Top浮世絵文献資料館浮世絵の世界
      浮世絵の基礎知識      A 浮世絵の形態による分類
  浮世絵の形態による分類     浮世絵は大別すると肉筆と版画があります    <肉 筆>(絵師が自らの筆で直接描いたもの。表具には以下のようなものがあります)   巻 物(巻子本(かんすぼん)とも言う。絵巻物)     折 本(おりほん:横に長くつなぎ合わせた紙を蛇腹のように一定間隔で折り畳んだ本。画帖)   掛 幅(かけふく:いわゆる掛け軸。画幅)   幟  (のぼり:祭礼などに用いる旗竿。幟絵)   絵 馬(えま:寺社に奉納する絵入りの額や板絵)   扇 面(扇の骨に張る紙、いわゆる地紙(じがみ)。扇面絵)   提灯等(祭礼の装飾などに用いられた提灯や行灯。提灯絵・行灯絵)   看 板(芝居興行用など野外の看板。絵看板)   ※ 素材は絹・紙・板など
     巻 物 菱川師宣画 「江戸風俗図巻」    掛 幅 宮川長春画 「女舞図」        葛飾北斎画 「鍾馗図」      (記事のみ)    絵 馬 柳々居辰斎画「加藤清正虎退治」絵 馬(記事のみ)    提灯絵行灯絵(記事のみ)    看 板 鳥居清長画 「潤色八百屋お七」      ※ 参考 曲 画〈作画の様子を見せるパフォーマンス・北斎の大達磨〉    <版 画>(広義:色の有無で二つに分類できる)   墨摺絵 (墨一色の版画)   彩色版画(手で色を施した手彩色の版画、色板を使った多色摺の版画)    手彩色 丹絵(たんえ)   紅絵(べにえ)  漆絵(うるしえ)    色摺  紅摺絵(べにずりえ)錦絵(にしきえ)   〈板木を用いての色摺版画は浮世絵の悲願。その実現に向けて歴代の職人たちが知恵と工夫を凝らして歩んできた足取りは    次の通り〉
   彩色画の変遷(墨摺絵から錦絵までの変遷)    <版 画>(狭義:製本化しない版画)   一枚絵 (一枚物の版画。また図柄が二枚以上の複数にわたって連続する続絵)    組 物 (揃い物とも言う。「六歌仙」や「江戸百景」のように、一つの主題を複数の絵で構成した版画)   柱 絵  (柱のように竪の細長い版画)   団扇絵  (団扇の形をした版画)   番 付  (芝居の演目・配役・内容等を盛り込んだ絵入り番付。顔見世番付・辻番付)   摺 物  (俳人や狂歌師や好事家が襲名披露・定例会等で交換し合う一枚摺。絵暦・歳旦・千社札(色札)など)   双 六  (文化文政期から役者双六・名所、名物双六・道中双六など)   おもちゃ絵(てあそび あね様人形・判じもの・ものづくし・切り組に灯籠絵など)   凧 絵  (いかのぼりとも言う。図様は色摺りの役者絵・武者絵など)   新聞錦絵 (錦絵新聞とも言う。明治のはじめ頃、新聞の解説と錦絵とを組み合わせた絵入り新聞)    一枚絵  東洲斎写楽画「大谷鬼次」    三枚続  豊原国周画 「市川団十郎 暫」    組 物  葛飾北斎画 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」    柱 絵  勝川春章画 「ねまき姿美人」(東京国立博物館) 柱かくし(本HP)    団扇絵  歌川豊国(二代)画「江戸八卦当ル辻占」    番 付(本HP)顔見世番付 鳥居派(市村座 享保十八年)辻番付 鳥居派(中村座 天明五年)芝居番付年表(本HP)    摺 物(本HP)摺物年表(本HP) 絵暦(大小)(本HP) 絵暦(大小)年表(本HP) 千社札(本HP) 千社札(色札)(本HP)     狂歌摺物 北斎宗理(葛飾北斎)画 寛政九年(島根県立美術館)     絵 暦  勝川春好画(天明三(癸卯)年)岩井半四郎・瀬川菊之丞(国立国会図書館デジタルコレクション)     千社札  小杉斎福新 月岡魁斎芳年 芳辰 田蝶(同上 千社札 [4])     千社札交換会場 一登斎歌川芳綱画(同上 千社札 [4])    双 六   歌川国芳画 「水滸伝豪傑双六」(天保二年刊)(同上) 双六(本HP)双六年表(本HP)    おもちゃ絵 一鵬斎芳藤画「東海道五十三次はんじ物」(天保二年刊)(同上) おもちゃ絵(本HP)おもちゃ絵年表(本HP)    凧 絵   豊原国周画 「当世見立凧つくし」(ボストン美術館) 凧絵(本HP・記事)    新聞錦絵  一蕙斎芳幾画「東京日々新聞1060号」(早稲田大学古典籍総合データベース)     新聞錦絵(錦絵新聞)(本HP) 画工一覧(本HP)    切組灯籠絵 藤よし(歌川芳藤)画「龍宮餝立燈」(東京学芸大学図書館)     切組灯籠絵(本HP)(組上絵ともいう。関西では「立版古(たてばんこ)」と呼ばれた))    <版 本>  〔絵 本〕(絵入りの版本)   絵 本  (絵主体の冊子本。例 西川祐信画『百人女郎品定』・喜多川歌麿『吉原青楼年中行事』)   絵手本  (師匠が弟子の教習用として画いた図様を集めた絵本。例 葛飾北斎画『北斎漫画』)   雛形本  (衣裳や細工物の図案集。例 葛飾北斎画『今様櫛キセル雛形』)   絵入狂歌本(画中に狂歌を配した絵本。例 喜多川歌麿画『絵本虫えらみ』)    絵 本   喜多川歌麿画『吉原青楼年中行事』(早稲田大学古典籍総合データベース)    絵手本   葛飾北斎画 『北斎漫画』    雛形本   葛飾北斎画 『今様櫛[キセル]雛形』(国立国会図書館デジタルコレクション)     絵入狂歌本 喜多川歌麿画『絵本虫えらみ』    〔絵・文一体型〕(現在の漫画と同様、絵と文が一体化した版本。総称して草双紙。表紙の色や冊子の形態による分類)   赤 本 (桃太郎のような童話や伝説を内容とする絵主体の赤表紙本。宝永から享保年間(18C前半)         画工 近藤清春・西村重長・羽川珍重・奥村政信)   黒・青本(浄瑠璃・歌舞伎・浮世草子などに取材した絵主体の黒・萌黄(青)表紙本。延享元年から安永三年まで(1744-74)         画工 鳥居清倍・同清満・同清経・山本義信・冨川房信(吟雪)   黄表紙 (赤本~青本の版型によりながら、洒落や滑稽を交えて遊里や当世の風俗を描くなど、大人向けに趣向を凝らした         黄色表紙の本。安永四年(1775)の『金々先生栄花夢』(恋川春町作画)から文化初年まで(1804年頃)         作者 山東京伝・朋誠堂喜三二など 画工 北尾政演(京伝) ・北尾政美・歌川豊国など         代表作『江戸生艶気樺焼』山東京伝作・北尾政演画・天明五年(1785)刊)   合 巻 (黄表紙の内容が仇討話などに移って長編化したため合冊したもの。内容は仇討、歌舞伎に取材したものや古典の         翻案など。読者層が飛躍的に広がり、女性や子供も含めた多くの庶民に親しまれた。「合巻」の名称は文化元年         から登場するが、本格的な出版は文化四年(1807)頃から。天保十三年(1842)、過酷な改革によって、これまで         ベストセラーを続けていた『偐紫田舎源氏』が絶版を命じられ、作者柳亭種彦は病死する。また表紙等も一時質         素を余儀なくされたが、再び勢いを回復し、出版は明治十年(1880)代まで続いた。          作者 柳亭種彦・曲亭馬琴など 画工 歌川豊国・同国貞・同国安・同国貞二世・渓斎英泉など         代表作『偐紫田舎源氏』柳亭種彦作・歌川国貞画・文政十二年から天保十三年(1829-1842)刊)
   赤 本 近藤清春作・画『富貴長命丸』(国立国会図書館デジタルコレクション)    青 本 丈阿作 鳥居清倍・鳥居清満画『勅宣養老水』(早稲田大学古典籍総合データベース)     黄表紙 山東京伝作 北尾政演画『江戸生艶気樺焼』(同上)〈自作自画〉    合 巻 表紙 本文 柳亭種彦作 歌川国貞画『偐紫田舎源氏』    〔本文・挿絵型〕(現代の新聞・雑誌小説のように、文と挿絵からなる版本)   読 本(文中心の読み物。当初は中国白話小説の翻案から始まる。史実に基づきながらも空想的・伝奇的要素が強く、さ        らに勧善懲悪の精神や因果応報の手法を取り入れるなどして、長編化していった。寛延年間から幕末まで(18C        中頃~19C)作られたが、文化~天保(19C 前半)が全盛期        作者 上田秋成・山東京伝・曲亭馬琴など 画工 葛飾北斎・柳川重信・渓斎英泉        代表作『南総里見八犬伝』曲亭馬琴作・柳川重信他画・文化十一年から天保十三年(1814-1842)刊)   洒落本(当初は漢戯文で遊里の風俗を描いていたが、明和七年(1770)の『遊子方言』に至って一変。遊女・客・茶屋女房        たちが交わす会話を中心に、「小書き衣装付け」と呼ばれるト書き風の地の文を添えて、遊里特有の風俗を穿つと        ともに、通・野暮客の様態を描写するというスタイルが確立した。寛政改革時、風俗を乱すとして弾圧され勢いを        失ってしまうが、文体は引き続き滑稽本や人情本に受け継がれていった。        延享~文政(1744-1830) に行われたが、明和七年~寛政三年(1770-1791)が全盛期        作者 山東京伝が第一人者 代表作『通言総籬』自作・自画・天明七年(1787)序)   滑稽本(洒落本の会話体を引き継ぐとともに、小説の世界を廓から江戸の市中へ、また諸国の街道筋へと拡げて、そこに        生活する人々の滑稽な言動を描いた小説。滑稽本の源流は宝暦年間(1751-1763)の談義本にあるとされるが、        文化・文政期(1804-1830)が最盛期。        作者 十返舎一九・式亭三馬・滝亭鯉丈 画工 歌川国直・十返舎一九・歌川豊国        代表作『道中膝栗毛』十返舎一九作・自画・享和二年から文政五年(1802-1822)刊           『浮世風呂』 式亭三馬作・歌川国直・北川美丸画・文化六年から同十年(1809-1813)刊)   人情本(洒落本を長編化させて市井の男女の色恋や人情を描いた小説。文政期(1818-1830)から行われたが、天保十三        年(1842)、町奉行は風俗を乱すとして大量の人情本を没収、当時の第一人者為永春水は手鎖五十日の刑に処せら        れた。しかし多くの女性に人気があり、明治初年まで刊行された。        作者 為永春水・鼻山人 画工 歌川国直・渓斎英泉        代表作『春色梅児誉美』為永春水作・柳川重信・柳川重山画・天保三年から同四年(1832-1833)刊)       噺 本(短い笑い話を集めた本。元和年間(1615-1623)の『戯言養気集』以来、江戸時代を通じて出版され続けたが、明        和九年(1772)江戸で出版された『鹿子餅』を境に、それ以前の上方を中心とした噺本を軽口本、それ以降の江戸        を中心にした噺本を小咄本と呼んで区別している。判型も半紙本から小本に移り、文体も平易な会話体で内容も軽        妙洒脱なものになっている。        代表作『鹿子餅』小室卯雲作・勝川春章画・明和九年(1772)刊)
   読 本 本文 挿絵 曲亭馬琴作 柳川重信画『南総里見八犬伝』    洒落本 本文・挿絵 山東京伝作・画『通言総籬』    ※ 滑稽本以下、基本的には同形態はなので省略    〔その他〕   絵入浄瑠璃本(挿絵入りの古浄瑠璃正本(竹本義太夫と近松門左衛門による義太夫節完成以前の浄瑠璃脚本)寛永から享           保年間頃(1624~1735)まで刊行。以降は文字だけになる。画工 菱川師宣・鳥居清信)   絵入狂言本 (絵入りの歌舞伎筋書本)   絵本番付  (前項「絵入狂言本」から発展した歌舞伎番付の一つで、狂言の一幕一幕を絵で表し、傍らに役名と俳優名          を記した小冊子。上方では絵尽(えづくし)と呼ばれた)    絵入浄瑠璃本『義経記初巻』 (画工未詳・万治四年(1661)刊か)(国書データベース)    絵入狂言本 『三世道成寺』 (画工未詳・元禄十四年(1701)興行)(早稲田大学演劇博物館)    絵本番付  『御贔屓寄友達』(画工未詳・文政五年(1822)興行)(ARC番付ポータルデータベース)      往来物(手紙の書き方・百人一首といった一般教養や礼儀や作法に関する学習書)    庭訓往来 葛飾北斎画『絵本庭訓往来』(国書データベース)    百人一首 北尾政美画『女文宝智恵鑑』(跡見学園女子大学図書館 百人一首コレクション)     ※ 参考資料
   浮世絵品目
 斎藤月岑著(『増補浮世絵類考』所収)〈斎藤月岑(江戸の町名主・考証家)の浮世絵分類〉