念。庭にも下りられないので建物全体を眺めることはできない。廊下(広縁)から広間を覗いて、ふうんという感じ。障壁画を眺めるが、現在ここにあるのは複製だ。静かな時が過ぎていく。

光浄院

光浄院
奥に光浄院客殿(国宝)の屋根が:勧学院とそっくりの佇まい(09:13)
続いて光浄院へ。金堂の前を通るが、後回しにして急ぐ。
ここは先ほどの勧学院と基本的な造りは同じだが、規模が違う。こちらの方は門が開いていて全体像が見えるのは良かった。今年はやや早いという紅葉が、ほんのり色づいて庭にかかっていた。これ、ピークは相当きれいなのだろう。ここも広縁から庭と広間を眺めるだけで、内部はおろか外観も撮影禁止なのは同様。

三井寺金堂・閼伽井屋

三井寺金堂
三井寺金堂(国宝)(08:50)
三井寺閼伽井屋
三井寺閼伽井屋(重文)(09:27)
金堂はでかい。派手な蟇股手挟がいかにも桃山建築だ。内陣をぐるりと回ると、背後は小さめの仏像が並んでいるのだが、そこかしこで身代りの写真パネルが置いてある。実は、昨日見た歴史博物館の展覧会に貸し出されているのだった。
前回2003年の訪問時には真っ最中だった閼伽井屋の修理は終わっていて、初めてちゃんと見ることができた。左甚五郎の彫刻があった。

三井寺一切経蔵

軸
三井寺一切経蔵(重文)の輪蔵の回転軸(09:39)
回転式八角輪蔵経蔵。つい先月に同じ八角の飛騨国府安国寺経蔵を見て、その印象も新鮮なまま。こちらは飛騨安国寺よりも内部は明るく、回転軸の芯もよく見えた。

三井寺東院

三井寺東院
三井寺灌頂堂と三重塔(いずれも重文)(10:01)
続いて東院へ。ここには灌頂堂大師堂がある。すぐ隣の三重塔も美しい。ここは御骨大師像中尊大師像黄不動像の特別公開がお目当てだ。いずれもかつてサントリー美術館で見たのだが、お堂で拝むとまた雰囲気が違う。なんでも、大師堂の厨子が開いたのは10年ぶりで、3つとも開いたのは20年ぶりくらいという話だ。
次に文化財収蔵庫に寄って、本日最初に行った勧学院障壁画(狩野光信筆)を見た。展示室の構造といい、この宝物館は障壁画のために建てられたと言ってよさそうだ。

三井寺観音堂

続いて観音堂。朝一で入った入場口まで舞い戻ったということになる。本尊如意輪観音が特別公開となっている。すぐ前の茶屋で甘酒をいただいて温まってから拝観。
靴を脱いであがると、ここでも護符が貰えた。奥まった一角に厨子があり、その中の小さな像が如意輪観音だった。帰りは隣の書院に進んだが、なんとそこが役者の井浦新の写真展会場になっていた。この人を知ったのは大河ドラマ『平清盛』の崇徳院役だが、いつの間にか日曜美術館のMCなんかやってたりして、へえーと思っていたら、経歴を見たところ文化系のNPOだかをやってたりとか、文化人的な方向に行くんだろうか。写真はそれほど感心しなかったが、玄関に飾ってあった星景写真(公式サイトの表紙にも使われてるやつ)はよかった。まあ、何にしても、役得だよなあ。

三井寺を後に

三井寺釈迦堂
三井寺釈迦堂(重文)(11:21)
三井寺仁王門
三井寺仁王門(重文)(11:33)
観音堂を出て、またまた金堂前まで戻り、最後の最後に釈迦堂仁王門を見て、三井寺をあとにした。
帰りの新幹線は京都から指定をとってあるので、午後は京都見物をすることにした。近場で目についたのは、青蓮院の青不動特別公開だ。三井寺駅から京阪に乗り、浜大津で乗り換えて山を越える。青不動のある将軍塚へは公共交通機関がなく、青蓮院からのシャトルバスに乗るか、蹴上駅から歩き又はタクシーしかない。時間効率を考え、ここはタクシーを選択。
蹴上駅で降りるとタクシー乗り場なんかない。こりゃ困ったなと思ったら、そこはさすが京都で、すぐに流しがやってきたのだった。道はぐねぐねとカーブした完全無欠の山道。何の面白みもなく、もし歩きを選択していたら、激しく後悔したことだろうと思った。

青蓮院青不動

将軍塚
紅葉の将軍塚(12:57)
将軍塚
将軍塚から南禅寺方面を見下ろす(13:00)
到着した将軍塚には立派なお堂が出来ていて、これの落慶記念で青不動が公開されているようだ。堂内は小学校の体育館なみ、というよりは小さいけれど、なかなか広く、多くの善男善女で喧しかった。奥の一段あがったところに柵があり、さらにその奥10m先のガラスの中にようやくお目当の青不動が。湖東三山あたりでバードウォッチングができるかもと持ってきた双眼鏡がここで役立った。しかし、この距離感、喧騒、そして明るい堂内。善男善女は入れ替わり立ち替わりやってきては、願い事を書いた蓮の葉を柵内へ投げ入れる。これらが相まって、秘宝感がゼロ。しかし10m先におわしますのは、紛れもない、随一の秘宝、青不動なのである。
拝観コースはお堂を出て、塚の周りをぐるっと周る。眺めのよいところで、平安神宮や南禅寺がよく見えた。

東福寺へ

道
東福寺への往来(14:54)
通天橋
臥雲橋から紅葉の通天橋を望む(14:59)
帰りはシャトルバスに乗った。青蓮院はスルーして、四条の駅までぷらぷら歩いて、昼食(なんかモダンなおばんざいの店だった)をとってから、これまた特別公開の東福寺に向かった。
さて、東福寺と言えば、紅葉の名所である。我々は京都で紅葉見物したことはない。そう、だから、知らなかったのだ。こんなに人が凄いということを。京福の駅を出ると、ずっと人の波が続いていた。東福寺は初めてだったが、この波に乗れば、地図を使う必要がなかった。
臥雲橋にさしかかるともう大騒ぎ。何かと思ったら、ここから見る紅葉に囲まれた通天橋の眺めが素晴しいのだった。テレビとかで見たことのある、あの有名な秋景色だ。

龍吟庵

龍吟庵
この門の向こうに龍吟庵(国宝)が(15:34)
通天橋の受付は通勤ラッシュの駅の改札のようだった。我々の目的は龍吟庵なので華麗にスルー。龍吟庵は1,000円の拝観料が効いたか、さすがに大混雑ということはなかったが、係員が人を集めて案内するスタイルだったため、あまり自由に鑑賞できなかった。ちなみにここも撮影禁止である。
龍吟庵は室町初期の建物で、現存最古の方丈建築である。京都というと古い街というイメージがあるが、応仁の乱のおかげで、それ以前の建物が現存するのは実はかなり珍しい。とは言うものの、自分はどうも住宅建築には関心が薄く、見たところで「ふうん」とか「へえ」しか感想がない。

東福寺三門

東福寺三門
東福寺三門(国宝)(15:44)
次は三門へ。でかい。知恩院やら延暦寺やらを思い出した。禅宗寺院の三門としては最古の遺例とのこと。建築は大仏様と禅宗様の折衷というが、自分にはあまり大仏様テイストが感じられなかった。丹塗りの東大寺南大門浄土寺浄土堂と違って、白黒ツートンだからだろうか。

東福寺通天橋

臥雲橋
通天橋から紅葉の臥雲橋を望む(15:53)
道
紅葉で大渋滞(16:00)
国宝見物を果たしたところで閉門間近となり、さしもの通天橋も、やや人が減ったように見えた。帰りの新幹線までまだ時間があるので、折角だからと寄って見ることにした。橋の見物、というか通過は一方通行だった。橋じたいにも人が溜まっていたが、橋を過ぎて谷に下りる帰り道が、狭いうえに紅葉が綺麗で列が進まず大渋滞だった。

帰宅

どうにかこうにか通天橋を脱出したあとでも、臥雲橋はまだフィーバーしていた。そう、通天橋が閉門となれば、人のいない紅葉の通天橋の写真が撮れるのだ。ま、かなり光が暗くなっちゃうんだけど。
駅への道すがら、屋台が並んで臨時の市がたっていたので、なんとはなしに寄ってみると、丹波ワインが売っていたので2本買った。
JR東福寺駅は狭いホームがごった返して人が溢れんばかりだった。しかしやって来た奈良線電車は空いていて、全員乗っても通勤ラッシュほどにもならなかった。
なんだかんだで結構時間ぎりぎりになってしまったが、無事に新幹線に乗り継いで帰った。
ページ内を句点で改行する