Top 浮世絵文献資料館文化としての浮世絵(4) 『浮世続絵尽』(詞書き)底本『浮世続』 菱川師宣画 天和四年(1684)板(国立国会図書館デジタルコレクション画像) 原本『浮世続絵尽』菱川師宣画 天和二年(1682)板 ※半角カッコ(漢字)は本HPの補記 ◎は難読文字 (序)2/24コマ 〝見ぬ世の人を朋とするぞ こよなうなぐさむわざなる 五月雨のつれ/\にたよりて大和うき世絵 とて世 のよしなし事 その品にまかせて筆をはしらしむ おどろしげなる鬼もこゝろをうごかし ゑめるやから 誠にあいぢやくの綱つよふして 六塵の楽欲あまたなり とはいへども 心のつるぎをきよくみがくは たちまちに切らん さあいへどわけしらぬも さう/\しくかた過なん ひたすらにすつべきにもあらじ ものゝあわれは 恋路のしたゝりときけば 竹のきり目のたまり水 みつるはかくる二八の月 ただ/\ 心馬の手綱ゆるさじとて筆をこめぬ〟 (1図)3/24コマ 〝ころはやよひ 花も今をさかりと見へければ いざや庭のけしきをながめ 永日をくらさんとて 友とし たる女らうあまたよりあひ 琴などをだんじてあそび給ふに としおいたる座頭さみせんの上手あり 中 ざしきに出て こと(琴)にあわせてしやみせんを引 うたをうたふに 日もかたぶけければ 花もちりな ん ちりてん/\/\などゝ引ける也 このひめの御かたちを たとへていはば 十五夜がこかう(小督) のまへも かくやらんとおもほえぬ御かたちのうつくしさを 上手の絵師がうつしたりとも 筆にかぎり あればおよびがたしと 人やいふらん〟 (2図)4/24コマ 〝うとく成(る)町人 なにゝつけても ふそくなふして 浮世をおくりしが わかきときおつとにわかれて わかごけ(若後家)をたてゝくらしぬ わすれがたきはこひのみち とし月おとつれし人あり これをばよ ぼふて ふみをやりぬ 中たえてあわぬうらみを かず/\くどきて おくにうたをよむ こひしなん のちはなにせん いける日の ためこそ人は みまくほしけれ むかしもあやにくなる女を(ママ) おとこの心みんとて しぢ(榻)のうへに もゝよ(百夜)ねたらば あわ んといひけり いふまゝにもゝよといふよ ゆかむとするほどに ふはに(ママ)心かはりて あわでやみに けり〟 (3図)5/24コマ 〝だてをこのむ女あり 京は目はづかし いなかは口はづかしとて そのみ(身)をたしなみ いふくをだて (伊達)にこしらへ かづきちやく(着)して出たつあり さまはたとへていわんかたなし めしつかはれし 女ぼうもあめをいとふか ぬれものゝ かすみのかゝるお山ふう 雪をいたゝくごとく成(る)わたぼうし にて かほかくして われまけじと出たちつゝ 子供の行末いのらんと うぢ神さしてまいりしが 子心 ある女にて 歌をこそはよみにけり みしめ(御注連)ひく みわ(三輪)の杉むら ふりにけり これや神代の しるしなりけり〟 (4図)6/24コマ 〝ころしもときめく しゆつけ(出家)べんぜつ(弁舌)りこうにして もとより学問すぐれたるは 寺へ入院 してだんぎ(談義)をとくに みだほんぐわん(弥陀本願)のくどく(功徳)をのべたりければ 老若男女 袖 をつらね あゆみをなしぬ だんぎもすぎてかへるさに ありがたきかなや われらごときのぐち(愚痴) むち(無智)の年よりなりとも みだのみやうがう(名号)をとなへなば 数珠く(繰)らざる内に あんらく せかい(安楽世界)へ すく(救)ひとりたまはんとのおしへ たのもしきかな みだのほんぐわんに もと づいて にうじやう(入定)せん あしたにみちを聞て ゆふべに死すとも可なり 南無阿弥陀仏/\〟 (5図)7/24コマ 〝つとめの女ぼう つねはみやづかへ(宮仕へ)して やどのたよりもきく事なし 一とせに二度のやぶいり (藪入り)とて 御いとま出てやど(宿)おりす 一とせのうつきをはらさんとて 日比ねん比せし女ぼうを さそひあわせて 正七月十六日 いざや あさくさゑんまだう(浅草焔魔堂)へまいりつゝ われ死して後 みちへおもむくその時は 金札につきて よきしやうをうけん そのためにあゆみをなして ゑんまさま のきげんにいらんとて 大ぜいをもよほして あさくささしてとあゆみけるが さそふあらしにひかされ て ゑんまだうをゆんで(右手)にみて なみ木のちやに出入りて つもるおもひをはらしける〟 (6図)8/24コマ 〝日頃かよひなれし とりんぼう(取りん坊)どち うちのしゆびをつくろひ 一ぼく(僕)をめしつれ 女ら うの道中を見んとて 行(く)人あり 人め(目)しのぶには うら門たんぼ(田圃)ごへよし さあいひなが ら 夕ぐれたそがれどきは かりそめにも とをるべからず たとへ武ゆうすぐれたりとも あやうきか たへ 行べからずとて 日本つゞみ(堤)にさしかゝり はや大門口につく 此さかをゑもん(衣紋)坂とな づけたり 此所へかよふ人 此坂にてゑもん引つくろひ びん(鬢)などをなでゝ行により かく名づけた り それよりあげや(揚屋)町の四辻にはいくわい(徘徊)して 女良の道中を見るなり〟 (7図)9/24コマ 〝かゝる所へ かぶろ(禿) やりて(遣り手) わかきものを めしつれゆくをみれば これこそときめく こむらさき(濃紫)なり おんのじなれば いづれになん(難)なし この君におそれて かうし(格子) さ んちや(散茶)の女らうの道中 みぐるし 第一しやみせんもたせてゆくは ごぜ(瞽女?)品ありて げび (下卑)たり おなじくはきれいなるふろしきなどに 衣るいをつゝみ 手がるくもたせたる女らうは心に くし とりんほうも(取りん坊)見物して そののちは御けん(見)などし しさい(仔細)らしく ことばを かけしは 心にくし 又おむくなる大臣は一入/\見事なり〟 (8図)10/24コマ 〝此みちのしよしん(初心)なる人は こゝかしこの つぼね(局)/\にたちやすらいて しよしんめかじと て わざとひぢ(肱)をいからかし 口をきく事 いとみにくし されども色をそこない 口をもきかず つめなどくわへ はづかしげにかたみすくめ あふな/\(?ママ)のぞきをくれたるよりは よしといへり 又この道すい(粋)のともがらは たゞなにとなく つねのていに見へて おとなしく人の目にたつ事なし この道はなさけをもとゝし 心にうわ(柔和)にぼつとりとおむくにして いとしらしく大臣らしきは て きもよろこびて かりそめにあふても ゑみをふくむとなり〟 (9図)11/24コマ 〝あげや(揚屋)にて女らうにあふ時 しこなしふりしてさわぐも けう(興)ざめて見ぐるし またくろちや (黒茶)かのこ(鹿子)のこひつもやう(古筆模様)を見る様に くすみ過たも れんが(連歌)ざしきのやうに 見へて いやなものなり さわぐとしづめるのしなあるべし まづこの道の巧者とは とき/\金しやう (金性)をつかい やりて かぶろ おとこまで よくまわるやうにするがよし 女らうにはじめてあひて 二度めには やりて(遣り手)のみやく(脈)たかぶり けんみやく(見脈)わろし はいざい(配剤)をして はなくすり(鼻薬)をかふべし さあるときには 三度めくるしからず はや四たびめは もの事あたりて やまひおかる(?ママ)ものなり〟 (10図)12/24コマ 〝あるいなかもの(田舎者) 折々さんや(山谷)へゆきて 女らうをかふ わかきものと一座してあそばんと て あげやへさしかゝり だれ/\とありしとき 花にひとしく たをやかなる君たち あげやのうちに いらせらるゝ 待もうけたるうかれんぼう みるより 心もうかれ出 むなさわがしく ときめきて か たじけなしと じぎ(辞宜)をのべ さま/\たわむれ さゝ(酒)などのみ よねんなふみへければ 女ら う しやみせんとりて 一ふし引(き)ければ かのいなかもの さゝがてうぢやうへあがりて ふし(節) もなきこうた(小唄)をば しさいらくも うたひけり〟 (11図)13/24 〝ゑんごくより との(殿)ゝめしつれられし小姓 お江戸へさんきん(参勤)して はじめてながや(長屋)ず まひをして くにもと(国元)にありしときは せつしやう(殺生)などして 野山に日をくらせしが 今お 江戸の長づめに き(気)もつき(尽)たりとて 御きげんをうかがひ 終日の御いとまをこひて かなたこ なたへ ゆさん(遊山)に出給ふ めしつれられし家人に ものはぢかはしく と(問)い給ふは くにもと にて 聞及びしさんや(山谷)とやらんへは いかなるかたへか行やらん ととい給へば わかとうこれを 聞て さて/\かやうの義をくにもとの 御ふくろ様へきかせ申たらば さぞ/\おとなしくならせられ たとて ご満足なされませうと申した〟 (12図)14/24コマ 〝大みやう(名)のわかとの(若殿) 馬をすきたまひて 馬場に出て 手づから馬にのり給ひ あまたの小姓 にものらせ 御覧ある ときしもけふは文月節句にて かなたこなたに かぶと(兜)のぼり(幟)をたて 見物ぐんじゆ(群集)しければ 人おぢせぬためにとて 小姓どもをめし出され それ/\ とをのり(遠 乗り)してまいれとて 仰つけさせられ給ひける かしこまり候とて 御いとま申て まかり出 われさき にと のり出るこそ ゆゝしけれ 馬にさま/\あり かんつよき馬 よわき馬 目くせのあしき人くひ むま こくう(?ママ)かけしくせあり てきにむかひてすゝむも有 大河をおよぐ名馬もあり とかくのり ての上手に出あひては鬼神(13図に続く)〟 (13図)15/24コマ 〝自由になりしためしあり むかししん(秦)の世に てうかう(趙高)と云ひし人有(り) みかど(帝)二世に つかへて けん位つよかりけり みづから権をこゝろみんために 鹿を馬なりと名づけて 時のみかどへ 奉り給ひければ みかどひさう(秘蔵)して みづから◎(しか)にめ(召)し かなたこなた みゆき(御幸) 有(り) 上下万民 ちやうかう(趙高)のけんゐにおそれて これぞ名馬なりとて 世に流布するなり こ れよりして 人をたぶらかすをもつて 馬鹿とはいふなり 史記の李斯が伝にみへたり 末世にも 虎の 威以てきつねのかけ行く事あり とかくせかいは 人間万事塞翁が馬じや/\〟 (14図)16/24コマ 〝こんなよ(世)に生れあふたも くわほう(果報)なり 武家はんじやう(繁昌)にて 納る御代ぞめでたけれ 弓をふくろに入(れ) 太刀をさやにおさむとはいへども 自然のときのためにとて さる御大みやうの 家中にて もつはら兵法をけいこする あるひはやり(鎗)をならひ 長刀をけいこして たがひにいせゐ をあらそふ あるとき 主人見物せんとて 御座の間ちかくめしいだされて やり長刀にて仕合(しあい) といへども ついに勝負は見えざりけり とある処につつと入て ついにやりのかちに成ければ 師匠 御まへにかしこまりて よろこぶ事かぎりなし〟 (15図)17/24コマ 〝さる大みやうの小姓どち よりあひて 日ころたしなみ持(もち)し きやら(伽羅)を取出し きやら興行 するに まづ おんじやうし 大はんにや しらさき うすくも もみぢの賀 かけらふ 帰鳫 すてを ふね あけほの はころも ぼたん あやめに はころ◎ あさま しほかま うきはし みゆき その ほか さま/\の名木をとり出し つきあわする万木 皆 にほひかわりて 人のおもてのごとし それ をこと/\く 聞わくる人あり やんことなき貴人もこれにめでゝ 終日をおくり給ふとかや〟 (16図)18/24コマ 〝げいのふ(芸能)はたがひに みがきあふがもとなり その道/\を心にかけて まなびとりし中に 上手 あり下手あり 世のおだやかなるにしたがひ 人のこゝろも くわん/\として、ゆさん(遊山)のみをこ のむ人多し こゝにしまばらきやうげん(島原狂言)つく(尽)しは 人が人のまねをして 人をうからかし こゝろをなぐさみぬ もつはら今の世に るふ(流布)して 見物の袖をまねく さるによつて きやう(京) 大坂のやらうやくしや(野郎役者) お江戸に はいくわい(徘徊)して しよげいのいせいをあらそふ そ の善悪をきわめて 高金をのぞむゆへなり〟 (17図)19/24コマ 〝やらうずきなるおとこ かへるさの道中をみんとて さかい(堺)町の辻にたちやすらひて、今や/\と待 (つ)所に としの比二八斗(ばかり)のやろうども はだには白むくき (黄)むく うへにはちりめん さ やりんず どんす ちやう嶋 はぶたへに それ/\のかのこ改 かのこちらしに もみのうら ゑりも とそろへて ちやくしつゝ はつはかいらき(?ママ) ちりめんの花をちらした 大わきざし 金つばをう ちて おとしざしにされつゝ 玉ふちのあみがさを ふかくきなしつゝ めしつれしざうり(草履)とり はをり(羽織)をかたにうちかたげ 八もんじ(文字)ふみそろへ わがすむやどへぞかへりける〟 (18図)20/24 〝はなのみやこ(京)に しまばら(島原)といふて ながれを立し女らうのちまた(巷)あり かの所へ東国よ り はじめてのぼりしおとこだて(男伊達) くにのふうぎを出し なまりことばにて りきみを出し さ ま/\のくぜつ(口舌)をいひちらす それをまなびて 今こゝにしまばらきやうげんと名付て にせやつ こを出して わか衆といきぢ(意気地)のあらそひを狂言にするよりして この時にいたりて やつこさく びやうゑ(奴作兵衛) たもん(多門)庄左衛門などゝいふ上手の とりわけちかき比 ぼうず(坊主)小兵衛 とて だれにすくれて上手なれば もつはら世にはびこりぬ おもしろきとてこれを見ぬ人なし〟 (19図)21/24コマ 〝ときしもこよひ 三五夜中の新月の色 二千里の外まで 古人もふねにのりて出給ふ まして われらご ときのやらうも いざ月見にとて ともどち やかた舟にうちのりつゝ 浅草川のながれをしたひ かち よりたれかまつち山 なりひらばしにさしかゝり すみだかわへうかれ出 梅若宿とのゝ(?ママ)跡をした い さゝなどのみて うたしやみせんなどにあそびし事 いにしへ そうしせん(蘇子瞻) ふねにて せ きへき(赤壁)のふもとに行(き)給ひ さけをのみ うたをうたひしも これには過じとて たがひにみだ れあふて さけをのみけるこそ おもしろけれ〟 (20図)22/24 〝こゝにさかい(堺)町しばいにて さま/\げいづく(芸尽)しして 見物をまねく 頃日 世におどり は やりて 上下万民 てうあひ(寵愛)の子に しやうぞく(装束)をあらため 拍子をそろへ つつみ 大こ ふゑ しやみせんにて はやしたて おどりければ 海上にやかたぶね(屋形船)を うかめて そのうち にておどる 入日にかゞやき 見物のふね数千そう(艘)とりまき くんじゆをなす その外 上つかたへ も めしいだされ おどる事どもあり しほらしきありさまなり やらうこれをまなびて それにさま/\ のくどきをくわへて おどるとなり〟 (奥書)23/24 〝右之一冊大和絵は四氏の形像を 菱川氏筆こまかに書れしを 愚眼にも褒美して令板行出之 跡より菱乃川 ながれうきに浮てかゝれし 岩木華鳥絵つくしを板行して出すものなり 天和二二年子正月吉日 大和絵師菱川氏 板本鱗形屋三左衛門〟Top 浮世絵師総覧 文化としての浮世絵(4)