Top浮世絵文献資料館浮世絵師総覧
 
☆ かしほんや 貸本屋浮世絵事典
 ☆ 文化五・六年(1808・9)頃  ◯『【画入読本】外題作者画工書肆名目集』写本 慶応義塾図書館蔵 翻刻・解題松本隆信   (『西鶴 研究と資料』国文学論叢第一輯・至文堂・昭和三十二年刊)   (国立国会図書館テジタルコレクション画像)   「貸本屋世利本渡世の者にて手広にいたし候者名前」    石渡利助    桂焚堂  青物町(イ桂林堂)    上総屋忠助   優賀堂  新右衛門町    (「此両人書物屋外にて上方直荷物引請候者」)    本屋儀兵衛   宇多閣  南鍋町(イ一丁目)    伏見や卯兵衛       浅草十軒寺町    中村善蔵    瑶池堂  鎌倉町    柏屋半蔵    柏葉堂  神田鍋町(イ柏栄堂)    同 忠七    柏悦堂  下谷松下町代地    山崎平八    山青堂  同平永町代地    柏屋清兵衛        湯島切通町    多田屋利兵衛       堀江町四丁目    越前屋長右衛門 東延堂  本郷三丁目(イ壱丁目)    平林庄五郎   平林堂  本所松坂町(イ松井町)    榎本惣右衛門 木蘭堂 木園閣 深川森下町    大和屋文六   玉泉堂  浅草馬道    住吉屋政五郎  鳳来堂  四ッ谷伝馬町三丁目    伊勢忠右衛門  平川館  麹町平川町    田辺屋多兵衛  雄飛閣  市ヶ谷谷町    鶴屋金助    双鶴堂  新吉原揚屋町     右十八人の者共より書物問屋共え 上方直荷并に江戸板共改を受けず売捌申間敷旨之取極 一札取置     申候  ◯「川柳・雑俳上の浮世絵」(出典は本HP Top特集の「川柳・雑俳上の浮世絵」参照)   1 炬燵へは声のとゞかぬ借(ママ)本屋 「桜狩」 寛保3【雑】   2 借本屋ひだるいやうな歩行様   「折句袋」安永8【雑】   3 情出して・のらついてゐる貸本屋 「名付親」文化11【雑】     〈三句とも上方の句。うずたかい本の積み荷を背負って家々を回る貸本屋。1の句意不明〉   4 貸本屋秘書三通もって来る「筥柳4-1」 天明4【川柳】注「艶本は三巻一組」〈春本〉   5 かしほんや何をみせたかどうづかれ「柳多留37-」文化4【川柳】注「艶本を見せたか」   6 かしほんや唐と日本を背負てくる 「柳多留48-30」文化6【川柳】注「中国の物語をも」  ◯『若樹随筆』林若樹著(明治三十~四十年代にかけての記事)   (『日本書誌学大系』29 影印本 青裳堂書店 昭和五八年刊)   ※(原文に句読点なし、本HPは煩雑を避けるため一字スペースで区切った。【 】は割書き ◎は不明文字     全角カッコ(~)は原本のもの 半角カッコ(~)は本HPが施した補記   (江戸の貸本屋)p75〈明治40年頃の記事〉   〝村幸の話に 維新前江戸に於ける有名な貸本屋は 本芝の長門屋 両国の加賀屋又兵衛 山谷の万屋弥    三郞等にして 長門屋にては雇人の十四五人も使い居たり 其頃 草双紙の出板は春が重(お)もなりき    其頃売行盛んなりしは 丁子屋の八犬伝、大島やの神稲水滸伝【これは板木一度大坂に行 後大しまや    に帰す】等にして 此等の売出に際しては 素人には小売せず 来幾日売出に付御申込下され度旨 本    屋並に貸本屋仲間に通知して 当日は出来の本を三宝に載せて店前に飾り 神酒を供したり 此日黒人    側にのみ売出すなれど 店前雑沓して中々買へざりし程の盛況なりき 其頃の封切本の借り賃は三分位    後に至りて二分二朱位に下落す 随分暴利を貪りしものにて これに就て一笑話あり 麹町の貸本屋沼    田やの御得意(麹町辺にての借人は重に御邸なりき)にて 八犬伝発兌毎に封切を差上置きしが 或時    売出当日に買出し得ずして差出ざりしに 其邸より直接に買ひにやりしに 直段は一部二分二朱にして    平素の見料は三分なりしとの事にて 大に今迄の不都合を責められし事ありしといふ されど其頃は多    く本を買ふよりも 借り人の方多く 随而 封切本を読む事は 其仲間中に一種のほこりとなす風あり    し故 貸本屋も繁昌せし也 予【村幸】は本芝の長門屋の分家にて 京橋の竹川町に住居せる長門屋に    奉公せしが 御得意とせし家は 卅間堀の芹川【十人衆】・紀ノ国屋【材木屋】・新橋の松坂屋・尾張    町のゑびすや ほていや等にて 始終出はひりをなしたり 小僧一人にても一ヶ月廿四五両位のかせぎ    をなしたり 而して普通貸本の日限は十五日間なり 長門屋などにては のれんをわける時は 主人よ    り五十両もらひしものにて 其頃貸本屋の真となるべき書籍は     八犬伝 百六冊  朝夷巡島記  美少年録     侠客伝(本Hp注)     水滸伝      三国誌    西遊記 四十冊  真田三代記     写本 楠廷尉秘鑑 二百四十冊  写本 太閤記 三百六十巻     玉山 絵本太閤記 八十四冊   重修太閤記    (本Hp注『南総里見八犬伝』『朝夷巡島記』『近世説美少年録』『開巻驚奇俠客伝』いずれも曲亭馬琴作の読本。     『絵本太閤記』は武内確斎作の読本、玉山は挿画を担当した岡田玉山)    等重(おも)なるものにして 此等を一通りあつむるは百両かゝりたれば 始めて家をもちしものには買    切れず 先づ裏店に一軒家をもち 自炊にてボツ/\買出し(貸本や仲間の本の市あり 其処にて求む    れば安価なりき)毎日貸本を背負ひあるき 御注文のものは御店に行きて借り来りて 又貸をなすなり    随分割のよき商売故 三年焼けずして商売をなせば 先前記のものをはじめ一通りの貸本を所持し 裏    店より表通りに出て 兎に角土蔵付の家にて小僧一人を使用する迄になるは普通の事也 されど此商売    は半ば 御たいこを叩いて世を渡りしものにて 皆のものよりは目下にみられ 飯を喰つて行けなどゝ    時分時になれば ◎◎◎行きても飯を供せられしもの也     それ/\御得意の客ありて 其家には他のもの出入せず 借人も中々義理堅く 予【村幸】の知人に     からだの弱きもの 貸本をなせしが 能く病気にて御得意廻りを怠りしが 十日にても廿日にても来る    のを待ちて 決して他よりは借りざりき 御邸などに新に出入せんとせば 先づ辻番の親爺に話こみ     懇意になりて手づるを求めて其御屋敷に入りこみ 或は門番につかませて御得意をこしらへもらふ 又    は知らぬ御邸に(の)門番には 御長屋のどなた様へ参ると 出たらめをいひて通りて 勤番部屋や御長    屋を廻りあるけば どこかで借りるもの也 若(もし)かりてなくして門を出る事能はざる時は(送状な    ければ門を出づること出来ず)お長屋のどこにても泣込みて 送り状をもらひて出るなり 故に人の気     をとること最(も)大切にして 能く主人の言ひしは 此年季を三年勤むれば どんな商売も出来ると    の事なりしは尤なり     貸賃の最も割の善きは春本にして水揚帖の如き買値は十匁にして 見料は一分取りたり 四ッと称する    十二枚の春画は 小さき本屋の暮の餅代に◎らへしものにして 暮より春に出せり 或屋敷にては国元    より初めての勤輩は 奥女中等へお土産として 新板のもの二三種宛を初春内に差上ぐるが例なりき     御坊主方にても初春殿中に於て 其御出入の殿様に御祝儀として 内々差上しものなりし事を聞けり     かゝれば四ッの如き出板は幾何(いくばく)出来たるものなりや 計算は出来ざる程なるべし 云々〟    〈村幸は芝の古書店主・村田幸吉。「水揚帖」は柳亭種彦作・歌川国貞画の春本『春情妓談水揚帳』〉  ◯『浮世絵』第参拾貳(32)号(酒井庄吉編 浮世絵社 大正七年(1918)一月刊)   (国立国会図書館デジタルコレクション)   〝「古版画趣味の昔話」淡島寒月(16/26)    (名古屋の大惣)私は嘗てあの店で、沢山な珍しい浮世草紙類を見たこともあるが、あの家には有名な    曲亭馬琴の書いた額がある、其の額の文句に 雨の日の借り本と一と月きめの囲(かこ)ひ者とは損のゆ    かぬ物 といふ様な文があつて実に巧く言つたもので、之が著名な馬琴の書であるため更に引立つて見    えるのである〟  ◯『明治世相百話』(山本笑月著・第一書房・昭和十一年(1936)刊   ◇「オツな商売貸本屋 草双紙から活版本の誕生時代」p19   〝双子の着物に盲縞の前かけ、己が背よりも高く細長い風呂敷包みを背負い込んで古風な貸本屋が、我々    の家へも回って来たのは明治十五、六年まで。悠々と茶の間へ坐りこんで面白おかしくお家騒動や仇討    物の荒筋を説明、お約束の封切と称する新刊物を始め、相手のお好みを狙って草双紙や読み本を、二、    三種ずつ置いて行く。これが舟板べいの妾宅や花柳界、大店の奥向など当時の有閑マダムを上得意にし    てちよっとオッな商売。    稗史小説も追い迫い明治物が新刊され、幼稚な石版画のボール表紙も目新しく、安物の兎屋本を始め、    大川屋、辻岡、文永閣、共隆社、鶴声堂あたりの出版元から発兌の新板小説がようやく流行、洋紙本の    荷も重く、同時に草双紙や読み本のお好みも減って、背取りの貸本屋はボッボツ引退、代って居付きの    貸本店が殖え、三十年前後まで市中諸所に貸本の看板、まだ大衆娯楽の少なかった時代、退屈凌ぎはこ    れに限ると一時は貸本大当り。    明治になって合巻風の草双紙を初めて活版本にしたのは高畠藍泉の『巷説児手柏』、十二年に京橋弥左    衛門町の文永閣から出版、以来統々活版本の新刊、貸本屋向きは通俗の講談速記や探偵実話などで、五    寸釘寅吉やピストル強盗の類に人気集中、薄汚れた厚紙の上表紙をつけたこれらの貸本は引つ張りだこ    で借りて行く〟