会津の仏と桜 2014年4月26日-27日

4月26日(土)

新幹線の車中で寝ずに行程を考える。2日間のうち、初日は若松市内の桜見物、2日めは仏像巡りという大ざっぱな行程とした。

会津若松へ

会津若松駅でまず情報収集。まちなか巡回バスにはフリーきっぷが設定されていて、3回乗れば元が取れる。宿泊先が東山温泉なので3回は乗るだろうということで、購入。これはバス車中では販売していないので注意しなければならない。
最初に石部桜を見に行きたかったが逆方向の便がちょうど出るところ。そこで鶴ヶ城の桜を見に行くことにした。

会津若松城

会津若松城
桜に埋もれる会津若松城(11:13)
すでに10時を過ぎ、初夏というには暑過ぎるくらいの陽気で、早速Tシャツ1枚に衣替え。
鶴ヶ城は日本さくら名所100選のひとつ。市役所 web ページの開花情報では「散り始めだがまだまだ楽しめるでしょう」とか「桜吹雪が楽しめます」というコメントだったが、どちらもそのままどんぴしゃり。天守の西側はかなり散ってしまった木も目立ったが、東側はまだ本当に散り始め、という感じ。花に埋もれる天守の図も見られて満足できた。
城は大勢の人で賑わっていた。城跡にありがちな甲冑をまとった「ご当地盛り上げ隊」的な人とか、福島県の県鳥であるキビタキがモデルのゆるキャラとかがうろうろしていた。天守の中には入らなかった。復元天守には興味がないし、もう20年も前だが入ったことがあるのだ。

昼食

ソースカツ丼
香寿庵のソースカツ丼(12:03)
城を後にして、バス車内から見かけた香寿庵という蕎麦屋に行き、昼食をとった。かつりんは、市内をあげて推しまくっているB級グルメのソースカツ丼を注文した。こういうB級グルメって、自分の場合、食べると後悔するんだけど、かと言って無視もできず、いつもB級具合の確認作業ということになってしまう。で、結果は想定の範囲内だった。しかし店を出てから相棒がショッキングな一言を。「これって駒ヶ根のソースカツ丼と同じだよね」…そういやそんなのも食ったことあったっけか …ぜんっぜん忘れてたよ…

飯盛山

飯盛山
飯盛山入口(13:26)
飯盛山
飯盛山から市内を見下ろす(13:43)
鶴ヶ城入口バス停からまた巡回バスに乗り、飯盛山へ向かう。バスは県立博物館と競技場の周りをぐるりと周るが、この周囲のソメイヨシノが満開で素晴らしかった。車内にいたスペイン系の白人グループが歓声をあげているのを聞いて、なんだか自分が誇らしげな気分になった。
途中、道路の真ん中でパンクした車が立往生して通せんぼ、というハプニングなどもありつつ、バスは進んだ。飯盛山下でバスを降りる。ここから石部桜は歩いて10分ほどだが、会津若松市役所のツイッターでは飯盛山の桜が満開と言うので、まず飯盛山に寄り道することにした。
有料エスカレータの案内放送が「階段は、ほんっとうに大変です」としきりに言うのを尻目に石段をぐいぐい登ると、てっぺんが広場になっている。左手に顕彰碑なんかがあるが、その反対の右側の奥に白虎隊士たちが自刃した場所があり、はるかに鶴ヶ城の天守が遠望できた。しかし結局、市役所ツイートのいう名桜がどこなのかよく分からなかった。

旧正宗寺三匝堂(さざえ堂)

さざえ堂
旧正宗寺三匝堂(重文)(13:44)
さざえ堂
旧正宗寺三匝堂(重文)の内部(13:47)
先ほど登ってきた石段をまた少し降りて途中から右手に回り込むと、その先にさざえ堂がある。昔来たときは入堂無料だったような気がするが、今回はなんと400円もの高額設定となっていた。内部のカラクリは分かっているので入ろうか迷ったが、重文に敬意を表して入ってみた。うーん、やっぱ、中のぎしぎし具合とか、記憶のまんまだった。

石部桜

石部桜
石部桜(14:16)
そのあと石部桜へと向かった。田んぼの真ん中にあって一際目立つエドヒガンザクラ、というのは一番好きなシチュエーションだ。大河ドラマ「八重の桜」で使われた桜だというが、自分はドラマを見ていないのでよく分からないし、思い入れもない。
花はちょうど盛りで、見応えバッチリだった。思ったほどの混雑はなく、ツアー客はぞろぞろやって来ては短い時間で去っていった。樹の前には臨時のステージがあったが、これが樹に近すぎて全体の写真を撮るには邪魔だった。でもたぶん、これがないと皆ズカズカと平気で田んぼの中に入って行っちゃうんだろうなあ。

旧滝沢本陣

旧滝沢本陣
旧滝沢本陣(重文)(15:24)
15時近くなり、東山温泉に行くバスは残り2本。どこに行こうか迷ったが、ずっと歩きっぱなしだったので座りたくて、重文に敬意を表して、昔も行ったことがあるが、旧滝沢本陣に行くことにした。
旧滝沢本陣は20年前と変わらぬ風情だったが、記憶よりも随分狭く感じた。庭を流れる小沢にはミズバショウが咲いていた。充分に休んだあと重文を堪能したあと本陣を出た。バスが来るまで時間があったので、飯盛山の登り口の茶屋で出来たての粟餅を食べたりした。なかなか美味。

武家屋敷

散る桜
武家屋敷の舞い散る桜(16:14)
次は行きのバスからソメイヨシノがきれいに咲いていたのをチェックしていた武家屋敷へ。30分後に来る便が巡回バスの最終で、まあそんな桜やらなにやらでも見物すれば時間潰しにはちょうどいいだろう。しかし行ってみるとなんと入場料が850円。文化財とかも特段ないし、こりゃどうしようかと悩んだが、結局入ることにした。巡回バスのフリーきっぷを提示して100円割引にしてもらえたのでまあ良かったのか。
内部はなかなか広く、復元の建物ばかりだったが、もっとゆっくりできればよかったと思った。折から風が強まり、桜吹雪がそれはそれはきれいだった。しかもそんな桜が舞い散る中に、なんとキビタキが現れた。まるで夢のような光景だった。

東山温泉

酒
日本酒呑み比べセット:玄宰・七重郎・ゆり・夢心・龍ヶ沢(18:16)
桜刺し
桜刺しに舌鼓(18:49)
武家屋敷から東山温泉へはバスですぐだった。有名な温泉の割には鄙びた風情だった。
今宵の宿はくつろぎ宿新滝。老舗だが、内装は新しくきれいで、風呂もいい湯だった。食事も満足で、中でも桜刺しは出色だった。地酒の品揃えがよくて、呑み比べ5種セットでは4合瓶が5000円で売られている玄宰も飲めた。やっぱり自分はこういう濃醇な酒が好きだ。食事は会津産のコシヒカリで、精米の具合まで選べる。ミックスもO.K.とのことなので、白米と5分搗きと玄米のミックスを注文した。

4月27日(日)

朝は7時に食堂一番乗り。会津産のコシヒカリがウリとのことなので、バイキングだといつも洋食をチョイスするのだが、和食にしてみた。
8:30のバスで会津若松駅に行き、観光案内所で勝常寺への行き方を尋ねると、坂下(ばんげ)行きバスに乗って佐野というところで降りて、そこから歩いて15分くらいとのこと。佐野バス停から寺までの地図ももらえた。しかしバスが1時間後までない。しかたなくタクシーで行くことにした。

勝常寺

勝常寺
勝常寺薬師堂(重文)(09:24)
勝常寺は桜が盛りだった。前日に電話して、午前に拝観したい旨は告げておいたのだが、でしたらいつでもどうぞという感じだった。着いたときは薬師堂は開いていて、どうやら誰かがちょうど拝観を終えたところのようだった。入れ替わるようにして我々が堂内に入る。建物は組物がおもしろかった。普通は束や蟇股を使う中備に、柱のような斗栱が組んであるところに重厚感を覚える。
若い住職は我々を厨子の前に座らせたあと、寺や仏像の来歴を簡単に説明。そしておもむろに、厨子の前面にかかっている幕をしゅるしゅると開いた。思ったより近くに、本尊薬師如来が現れた。肉髻が大きいのが一風かわった印象を与えるが、全体としては、大らかな、いかにも平安の仏像だ。鄙にも稀な、などと言っては怒られそうだが、 江戸時代あたりならともかく、平安時代に、これだけのものが、都からはるか離れた会津にあるという事実に驚くばかり。懐中電灯も出していただいたが(雨の日は堂内が暗くて見えないからだそう)、そのままでもよく見えたし、なるべくあるがままの環境で接したいので使わなかった。やはり博物館で見るのとは大違いだ。
続いて宝物収蔵庫へ。先ほどの薬師如来と三尊をなす日光・月光菩薩が中央に。それにしても、この胴体の美しい曲線はどうだろう。防火の観点から薬師堂には置けず、本尊と別れて配置せざるをえないということだが、やはり三尊並んだ姿を見てみたいものだ。ちょっと不思議な印象を受けるのは、この2体のシンメトリーが思いのほかずれているからなのだろう。もしかしたら別々の作者が作ったのかもしれないと思った。
他にも重文指定の仏像が目白押し。それらはいずれも手先が後世の補遺だったりするが、日光・月光同様、胴体の美しいうねりは造像当初のままだ。

喜多方へ

境内の桜をひとしきり味わってから、塩川駅へと歩き出す。暑い。30分ほど歩いたところで、どうやら次の電車に間に合わなそうということが判明し、慌ててスマホでタクシーを呼んだ。道の真ん中だったけど、勝常寺からの道順を説明したらうまく見つけてもらえた。それにしても便利な世の中になったものだ。
中善寺拝観の予約は14時。それまでどこに行くべきか。電車の中でも考えつつ、喜多方に着いてまずは駅の観光案内所へ。すると皆、枝垂れ桜がどうのと言っている。耳をダンボにしていると、旧国鉄の廃止路線の日中線の線路跡に、延々3kmにわたって枝垂れ桜が植えられているんだとか。サイクリングもできるらしい。ふむふむ。早速ゲットした観光地図を元に作戦会議。チャリンコで願成寺から太用寺などをまわって中善寺に行くという基本プランをたて、意気揚々と駅を出た。しかし、それはすぐに崩壊した。そう、レンタルのチャリンコは全て出払ってしまっていたのだった…

しだれ桜散歩道

しだれ桜散歩道
しだれ桜散歩道(12:29)
しだれ桜散歩道
しだれ桜散歩道(12:41)
こうなったらもう歩くしかない。しかしそれが結果オーライ。歩きの方が、ちゃあんと桜を堪能できるのだった。ちょうど盛りの桜はたいそう美しかった。同じ枝垂れでも、少なくとも2種類はあるのが分かったが、うまく一斉に咲くものだと思った。それにしても、この道を作るときに、よくぞ枝垂れを選んでくれたものだと思う。ソメイヨシノだったらあちこちにあって既視感たっぷり。枝垂れ桜がこんなに長く続く道、だからいいのだ。
写真を撮りつつ歩き、終点まで結局1時間近くかかってしまった。しだれ桜散歩道が終わったあと、林とも原ともつかない中途半端な荒れ具合で廃線の道は続き、やがて車道に出た。

願成寺

願成寺
願成寺山門(13:20)
会津大仏
願成寺阿弥陀三尊(会津大仏)(重文)(13:26)
Google Maps に導かれ進み、車道から集落に入って笹政宗の蔵元を過ぎ(残念、時間があれば…)、ようやく願成寺に着いた。境内の桜は散り始めで、桜吹雪が見事だった。
お目当ての会津大仏は、境内の一番奥の、前面がガラス張りのたいそう立派な収蔵庫に入っていた。拝観は自由らしく、ガラス越しに勝手にどうぞ、ということのようだ。光背のてっぺんの化仏を横のアングルから見たかったが、それは叶わなかった。祈祷かなんかじゃないと中には入れないのだろう。阿弥陀は、正直言ってあまり好きになれない顔。両脇侍はひざまづいて、一方が合掌し、もう一方が掬う手つき。
これでは見物に時間はかからないと判断し、早々にタクシーを呼んだ。タクシーを待つ間に境内の花を見たりした。山門の彫刻がなかなか面白かった。

中善寺へ

薬師堂
中善寺薬師堂の背面(14:21)
10分ほどでタクシーが来て、中善寺までまた10分くらい。着くと、林の中の寺はひと気もなくひっそりとして、まるで廃寺のような佇まいだった。その境内には、すでに仏像の担当氏が我々を待っていた。中善寺は30年ほど前に無住寺となり、以来、地域の人たちが寺と仏像を守っているのだそう。ここの仏像の拝観は、事前連絡が必要で、それはこの仏像番(?)の人のアポをとりつけないといけないからなのだ。
とりあえずの連絡先は喜多方の観光協会なのだが、連絡を入れたのはつい前日のこと。観光協会が土曜日で休みだったのは想定の範囲内。留守電メッセージに従って駅かどこかの出張所に電話。そこで地区の仏像番の方の電話番号を教えてもらう。仏像番氏宅に電話すると、担当が替わったとのこと。またまた新仏像番氏宅に電話をし、互いの時間を合わせて、ようやく拝観となったのだ。
挨拶を交わしたあと、案内されて薬師堂の右脇の階段を上っていく。その上方真後ろにコンクリの建物があり、そこに本尊薬師如来がおわしますとのこと。薬師堂は背面を刳り貫いており、祭礼のときはお堂の前後面を開放し、収蔵庫の扉も開けると、薬師堂から直に本尊が拝めるという仕組みになっている。

中善寺薬師如来

薬師如来
中善寺薬師如来(重文)(14:07)
薬師如来
中善寺薬師如来(重文)(14:19)
さて収蔵庫を開けてもらい、いよいよこの旅の大きな目的のひとつ、薬師如来と対面だ。狭い収蔵庫内は中央に薬師如来が座し、その両脇を十二神将が固めていた。十二神将たちはかなり後の作とみえ、大きさが小さいこともあっておもちゃのように見えた。
それにしても、なんと美しいのだろう。ネットや写真集で見て良さそうな像だと思っていたが、実物も期待どおりだった。鄙にも稀な、と言ってはまたまた怒られそうだが、これほどの優品は中央の寺にだってなかなかないと思う。顔は正面から見るとぽってりとして定朝様らしい。しかしやや斜めから見ると意外にもすっきりとしている。この斜めがイイ。像高があまりないので、こちらが立つと見下ろすような感じになるが、これはやはり、少し下から見上げるようにした方が良かった。
写真を撮っても構わないとのことなので、遠慮なく撮らせてもらった。なんだかとてもよい時間を過ごせた。はるばる来た甲斐があった。

喜多方駅へ

中善寺
中善寺境内を出て歩く(14:25)
勝福寺
勝福寺本堂(重文)は工事中だった(15:12)
時刻は14時半。帰りの電車は喜多方15:52発なので、まだあと1箇所くらいは寄れそうだ。そこで中善寺から歩いて30分くらいの勝福寺に行くことにした。田んぼの中の道を雪の山並みを眺めながら行き、だいたい30分で着いた。しかし、勝福寺の本堂は工事中で、見学できるような状態ではなかったのだった。
もう歩きすぎて疲れたので、またまたタクシーを呼んでしまった。

帰路

SLばんえつ物語
SLばんえつ物語(15:47)
駅弁
三春滝桜弁当(18:07)
喜多方からの電車は、街の知名度とは逆に驚くほど少ない。15:52を逃すとその次は2時間後だ。そのせいかどうか、待合もホームも人は多かった。座れなかったらどうしようと心配になり、おかげでこの駅ですれ違う「SLばんえつ物語号」をじっくり見ることができなかった。
どうにか席は確保できた。しかし電車は会津若松行き。会津若松で郡山行きに乗り換えるのだ。この電車が到着する頃にはすでに会津若松からの客は乗車済みのはず。次も座れるかどうか、気が気でない。会津若松に到着するなりダッシュしたら、またまたセーフ。これでようやく気が落ち着いた。
郡山駅では、昨夜の宿で夕食時に飲んで気に入った日本酒の「ゆり」「七重郎」などを土産に買い、駅弁とゆず酒を買って新幹線に乗り込んだ。新幹線は予約してあるので、もちろん席を心配する必要はない。
豚の醍醐味」は、5種類の調理の豚肉の弁当。「三春滝桜べんとう」は筍などを使ったいかにも春らしい弁当だった。大宮まではたったの1時間。ちょっと飲み食いしたらあっという間に着いてしまったのだった。
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