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☆ いっついおとこはやりうたがわ 『一対男時花歌川』浮世絵事典
◯『戯作六家撰』〔燕石〕(岩本活東子編・安政三年成立)   ◇「式亭三馬」の項 ②71   〝大人(式亭三馬)が撰たる読本に阿古義物語といへる五巻あり、稿成て、故一陽斎豊国が許に稿本わたり    しかども、一陽斎いかなる故ありてか、繍絵(サシヱ)半にして、其後をふつに画れず、やうやく遅滞に    及びしかば、【その故か、半より末、国貞が筆也】式亭憤を発し、ひごろ刎頸の交り厚きを、かくまで    に己を蔑如にするその心根こそ悪けれとて、自ら一陽斎にいたり、まのあたりにこのことをもて罵り、    その怠慢を責しかば、豊国ぬし言を尽して詫たれども、式亭が怒解けず、これより何となく隔心いでき    て、此方にては、吾作意する冊子には向後彼をして画しめじといへば、彼方にても、彼が作りたる冊子    には吾ふつと画くまじなど罵りあひしが、書賈伊賀屋文亀堂があつかひにて、双方和解し、文化七庚午    年、文亀堂が上木せし一対男時花歌川といへる冊子は、三馬子が編述するところにて、前編六巻を一陽    斎画きて、これを初日と称へ、後編六巻を一柳斎豊広画きて、これを後日と呼び、初日、後日、二日替    りの狂言のごとく執なし、ところ/\両子あひ画にせられたる所もありて、一入興ふかく、彫刻も細に    いできて、是をもて、式亭と一陽斎が和睦の媒となし、文亀堂発市に及びしかば、めさき殊に変りて、    美しく面白き冊子なりとて、看官の評判つよく行れたりき、と亡友一鳳斎国安子存生の内物語ぬ〟    〈三馬作『阿古義物語』(豊国・国貞画)『一対男時花歌川』(豊国・豊広画)ともに文化七年刊。この記述は『戯作     六家撰』の原本にあたる『戯作者撰集』にある。従って「亡友一鳳斎国安」から聞き書きしたのは『戯作者撰集』を     編集した石塚豊芥子である。刎頸の友であった式亭三馬と一陽斎豊国の仲が、『阿古義物語』の挿絵の遅れが原因で、     絶交状態に陥ってしまった。それを地本問屋の文亀堂・伊賀屋勘右衛門が仲裁に入って和解に漕ぎ着けた〉    ☆ 文化七年(1810)    ◯『一対男時花歌川』(式亭三馬作・前編 歌川豊国画、後編 歌川豊広画・文化七年刊)   (前編、口上)   〝三馬口上    東西/\高うハござりますれども、御めんのかうむりまして、世上のお子さま方へ、お礼の口上を申上    奉ります、年々さい/\相かハらぬ合巻ゑさうし、御ひいきの御かげをもつて、はんじやう仕まする段、    板元ハ申すにおよバず、作者・絵師・板木師・すり仕立の面々にいたるまで、めうがしごくしんこんに    てつし、ありがたい仕合に存奉ります。随て当年も何がなめづらしきしゆかう(趣向)をと、かんがへ    まする所に歌川豊国のぞミにしたがひ、せわ狂言のせかいにて、かぶき芝居二日かハりのしうちになぞ    らへ、豊広豊国画工兄弟よりあひがきのさうし、しかも急作につづりあはせ、御らんにいれ奉りまする。     (中略)    此所にてわけて申上まするハ、御ひいき思召あつき豊ひろ豊くに、おの/\さまがたへ御礼の口上、め    い/\に申上たうハぞんじますれども、こみあひましてかき入レの所もござりませねバ、しばらく御用    捨を希奉りまする。扨又、これにひかへましたる小せがれハ豊広せがれ歌川金蔵、つぎにひかへをりま    するハ豊国門人文治改歌川国丸、安治郎改歌川国安、これにひかへしかわいらしいふりそでは私門人益    亭三友、いづれもじやくはい(若輩)ものどもにござりますれバ、御とり立をもつて、すゑ/\大たて    ものとなりまするやう、豊ひろ豊くに私にいたるまで、ひとへに/\希奉ります、まづハ此所二日がハ    りのしん板はやり、うた川両人がつれぶしの御ひやうばん、おそれおほくも大日本国中のすミからすミ    までずいとこひねがひ奉ります〟    豊国豊広口上    御礼のため、式亭歌川の惣連中御め見へいたさせまする。御ひいき御とり立御れいの口上ハ、私ども両    人ニなりかハりまして、式亭三馬口上をもつて申上奉ります。(後略)〟    〈挿絵は口上の場面、肩衣に「馬」の字は三馬の門人、肩衣に「年玉印」は歌川門の人々。豊国が中央、左右に豊広と     三馬がいて、背後に双方の弟子たちが控える。名を列記すると、三馬側は益者三友・徳亭三孝・楽亭馬笑・古今亭三     鳥。歌川派は豊広の脇に倅の金蔵、そして国貞・国丸・国安・国長・国満が控える。ただ、国貞はなぜか一人だけ離     れて、三馬の門人側に座っている。この挿絵は豊国が画いたのだろうが、この配置に何か意味があるのだろうか。そ     して挿絵の上部にやはり連中の名の入った提灯が下がっている。右から馬笑・三馬・三孝・三鳥・三友・豊広・金蔵     ・年玉印だけのもの・国貞・国安・国政・豊国・国長・国満・国丸・国久・国房と並んでいる)         『一対男時花歌川』前編・口上 豊国画 (早稲田大学図書館「古典籍総合データベース」)