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浮世絵文献資料館
浮世絵師総覧
☆ 古今四場居百人一首(ここんしばいひゃくにんいっしゅ)
浮世絵事典
☆ 元禄六年(1693)
筆禍
『古今四場居百人一首』
処分内容
絶板 発禁
◎著者 童戯堂四囀・恋雀亭四染 ◎画工 鳥居清信(双方処罰なし)◎板元
軽追放
処分理由 歌舞伎役者を小倉百人一首の歌人に擬えたこと ◯「古今四場居百人一首」(宮武外骨著『筆禍史』p31) 〝此書は浮世絵版画の祖菱川師宣に私淑せし
鳥居清信
筆にして、稀代の珍本なり。現今存在するものにし て世に知らるゝは、東京松廼舎主人こと安田善之助所蔵と、予の所蔵との二部あるのみ、同氏所蔵本の 奥書に曰く この書は元禄六年夏五月の開板にして、はじめは芝居百人一首と題号しゝが、河原者をやんことなき 小倉の撰に擬してものせるよし、尤憚あるよし、時の書物奉行脇部甚太夫より沙汰ありけば、四場居 色競と改題したり、此書に序跋もまた発開の年号を記さゞるにても、もとありけむを、此ゆゑに削り たるなるべし、されどなほ体裁をかへざりければにや、更に町奉行能勢出雲守より発売を禁ぜられし、 梓主平兵衛といへるは軽追放に処せられぬ、かくて製本僅に数十部に満ずして、世に稀有の冊子にて ありき、亡友豊芥子さしも奇冊珍本の秘蔵多かりし人ながら、此書ばかりはその名を聞くのみなりと かたられき、おのれも年頃いかで見まほしかりしを、明治十年の頃、これも今はなき友なる元木魁望 子が秘蔵さるよし、ゆくりなく聞きでて、漸くにしておのがものとはなりぬるを、こたび文殊庵紫香 君の、強てといはれつるに、いなみがたうて、終に望みたまふにまかせ参らしつ 明治十七年甲申菊月 かくいふもとの持ぬし 関根 只誠 これに拠って、其絶版となりし理由を知るべし、出版者は軽追放の刑に処せられたれども、著画者は其 署名をせざりしがためか、何等の咎めを受る事もなかりしが如し 其記事体裁は左の如く、当時の名優一百人の評判記にして、市村竹之丞、中村伝九郎、市川団十郎、生 島新五郎、上村吉弥、猿若山左衛門、坊主小兵衛、森田勘弥等も其中に加はりあり、是等の記事は山東 京伝の『近世奇跡考』、烏亭焉馬の『歌舞伎年代記』其他にも考証として引用されたり 但し原本は縦九寸横六寸余の大冊なれども茲には写真にて宿刻せるものを出す。
『古今四場居色競百人一首』
童戯堂四囀、恋雀亭四染作・
鳥居清信画
(東京大学付属図書館・電子版「霞亭文庫」)
〔頭注〕古今しばゐ百人一首 此書の挿画は
鳥居清信
壮年の筆なり、後世鳥居風と称さるる特殊の筆意に変化せざりし前のものなれば、 一見菱川派の画なるが如し 予の蔵本には十二枚に渉れる数名の序跋ありて、改題『古今四場居色競』の序跋も添へり、其一に于時 癸酉正月日(元禄六年)とあり 絶版即ち発売禁止となりし理由として『此花』第一枝に掲出したる一條は、全く予の誤見なりしこと関 根翁の記にて知れり 元木魁望子は烏亭焉馬の蔵本なりしを所持されたるならんか、安田氏は先年吉田文淵堂主人の手を経て、 大久保紫香氏の蔵本を百金にて購ひたるなりと聞く、その珍本なることを察すべし 安田氏の蔵本は先年の大地震にて烏有にきせり、予の蔵本は七円にて購入せしを、大正二年百二十円 にて売却せしが、今年春東京帝国大学図書館が購入せし渡辺霞亭の蔵本中に右の品なり、評価一千円 なりし〟
〈関根只誠によると、咎められた原因は、役者百人の評判を小倉百人一首に擬えて行ったこと、つまり当時は被差別民 だった歌舞妓役者を貴族等に擬えたことにあるようだ。本は絶板発禁、板元は軽追放に処せられたが、著者や絵師は お咎めなしとする。2013/06/20追記〉