インド映画祭1998

 去る、7月29日(水)から8月14日(金)に赤坂の国際フォーラムにおいて「インド映画祭1998」が開催されました。これは国際交流基金アジアセンターが実施してきた、アジア諸国の映画を国別に紹介する「アジア映画シリーズ」の第7回目として、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、スリランカ、モンゴルに続いて今回、世界最大の映画製作国インドが選ばれた訳です。

 アジアやアフリカ各地にも広いマーケットを持つインド映画ですが、なぜかこれまで日本にはあまり、と言うよりほとんど紹介されて来ませんでした。 ひとくちにインド映画と言ってもその主体となる言語は様々で、それをひとつひとつ日本語に訳し、さらに国の事情に詳しい人が矛盾点をチェックし、その上で映画翻訳のプロが台詞として完成させると言う膨大な手間がかかる事が、その大きな理由だとは思いますが・・・。(もちろんその他の理由も多々ありますが)

ようやく今年になって「ラジュー出世する」(RAJU BAN GAYA GENTLEMAN)、「ムトゥ踊るマハラジャ」(MUTHU)、「ボンベイ」(BOMBAY)などのインド映画がたて続けにロードショー公開され、インドフリークはもちろん、今までインドとはまったく関わりの無かった人々をも巻き込んで、インド映画界の日本進出は盛り上がりを見せています。

 今回の映画祭では、そういった新しい作品ばかりでなく、今では本国インドでもなかなか見る機会の少ない過去の、しかしインド映画を語る上では、外す事のできない優れた名作を含む日本初公開の12本の作品が、2つの部門に分かれて紹介されました。

 ひとつは「独立後 娯楽映画の流れ」と題した1947年のインド独立後の半世紀を代表するヒンディー語娯楽映画6本の特集。 シリアスもの、神話ものからSFXものまでバラエティーに富み、映画初心者の私たちにはインド映画を知る為のダイジェスト版といった感じのお得な内容になっています。

 もうひとつは、インド映画史を彩る新旧の映画作家二人にスポットをあてた 「監督特集:ラージ・カプールとマニラトナム」と題した6本。 インド映画監督といえば「大地のうた」3部作で知られるサタジット・レイ監督や、「魔法使いのおじさん」などで、日本にも熱烈なファンを持つG・アラヴィンダン監督がいますが、あえてそういった渋味のある「巨匠」ではなく、私たちにも分かりやすく、その作品が非常にインド的(語弊があるかもしれませんが)な理想主義にあふれたラージ・カプール監督を選んだ事に関係者各位の鋭い視点が感じられます。

 彼は、監督兼プロデューサーとしてばかりでなく、俳優としても60本以上の映画に出演し、その役柄も影のある美青年(インド人らしくないと言う表現が適切か解らないが、明らかに私が知っている”インドの人の顔”とは違うカッコ良さである。彼自身「私はピエロ」の中で、”インド人には見えない自分”をエピソードの軸に使っている)から、女ったらしの詐欺師、愛すべきピエロ体型のお人好しな男、と幅広く、その豊かな表現力で観客を魅了し続けました。
 そして「カプール王国」と呼ばれた彼の家族は、名優といわれた父親のプリットヴィーラージ・カプールをはじめ、弟のシャンミー、シャシ、息子のランデイール(妻も女優)、リシ(妻のニートゥー・シンも女優)、ラージーウも人気俳優で、孫娘のカリシュマーもトップ女優(妹もデビューを狙っているらしい)というまさに映画一家。(アニールとシャンジャイの兄弟は遠縁にあたる) そして、何より彼の作品の数々はインドの大衆娯楽映画というものをインド国内だけでなく、北アフリカから中近東、東南アジア、旧ソビエト、そして中国などにも広く知らしめる事になった礎ともいえるものであり、その功績は「映画界のキング」と呼ばれるにふさわしいものといえるでしょう。 「代表的な」と言う言葉にピッタリな”祭り”向きのインド映画監督として彼ほどふさわしい人物がいるでしょうか。

 さらにもう一人の監督マニラトナムは現在公開中の映画「ボンベイ」の監督であり、今回紹介された2本のうち1本にはこれも絶賛上映中の「ムトゥ・踊るマハラジャ」でその強烈なフェロモンを振り撒き、見た者すべてを虜にした「SUPER STAR」ラジニ・カーントが出演しているという念のいれよう。 この商業的な効果まで充分考慮した隙のない作品構成には頭が下がる思いです。

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