Top浮世絵文献資料館浮世絵師総覧
 
☆えどのめいてん 江戸の名店浮世絵事典
   ①『江戸名物詩』初編 方外道人狂詩 春峰・英泉等画 天保七年(1836)刊     (早稲田大学図書館・古典藉総合データベース画像より)    ②『江戸買物独案内』中川芳山堂撰・口絵「北斎改葛飾為一画」文政七年(1824)刊     (国立国会図書館デジタルコレクションより)    ③ 雑俳川柳 出典略号例(六6)『柳多留』六編六丁の意。(天七天2)『川柳万句合』天明七年(相印)天二丁  <書物問屋>  【須原屋】(日本橋 武鑑)   ①「須原屋武鑑  通一町目     蔵板尤も多し須原屋     袖珍武鑑一家の栄へ     年中の役替へ任官改(アラタ)   日日刊(ケヅ)り成つて海内に行(オコナ)わる」   ②「日本橋通一丁目 唐本・和本・仏書・石刻 書物問屋 須原屋茂兵衛」   ③「吉原は重三茂兵衛は丸の内」(二七28)    〈出雲寺とならぶ武家名鑑の出版元。吉原細見(いわば遊女の名鑑)蔦屋重三郎と、武鑑の須原屋茂兵衛、ともに江     戸を代表する版元〉  【和泉屋】(両国 唐本))   ①「和泉屋唐本  両国横山丁三丁目     玉巌堂上に唐本多し     経史文集土蔵に餘る     誰か道ふ主人の尤も好事と  百千の書名腹中儲」   ②「横山町三丁目 唐本・和本・石刻・仏書・御経類 書物問屋 玉巌堂 和泉屋金右衛門」  <地本問屋>  【鶴屋】(日本橋 錦絵・草双紙)   ①「鶴屋錦絵  通油町     役者の似顔を国貞の筆  狂言写し出し三都に響く     近来別に流行の画有り  田舎源氏数編の図」   ②「江戸暦開板所 千代絵・絵半切・錦絵・草紙・表具類・御経 書物/地本問屋 通油町      仙鶴堂 鶴屋喜右衛門」   ③「鶴に蔦こたつの上に二三冊」(二五30)〈鶴喜と蔦重の新刊黄表である〉    「廻り合ふ春を鶴屋の蔵で待ち」(五三16)(正月売り出すの錦絵)    〈柳亭種彦作・歌川国貞画の大ベストセラー合巻『偐紫田舎源氏』の版元〉  <文具屋>  【古梅園】(日本橋 墨・筆・硯)   ①「古梅園古墨  通二町目     南都仕入れ松井が店(タナ)   日本橋南の翰墨場     紫玉書奴摺り来る処(トコロ)   筆端忽(タチマ)ち古梅の香を為す」   ②「十組九合古組 日本橋通二丁目北東角 墨筆硯問屋 古梅園松井新助」    〈松井古梅園は奈良の製墨店〉  【文魁堂】(日本橋 墨・筆・硯))   ①「文魁堂筆硯  通四町目     水筆羊毫小文筆       端渓和硯製尤も新なり     誂(アツ)へ来る日日書生の客  半ば是れ米庵門下の人」   ②「日本橋通四丁目 十組九合古組 墨筆硯問屋 文魁堂 京屋弥兵衛」      書家市川米庵とその門人が専ら贔屓にしたようだ〉  <紙問屋>  【金花堂】(日本橋 雁皮)   ①「金花堂雁皮  通四丁目     半切り文筒短冊鮮(アザ)やかなり 暑中の団扇(ウチハ)も幾多の銭     金花堂上金花発(ヒラ)き      染め出す雁皮の五色箋(セン)」   ②「御書物紙 金花堂 雁皮帋 豆州熱海今井半太夫製」     〈五色の雁皮紙は伊豆熱海の名産。書店金花堂(須原屋佐助)・榛原(ハイバラ)・今井の三店が専売〉  <道具屋>  【本惣】(日本橋 茶道具)   ①「本惣茶道具  新右衛門町角     青磁染付(ソメツケ)高麗物  備前瀬戸古唐津(カラツ)     所持の道具に名器多し  鑑定当今の第一人」     〈本惣(ホンソウ)は茶道具屋にして目利きの第一人者了芸(リョウウン)〉  <呉服屋>  【越後屋】(日本橋)   ①「越後屋呉服  駿河町角     両側(ガハ)一町三井が店(タナ)  小僧判取り帳場遐(ハルカ)なり     半時の商(アキ)内何(ナン)千貫   知る是れ繁昌江戸の花」   ②「駿河町南側 現金無掛直 越後屋八郎兵衛」   ③「にわか雨いとやすく貸す三井出し」(天七天2)     〈貸し傘は越後屋に限らないのだが……、貸し傘といえば越後屋なのである〉  【住伊】(日本橋)   ①「住伊呉服  日本橋中通     京都織り物の新帯地   判取り帳場小僧忙し     誂へ物の手附三日限り  金泥染の類(タグヒ)決して商なわず」     〈未詳〉  【白木屋】(日本橋)   ①「白木屋諸式  通一丁目     諸式の注文望み次第   貯収(タクハヘ)品物量(ハカ)るべからず     唯だ呉服絲のみに非ず  万事人間の無尽蔵」   ②「日本橋通一丁目 呉服物問屋 白木屋彦太郎」   ③「よくうれる店さと水を汲んでいる」(七31)     〈店の井戸水を客に無料開放したという〉  【大丸】(日本橋)   ①「大丸屋新形  通旅籠町     流行の新形(シンガタ)流行の縞   仕込沢山土蔵に満つ     忽ち去り忽ち来る四方の客   町人武士半分は娘」   ②「大伝馬三 通旅篭町 呉服物 大丸屋正右衛門」   ③「大丸と越川でどら身ごしらへ」(六六4)     〈大丸で仕立てた衣裳を着、越川仕立ての煙草・紙入れを懐中にして吉原へ。どら息子の必須アイテムである〉    「大丸は越後の上にたヽん事」(三一37)     〈越後屋と張り合っていた〉  <小間物屋>  【丸角屋】(日本橋 袋物)   ①「丸角屋仕立  本町二丁目     紙入れ服紗(フクサ)巾着類    年年織り出す新工夫     近年胴乱鞠(マリ)形多し    古渡の印甸(インデン)縞(シマ)広(カン)東」   ②「本町二丁目 小間物/袋物類問屋 丸角屋次郎兵衛」  【紀伊国屋】(江戸橋 煙管)   ①「紀伊国屋喜世留  四日市     喜世留多し四日市  紀伊国屋大繁昌     赤銅真鍮流行の形  毛彫り金銀尽く地張(バリ)」     〈『江戸買物独案内』「江戸橋四日市 風流請合 御煙管師 紀伊国屋長右衛門」両国米沢町および浅草黒船町の      両村田とならぶ煙管の名店〉  【越川屋】(下谷 袋物)   ①「越川屋袋物  下谷仲町     閑清縫(カンセイヌヒ)細にして製尤も工なり  仕立(シタテ)従来世上に通(ツウ)ず     胴乱腰帯懐中の物           人人自ら識る越川の風(フウ)」   ②「下谷仲町 江戸一家 御袋物師 越川屋忠兵衛」   ③「大丸と越川でどら身ごしらへ」(六六4)     〈大丸で仕立てた衣裳を着、越川仕立ての煙草・紙入れを懐中にして吉原へ。放蕩息子の必須アイテムである〉  【村田屋】(浅草 煙管)   ①「村田喜世留  浅草御蔵前     店(ミセ)は自ら繁昌品は自ら鮮やかなり 風流の仕込村田に在り     近来新製の文人張(ハリ)        吸ひ出す詩歌幾(イク)首の烟(ケムリ)」   ②「元祖文星堂 御煙管師 江戸浅草御蔵前通黒船町 惣本店 村田小兵衛」   ③「助六が雨は村田に住吉屋」(一三八13)     〈江戸の煙管張りの双璧が住吉屋とこの村田屋。芝居では助六の番傘に細身のキセルがパラ/\と降る〉  【住吉屋】(下谷 煙管)   ①「住吉屋喜世留  池之端仲町     住吉屋名は他彊に響く  人人持ち得て寿更に長し     買ひ来る日日注文の品  半は是れ桜張出世張   ②「下谷池之端仲町 東叡山御用 御煙管所 住吉屋清兵衛」   ③「住吉を筒男に入れて腰へさし」(八三64)     〈底筒男命(そこつつのおのみこと)が住吉大社の祭神。キセルでは上掲蔵前の村田と人気を二分する〉  【山口屋】(浅草 金物仕立)   ①「山口屋仕立  浅草並木町     鞠形(マリカタ)利休煙草入れ  流行金物(カナモノ)製尤も濃やかなり     相ひ見て若し相ひ問はば  並木町頭の山兵の縫ひ     〈山口屋の流行金物、鞠形や利休形の煙草入れなども仕立てたようだ〉  【味噌屋】(京橋 元結)   ①「味噌屋元結  南伝馬町一丁目 西側新道     元結(モトユイ)売り初む味噌屋    数年絶へず店(ミセ)繁昌     金柑は尤も細く奴は尤も太(フト)し 都(スベ)て人間頭上の霜(シモ)と為る」     〈看板に味噌屋とある元結商。元は味噌屋かと『守貞謾稿』「味噌」の項目は言う。金柑や奴は元結の名称〉  【日野屋】(下谷)   ①「日野屋小間物  池の端仲町     仲町第一の日野屋  品物並べ来て望み窮まらず     六十余州の諸名産  此の家へ貯へて土蔵の中に在り」   ②「池之端仲町 小間物問屋 十組九合組 日野屋忠蔵」  【兼康】(芝 歯磨き粉)   ①「兼康祐元歯磨  柴井町     看板仮名文字白く    兼康数代歯磨き香ばし     口中の諸病奇薬多し   尽く是れ祐元家秘の方」     〈兼康祐元創製の歯磨き粉。この「かねやす」は本郷ではなく芝柴井町の「かねやす」〉  【長井兵助】(浅草 歯磨き粉)   ①「長井兵助歯磨  御蔵前     看板太刀正面に飾り       兵助の居合三方に上る     人人待ち得て今将に抜かんとす  歯入れ歯磨口上長し」   ③「何事ぞ歯を抜く人の長刀」(一一六32)     〈歯の治療を行うかたわら、居合い抜きの大道芸で人を集め、家伝の歯磨きや蟇の油を売った〉  【日野屋】(両国 閨房秘具)   ①「日野屋小間物  横山町二丁目     主人の閑月暁(アカツキ)連の祖  諸色の道具は店頭に堆し     近来新に製す一奇品     貴賤争ひ買ふ脊令台」     〈鶺鴒台は閨房秘具。日野屋の主人閑月庵の工夫製作という〉  <薬種屋>  【酢屋】(日本橋 三臓円)   ①「酢屋三臓円  本町四丁目     箱入れ人参三臓円      本家酢屋本町の邉     世間労症虚分の者      一剤嘗(ナ)め来れば性命全し」   ②「大坂鱣谷三休橋筋西ぇ入 御免調合所 法橋吉野五運 人参三臓円 薬白雪糕 本町四丁目     北側 出店 酢屋平兵衛」     〈人参三臓円は大坂鰻谷の吉野五運が朝鮮人参などを調合した薬、酢屋はその江戸店〉  【近江屋】(日本橋 感応丸)   ①「近江屋感応丸  室町一丁目     正野法橋玄三の製   万病を駆役して都て春に回へす     一粒百疋滅法の価ひ  去り乍ら即効実に神の如し」     〈「万病感応丸」は近江日野の正野玄三が創製した万能薬〉  【十時庵】(日本橋 金砂挺)   ①「十時庵金砂挺  伊勢町裏川岸     仙方の補薬金砂挺    呑み来れば即坐に五体寧し     新たに製す天行避邪法  梅香一烓十時馨し」  【美濃屋】(京橋 消毒散)   ①「美濃屋消毒散  南槙町川岸     南槙町の邉り金の瓢箪     梅花万能諸瘡安し     就中(ナカンズク)売り弘む消毒散  日に一匙(サジ)を呑めば寒に侵されず」     〈金の瓢箪は薬店美濃屋の絵看板。「消毒散」や「人参梅花香」を商う〉  【木谷】(中橋 実母散)   ①「木谷実母散 〈空白〉     江戸中橋の実母散  和方神妙即効奇なり     産前産後皆通用   最も好し婦人血の道の時」   ②「中橋南伝馬町一丁目 さん前さんご婦人血のみち一切によし 産前/産後 本家実母散     (能書あり・略)五葉堂幸輔」   ③「中橋の薬継母にやきかぬやう」(天八12・15)     〈継母には効かぬようだとは理屈だが〉  【堺屋】(芝 反魂丹)   ①「堺屋反魂丹  芝田町四丁目     田町の元祖反魂丹  一粒呑み来れば諸病安し     霍乱食傷又た腹痛  懐中貯へ得て万人歓(ヨロコ)ぶ」   ②「私店御目印看板無御座候 延寿反魂丹 腹一切に吉せり 売渡し一切不仕候 芝田町四     丁目元札之辻 薬種店 さかいや長兵衛」     〈霍乱食傷腹痛に効能あり、芝田町の堺屋は反魂丹の元祖を名乗る〉  【松本屋】(両国 稀薟丸)   ①「松本屋稀薟丸  両国広小路     稀薟松本家伝の方       看板高く懸る両国の濵(ホトリ)     平生服用すれば身に病ひ無し  買ひ来る近在近郷の人   ②「元祖 一切中風によし 正製加味稀薟丸 外ニ出店取次所一切無之(中略)     両国米沢町一丁目 薬種砂糖問屋 松本屋彦四郎」  【歓学屋】(下谷 錦袋円)   ①「歓学屋錦袋円  池の端片町     格子数間錦袋円       小僧取り次ぎ静かなること禅の如し     請ふ看よ一貼百文の包(ツツミ)  現出(ミイダ)す観音は是れ結縁ならん」   ②「下谷池之端仲町(効能書略)万病錦袋円 勧学屋大助」   ③「女を先にやり錦袋円買い」(天二仁4)     〈病気だけでなく強壮効果もあったようだ〉  【近江屋】(日本橋 艾)   ①「近江屋太牢饌  室町一丁目     銅網の招牌(カンバン)近半の店  反本巴艾太牢饌     内製酒を進るに宜し      又た是れ味噌と甘和泉と」  【釜屋】(日本橋 艾)   ①「釜屋艾  小網町     往来の看板一町に高し  知る是れ伊吹釜屋の艾     土用寒前注文多し    子供は中小大人は大」   ②「小網町三丁目 本家かまやもぐさ 釜屋治左衛門(口上・商品略)」   ③「小網町釜よりおろす赤団子」(一三九38)     〈釜屋は艾本舗「元祖釜屋艾富士治左衛門印」という木看板と大釜が店の目印。息吹・三升は商品名。赤団子は艾      のこと〉  <化粧品屋>  【下村山城】(日本橋 化粧油)   ①「下村山城油  本両替町     三都類無し山城製      貴賤珍重す六十州     貯へ得て道中幾日を経るとも 融(トケ)ず替(カハ)らず一番の油」   ②「常盤橋両替町 御化粧紅粉/京都御白粉 御香髪之油 下村山城掾」   ③「下村の表へならぶ御ぜんかご」(宝一一信3)     〈伽羅の鬢付油が有名。御前籠はの荷を運ぶ籠、お城近くなので御殿女中が上得意であった〉  【大好庵】(芝 化粧油)   ①「大好庵金化粧  芝神明門前      名は久し神明門外の店(ミセ)  沈香白檀伽羅芳ばし     古来別に児女の愛する有り  大好庵中の金化粧」     〈大好庵は芝の化粧品店。沈香・白檀・伽羅油が評判〉  【江戸の水】(日本橋 化粧水)   ①「三馬江戸水  本町二丁目     近年三馬大流行       徳利往来店(ミセ)遑(イトマ)あらず     売り出す繁昌江戸水     粧ひ成す八百八町の娘」   ②「おしろいのよくのる御かほのくすり 江戸の水 箱入びいどろ詰(他の商品略)本町二丁目     北側中程 式亭三馬」   ③「江戸に水三馬玉川猪の頭」(九七3)     〈玉川・井の頭に水の匹敵すると〉  【玉屋】(日本橋 口紅)   ①「玉屋紅  本町二丁目     朱旗揺影の本町の風     認め得たり暖簾(ノレン)玉屋の中     世上人人寒製を貴ぶ     買ひ来る猪口幾杯の紅」   ②「本町二丁目角 京都出店 御化粧紅/御油白粉 紅白粉問屋 玉屋善太郎」   ③「角の玉屋で約束の寒の紅」(九七3)     〈寒製は寒紅(かんべに)、よく付くという口紅の極上品。猪口(チョコ)に塗り重ねて売られた〉  【仙女香】(京橋 粉白粉)(せんじょこう)   ①「坂本氏仙女香  南伝馬町三丁目     新板読み来る草紙の傍(カタハラ)  此の家の口上両三章     京橋の北春風の夕       町内吹き薫ず仙女香」   ②「御かほの妙薬 美艶仙如香(能書あり・略)京橋南伝馬町三丁目 いなり新道いなり社     東となり 本家坂本氏製」   ③「絵草紙へ引札を書く仙女香」(一三四14)「大詰に仙女も出づる草双紙」(一一六26)    〈合巻にはお馴染みの広告〉  【松本】(日本橋 化粧水)   ①「松本蘭奢水  住吉町     売り出す一方蘭奢水     鬢に付け鉛粉(オシロイ)製尤も芳し     家名は松本紋は銀杏(イテウ)   看板刻成岩戸香     〈この松本は俳優の松本幸四郎。看板に銀杏紋。蘭奢水(化粧水)・岩戸香(鬢付け油)を商う〉  <菓子屋>  【鈴木越後】(日本橋 羊羹)   ①「鈴木越後羊羹  本町一丁目     江戸誰か知らん越後の名  本町入り口土蔵宏(ヒロシ)     当時処処新製多きも    旧に依つて羊羹天下に鳴る」   ②「勅許 鈴木越後掾 日光/伝奏御用御菓子司 本町一丁目 藤原政賀」   ③「山本を入て越後の菓子を出し」(一二一丙26)     〈本町二丁目山本屋の銘茶に鈴木越後の名物羊羹を添えて出したのである〉  【船橋屋】(深川 羊羹)   ①「船橋屋練羊羹  深川佐賀町     本家久(ヒサシ)く住す深川の岸(キシ)  菓子羊羹天下横とう     縦(タト)ひ同名同店の在有とも   船橋の文字自然に明(アキラカ)なり」   ②「深川佐賀町 尾州御用御菓子所 船橋屋織江」   ③「新橋の下をくゞると舟橋屋」(一〇四3)     〈この新橋は新大橋〉  【鳥飼和泉】(日本橋 饅頭)   ①「鳥飼和泉饅頭  本町三丁目     鳥飼和泉に鳥飼無く  饅頭日日注文多し     唯だ歓ぶ皮薄くして餡(アン)尤も好きを 荷ひ出す蒸籠日に幾荷」   ②「本町三丁目 田安/一橋 御用御菓子 鳥飼和泉掾 源転房」日本橋本町鳥飼和泉」   ③「鳥飼は下戸の建てたる蔵づくり」(八七28)     〈本町三丁目は薬種屋が多いので「三丁目饅頭のほかにがい見世」(五一20)の句もある〉  【塩瀬】(京橋 饅頭)   ◯『江戸名物鹿子】(享保18年刊)    〝塩瀬饅頭 蘭台 炉開はせすまんぢうに服紗とは〟   ①「塩瀬饅頭  南伝馬町四丁目     伝馬町頭塩瀬の店(ミセ)     饅頭元祖製尤も新(アラタ)なり     毎朝蒸し立て皮は解けるが如し 争ひ買ふ世間下戸の人」     〈市中の人々のみならず幕府や諸大名への贈り物としても重宝された〉  【唐林】(日本橋 遠山餅)   ①「唐林小倉野  日本橋西河岸     甘味(アマミ)十分小倉野  飡ひ来れば一碗薄す茶清し     巻皮養性遠山餅     尽く是れ唐林新製の名」     〈小倉野や遠山餅が人気菓子のようだ〉  【若松屋】(両国 幾代餅)    ①「若松屋幾代餅  両国吉川町     両国一番若松屋      雑煮(サウニ)汁粉(シルコ)客の来る頻なり     世間の名物多くは零落す  幾世独り幾代の春を歴(フ)る」     〈吉原遊女・幾代を落籍した後その名をとって開業した餡餅。享保二十年刊『続江戸砂子』「両国はし 西の詰       小松屋喜兵衛」とあり〉  【長命寺】(向島 桜餅)   ①「長命寺桜餅  向島     幟(ノボリ)高し長命寺邉の家  下戸争ひ買ふ三月の頃     此の節業平吾妻に遊はば   都鳥を吟ぜずして桜餅を吟ぜん」   ③「屋根舟へ岡から投げる桜餅」(一一二18)     〈隅田堤の桜葉二枚で挟んだ餡餅。狂詩は在原業平の東下りのときにこれがあれば都鳥を詠まずしてこれを詠んだ      であろうという。曲亭馬琴の『兎園小説』によると文政七年には七十七万五千枚もの桜葉を仕入れたとある〉  【金竜山餅】(淺草 餅)   ①「金龍山餅  浅草寺境内     金龍山畔の金龍餅   餅白く餡甘の黄粉新なり     日日観音参詣の客   腰を掛け頻に食ふ幾多の人」   ③「もちがつかえたかゑの木をにらめてる」(天二信2ウ)     〈ゑの木は伝法院前の榎。見世は伝法院の向かいにあった。現在も浅草仲見世で販売中〉  【越後屋】(日本橋 京菓子)   ①「越後屋播磨菓子  石町     新製の流行播磨掾       詰め来る菓子花より艶なり     人人携へ至る知んぬ何れの処ぞ 定て是れ権門取り次家」   ②『江戸買物独案内』「本石町四丁目 水戸御用 京御菓子司 越後屋播磨掾 藤原吉重」     〈京菓子。権門への贈答にも使われたようだ〉  【翁屋】(日本橋 煎餅)   ①「翁屋翁煎餅  照降町     砂糖上品にして味尤も軽し  進物年中客自から栄ふ     縦ひ結搆の干菓子有るも   此の如きの煎餅は江城にも少なり   ②「てりふり町 御菓子所/翁せんべい 翁屋和泉掾」   ③「煎餅屋ばかり照り降りなしに売れ」(二五17)     〈この辺りは傘屋と履物屋が並び、ともに晴雨によって売れ行きが左右されるが、煎餅屋は関係なく売れると〉  【鈴木兵庫】(麹町 煎餅)   ①「鈴木兵庫菊一煎餅  麹町 大通     兵庫麹町の三丁目          誂へ来る煎餅客紛紛たり     古今唯(タダ)製朝顔(アサガホ)の形(カタ)  焼に風流菊一の紋を做(な)す」   ②「御宮・水戸御用御菓子司 本店 麹町三丁目 鈴木兵庫 藤原吉国 出店 土橋二葉町      鈴木若狭掾 藤原吉次」  【竹村伊勢】(吉原 巻煎餅)   ①「竹村最中月  吉原仲ノ町     色は白し最中一片の月  巻き来る煎餅品尤も嘉し     暑寒年玉又時候     茶屋は携へ行く得意家」   ③「町で竹芝居で虎を下戸は喰ひ」(一〇七15)     〈下戸は吉原では竹村伊勢の最中の月や巻き煎餅を食べ、堺町・葺屋町の芝居では虎屋の饅頭を食べると〉  【丸屋】(浅草 団子)   ①「丸屋大団子  御蔵前瓦町     土間店広し御蔵の前  丸屋の盤中団子円し     評判従来大安売    一盆飡尽腹便便     〈日本橋・浅草近辺では浮世団子・喜八団子などと並ぶ名物団子〉  【橘屋】(麹町 助惣焼)   ①「橘屋助惣焼  麹町三丁目大横丁     助惣焼き始む助惣焼   極上塩梅四方に聞こゆ     先祖由来住居久(ヒサシ)   家名自から麹町とともに長し   ②「江戸麹町三丁目 根本助惣 出店一切無御座候(広告略)橘屋助惣」   ③「助惣とおてつ近所でうまい中」(七九34)     〈助惣焼はどら焼きの元祖。山の手名物の一つで下掲「おてつ牡丹餅」とは同じ麹町〉  【お鉄】(麹町 牡丹餅)   ①「於鉄牡丹餅  麹町北横丁馬場角     馬場の角(カド)一軒の家   於鐵(オテツ)数年此の地に誇る     盛り出す盆中胡麻と餡   人間賞して牡丹の花と為す」   ③「牡丹餅だけれどおてつハ味がよし」(九〇29)     〈麹町の名物菓子は上掲助惣のドラ焼きとこのお鉄牡丹餅が有名。お鉄はこの店の娘の名という〉  【亀屋】(神田 柏餅)   ①「亀屋柏葉餅  外神田旅籠町御成道     宝生門外暖簾の亀             万歳千秋柏葉(カシハ)粢(モチ)     形(カタチ)小色白し何ぞ賞(ショウス?)るに足らん 飡ひ来れば第一味噌宜し」   ③「白酒もとしまの方が味がよい」(八〇1)     〈味噌餡の柏餅が評判のようだ〉  【笹屋】(市谷 粟焼き)   ①「笹屋粟焼   市谷左内坂     左内坂の傍(カタワラ)暖簾古し   粟焼き売り出して幾年か栄ふ     誰か言ふ山の手に名物無しと  笹屋一軒市谷に鳴る」   ②「市ヶ谷左内坂 根元あハ焼 笹屋八郎兵衛」  【万文】(赤坂 加増餅)   ①「万文加増餅  赤坂御門外     売り初じむ一種の加増餅  新製品(シナ)多く客自から喧し     赤坂町町幾千戸      流行唯(タダ)是れ万文の家  【酒袋屋】(下谷 香煎)   ①「酒袋香煎  池の端仲町     祇園も及ばず香煎の味ひ  下谷仲町酒袋方     買ひ得て家家皆便利    客来れば先出す一杯の湯   ②「下谷池之端仲町 御煮山椒 御香泉 東都漬物類 元祖酒袋加兵衛」   ③「越王を粉にして鬵ぐ池の端」(一二九)     〈越王は越王勾践で香煎の駄洒落。いわゆる麦こがし〉  <酒問屋>  【四方屋】(日本橋 銘酒瀧水)   ①「四方赤味噌  新和泉町     剣菱瀧水土蔵に充つ  上戸往来舌を嘗めて通る     出店分家行処に在り  味噌は赤四方の紅に似たり」   ②「新和泉町 本店 本銘酒瀧水 四方久兵衛」   ③「和泉なる滝を上戸はあびたがり」(五七23)     〈四方は味噌の他に瀧水・剣菱等の酒も扱っていた。蜀山人の前名・四方赤良はこの店名に由来する〉  【豊嶋屋】(神田 白酒)   ①「豊嶋屋白酒  神田鎌倉河岸     白酒高名豊嶋屋         気強色薄し一家風     人人買はんと欲すれども多くは買ひ難し 売り始め売り終り半日の中」   ③「白酒もとしまの方が味がよい」(八〇1)     〈斎藤月岑著『江戸名所図絵』巻一「鎌倉町豊島屋酒店、白酒を商ふ図」「例年の二月の末、鎌倉町豊島屋の酒      店において雛祭の白酒を商ふ。これを求めんとて遠近の輩、黎明より肆前(しぜん)に市をなして賑はへり」〉  【内田屋】(神田 下り酒))   ①「内田酒店  外神田昌平橋外     昌平橋外(ソト)内田の前      徳利山の如く酒泉を為す     孔子の門人上戸多し       瓢箪携へ至るは是れ顔淵   ③「内田屋と地紙巴は敵味方」(一二二26)     〈内田屋は下り酒「剣菱」の小売りで繁昌した。狂詩は店近くの聖堂(昌平黌)に学ぶ門下生も瓢箪持参で買い      にきたとする。「地紙巴」とは同業ライバルの四方屋の紋〉  <茶問屋>  【山本屋】(日本橋 山本山)   ①「山本屋山本山  通二丁目     買ふ者の立ち並びて客市の如し 番頭手代少しも間(ヒマ)無し     一つ時売り出す三千斤     多くは是れ自園の山本山」   ②「十組 日本橋通二丁目 諸国銘茶問屋 山本屋嘉兵衛」  <料理屋>  【百川】(日本橋 宴会)   ①「百川楼参会  日本橋浮世小路     諸家振る舞名弘めの宴  貸し切り更に一日の休み無し     浮世小路浮世の客    百千来り会す百川楼」     〈落語「百川」の舞台。諸披露宴等貸切の宴会で賑わった。ペリー一行を豪華料理で供応したことでも知られる〉  【大のし屋】(両国 宴会)   ①「大能志弾初  両国同朋町新地柳橋南角     今日の弾初(ヒキソメ)何(ナニ)撿校  勾当四度互ひに吟を争ふ     三絃(サミセン)胡弓河東節(ブシ)   一曲人は歓ぶ豊一が琴」     〈両国大のし屋。芸者を呼んで一座で酒宴を楽しむところ。蜀山人は大のし屋富八の額によせて「盃も客の一座も      大のしの富は此屋を潤しぬらん」の狂歌を詠んでいる『七々集』文化12年〉  【八百善】(淺草 仕出)   ①「八百善仕出  新鳥越      八百善の名は海東に響く        年中の仕出し太平の風     此の家の塩梅の妙なるを識らんと欲せば 請ふ見よ数編の料理通」   ②「新鳥越二丁目 御婚礼向仕出し仕候 御料理 八百屋膳四郎」   ③「八百善の家に余慶の佳肴あり」(一〇三6)  〔蜀山人狂歌〕「詩は五山役者は杜若傾はかの藝者はおかつ料理八百善」(『大田南畝全集』⑲279(書簡225)    〈当代の人気者、菊池五山・岩井半四郎・遊女かの・芸者お勝。『料理通』(文政五年刊)の序文は南畝が蜀山人名     で書いている〉  【田川屋】(下谷 会席)   ①「田川屋料理  金杉大恩寺     風炉場は浄め庭に在り  酔後浴し来れば酒乍ち醒む     会席薄(ウス)茶料理好し  駐春亭は是れ駐人の亭   ②「下谷大恩寺前 会席御料理 駐春亭宇右衛門」  【平清】(深川 会席)   ①「平清会席  深川     会席風流辰巳に誇る    坐鋪近く対す水の涯(ホトリ)     尾花(ヲバナ)梅本山本の客  馴染(ナジミ)連れ来て此の地に奢る   ②「深川土橋 御婚礼向仕出し仕候 御料理 即席 平清」   ③「平清へ招く日の出のはやりつ子」(一一八6)    〈近くの呼び出し茶屋、尾花屋・梅本・山本などの遊客が馴染みをつれてここの料理を奢った〉  【大七】(向島 鯉料理)   ①「大七洗鯉  向島     客は込む奥庭七二階  温泉石(イシ)滑(ナメラ)かにして暖めること蒸すが如し     酒肴色色飡ひ来る処  洗ひ出す鯉魚数片の氷(コホリ)」     〈次項の麦斗庵武蔵屋や葛西太郎と並ぶ向島の名料理屋、鯉料理が有名〉  【武蔵屋】(向島 鯉料理)   ①「武蔵屋濃漿  向島     向島の高名武蔵屋         春花秋月客来る頻なり     葛西太郎今(イマ)何(イズ)くにか在る  一碗濃漿風味新(アラタ)なり」   ②「向島 御料理 麦斗 武蔵屋権三郎」   ③「太郎冠者有るかと鯉を喰に来る」(六三7)     〈葛西太郎は鯉料理で有名。狂言は「やい/\太郎冠者あるかやい」で始まる〉  【万八楼】(両国 書画会)   ①「万八書画会  浅草平右衛門町柳橋北角     万八楼上書画の会   晴雨に拘はらず御来臨     先生席上皆毫を揮ふ  帳面頻りに付ける収納の金   ②「両国柳橋 貸座敷/御料理 万屋八郎兵衛」   ③「書画会は万八息子どつか行き」(一五七6)「万八の二階月雪花火よし」(夏柳)     〈「晴雨に拘わらず御来臨奉希候」は書画会引き札の決まり文句。ドラ息子は万八楼の書画会へ行くというのだが、      万八(嘘)くさい〉  【金麩蘿】(深川 天麩羅仕出)   ①「金麩蘿仕出  深川櫓下     金麩蘿の名は海邉に響く    会席料理品(シナ)最も鮮し〈「鮮(アタラ)し」か〉     揚げ出し或は五藻屑(ゴモク)巻  初て知る意気深川に在ること」     〈会席料理にも出されたようだ〉  【海老屋】(王子 鯛料理)   ①「海老屋料理  王子     欄干四面水潺湲    王子一番普請殷(アキ)らかなり     初午稲荷権現の祭り  晩来売り切れ客空しく還る   ②「王子稲荷前 御好次第仕出し仕候 即席 御料理 海老屋喜右衛門」   ③「午の日の奢りは海老で鯛を釣り」(三八9)     〈王子稲荷の門前にある海老屋で鯛料理を食べるのが初午の参詣コース。音無川沿いの扇屋と並び称された料理屋〉  <茶漬屋>  【瓢箪】(日本橋 茶漬)   ①「瓢箪茶漬  日本橋浮世小路     俳諧の之き開き小集の筵  浮世茶漬出前(デマヘ)忙し」     坐間並べ掛けた多少の句  客人笑て指す是れ翁連」     〈未詳〉  【浜田屋】(上野 茶漬)   ①「濵田屋奈良茶  山下仏店     茶碗大平鯉の濃漿(コクシヤウ)   煮附(ニツケ)吸ひ物鯛の潮烹     坐鋪客夥し濵田屋混雑    唯(タダ)聞く手を打(タタ)く声(コヘ)」   ②「上野山下 名物 御ならちや所 濵田屋利兵衛」  <蕎麦屋>  【明月堂】(中橋)   ①「明月堂蕎麦 〈空白〉     明月堂中の新蕎麦(ソバ)   蒔画の重箱注文忙(イソガ)はし     盛り来る白髪三千丈    挽き抜き交じり無く似固(カクノゴトク)長し」   ②「御膳 生蕎麦所 中橋上槙町 明月堂」  【翁屋】(深川 翁蕎麦)   ①「翁蕎麦  深川熊井町      白髪素線其の号(ナ)は翁  下戸上戸得意同     従教世間蕎麦衆き     一椀飡ひ得て急ち通と為る」   ②「深川熊井町 手打元祖翁蕎麦 翁屋源右衛門」   ③「翁そば元祖芭蕉と知つたふり」(四一11)     〈深川住の芭蕉は翁と呼ばれていた〉  【薪屋】(淺草)   ①「薪屋蕎麦  吾妻橋川端     薪屋に薪無く又炭無し      坐鋪二階大川の濱     唯(タダ)今(イマ)浅草名物と為る   歳歳年年蕎麦新なり」   ②「浅草大川端前 御前生蕎麦所 まきや久兵衛」   ③「中橋は飲む浅草は喰ふ真木屋」(筥二39)     〈中橋は木谷実母散(旧屋号が真木屋)浅草は蕎麦の薪屋〉  【瓢箪屋】(麹町)   ①「瓢箪屋蕎麦  麹町四丁目     温飩蕎麦瓢箪屋   名字十三町内に聞こゆ     代代諸家出入多し  注文日々客群を成す」   ②「根本麹町四丁目 御用御麺類所 元祖 瓢箪屋佐右衛門」   ③「麹町はひやうたんやからそばが出る」(安六仁5)     〈十三町は麹町の町数。大名諸家等武家が上得意。饂飩(ウドン)蕎麦切の瓢箪屋は享保年間から評判あり〉  【無極庵】(上野)   ①「無極菴蕎麦  池の端広小路     池の砌(ミギハ)に楼高し無極菴    近来出店(デミセ)南に在り     太平(ヲヲヒラ)一(イチ)碗の新(シン)蕎麦  蓋を開けば自然に香気含む」   ②「上野仁王門前町 無極庵 東叡山御用 御膳生蕎麦 河内屋瀬平」   ③「打つ音もこんとんとして無極庵」(一〇四15)   〈句は渾沌無極を流用。「無極」は天海僧正の命名という。明治二十六年廃業の由〉  <寿司屋>  【紀伊国屋】(日本橋 おまん鮓)   ①「紀伊国屋於満  上槙町新道     何れの歳か初めて開く鮓屋(スシヤ)の店 連綿数代市中に鳴る     海苔(ノリ)玉子塩梅(アンバイ)妙なり    知る是れ女房於満の情」     〈おまん鮓は宝暦年間より始まる。握り寿司ではなく酢飯の上に魚介や海苔や玉子を付けたものらしい〉  【与兵衛酢】(向両国)   ①「与兵衛酢  向両国元丁     流行の鮓(スシ)屋町々に在り  此の頃新に開く両国の東     路次の奥(オク)名は与兵衛   客来り争ひ坐す二間(フタマ)の中」     〈握り寿司の開拓者として有名な華屋与兵衛の寿司。わさびを最初に使ったとされる〉  【安宅】(深川 松鮓)   ①「安宅松鮓  御舩蔵前     本所一番安宅の鮓   高名当時並ぶべき莫し     権家の進物三重折   玉子は金の如く魚は水晶の如し」   ②「深川御舩蔵町あだけ 一銘松すし 御膳 いさごすし 堺屋松五郎」   ③「三聖も旨しといわん松が鮓」(一四二17)     〈この当時は「いさごすし」が通称だったようだ。三聖は老子・孔子・釈迦〉  <鰻屋>  【深川屋】(神田))   ①「深川屋蒲焼  外神田仲町加賀原前     蒲焼名物深川屋         魚切年中休日長し     壹歩の鰻鱺(ウナギ)纔かに一と皿  飡べ来たれば風味尋常に異なる」   ②「神田筋違中町 鰻御蒲焼 深川屋繁八」    〈①は天保七年刊、②は文政七年刊、これが同じ鰻屋かどうか、住所が違うので判然としない〉  <水茶屋>  【環菊】(中橋)   ①「環菊煎茶  中橋広小路     湯湧(ワ)き釜(カマ)鳴る甘菊の家   掃除店(ミセ)浄め牀几斜(ナナ)めなり     休み来る南北東西の客      煎じ出す山吹喜撰の茶」     〈未詳〉  【釜屋】(品川 本陣)   ①「釜屋餞別  品川     遠国奉行品河を発す  此家の見送り客は蛾の如し     町人出入同席の使ひ  用役頻りに目録の多きを驚く」     〈釜屋は建場茶屋、東海道品川宿本陣〉  <総菜屋>  【玉木屋】(芝 煮豆)   ①「玉木屋煮豆  芝口一丁目     玉木煮(ニ)来る坐禅豆(マメ)   干瓢(カンヒヤウ)銀杏(ギンナン)小梅(コウメ)新なり     主人売り初めは知る何の歳   定めて是れ九年面壁の春     〈玉木屋の評判は座禅豆。三句は「主人売り初めは何の歳か知らん」か〉  【万久】(日本橋 煮しめ)   ①「万久煮染  芳町     蒲鉾長芋焼き豆腐  干瓢椎茸露自から含む     一重の見舞幕の内  味ひ得て直に知る万久甘きことを     〈万久は幕の内弁当とするめ・豆腐・蓖篛・蓮根・牛蒡などを煮込んだ総菜が有名〉  【翁屋】(上野 煮しめ)   ①「翁屋煮染  上野広小路     暖簾高く掛る翁の面   幾箇の盤台煮染温かなり     上野花開く三月の始め  弁当重詰め注文喧し     〈翁屋のロゴデザインが翁の面。花見時になると弁当・お重に注文が殺到したようだ〉  <干物屋>  【永楽屋】(浅草 海苔)   ①「永楽屋干海苔  浅草雷門前      帖帖乾(カ?)来て積んで紙の如し  年年売り出す春の風     白(シラ)魚の吸物豆腐汁      纔に一枚有れば味ひ同じからず」   ②「浅草雷門前 御本丸・西御丸・東叡山・水戸 御膳海苔御用所 永楽屋庄右衛門」   ③「品川でのり浅草でおろす也」(六一35)     〈浅草の永楽屋が将軍家の御用達となったことから海苔といえば浅草海苔と称されるようになったとか〉  <花火屋>  【玉屋】(両国)   ①「玉屋花火  両国吉川町     流星虎の尾雲に入て鳴る  十二桃灯水に照して明らかなり     両国年年大花火      満城喚(ヨ)び囃(ハヤ)す玉屋の声」   ②「両国吉川町 元祖御花火師 玉屋市郎兵衛」  <絵馬屋>  【日高屋】(浅草)(絵馬)   ①「日高屋絵馬  浅草御門外     江戸一軒絵馬の初め  家に真筆の梶原が書を蔵す     日は高し浅草御門外  六百年来此に住居す     〈絵馬専門店の日高屋。源頼朝が浅草寺を修復した時、梶原景季がこの日高屋に逗留したという〉  <鋳物屋>  【釜六】(深川 釜)   ①「釜六釜  小名木川     主人の清湖綾垣連(アヤカキレン)  従来好事風流の禅     鋳し得たり八百八町の釜   日日売り出す幾(イク)万千     〈鋳物師釜屋六右衛門の釜。『江戸買物独案内』「深川上大嶋町 十組釘店組 釘鉄銅物問屋 釜屋六右衛門」〉  <玩具屋>  【七沢屋】(下谷 手遊物)   ①「七沢屋手遊  池の端     長持箪笥台子類(ルイ)       一寸屏風一尺楼     看(ミ?)来て児女皆目を歓ばしむ  恰も小人島裡遊ふに似たり」   ②「下谷池之端仲町 小細工手遊物類/雛人形小間物類 七沢屋仙助」  <書画会世話役>  【扇面亭】(両国)   ①「扇面亭書画扇  両国横山町肴店     文晁武清米庵筆      五山詩仏緑陰の詩     年年の仕込書画新たなり  扇面売り初む発会時」     〈扇面亭は書画会や人名緑の取次所。谷文晁・喜多武清・市川米庵・菊池五山・大窪詩仏・山本緑陰      彼らの詩書画を仕込んでは書画会で配ったものか〉