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江戸狂歌本選集その他(浮世絵記事)
        底本 …『江戸狂歌本選集』全十五巻 江戸狂歌本選集刊行会・東京堂出版・一九九八~二〇〇七年刊           ※ 以下〔江戸狂歌〕と略記    ☆ あかほん 赤本    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人(赤良)編・天明五年(1785)刊   〝寄赤本恋  唐衣橘洲      四天王ならねば恋の山入に忍ぶ心の鬼はおそろし〟    ☆ あつまる こがねの 小金厚丸    ◯『狂歌四本柱』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵あるじ(つふり光)序・寛政四年(1792)刊   〝氷  泉水の氷のはりの強きゆへ軒のつらゝも棒ほどにみゆ  胡金あつ丸〟    ◯『狂歌桑之弓』〔江戸狂歌・第四巻〕桑楊庵光編・寛政四年(1792)刊   〝川の瀬へめはり柳の枝たれてかせのをしへにぬふか糸ひく 故兼厚丸〟    ◯『太郎殿犬百首』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政五年(1793)刊   〝葵 鍋やきのふた葉あふひをとりみればさてうまさうなねぎにかも山 故兼あつ丸〟    ◯『狂歌上段集』〔江戸狂歌・第四巻〕桑楊庵頭光・尚左堂俊満等編・寛政五年(1793)   〝春月 また年は若葉の春の月ながら兀山のはにやがてふけゆく 故兼厚丸〟    ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊   〝恋  番匠の手斧かつらき仇人にいまは命もはつるばかりぞ 小金厚丸〟    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊   〝見ればみな長者となりぬ巳のとしのしりくめ縄をはるの日のあし  神田庵厚丸〟    ◯『狂歌東来集』初編〔江戸狂歌・第五巻〕酒月米人編・寛政十一年(1799)刊   〝あしの浦の氷もとけて春の日の霞にむくる沖のかも船  神田庵厚丸〟    ◯『狂歌萩古枝』〔江戸狂歌・第六巻〕浅草庵市人編・享和二年(1802)刊   (桑楊庵頭光七回忌(享和二年四月十二日)追善集)   〝片思 とり得てし鼠の皮もわか胸ももゆる程なほかたおもひなり 神田庵厚丸〟     ◯『狂歌武射志風流』上之巻〔江戸狂歌・第六巻〕四方真顔、森羅万象編・享和四年(文化元年・1804)刊   〝軒燕 ひちりこをはこふちまたをかけりてははねをあけ来る軒の燕 小金厚丸〟     ☆ いっく じゅっぺんしゃ 十返舎 一九    ◯『狂歌東西集』〔江戸狂歌・第五巻〕千秋庵三陀羅法師編・寛政十一年(1799)刊   〝里花   おはぐろのふしみの里の花さかり入相のかねつきかねるなり   十遍舎一九〟   〝山郭公  ちりはてしその花山のほとゝきすねにかへるにはしかしとぞなく 十遍舎一九〟   〝川蛍   舟人もあすの日和やみなと川ほしのふるかとおもふ蛍に     十偏舎一九〟   〝海上夏月 磁石見る夏の月夜の涼しさは秋もきたかとおもふ海はら  十偏舎一九〟         夏の夜の浪間に月を宮嶋はあきのまなことおもふすゝしさ 十偏舎〟   〝野外虫  はかりさる玉野の草の葉すゑにもものさひてなく虫のもろこゑ 十偏舎一九〟   〝雪    祖師ゐます身延の山のいたゞきもけさはかぶれる雪のきせ綿  十偏舎一九〟   〝五月雨  庭の面に箒目たつるひまもなしさればさつきの雨の長尻  十偏舎一九〟   〝納涼   いにしへは奈良の都と仰けんうちはの里の風のすゞしさ         此風を待おほせてや居眠の舟こきいだす夜のすゞしさ   十偏舎一九〟   〝紅葉   石橋にあらぬ岩はし紅葉して色も赤熊のかつらきの山   十偏舎一九〟   〝菊    ゑのことは白きを後の雛に似てごふんの色の菊の花園   十偏舎一九〟   〝納涼   明礬にかく文月のふたつ星たらゐの水にあらはれにけり  十偏舎一九〟    ◯『狂歌杓子栗』巻之下〔江戸狂歌・第五巻〕便々館湖鯉鮒編・寛政十一月(1799)序、文化五年(1808)刊   〝恋  はつかしや君にふらるゝ錫杖のかたちよりして生れたるみは 十返舎一九〟   〝社頭 神木の松は大こくはしらにえ鼠の宮にちとせふるかけ    一九〟    ◯『五十鈴川狂歌車』〔江戸狂歌・第六巻〕千秋庵三陀羅法師編・享和二年(1802)刊    「風流五十人一首」(「百人一首」をまねて仮装の画像と狂歌を配した狂歌本)   〝十編舎一九 はつかしや君にふらるゝ錫杖のかたちよりして生れたる身は〟    ◯『狂歌波津加蛭子』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊    挿絵署名「一九画」    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「十返舎一九画」「一九画」    ☆ いってい はなぶさ 英 一蜓    ◯『今日歌集』〔江戸狂歌・第一巻〕木室卯雲著・安永五年(1776)刊   〝英一蝶が図をもて一蜓が書たる箍(タガ)掛の画に  (木室卯雲詠)      千代能か底ぬけ桶に𥶡かけて水をたまらせ月をやどらせ〟    〈鎌倉時代、安達千代野という娘が鎌倉海蔵寺の井戸水を汲もうとした、ところが箍がはずれて桶の底がすっぽり抜け     てしまった。その時、千代能は「千代能がいただく桶の底ぬけて水たまらねば月もやどらじ」と詠んだという挿話が     ある。以来その井戸を「底抜けの井戸」と称するが、木室卯雲の狂歌はその挿話を踏まえている。詞書の意味は一蜓     が一蝶の図を見て画いた箍掛け(箍職人か)の絵に賛を寄せたというのであろう〉    ☆ うきよえ 浮世絵    ◯『狂言鶯蛙集』〔江戸狂歌・第二巻〕朱楽漢江編・天明五年(1785)刊      〝画女動人情 おもふことかなはねばこそ浮世絵にかくも心をうつしそめけん 転 起安〟>   〝同     西川の水の流れの身も浮て浮世えならぬ顔はなつかし     坂月 米人〟   〝同     あさつまのふかき思ひをやまと絵にうつし心も筆の命毛谷   水音〟   〝同     つれ/\の身はうき草のうき過てけくに思ひのたねを枕絵   加保茶元成〟   〝同     三度くふめしのさいともおもふなり朝夕肘を曲てまくらゑ   真悟房〟   〝同      けにかみはかつらのごとき役者絵に情をうつせし月の丸顔  蚊大分夏倦    ☆ うたまろ きたがわ 喜多川 歌麿    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝かにめでゝねて物語る人もなし美濃と近江の中垣の梅  筆綾磨呂〟    〈中山道の美濃・近江の国境にある「寝物語の里(今須宿)」を詠んだものだが、歌麿に何か所縁であるのだろうか〉    ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊    挿絵全二十七葉 うち八葉 署名「哥麿画」    ☆ えいか 栄華    ◯『柳の雫』〔江戸狂歌・第一巻〕明和七年(1770)刊    著者「柳下泉末竜」挿絵の署名「栄華画」    ☆ えいざん 英山    ◯『狂歌波津加蛭子』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊    挿絵署名「英山画」    ☆ えいし ちょうぶんさい 鳥文斎 栄之    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝写し絵に及ばぬ筆のすみた河霞ひと刷毛引きてのどけき  鳥文斎栄之〟    ◯『よものはる』〔江戸狂歌・第四巻〕四方歌垣編・寛政九年(1797)刊(一説に同八年)   〝野遊びにいで其時の鉢の木は妙見の松亀戸の梅  鳥文斎栄之〟    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊    (口絵)「橋場初乗」   署名「等琳画」(堤等琳)   (挿絵)「寿老人」    署名「鄰松画」(鈴木鄰松)       「にひよし原」  署名「栄之」 (鳥文斎栄之)       「鞍馬ふごおろし」署名「等琳〔印「等琳」〕」       「鶯宿梅」    署名「華藍〔印「北峰」「紅翠斎主」〕」(北尾重政)       「江島春望」   署名「北斎宗理〔印「北斎」「宗理」〕」(葛飾北斎)    ☆ おうきょ まるやま 円山 応挙    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔詠)   〝円山応挙がかける狗の子のゑに      此人の手によくなれしゑのころのゑのこゝろさへざれて見へかり〟    ☆ がくすけ えまやの 絵馬屋 額輔    ◯『とこよもの』〔江戸狂歌・第七巻〕尋幽亭載名編・文化五年(1808)刊   (唐衣橘洲七回忌追善集)   〝月をみるにつけて十三十五夜といはれし年の昔なつかし  郷時雨菴空言改 絵馬屋額輔〟    ◯『狂歌当載集』後編〔江戸狂歌・第七巻〕千秋庵三陀羅法師編・文化七年(1810)刊   〝初秋  壁に耳ありとはしらず掛物の馬もおどろく秋のはつ風 絵馬屋額輔〟    ◯『新撰狂歌百人一首』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園宿屋飯盛編・文化六年(1809)刊   〝絵馬屋額輔    琵琶和琴まづそれよりも袖引てきゝたきものは君があいさつ〟    ◯『万代狂歌集』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊   〝柳を  遠乗の馬のすそふく春風にひとむちあつる青柳の枝     絵馬屋額輔〟   〝秋風を 壁に耳ありとはしらず掛物の馬おどろかす秋のはつかぜ   絵馬屋額輔〟   〝初冬時雨を 初時雨秋の葉はさぞ傘のしぶ蛇の目さへ色はそひけり  絵馬屋額輔〟   〝恨恋を やる文を紙屑籠にすてしならたまるうらみはそちらでもしれ 絵馬屋額輔〟   〝鳴物に 琵琶和琴まづそれよりも袖ひきて聞たき物は君があいさつ  絵馬屋額輔〟    ☆ かさもりいなりだんご 笠森稲荷団子    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人(赤良)編・天明五年(1785)刊   〝笠森稲荷団子  たくさんにつむかはらけの団子をばかさもりとこそいふべかりけれ なます盛方〟    ☆ きょうでん さんとう 山東 京伝    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「京伝筆」     ☆ きんきょう 均郷    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「均郷」     ☆ こういん ながやま 長山 孔寅    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔の長歌)   〝浪花の乎佐丸がもとめにて孔寅がかける狐の嫁入の絵によみて書ける歌並反歌      茜さす日は照りながら時雨ふる稲荷の山の紅葉かも(以下略)    反歌      桶鉢に水くめ子ども嫁とりてたはけるきつの聟にあむさむ〟    ☆ こりゅうさい 湖竜斎    ◯『狂歌若菜集』〔江戸狂歌・第一巻〕唐衣橘洲編・天明三年(1783)刊   〝湖竜斎といふが俳優の似顔かきけるをみて  あけら菅江詠      おもさしもかくやどうさのとき膠(ニカワ)みなにた/\とほむるうつし絵〟    ☆ さんば しきてい 式亭 三馬    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「三馬画」「三馬筆」     ☆ しげまさ きたお 北尾 重政    ◯『二妙集』〔江戸狂歌・第四巻〕唐衣橘洲序・寛政七年(1797)刊   (口絵)「松魚と時鳥」署名「北尾紅翠斎画」    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊    (口絵)「橋場初乗」   署名「等琳画」(堤等琳)   (挿絵)「寿老人」    署名「鄰松画」(鈴木鄰松)       「にひよし原」  署名「栄之」 (鳥文斎栄之)       「鞍馬ふごおろし」署名「等琳〔印「等琳」〕」       「鶯宿梅」    署名「華藍〔印「北峰」「紅翠斎主」〕」(北尾重政)       「江島春望」   署名「北斎宗理〔印「北斎」「宗理」〕」(葛飾北斎)    ◯『新撰狂歌百人一首』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園宿屋飯盛編・文化六年(1809)刊   (奥付)「右一百肖像 紅翠斎北尾繁昌画(「北峰」丸印「(一字解読不能)」方印)」    ☆ じせい 辞世    ◯『万歳狂歌集』「哀傷歌」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝辞世 それ辞世さるほどさてもそのゝちにのこる桜か花しにほはゞ  近松門左衛門〟     〝辞世 はる/\と浜松風にもまれきて涙にしづむざゞんざの声      八百屋半兵衛       いにしへをすてはや義理も思ふまじくちてもきえぬ名こそおしけれ おちよ    此うた青梅つはりざかりといへる浄瑠璃の本に見えたり〟    〈おちよ半兵衛は、紀海音作『青梅撰食盛』寛保元年初演〉     〝辞世  つゐにゆく道とはかねて芝ゑびのはからせ給へ極楽のます 柏筵        柏筵がおきつき所芝のみてらにあればなるべし    柏筵をいたみて  しばらくととめてみたれどつがもないかはひのものや死での山道 よみ人しらず             このうたある人のいはく晋子其角かなりと〟
  〝辞世  この年ではじめてお目にかゝるとはみだにむかひて申わけなし 慶紀逸〟
  〝辞世  あなきたな今はみなみのひがしれて西より外ににげ所なし 来示〟
  〝辞世  灯明の油煙はおほしゆきて又みだの御国のすみつくりせん 古梅園道恵〟    ◯『狂言鶯蛙集』〔江戸狂歌・第二巻〕朱楽漢江編・天明五年(1785)刊   〝辞世の哥とてかねてよみ置侍る  白川与布祢      死ぬまでは人は御世話をかけまくも夫れから先は南無あみだ仏〟    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人(赤良)編・天明五年(1785)刊   〝辞世  食へばへるねぶればさむる世中にちとめづらしく死ぬもなぐさみ 白鯉館卯雲〟    ◯『新古今狂歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕元杢網序・寛政六年(1794)刊   〝身まかりける時に ふしの粉のふしぬる日よりおはくろのかねてなからん身とはしりにき 翠簾網女             今は世につながぬ糸としら露のわが身をぬける玉のを柳 金成木〟    ◯『我おもしろ』〔江戸狂歌・第十巻〕平沢太寄編・蜀山人序(文化十一年(1814))   (手柄岡持(朋誠堂喜三二・文化十年没)の狂歌集)   〝辞世三首 寿七十九歳      つひの身の瀬となりぬれば飛鳥川あすより淵とかはるべきかは      死たふて死ぬにはあらねどおとしには御不足なしと人やいふらん      狂歌よむうちは手からの岡もちによまぬたんては日柄のほたもち〟    〈岡持は享保二十年(1735)生。七十九歳は没年の文化十年(1813)にあたる。朝日日本歴史人物事典の解説によると、     『我おもしろ』は文化十一年の刊行とある〉    ☆ しゅうり 秋艃    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「秋艃画」「蜂房秋艃画」    ☆ しゅんが 春画    ◯『狂歌若菜集』〔江戸狂歌・第一巻〕唐衣橘洲編・天明三年(1783)刊   〝寄春画祝 もう床もおさまりてよいきみが代はいまいく千世と祝ふまくらゑ(あけら菅江詠) 〟    ☆ しんさい りゅうりゅうきょ 柳々居 辰斎    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔の詠)   〝辰斎がかける蛍狩のかたに真樽が歌こひければ      追かくる妹がもすそにつと入て又追かへす蛍をかしや〟    ☆ しゅんしょう かつかわ 勝川 春章    ◯『万歳狂歌集』「雑歌上」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝春章が俳優のにづらの画をみて  菊の声色      あめつちの壺屋がかける花鳥にいざ声色をそへてみせばや〟    ☆ しゅんまん くぼ 窪 俊満     ◯『巴人集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良詠・天明三年(1784)   〝一トふしのちつえにおくる      一ふしにちよをこめたる竹の子の比はしゆんかんお名は俊満〟    ◯『狂歌すまひ草』〔江戸狂歌・第二巻〕天明四年(1784)刊   〝大和巡   斑鳩やせみ川草履ふみきれてたびの日あしも西の大寺     一節千杖〟   〝社頭雨売  神垣のかた野のみせのさくら飴こなの雪吹(ママ)に暖簾はる風  一節千杖〟   〝柳原こは飯 盛る形りはあたちはかりのこはめしや目もしほしりにこし柳原 一節千杖〟   〝中田甫虫音 虫の音のこゝにいつこと白露はおほかる稲の中たんぼかな   一節千杖〟   〝せり出し  蒼木のもゆる思ひにせり出してみえは二重の帯引の所作    一節千杖〟   〝道哲月   馬道をこへたる土手の紅葉はや月のさんこの鞭に照そふ    一節千杖〟   〝菫     むらさきの帽子の色をすみれとはくろにゆかりの位なるべし  一節千杖〟    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人(赤良)編・天明五年(1785)刊   〝寄生酔神祇  かくかゝんのんではくらす生酔のつみてふつみもなかとみの友 一節千杖〟    ◯『狂歌才蔵集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明七年(1787)刊   〝題しらず  かよふ神なけれどぬしをたのむ身は客をまろめてくれよとの文 一節千杖〟    ◯『狂歌千里同風』〔江戸狂歌・第三巻〕四方山人序・天明七年(1787)刊   〝歳旦  きのうまでせはしかりつる女さへしろく明ゆく遠山のまゆ 一ふし千杖〟    ◯『鸚鵡盃』〔江戸狂歌・第三巻〕朱楽菅江編・天明八年(1788)刊   〝立春  わりなにて結ひし去年の昆布巻を春たつけふやとく若のさい 窪俊満〟      〈窪俊満が狂歌名を一節千杖から窪俊満にかえたのは天明八年からか〉    ◯『狂歌部領使』〔江戸狂歌・第三巻〕つふり光序・寛政三年(1891)   〝恋   うき人をみちひく文の封めにぼさつののりをたのむ也けり  窪俊満〟   〝恋   くどけども四角四面なあいさつに百夜も同じ丸寝するなり  窪俊満〟   〝更衣  くれて行春のかたみの花色を袷の裏に見る斗也       窪俊満〟   〝五月雨 ゆく水のそのはげしさは見よりもわけておとます五月雨の跡 窪俊満〟   〝恋   弘法にわびても今はくどかなん石ほどかたきいもが心を   窪俊満〟   〝納涼  深みゐて秋の夕きり思なり吹かよふ風のかほる今宵は    窪俊満〟   〝荒和祓 神前の御燈の油二あらしみたらし川に名を更たり      窪俊満〟   〝初秋  けさは早鳩ふく秋となりぬれば豆粒ほどに露のをくらん   窪俊満〟   〝萩   もろ人のわたらぬ先に玉河をきて見よ秋の七くさの萩    窪俊満〟   〝(秋)恋 労咳といひ立られて胸のみ歟四火のやいとにせもごがすなり 窪俊満〟   〝雁   山田寺僧都は数珠を持ねども祈と見へてをつる雁かね    窪俊満〟   〝老後恋 清水のちかひもなくて恋風の吹は飛ほど身はやせにけり   窪俊満〟   〝九月尽 とりこみし綿の手わさにつみてゆく秋のひと日を打のばしたき 窪俊満〟   〝(秋)恋 やる文の百にひとつは実を結べ冬瓜の花のむだ書にせで   窪俊満〟   〝雪   信濃路や賤がおもての蕎麦かすを隠す化粧かつもるしら雪  窪俊満〟   〝歳暮  松風や春のしたくのかざり藁なう拍子さへさつ/\の声   窪俊満〟   〝雪   月花のさてもその後ふる雪はみなおしなべてかんしこそすれ 窪俊満〟      ◇「狂歌とこりつかひ 附録」   〝恋   返事せし君か手形のしるしありて恋やせし身に肉はつきけり 窪俊満〟   〝祈恋  いかつちの加茂にいのりしかひあらばふみはづしても落よあだ人 窪俊満〟   〝落葉  吹たつる風の力は唐獅子か谷へ木の葉をおとすはげしさ   窪俊満〟    ◯『狂歌四本柱』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵あるじ(つふり光)序・寛政四年(1792)刊   〝時鳥 都ほどまちまうけねど郭公聞山里はくらしよきかな   窪俊満〟   〝恋  精進と昼はにげてもうき人よ七つ下りは落て給はれ   窪俊満〟   〝鹿  なく鹿のあいだに一ッ鉄炮の音に哀をますらおのわさ  窪俊満〟   〝擣衣 あたたかに人はきよとてから衣うち明しけり賤は夜寒を 窪俊満〟    ◯『狂歌桑之弓』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政四年(1792)刊   〝空よりぞくだし給へる春雨のめぐみにめぐむ野への若草  窪俊満〟   (奥付)「華渓稲貞隆書/雪山堤等琳画/尚左堂窪俊満画/彫工藤亀水」    ◯『太郎殿犬百首』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政五年(1793)刊   〝霞   かちん染ひくはけよりも春霞しかまの海のかたきぬに立つ   窪俊満〟   〝鶯   村竹になく鶯を杖にして春やたてると思ふやまざと      窪俊満〟   〝梅   をみなのみすむ嶋ならでみんなみにむかひてはらむ梅の花びら 窪俊満〟   〝柳   見惚つゝをぢ坊主さへ立とまる雨の柳の洗髪には       窪俊満   〝苗代  せきいるゝ苗代水をへらさじとあら田の烏芋ほり捨るなり   窪俊満〟   〝菫   とふ火野の土は素焼か手遊のつぼ/\すみれ摘るおさな子   窪俊満〟   〝三月尽 行春はしきりにおしくいつもよりはやめと思ふけふの汐時   窪俊満〟   〝卯花  うの花の雪のはしゐに縁先の青すだれをぞかゝげては見る   窪俊満〟   〝葵   神山のあふひのかつらとてこふと未明に出る中の酉の日    窪俊満〟   〝時鳥  小鳥香二三とつゝく手記録に書く子規四月にぞきく      窪俊満〟   〝早苗  暦ほとこまかに植よはしこ田の中段の日ははんけしやうとて  窪俊満〟   〝蛍   池水にほたるのあかりてら/\と灯心になる藺もみゆるなり  窪俊満〟   〝荒和祓 かけそめるきりこ灯籠のあさの葉に肩をなてゝやみそぎするらし  窪俊満〟   〝初恋  涙雨ふると社(こそ)しれおもふ事けふはつせんのはじめよりして 窪俊満〟    ◯『狂歌上段集』〔江戸狂歌・第四巻〕桑楊庵頭光・尚左堂俊満等編・寛政五年(1793)   〝元日  井のふたを結ひしよべは去年となりて若水桶にけさはとく汲  窪俊満〟   〝牡丹  手いれせし牡丹は園のうちばにて春と夏とのきをかねてさく  窪俊満〟   〝首夏  あふひ草からねばけさも春かとて夏のくるまをあらそひやする         茶坊主が着たる袷のひとつもんむかふ卯月とけさはなりにき  窪俊満〟   〝早苗  人まねに早苗の唄をはりあげて声をからすの水呑百性(ママ)            田にうつる雲かきわけてりやうの手にとる玉苗のいきほひぞよき 窪俊満〟   〝七夕  鞠垣の紅葉のはしに七夕のおはこびなさる沓音やせん              織姫の機の糸ほど日をへつゝあふ夜はわづかさをなくる間ぞ  窪俊満〟   〝砧   砧うつ雨だれ拍子ほと/\と耳にもる家の寝つかれもせぬ   窪俊満〟   〝菊   星合のそらとも花を詠めなん名によぶあまのかはらよもぎに         黄と白のその花足袋の庭もせをはかせていとふ菊の霜やけ   窪俊満〟   〝炭竃  みやま木をてゝにこらせて焼かゝはあつはれ炭の竃将軍    窪俊満   〝追儺  四方拝ちかき追儺に雲の上は星ととなへん数の灯台         しばしでもとめたき年の丑の月追儺の弓の桃につなかれ    窪俊満〟   〝別   人形の腰をれとなる別路はみやこの手ふり思ひ出にせよ       〝旅   たべ付ぬ道中すればことさらに箱根の山はむねにつかへる   窪俊満〟        大井川さかまく水に蓮台をおりてやう/\うかみあかれり   窪俊満〟   〝無常  たれ人も不沙汰はならぬかりの宿すむ帳面のきゆるものとて  尚左堂俊満〟   〝恋   ひちかさのうちより落る涙雨それと人目にえもりこそすれ   窪俊満〟   〝神祇  そり橋はいくよへの字をかんなにてかける筆意のすみよしの神 尚左堂俊満〟   〝万歳  雨風をうけ負ならば万歳にことしの花の頃をたのまん     窪俊満〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕狂歌堂真顔編・寛政五年(1795)刊(推定)   〝取合す料理も春の色なれや和布は蛙をこはうぐひす  尚左堂俊満〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝春たてばつくれるまゆの玉柳にたるを既に糸といふらん  尚左堂俊満〟     ◯『二妙集』〔江戸狂歌・第四巻〕唐衣橘洲序・寛政七年(1797)刊   〝松魚(かつお) はつものゝ中にもひての松の魚ふしに油はまだのらねども 窪俊満〟    ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊   〝桃の花 手折るゝ事をきにして中央の土に咲たるにか桃の花     尚左堂〟   〝更衣  はや夏へこせのあふみよ梅壺の絵合をめす女中周も有    尚左堂〟   〝余花  新かつほくれはそ春にわかれ霜しもふりの句はなき桜花   尚左堂〟   〝神楽  夜もすがら神をはすかし登す也てん/\太鼓にきにきてにて 尚左堂〟    ◯『よものはる』〔江戸狂歌・第四巻〕四方歌垣編・寛政九年(1797)刊(一説に同八年)   〝梅がもとかをりに酔ふてこち風の顔にさはるもよい心地也 尚左堂〟    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔詠)   〝後巴人亭光が三回の忌に集つくるとて俊満がよませければ      三廻りの月日は夢の沢渡のいでゆゝしくもわく涙かな〟    〈つぶり光が亡くなったのは寛政八年四月十二日。その翌年の寛政九年、窪俊満は三回忌にあたって光の追善集を企画     したようである〉    ◯『狂歌東西集』〔江戸狂歌・第五巻〕千秋庵三陀羅法師編・寛政十一年(1799)刊   〝雪   住吉の雪はながめの一の宮松に津守の社家もましろに 尚左堂俊満〟   〝納涼  祇園会の頃は四条へ天神のおやまもいづる夕涼哉   尚左堂〟   〝七夕  機やめて星のあふ夜は一とせに一葉の桐生風の西陣  尚左堂俊満〟   〝五月雨 五月雨はさうふ刀の鮫鞘にほち/\はねる軒の玉水  尚左堂〟    ◯『狂歌東来集』初編〔江戸狂歌・第五巻〕酒月米人編・寛政十一年(1799)刊   〝梅が香もとめる姿のわか菜つみふりの袂を帯へはさめば  尚左堂〟    ◯『狂歌杓子栗』〔江戸狂歌・第五巻〕便々館湖鯉鮒編・寛政十一年(1799)序、文化五年(1808)刊   ◇巻之上   〝夜梅  夜の梅みて戻りしと女房にいひわけくらき袖のうつり香   尚左堂俊満〟   〝更衣  くれて行春のかたみの花いろを袷のうらにみるばかりなり  俊満〟   〝関月  てる月のかゞみにむかふ関守はなかめなからに髭やぬくらん 俊満〟   〝氷   さめて又百度も寝る寒き夜のいらふさつきの鏡ほとにて   俊満〟
  ◇巻之下   〝逢恋  たきつけはさてやはらかな君がはだ今まで情のこはきには似ず  尚左堂俊満〟   〝片思  わが思ひかた野のみのゝかたうつらふに落ぬ人のかりにたにこす 俊満〟   〝魚   夜かつをやまだ蚊は出ねど夏めきてさしみにほうをたゝく初もの 俊満〟    ◯『古寿恵のゆき』〔江戸狂歌・第六巻〕朱楽菅江門人編・寛政十一年(1799)序   (朱楽菅江一周忌追悼集)   〝同じこといふておなかせ申よりはたゝそう/\の供にたつなり  尚左堂俊満〟    ◯『狂歌東来集』二編〔江戸狂歌・第五巻〕吾友軒米人編・寛政十二年(1800)刊   〝野遊  しるしらぬ野に汲かはす瓢酒きじのほろ酔雲雀舞しつ 尚左堂俊満〟     ◯『狂歌左鞆絵』〔江戸狂歌・第六巻〕尚左堂俊満・享和二年(1802)序    〈書名の「左鞆絵」は「左巴(ともゑ)」に同じ。「巴」は四方赤良が使用した印章。俊満はこの書名で自らが四方赤     良の門流であることを示したのである。また「左」としたのは自身左利きのためと序にいう〉   (序)「此さき神風の伊勢の国に出たつ馬のはなむけとて、五十々々集といへるを、大人のたまひし其奥       書にも、桑楊の薪継火ひろこり巴字のなかれをくむ尚左堂にあたふと書給へば、やかてましりな       しと四方の赤の一本気を請つたへたるしるしにもなさばと、巻の題名にかふゝらせし事とはなり       ぬ        享和二のとし六月 尚左堂俊満かいふ」    〈序文にある伊勢行きは寛政八年十一月。本居宣長の『来訪諸子姓名住国并聞名諸子』「寛政八」十一月の項に「同月     十三日来ル 一、江戸小伝馬町 窪易(ヤス)兵衛 尚左堂俊満 画工 狂歌師」とある由。(岩切信一郎氏論文「本居     宣長の来訪者記録にみる」『浮世絵芸術』89号)桑楊庵光は寛政八年四月十二日没。この序によると、その当時、     光の跡を継ぐのは俊満だと、四方赤良(後の蜀山人)は考えていたというのである。「五十々々集」は未詳〉    (挿絵)三巻、合計九十四図、すべて俊満画。但し署名はなし   (挿絵)三巻、合計九十四図、すべて俊満画。但し署名はなし    〝題元日  としの朝十より上の雛ごとを笑へる山にかすむ紫          ふるとしに〆て置たる下帯のみつのあしたはゆるむゆたけさ  尚左堂俊満〟    〝春神祇  けんにもる梅は花貝ふたみ潟なますもそれとみゆる伊勢構(ママ) 尚左堂俊満〟    〝初桜   西行忌とむらふころに白かねのねこして植し庭の初花          よしの山こゝろみの桜さく日より名所香ほときいてくる人   尚左堂俊満〟    〝雛祭   ありかたうかさる延喜の古今雛御衣をぬかする京細工人    尚左堂俊満〟    〝夜鰹   高くともねにうなされぬはつ松魚けして胸には手をおかで買ふ           晋子にも見せたし夏の月に又畳へ影のさす松の魚          夜かつをやまた蚊は出ねと夏めきてさし身に頬をたゝく初物  尚左堂俊満〟    〝茶摘   手ぬくひを腰にはさみてしつのをか茶をつむ手つき手前めてみゆ          しほらしや鬼も十六うちむれて山茶もにはな百茶まで摘          今につむ葉上僧正背振山ふりにしよゝに匂ふ茶どころ     尚左堂俊満〟    〝時鳥   仲景を本尊とさけふほとゝきすうの花下しきいて気味よし           ひち笠もつゞかぬ雨のほとゝきす声はほね身にしみるうれしさ          郭公てう左の耳のあか堀の小舟に心よくきく         尚左堂俊満〟
  「狂歌ひたり巴 前編 毛」    〝端伍   呑はやな仙家にいるときくからにこゝの節ぎの石菖のみき   尚左堂俊満〟    〝富士詣  参けいの笠はならひか岡なして法師もみゆる吉田口哉     同〟    〝山伏峰入 泥川を越ても清し俗ながら法に心のそみかくたとて      同〟    〝蚊やり火 すたく蚊はあらおそろしの般若声たちされとたくけふり護摩ほと 同〟    〝短夜   のみに蚊にせめられてねぬ其上に水鶏は口をたゝくみしか夜  同    〝鵜川   夜を丸てうのみにさせつ鵜にはかすねん魚に何の念も夏川   同    〝夏虫   鶏は舌をやすめてゐれとともし火の丁子に夏のむしのとらるゝ 同    〝葛水   涼しさは茶碗の水の浄御原これもよしのゝくすのはたらき   同    〝橋辺納涼 蝋そくのしんら百済百匁かけ高麗はしの夕すゝみ茶屋     同    〝扇    日をよけてすゝめははたか百官名扇をかなめ風をちからに   同    〝納涼   はしゐしてひとへのうへにうちかけの小袖に夏のみへぬすゝしさ          涼しさは露の巻葉や蝋燭のはすに流るゝ池の夕風       尚左堂俊満    〝七夕   こよひきく七夕香の記録にも御の手からのふたつ星かな          機やめてほしの逢夜は一とせに一葉の桐生風の西陣      尚左堂俊満〟    〝月    とり合せす浜にかさる趣向さへ丸めおほせしけふの月影    尚左堂俊満〟    〝重陽   其花はすくに肴歟けふ給ふ氷魚とも御酒にうかふしら菊          舞鶴とみる白菊の上の蝶費長房かと思ふ重陽          盃も庭も九月の九日やかしこの香まてみな菊にして      尚左堂俊満    〝秋菊花  むらさきの花は下緒の結びにてぶしのかはりを烏頭はつとむる 同     〝◎(いしぶし)水にすむ蛙河鹿のあらそひの其いしぶしをやめて音をきく〟    〝紅葉   丹波鍛冶焼やかけゝん焔めく山の紅葉はのこきり刃にて 尚左堂俊満〟    〝秋のくさ/\のうた 露をすふ虫に盛りかふけるかとあぶ/\思ふしらきくの花               御遷宮のおはします日はにきやかに涙こほるゝ秋の夕暮                心なき柿の梢に弓はれはついはむ鳥も秋もとまらす 尚左堂俊満〟    〝初冬   秋作とふりかはりたる鄙のさま冬菜の畑に今朝のしも◎    同〟〈「菌」の「禾」が「必」〉    〝残菊   初冬の発句合に淋しくもさきのこりたるふくろもちきく   同〟    〝会式   お命講かさる桜は焼香に花くもりする小春月かな      同〟    〝山時雨  冬来ても桧原は青く枯やらてしくれにけふるまき向の山   同〟    〝峰雪   名にも似す紅葉の後の雪に又をくらの山のみねのあかるさ  同〟    〝野雪   玉たれのこすの大野ゝ白妙に小便をして雪な黄にせそ    同〟    〝海辺雪  つめたさや雪に同行二見潟かたにかけたるこりもとられす            鳥のあとふみる(ママ)るはかりともし火のあかしの浦の雪をつかねて 同〟    〝月照銀砂 降やみてさへわたる影は月の中のうさきを雪てつくりもやせん 同〟    〝鴛鴦   ねはりあふ油にやにのちやんとして水も漏らさぬをし鳥の中 同〟    〝鷹狩  くるゝのもしらす拳に鷹居てはりしかたのゝ月をみる哉    同〟    〝神楽  宮つこかきる白丁の一徳利はや明ちかくふる鈴のおと     同〟    〝しくれ 傘をさす嶋原駕も江戸目にはぬかるみてみゆる時雨みち哉   尚左堂俊満〟     「狂歌ともゑ 前編 ゑ」    〝十月のくさ/\  尚左堂俊満        観念のねんにもあらす十夜にはたゝ法然のねんに念仏        いろさめし花野はよるのにしきにて残れる菊をほし入とみん〟    〝雪  頭痛さへわすれて見てし松の葉の針にいたゝく雪のまつしま 尚左堂俊満〟    〝冬のくさ/\のうた  尚左堂俊満        きゝがたの左正宗お火たきにみかんよりまづ燗の湯かげん        小夜ふけて縄手をもとる足音や木履ぼく/\ひさこ聞ゆる〟    〝師走之雑歌  尚左堂俊満        一とせもとゞのつまりとなりにけり名よしの頭門にさしては        樽ほとに腹へは酒をつめ置てそとから縄に巻る寒ごり        さなきたにせはしき暮に玉まつるむかしはさそな盆と正月〟    〝冬神祇  尚左堂俊満        たつ春はこかねの田丸越せんとみちをかせきて伊勢のつこもり        おはらひを袖にうけたる煤とりの妹は其まゝ倭ひめかも〟    ◯『狂歌茅花集』〔江戸狂歌・第六巻〕四方歌垣(真顔)編・享和四年(文化元年・1804)刊   〝四方先生判 春のくさ/\のうた  尚左堂      あらそふて通へる虎にみけむかふみなふち猫のつまいとみして〟    ◯『新撰狂歌百人一首』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園宿屋飯盛編・文化六年(1809)刊   〝紅毛もめづらん花の江戸桜いりあひをしむ石町の鐘  俊満〟    ◯『万代狂歌集』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊   〝梅をよめる  女のみすむ島ならでみんなみに向ひてはらむうめの花ひら  窪春満〟   〝夜梅を    浪華津にさくや此花一昨夜さくやこよひかにほふ只中    窪春満           よるのうめ見てもどりしと女房にいひわけくらき袖の移り香〟   〝梅有喜色をいふを 姫桃の台にほさきえんつけて親木のうめのよろこひの顔 窪春満〟   〝江戸花を   紅毛もめづらん花の江戸さくらいりあひをしむ石町の鐘   窪俊満〟   〝郭公を    ほとゝきす初声きけば大隅のなげきの森の中のよろこび   窪春満〟   〝洛外蛍を   夕すゝの宮川町をゆくほたる尻の光りぞ何ま(ママ)花     窪春満〟   〝盆踊りを   あしなかを長刀なりにふみ出して巴にめぐる木曽の輪をどり 窪春満〟   〝鹿を     春日山鹿はつまこふ外に又せんべいねだる音もあはれなり  窪春満〟   〝旅館聞鹿といふことを  旅は目のうるみ椀なるゆふけ時鹿のねころをきくにつけても 窪春満〟   〝報恩講を   いわしにた鍋までかりてなまくさい中のお寺もまねく報恩  窪春満〟   〝吹革祭を   きゝかたの左正宗御火焚にみかんより先(酉+間)の湯加減  窪春満〟   〝箱根の湯治にまかりて  かまかりて勝手元するたのしさは若衆まじりの底倉の宿 窪春満〟   〝柳原向がもとにて尾上松助が玉藻の前に出たちたる姿を俊満がかけるを見て めしもり    中々に人は狐と化にけりこや九つの尾上松助〟    〈尾上松助が玉藻の前を演じた「三国妖婦伝」は文化四年六月の市村座公演〉    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「尚左堂」   〝七夕 はたやめて星のあふ夜は一とせにひとはの桐生風のにし陣 尚左堂〟   〝秋夕 御遷宮におはします日は賑やかに泪こぼるゝ秋の夕暮   尚左堂春満〟    ◯『狂歌あきの野ら』〔江戸狂歌・第八巻〕萩の屋裏住編・文化十年(1813)刊   〝花   吸筒のさゝをかついて隅田川気違水も花の一興      尚左堂〟   〝蚊遣火 すだく蚊はあらおそろしの般若声立されとたく煙は護摩程 尚左堂俊満〟   〝寄蛍恋 狩といふ名を借る夜るの弁当も蛍をだしに恋のうまこと          狩といふ名を借る夜るの弁当も蛍をだしに恋のうまこと  尚左堂〟   〝寄蝶恋 はつとたつなの葉はまゝのかはひらこあふての後はとまれかくまれ 左尚堂春満〟   〝寄蚤恋 愛敬のこぼれる君に喰つかんむねをこかしの蚤となりても 尚左堂〟    ◯『狂歌水薦集』〔江戸狂歌・第九巻〕四方瀧水楼米人編・文化十一年(1814)序    挿絵署名「尚左堂俊満写」「俊満写」    ☆ しんいつ 辰一    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「辰一画」     ☆ しんけん 辰牽    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「辰牽画」     ☆ しんこ 辰湖    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「辰潮画」     ☆ しんこう 辰光    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「辰光画」     ☆ しんさい りゅうりゅうきょ 柳々居 辰斎    ◯『狂歌当載集』前編〔江戸狂歌・第七巻〕千秋庵三陀羅法師編・文化六年(1809)刊   〝早蕨  日の岡や雪解の水のぬるしとて風に野風呂をたゝく早蕨    柳々居辰斎〟   〝五月雨 花形のわたしは跡にみつまして松の上こく五月雨のふね    柳々居辰斎〟   〝鵜川  いろくずの来べき宵とてさゝかにのいとよくさばく鵜飼等が業 柳々居辰斎〟   〝暮秋  爪木こる杣がかきほのなた豆もさびついてゆく秋の暮かた   柳々居辰斎〟   〝老人  馬ぞとて乗しむかしの竹を今老ての杖とたのむくやしさ    柳々居辰斎〟    ◯『狂歌当載集』後編〔江戸狂歌・第七巻〕千秋庵三陀羅法師編・文化七年(1810)刊   〝秋歌 うすくこく染るもみぢを秋霧につゝみてすかす後雛菓子 秋々居辰斎〟    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「辰斎老人画」「辰斎画」   〝鶯    経よみし親につけ子の鶯の声もとくきよと鳴かとぞ聞    柳々居辰斎〟   〝五月五日 くすりそときけは幟の猿まてか軒のあやめをひく風情なる  柳々居辰斎〟   〝紅葉   紅葉に出湯わきしをあつしとやたゝいてつたふ沢の水音   柳々居辰斎〟   〝時雨   山賤が曲土(ママ)もけぶりに曇らせて膝へ時雨をこぼすなら柴 柳々居辰斎〟    ☆ しんろてい 振鷺亭    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕狂歌堂真顔編・寛政五年(1793)刊(推定)   〝勘定の外に春迄引残り注連縄に吹風ぞさむけき〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕狂歌堂鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝音にきく名なしの雉子の声ならん柏手ひゝく杜の朝風  振鷺亭〟    ☆ すうしょう 嵩松    ◯『明和狂歌合(明和十五番狂歌合)』〔江戸狂歌・第一巻〕明和七年(1770)の狂歌合   〝嵩松 舗号大野屋喜三郎、渡辺氏、狂名元木網、称落栗庵〟     〝渡辺氏嵩松子は落栗庵元木網うしといひて、江戸夷曲歌の元祖のその一人なりしが、年老て死世の旅路    の門出に筆を染め置土産となしけるも、冬のはしめ頃なりければ 関東米々山人      春の花夏は実のりて落栗の土に帰るや元の木網〟    〈この関東米々山人の識語は文化十一年(18141)のもの〉    ☆ すきまち こいかわ 恋川 好町    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊   〝春の来る先に恵方と声かけてみそれは屋根へ雲はかたよれ  数寄屋 万葉亭好町〟    ☆ せきえん 石燕    ◯『万歳狂歌集』「夏歌」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝題しらす  鳥山石燕    蚊と蚤にゆふべも肌をせゝられておゐどはまだら目はふさがれず〟    ☆ そうり ほくさい 北斎 宗理    ◯『よものはる』〔江戸狂歌・第四巻〕四方歌垣編・寛政九年(1797)刊(一説に同八年)   〝大黒も年始に来ませみ蔵まち門の俵をしをりにはして  北斎宗理〟    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊    (口絵)「橋場初乗」   署名「等琳画」(堤等琳)   (挿絵)「寿老人」    署名「鄰松画」(鈴木鄰松)       「にひよし原」  署名「栄之」 (鳥文斎栄之)       「鞍馬ふごおろし」署名「等琳〔印「等琳」〕」       「鶯宿梅」    署名「華藍〔印「北峰」「紅翠斎主」〕」(北尾重政)       「江島春望」   署名「北斎宗理〔印「北斎」「宗理」〕」(葛飾北斎)    ◯『古寿恵のゆき』〔江戸狂歌・第六巻〕朱楽菅江門人編・寛政十一年(1799)序   (朱楽菅江一周忌追善集)   (口絵)朱楽菅江肖像   署名「籬菊丸画」   (挿絵)菅江の辞世入り石碑を配した図絵 署名「不染居 北斎画」       菅江の「淮南堂」を写した図絵  署名「秀成」(赤松亭秀成)    ◯『五十鈴川狂歌車』〔江戸狂歌・第六巻〕千秋庵三陀羅法師編・享和二年(1802)刊    「風流五十人一首」(「百人一首」をまねて仮装の画像と狂歌を配した狂歌本)   (刊記)「画工 北斎辰政/書 富士唐丸/享和二年壬戌孟陬 蔦屋重三郎板」    ☆ そうり たわらや 俵屋 宗理    ◯『狂歌萩古枝』〔江戸狂歌・第六巻〕浅草庵市人編・享和二年(1802)刊   (桑楊庵頭光七回忌(享和二年四月十二日)追善集)   〝月  俵屋宗理      花とちれ雪をしらけよ秋の夜はちからまかせの米のつき影〟    〈この宗理は北斎宗理であろうか、それとも北斎から宗理号を譲られた前名宗二の宗理であろうか。この狂歌が桑楊庵     光の七回忌の追善にあたってこの年に詠まれたのであれば、前名宗二の宗理ということになるのだが、この狂歌集に     は平秩東作のような故人のものも収録されているから、そうとも限るまい。北斎は北斎宗理名で狂歌を詠んでいるか     ら、この俵屋宗理を北斎と見ることはできると思う〉    ☆ たくすう 卓嵩    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「卓嵩画」     ☆ とうりん つつみ 堤 等琳    ◯『狂歌桑之弓』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政四年(1792)刊   (奥付)   〝華渓稲貞隆書/雪山堤等琳画/尚左堂窪俊満画/彫工藤亀水〟    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊    (口絵)「橋場初乗」   署名「等琳画」(堤等琳)   (挿絵)「寿老人」    署名「鄰松画」(鈴木鄰松)       「にひよし原」  署名「栄之」 (鳥文斎栄之)       「鞍馬ふごおろし」署名「等琳〔印「等琳」〕」       「鶯宿梅」    署名「華藍〔印「北峰」「紅翠斎主」〕」(北尾重政)       「江島春望」   署名「北斎宗理〔印「北斎」「宗理」〕」(葛飾北斎)    ☆ とよのぶ いしかわ 石川 豊信    ◯『狂歌すまひ草』〔江戸狂歌・第二巻〕天明四年(1784)刊   〝虫  石川秀葩    ◯『狂歌才蔵集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明七年(1787)刊   〝老後述懐      歯はかけて耳はきこえず目もみえず老てはちゑもさるが三匹〟    ☆ にちょうさい 耳鳥斎    ◯『我おもしろ』〔江戸狂歌・第十巻〕平沢太寄編・蜀山人序(文化十一年(1814))   (手柄岡持(朋誠堂喜三二・文化十年没)の狂歌集)   〝耳鳥斎か角力場を画し扇       勝すまひ客はなをやりつるか目と口はかり見ゆる見物          (「花」と「鼻」の添え書き)〟    ☆ ひかる つぶり 頭 光    ◯『巴人集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良・天明三年(1783)詠   〝つふりの光におくる      夕顔のやど屋の軒におつぶりの光源氏とあやまたれぬる〟    ◯『狂歌すまひ草』〔江戸狂歌・第二巻〕天明四年(1784)刊   〝山家客   山々の酒にて友を呼子鳥おほつかなくは見へぬかくれ家  つむり光〟   〝上水御祓  さばへなす神田にかゝる御祓して八百よの町をきよめ玉川 つむりの光〟   〝豊島屋田楽 田楽のくしげの露は涙かもみそめてこかれくらすとしまや つむりの光〟   〝石原菊   菊咲てあらたに垣を組やしき折へからすとかたき石原   つむり光〟   〝立役    ゑんあらばかさねて合んそれまではさらばとおしき閨を立役 つむりの光〟   〝連子窓月  身あかりの琴のしらべもすみわたる想夫れんじの窓にてる月 つむりの光〟   〝三月尽   花ちりてしまひしよし野川葛籠かたげて春の暇乞哉     つむりの光〟   〝不遇恋   いぼ結ひにむすぶの神の結てや今に一度もとけぬ下紐    つむり光〟   〝述懐    たらちねの我黒髪を烏羽玉のよる昼なでゝかくははげけん  つむり光〟   〝畳さしゝ  さしつけていはねば胸に畳やの思ひをつむやひとり寝の床  つむりの光〟    ◯『栗花集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良編・天明四年(1784)九月十五日詠   「神田祭 隅田中汲がもとにをくれる也」   〝笛の音もふけて日和もよい桟敷星もかん/\かんだ祭礼〟     ◯『狂言鶯蛙集』〔江戸狂歌・第二巻〕朱楽漢江編・天明五年(1785)刊   〝三月尽  花ちりてしまひし吉野かはつゝらかたけて春のいとまこひ哉 つむりのひかる〟   〝不逢恋  いほ結ひにむすぶの神のむすびてや今に一度もとけぬ下帯  つむりのひかる〟   〝早乙女恋 早乙女のさみだれ髪をとりあげてせめて一夜はなびき玉苗  ひかる         早乙女のさみだれ髪をとりあげてせめて一夜はなびき玉苗〟    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人編・天明五年(1785)刊   〝郭公   一日に八千八声うけあふて山ほとゝぎすあはぬとぞなく つむりの光 〟   〝旅宿郭公 夏の夜のみじかき夜着に足引の山ほとゝぎすきく旅の宿 つむりの光〟   〝歳暮   年波のよするひたゐのしはみよりくるゝはいたくおしまれにけり つむりの光 四方〟    ◯『俳優風』〔江戸狂歌・第三巻〕唐衣橘洲・朱楽菅江・四方赤良編・天明五年(1785)八月成稿    挿絵・署名「つむり光画」「光画」   〝馬役 身のをもき役者をもちに月影やあはれ栗毛のもゝ引のこま つむりの光〟    ◯『夷歌百鬼夜狂』〔江戸狂歌・第三巻〕蔦唐丸主催「百物語」会・天明五年(1785)十月十四日詠   〝長髪   長髪の女の姿は川柳どろ/\/\に裾や引ずる      つふり光〟   〝殺生石  ばけのかはの玉藻を狐いたゝいて櫛笄となすの原かも   ひかる〟   〝肉吸   傘のあばら骨のみ残けりあらにくすひの夜の嵐や     光〟   〝猪熊   草摺をくはへて空へいかのぼりいと目もすごくみゆる猪熊 光〟   〝一つ目小僧 雨ふりてふり出したる一つ目の小僧はろくろ首のうら目歟 ひかる〟   〝大入道  すむ穴も大広袖の入道が名にはおはざるなまくさき風   ひかる〟   〝越中立山 魂返す薬の出る国なればなき人にあふ越のたて山     ひかる〟   〝皿屋敷  ひと二つ三つよもふけて七つ八つ九つわつとよぶ皿の数  光〟   〝あやかし ぬいてかすそこきみわるきひしやくさへあぶなき玉か舟のあやかし 光〟   〝大座頭  身のたけも高き利足の座頭坊金のたゝりのおそろしき台  ひかる〟    ◯『下里巴人巻』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良・天明五年(1785)詠   「十一月十九日 顔見世霜」(四方赤良の狂歌会)   〝つむり光 木々の葉の色の手際に顔みせの隈筆染る明ほのゝ霜〟    ◯『新玉狂歌集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明六年(1786)刊   〝伯楽連 死にたくもありし去年にはひきかへて命ながくと思ふ春かな つふり光〟   〝ひかる 銭金はたまらで過る月日にもことしののびのみゆる子のたけ〟    ◯『狂歌才蔵集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明七年(1788)刊   〝春歌上 ちよろ/\とひきあけ方白鼠ちいさな宿も春は来にけり つふり光〟   〝春歌下 花の山色短冊酒さかな入相のかねにしめて何程     つふり光〟   〝夏歌 氷室 とけさせはつかまつらしと氷室守をのれもかたくゐてついている つふり光〟   〝恋の歌とて みすもあらすみもせぬ人の恋しきは枕草子のとがにぞ有ける つふり光〟   〝述懐    母のちゝ父のすねこそ恋しけれひとりてくらふ事のならねば つふり光〟   〝芝居のかほみせの日  つふり光      花道つらねに幕をおくりける人々とをなしくよみてつかはしける      我等代々団十郎をひいきにて生国は花の江戸のまん中〟   〝不殺生戒  をのが身のあかとはしらであさましや虱くすりをはたにふるゝは つふり光〟   〝伊勢に詣て侍りける時  つふり光      天てらす神の教の道すくに日本橋より百二十余里〟    ◯『狂歌千里同風』〔江戸狂歌・第三巻〕四方山人序・天明七年(1787)刊   〝伯楽の人々と俳優の心もてよみ侍りける  つふり光      春霞たちやあがれへはみんなうそおたちあそばせ四季の座かしら〟    ◯『鸚鵡盃』〔江戸狂歌・第三巻〕朱楽菅江編・天明八年(1788)刊   〝立春   梅にしる山家の春に引かへて暦て覚ふ里のさるどし つふり光〟   〝年内立春 かざり藁茸あはせすの年のうちしきりに春の来るぞせはしき つふり光〟    ◯『狂歌数寄屋風呂』〔江戸狂歌・第三巻〕鹿津部真顔編・天明八年(1788)十月序   〝とこ山は我名もらすなとみかどのよませ給ひけんいとおかし        花くさの明ほのさむきとこのやまわがなもらすな俎板の上  つふりの光〟   〝(長文の詞書 全略)      仏には遣はれまいと歯かためをすればめでたき今のゆづり葉〟    ◯『狂歌部領使』〔江戸狂歌・第三巻〕つふり光序・寛政三年(1891)序   〝恋   難波江の風にもまるゝ汐なれや忍戸口にあしのふるふは  つふり光〟   〝恋   待ちかねて気ををとしたる小夜中に君のお出は拾ひもの也 つふり光〟   〝恋   千巻の経にもまさる御返事にうれし涙ぞ先うかみぬる   つふり光〟   〝恋   一つ家の鬼ともならで石よりはおもき枕にふせる恋やみ  つふり光〟   〝納涼  ゆあみして払ふ衣のちりひちやつもりて涼し庭のつき山  つふり光〟   〝荒和祓 飼にあさる鴨の川瀬の夕めしのおはち払ひの水の白ゆふ  つふり光〟   〝恋 君まてば尻もすはらで一夜さへさらにもゝ夜のこゝ地するかな つふり光〟      楊貴妃にたとへし故か呉国ほど君のことばの違ふ約束〟      くどけどもとかくに君はかた法華我に思ひの数珠をきれとや〟   〝萩  庭もせの萩に臥猪のなきものを鉄砲垣はきつい用心 つふり光〟   〝野分 元日の御用心より野分の夜我をねさせぬ杖も大徳  つふり光       すみふるす家はゆがめど杖つきののわきの風にかくは崩れき〟   〝恋  鐘の声此あかつきはひゞくなと閨にたてたき禁制の札 つふり光〟   〝雁  光陰の矢根なるかも春のまゝかりまた見ゆる中秋の空 つふり光〟   〝九月尽 をしめども脚半の色の白露をしもに結びてけふかへる秋 つふり光〟   〝恋  しのび逢ふ身には守もうの時にかへれとつくる七ツ目の鶏 つふり光〟   〝初冬 池水に氷の敷居はしりよくなじむ鴨居の冬の入口 つふり光〟   〝雪  いたづらに作れる雪の大達磨とけてさて/\尻くさらかし つふり光〟   〝歳暮 塩鮭のはらにはりたる竹弓に矢をいるごとく年はくれにき つふり光〟   〝更衣  ぬきかふる衣び帯はあまれども春の日数はたらで過ぎけり つふり光〟
  ◇「狂歌とこりつかひ 附録」   〝立春  節料理相かはらずにけさ春のたつくり鱠うちかすみけり  つふり光〟   〝恋   逢ざればとかく八卦をおきふしに人の心を唯うらみぬる  つふり光〟   〝恋   夏痩と人には隠すくるしさよ我むねの火のあつさまけをも つふり光〟   〝漸傾月 照まさる時も子の時うしの角さすや八月十五夜の影    頭光〟   〝落葉  寝てきけば落るはおとのしさまじや頃は鼠のかみな月とて つふり光〟   〝恋   蜘の糸くるにきはめて来ぬ人の心はねからよめぬからうた つふり光〟    ◯『狂歌四本柱』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵(つふり光)序・寛政四年(1792)刊   〝立春  春たつと女子供にしれ安くこほりを風のときをしへたり   つふり光〟   〝梅   邯鄲の枕とあちらこち風にさめて万花の梅のあけぼの    つふり光〟   〝恋   あだ人はとかく氷のうはすべりひるはとけるも夜はとけぬ也 つふり光〟   〝五月雨 五月雨のふるは卞和か泪かもいたく玉江にあしをかられて  つふり光〟   〝七夕  一夜でもから付たらみにならん此夕顔のつるのたなばた   つふり光〟   〝恋   くどけどもととかくに君はかた法華我に思ひの数珠を切とや つふり光〟   〝歳暮  書出しのたまれば年の芥川るすとこたへてきえなまし物   つふり光〟    ◯『狂歌桑之弓』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政四年(1792)刊   〝きのふよりけふはかくべつ青柳に見ほれてふかき春の色哉  桑楊庵光〟    ◯『太郎殿犬百首』〔江戸狂歌・第三巻〕桑楊庵光編・寛政五年(1793)刊   (序) 〝寛政五丑のとし 桑楊庵主人いふ〟   (刊記)〝寛政五癸丑歳正月吉日      馬喰町三丁目 若林清兵衛                   江都書肆 浅草諏訪町  山中要助板〟    ◯『狂歌上段集』〔江戸狂歌・第四巻〕桑楊庵頭光・尚左堂俊満等編・寛政五年(1793)   〝梅  冬あれし手のひらほどの我庭もきめこまかにぞ梅の咲ぬる 桑楊庵〟   〝鶯  身をかろく木伝ふために鶯のやがて酢になる梅を好む歟  桑楊庵〟   〝万歳 万歳の素襖の鶴もたちしほにやつといふたる徳若の浦   桑楊庵〟   〝西行忌 上人をとへる泪歟しろかねの猫の耳こすけふの春雨   桑楊庵光〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕狂歌堂真顔編・寛政五年(1793)刊(推定)   〝交張にはるは屏風の絵の如し松の日の出に梅に夕月  桑楊庵光〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (四方赤良(後の蜀山人)が狂歌堂鹿津部真顔に古今伝授めかして判者をゆずるを寿ぐ狂歌集の詠)   〝いさ折ていひわけにせん我妻のとがむばかりの梅のうつり香  桑楊庵光〟    ◯『二妙集』〔江戸狂歌・第四巻〕唐衣橘洲序・寛政七年(1797)刊   〝時鳥 一声も丸てはきかぬほとゝぎす半分ゆめのあかつきのころ 桑楊庵光      〟    ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊   〝春月  大空に霞の底やいれぬらん軒端をもらぬ春の夜の月 桑楊庵〟   〝寄能恋 つゝめども能の面の名に立て痩男とや人のうたはん 桑楊庵〟   〝更衣  脱かへていかにかゝるもはづかしや釣する海士のはりめ衣は 桑楊庵〟   〝寄相撲恋 思ひ川床の海とは角力にもいまだ名乗ぬ我涙かな 桑楊庵〟   〝蚊火  けぶしてもまたうたかひの蚊の声に二のあし火たく難波人哉 桑楊庵〟   〝蓮  御仏の器の蓮のまろき葉に随ふ水も友によるなり  桑楊庵〟   〝稲  穂波うつ稲負をのこかりしほにかたもみへねばあしもかくるゝ 桑楊庵〟   〝神楽 明ちかき夜の神楽のにはつ鳥をとりもをどれめんもきて舞へ  桑楊庵〟   〝寄魚恋 片おもひ鯛の骨なる鍬鎌よほれてもくれすかりねをもせぬ  桑楊庵〟     ◯『新撰狂歌百人一首』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園宿屋飯盛編・文化六年(1809)刊   〝北むきはいづれも毒としりながら堪忍ならむ河豚と吉原  光〟     ◯『万代狂歌集』〔江戸狂歌・第八巻〕宿屋飯盛編・文化九年(1812)刊   〝春歌   ちよろ/\とひきあけかたの白鼠ちひさな宿も春はきにけり  つふり光〟   〝屠蘇の酒くみて          おほかりし酒屋のかけのこりずまにけさとりあくるとその盃  つふり光〟   〝題しらず まぜはりにはるは屏風の画のごとし松の日の出に梅の夕月   つふり光〟   〝七草の日に なゝくさのあけほのさむき床の山わかなもらすな俎のうへ  つふり光〟   〝霞をよめる 一筋の霞や春のひたち帯冬とはそらもうらかへりたり    つふり光〟   〝題しらず  春のたつ東山より諺のかすみの衣きたふれの京       つふり光〟   〝鶯をよめる 身をかろく木つたふために鶯のやがて酢になる梅をこのむか 光〟   〝柳の枝に鶯のなきければ         つふり光          はゝきゝをさかさにしたる青柳にほつたて尻の鶯ぞなく〟   〝山間鶯を  をちかたの親類よりも山すみはちかくのたにの鶯ぞよき   光〟   〝若菜を   葛飾の春の川辺に初荷舟江戸をさしてやわかなつむらん   光          春の野の御製の若菜冥加なや手もぬらさずに一把三文〟   〝余寒を   槌やすむ鉄たくみほと春さむみとけんともせぬ雪の下水   つふり光〟   〝雪のこるりるを 岩かげの雫となりてはぬるなり兎をみえしこぞのしら雪 つふり光〟   〝柳を    五もとの冬かれ柳春くれば枝も若葉にかへんなんいざ    つふり光〟   〝柳靡風をいふを 五もとの冬かれ柳春くれば枝も若葉にかへんなんいざ  つふり光            青柳の糸より引て系図ほど千筋に枝のわかる春風〟   〝山蕨を  よし野山谷間をのぞくさわらびはおのれかあくのざんけするかも つふり光    〟   〝帰雁を   よみやすき文かも雁のかへり点句をきり星のみゆる暁    つふり光〟   〝花を    田楽の味噌をば人にまかせつゝ花にこゝろをつくる頃かな  つふり光〟   〝志賀山越を ちりかゝる花の衣を狼のきてはたまらぬ志賀の山越〟    つふり光〟   〝雛を    雛棚の花を見すてゝあたゝかな風に砂糖のかへる雁〟   〝汐干にいきて 尋ればこゝにあり/\汐干潟(ママ)まりのつまみの紫の貝〟   〝桃の花のさきけるを           ねかはくは三千とせをへて春死なん王母か桃の花のもとにて 光〟   〝藤の花のさきけるを           松の木の股もさけぬとみゆるなり夏へまたきし藤の花房   つふり光〟   〝春の日菅神の御社にまうでゝ    つむり光          菅原の北の方にて南より紅梅とのゝ花はひらけり〟   〝郭公を   ほとゝきす自由自在にきく里は酒屋へ三里豆腐やへ二里   つむり光          きゝし事尻へぬくればほとゝきすいつも初音のこゝちこそすれ〟   〝酢を    早漬のおしにおくのゝ大石をとるや真田の与一夜のすし   つむり光〟   〝月前網を  てる月に魚のみえすくよつ手網かゝらぬ物は雲ばかりなり  つむり光〟   〝題しらず  虫の音のたえたる霜のさむき夜になく物とてはこれきり/\す  つむり光〟   〝鴛鴦を   つるき羽のをるゝばかりの冬風にみけんじゃくほどめくるをし鳥 つむり光〟   〝霙を    酒の名のみそれふる日はたへかねて下戸も雪解雫ほどのむ    つむり光〟   〝懐旧を   元結をくひきりたるもむかしにて歯にいとたのむ口をしの世や  つむり光〟   〝釈教歌 高野にまうでゝ          元結をくひきりたるもむかしにて歯にいとたのむ口をしの世や          鳥ひとつとらせぬ山をたかのとは仮名でかいたる筆のあやまり〟    ☆ はるまち こいかわ 恋川 春町    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人編・天明五年(1785)刊   〝喜三二のなかたちにて妻をむかへければ  酒上不埒【恋川春町】      婚礼も作者の世話で出来ぬるはこれ草本のゑにしなるらん〟    ☆ ひゃっき しょうしょうけん 小松軒 百亀    ◯『巴人集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良・天明三年(1783)詠   〝小松軒が大草のかくれ家をとひて      山中にひきこもりたる小松やと思ひの外に大草の庵〟    ☆ ぶんちょう たに 谷 文晁    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔詠)   〝谷文兆(ママ)子のかける毬栗の画に      谷の戸の名高き枝のいが栗はゑみぬる殻に人このみけり〟    ☆ ぶんてい 文鼎    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「文鼎画」   〝炭竃    世の人を炬燵の穴にこもらすは熊野のおくの炭やきの業 芦中舎文鼎〟    ☆ ぶんれい かとう 加藤 文麗    ◯『今日歌集』〔江戸狂歌・第一巻〕木室卯雲著・安永五年(1776)刊   〝書画寄合書の一軸に文麗の筆を願ひまいらせ置きけるに年を超へてならざりけるまゝよみて持参し侍る      君が手にゑをとめられてかはせみの池の端まで来てはなきごと(木室卯雲詠)    その翌画なりて一軸をかへし給ふ画は福禄寿に亀のあしらいなりければ又よみて持参しける      せうひんの身に余りある福禄寿亀のごとくに這ふて御礼〟    ◯『万歳狂歌集』「哀傷歌」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝文麗子をいたみて  卯雲      君まさてたれか筆をやたのむべきわがかなしさは絵にもかゝれず〟    ☆ ほういつ さかい 酒井 抱一    ◯『狂言鶯蛙集』〔江戸狂歌・第二巻〕朱楽漢江編・天明五年刊   〝九月尽 長月の夜も長文の封じめを明れば通ふ神無月なり   尻焼猿人〟   〝寄皷恋 音に立てなをも皷のうつゝなや三つ地の文の長地短地 尻焼猿人〟    ◯『三十六人狂歌撰』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・丹丘画・天明五年(1785)刊   〝尻焼猿人      長月の夜も長文のふうじめをあくればかよふ神無月なり〟    ◯『俳優風』〔江戸狂歌・第三巻〕唐衣橘洲、朱楽菅江、四方赤良編・天明五年(1785)八月成稿   〝巻軸 三浦屋あけ巻  尻焼猿人狂 スキヤ      月の夜もよし原ばかりやみにせんこのあけ巻に棒をあてなは〟    〈「スキヤ」数寄屋連所属の意味〉    ◯『新玉狂歌集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明六年(1786)刊   〝春の興われも哥人のはし鷹にならばゝならべなら尾ならしば〟    ◯『狂歌才蔵集』〔江戸狂歌・第三巻〕四方赤良編・天明七年(1787)刊   〝寄鍔恋  尻焼猿人      ぬしさんにはゝきもとまで恋のふち人の目貫をかね家のつば〟    ◯『狂歌千里同風』〔江戸狂歌・第三巻〕四方山人序・天明七年(1787)刊   〝としのはじめによみ侍りける  尻焼猿人      楊弓をはるは来にけり結紋場霞の幕もあらたまりぬる〟    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   〝俊成の古今は定家にゆづられ、四方先生の箱伝授は鹿津部の文庫に納る、すみ蔓長く伝り関取のあとた    へず、今や日のした開山の狂歌堂にあふがん事、林にしげき木葉のごとき狂歌師もはる雨のふる葛籠の    底にうちはたき恵比寿うた一首きこへ奉るになん   尻焼猿人      斯うといへばいな負背鳥呼子鳥そのあぢはひも百千とり/\〟    〈四方先生とは四方山人(赤良、後の蜀山人)。この年、四方赤良は古今伝授よろしく、狂歌堂鹿津部真顔に秘伝をさ     づけて判者を譲った。尻焼猿人はそれを言祝いだのである〉    ◯『狂歌東来集』四編〔江戸狂歌・第五巻〕吾友軒米人編・享和二年(1802)刊   〝つゝめども袖よりもるゝ梅がゝを唯は通さぬうくひすの関〟    ◯『芦荻集』〔江戸狂歌・第十巻〕紀真顔著・文化十三年(1816)刊   (紀真顔詠)   〝抱一大とこのかき給へる一枝の梅のゑに      かうばしき筆のかをりは散らさじと袖もて抱く一枝の梅〟    ☆ ほうしゅう かみや 神屋 蓬洲    ◯『とこよもの』〔江戸狂歌・第七巻〕尋幽亭載名編・文化五年(1808)刊   (唐衣橘洲七回忌追善集)   〔編者〕尋幽亭載名(序文により「としな」と読む)   〔画者〕蓬洲橘実吉(神屋蓬洲)   〝野に有て虫もなくらし師のことをおもひ出せる七月のへん 蓬洲橘実吉〟    〈蓬洲は狂歌を唐衣橘洲に習い、狂歌名を橘実吉と称したようである〉     ☆ ほうぼう 蜂峰    ◯『狂歌萩古枝』〔江戸狂歌・第六巻〕浅草庵市人編・享和二年(1802)刊   (桑楊庵頭光七回忌(享和二年四月十二日)追善集)   〝呑すとも酒は一升すふにへるのこるものにや我としのかず  日くらし蜂房〟     ☆ ほくさい かつしか 葛飾 北斎    ◯『狂歌三十六歌仙』〔江戸狂歌・第四巻〕   〔編者〕千秋庵三陀羅   〔画者〕書名なし。北斎か。   〔版元〕西村与八板、蔦屋重三郎板、西村新六板、三説あり。   〔刊年〕寛政六年(漆山又四郎『絵本年表』)       寛政十二年とするも、同九年、十年、文化元年を併記(永田生慈『葛飾北斎年表』)    ☆ ほくじゅ 北寿     ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「北寿画」     ☆ ほくすう 北嵩    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「北嵩台」    ☆ ほくたい えいさい 盈斎 北岱    ◯『狂歌東来集』四編〔江戸狂歌・第五巻〕吾友軒米人編・享和二年(1802)刊   〝富士うつす春のかゝみか浦の梅にほひも高く雲に交る  盈斎北岱〟    ☆ ほくば ていさい 蹄斎 北馬    ◯『狂歌萩古枝』〔江戸狂歌・第六巻〕浅草庵市人編・享和二年(1802)刊   (桑楊庵頭光七回忌(享和二年四月十二日)追善集)   〝初茄子 放下師のわさかもはやき初茄子すこしも種の見ゆるのはなし 蹄亭北馬〟     ◯『狂歌左鞆絵』〔江戸狂歌・第六巻〕尚左堂俊満編、自画・享和二年(1802)序   〝端伍 あやめ草けふは軒端にふくろく寿つふりへさはる葉の長くして 蹄斎北馬       賤の女か手織の布をはつのほりひをみてたつる村長か門〟    ◯『狂歌若緑岩代松』〔江戸狂歌・第八巻〕時雨庵萱根編・文化九年(1812)刊    見返「蹄斎北馬画」    刊記「文化九年壬申春正月発行 哥林 浅草田原町 日野屋茂右衛門                      浅草東仲町 大垣徳太郎」    奥付「画工蹄斎北馬(「北馬」丸印)」    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「北馬」     ☆ ほっけい ととや 魚屋 北渓    ◯『職人尽狂歌合』〔江戸狂歌・第七巻〕六樹園飯盛判・文化五年(1808)跋    挿絵署名「北渓」「江南司馬伋(印)」「江南写」    〈五図とも同筆と思われるが、「北渓」署名は三図、一図ずつに「江南司馬伋(印)」と「江南」の署名。北渓の仮号     であろうか〉    跋 「文化五年辰四月 文亭一通」    刊記「御江戸本町筋北エ八町目通油町/書林蔦屋重三郎寿桜」    ◯『【評判】飲食狂歌合』〔江戸狂歌・第九巻〕六樹園飯盛判・文化十二年(1815)刊    挿絵署名「北渓画」〈全五図すべて北渓〉    ◯『吉原十二時』〔江戸狂歌・第十巻〕石川雅望(六樹園飯盛)編・刊記なし   (解題によると、旧蔵者の筆跡で「文化十三丙子年」とある由)    挿絵署名「葵園北渓画」「北渓画」「北渓」〈全十二図すべて北渓〉    ☆ まくらえ 枕絵    ◯『万歳狂歌集』「賀歌」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝寄枕絵祝  床もはやおさまりてよききみが代はもういく千代をいはじふ枕絵 あけら菅江〟    ◯『下里巴人巻』〔江戸狂歌・第二巻〕四方赤良著・天明五年(1785)詠   「八月十九日、兼題月前枝大豆」   〝天地玄黄 かつぶきし月は西川祐信か枕草紙のゑだ豆男〟     ☆ まさのぶ きたお 北尾 政演    ◯『徳和哥後万載集』〔江戸狂歌・第二巻〕四方山人編・天明五年(1785)刊   〝みそかに思ふ事の侍りければある神のみまへに    鈴をふりてせちにいのり侍るとて  身軽折助【北尾政演】      千早ふる神のみすゞにすがりてもなるとならぬは音にきかまし〟    ☆ まさよし けいさい 蕙斎 政美    ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (挿絵)   「七福神と鶴亀」寄せ書き、署名    「毘沙門天」署名「洞秀美敬画」    「布袋」  署名「行年七十一歳東牛斎蘭香画」(吉田蘭香)    「弁財天」 署名「行年六十七歳狩野休円」    「鶴」   署名「秀山敬順画」    「福禄寿」 署名「鄰松時六十四歳画」(鈴木鄰松)    「恵比寿」 署名「養意惟伝画」(笹山養意)    「大黒天」 署名「松意茂博画」    「寿老人」 署名「蕙歳政美」(北尾政美)   「正月風景」 署名「蕙斎図」        「梅に鶯」  署名「宋紫山」   「狐舞」   署名「山東京伝写」   「群蝶」   署名「邉玄対」(渡邉玄対)   「狂歌文字柱立て」 署名「蕙斎筆」    ☆ みちもり じんぎどう 仁義堂 道守     ◯『狂歌晴天闘歌集』〔江戸狂歌・第四巻〕後巴人亭つむりの光編・寛政八年(1796)刊   (挿絵全二十七枚 うち三枚)署名「仁義道守画」    ☆ らんこう よしだ 吉田 蘭香     ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (挿絵)   「七福神と鶴亀」寄せ書き、署名    「毘沙門天」署名「洞秀美敬画」    「布袋」  署名「行年七十一歳東牛斎蘭香画」(吉田蘭香)    「弁財天」 署名「行年六十七歳狩野休円」    「鶴」   署名「秀山敬順画」    「福禄寿」 署名「鄰松時六十四歳画」(鈴木鄰松)    「恵比寿」 署名「養意惟伝画」(笹山養意)    「大黒天」 署名「松意茂博画」    「寿老人」 署名「蕙歳政美」(北尾政美)    ☆ りゅうさい 柳斎    ◯『狂歌関東百題集』〔江戸狂歌・第八巻〕鈍々亭和樽編・文化十年(1813)序    挿絵署名「柳斎画」     ☆ りんしょう すずき 鈴木 鄰松     ◯『四方の巴流』〔江戸狂歌・第四巻〕鹿津部真顔編・寛政七年(1795)刊   (挿絵)「七福神と鶴亀」寄せ書き、署名    「毘沙門天」署名「洞秀美敬画」    「布袋」  署名「行年七十一歳東牛斎蘭香画」(吉田蘭香)    「弁財天」 署名「行年六十七歳狩野休円」    「鶴」   署名「秀山敬順画」    「福禄寿」 署名「鄰松時六十四歳画」(鈴木鄰松)    「恵比寿」 署名「養意惟伝画」(笹山養意)    「大黒天」 署名「松意茂博画」    「寿老人」 署名「蕙歳政美」(北尾政美)    ◯『柳の糸』〔江戸狂歌・第五巻〕浅草庵市人編・寛政九年(1797)刊    (口絵)    「橋場初乗」   署名「等琳画」(堤等琳)   (挿絵)    「寿老人」    署名「鄰松画」(鈴木鄰松)    「にひよし原」  署名「栄之」 (鳥文斎栄之)    「鞍馬ふごおろし」署名「等琳〔印「等琳」〕」    「鶯宿梅」    署名「華藍〔印「北峰」「紅翠斎主」〕」(北尾重政)    「江島春望」   署名「北斎宗理〔印「北斎」「宗理」〕」(葛飾北斎)    ☆ ろすい つるおか 鶴岡 芦水    ◯『万歳狂歌集』「雑歌上」〔江戸狂歌・第一巻〕四方赤良・朱楽菅江編・天明三年(1783)刊   〝すみた川のけしきをゑがきてふたまきとし、両国一覧と名づけ侍るとて  鶴岡芦水      両国のきしによる波よるひるや舟のかよひ路一目わからん〟