Top浮世絵文献資料館浮世絵師総覧
 
☆ やすじ いのうえ 井上 安治浮世絵師名一覧
〔元治1年(1864) ~ 明治22年(1889)9月14日・26歳〕
 ☆ 明治十七年(1884)  ◯「近代書誌・近代画像データベース」(国文学研究資料館・明治十七年刊)    井上安治画『東洋民権百家伝』第二帙 小室信介 口絵「井上安次筆」案外堂(1月)    〈画中の「安次」は本名の安二(次)郎を踏まえた署名〉  ◯「国立国会図書館デジタルコレクション」(明治十七年刊)    井上安治画『騙取黄金廼犬』挿絵・表紙 井上安次 竹林亭主人 栗田素一(5月)  ☆ 没後資料  ◯『浮世絵師伝』p201(井上和雄著・昭和六年(1931)刊)   〝安治    【生】  【歿】  【画系】  【作画期】    井上探景の名、「ヤスハル」と訓む、然れども「ヤスヂ」と呼ぶ人多し、故に便宜上こゝに挙ぐ。(探    景の項にあり)〟    ◯『明治の東京』(鏑木清方著)   ◇「広重と安治」p184(昭和十八年一月)    (広重画の版本『絵本江戸土産』(嘉永三年(1850)刊)と、井上安治画の小判錦絵、東京風景百枚画帖     (明治十二、三年(1879、8)刊)を取り上げた随筆)   〝槍を立てさせ、供ぞろいをして馬上の侍が通るところを写している広重の絵と、汽車が走り、鉄道馬車    の通っているのを洋風技術で写生した井上安治とは三十年違うだけで、その時分にはあっぱれ近代風景    の実写であったろうと思われる東京新名所の絵が、今日では江戸と東京のひらきに倍する年齢を距(ヘダ)    つるに至ったのだから、明治時代が古い昔になったのに不思議はない。(中略)    井上安治の東京風景は私の生れた一、二年の後に世に出ている。随(シタガ)ってそこに示された人里(ヒト    ザト)、木立(コダチ)、野なり川なり、そのたたずまいは私みずからの親しく触れて来た、というよりはこ    の風土が善から悪しかれ今日の私をつくりあげたのは、生きものでも、草木でもその土に適(カナ)うもの    その土にのみ生きる。安治の錦絵には赤煉瓦の洋館も、鉄の橋も写されているけれど、象外(ショウガイ)に    脈々として伝わるのは、広重以来の情緒がどんな外界の変革に遇(ア)っても、ちっとも本質を変える事    なくそのままに残されている。殊(コト)によったら家康が江戸開府の時の俤(オモカゲ)さえ、何処にか姿を    留めていたのかも知れない。(中略)    『江戸土産』の日本橋を見る。早朝なのだろう、橋上を往来するのは魚屋ばかりで、頭に置手拭をして、    背中にずらして小風呂敷の包を負うた男と、行商の一人がいる他は、河岸から買出しがえりの棒手振    (ボテフリ)が早足に魚の荷を担いでゆくのがうちつづく。西河岸には白い並蔵(ナミクラ)、一石橋を越して千    代田の御城が見え、中空に富士がかかっって、よくある図だが、いくら朝早くでもこの日本橋の静かな    ことよ。安治画(エガ)く日本橋夜景を見る。これは西河岸の方から見たところで、橋の上には鉄道馬車    が通り、橋の南袂(タモト)には高い洋館に燈火あかく、三菱の倉庫七棟連(ツラナ)って、その外(ハズ)れに白    々と大きい満月がさしのぼっている。油のような水面に月影は流れて、舫(モヤ)った舟は黒く、月に浮    かれてか行人の数も尠(スクナ)くはない。しかし静かな眺めである。    朝と夜との日本橋、大都会の中心を写したこの二つの景色の、広重は橋西を、安治のは橋東をそのまま    画いただけながら同じような静けさは、明治の東京そこここにいくらも接することの出来た風致であっ    た。    その後国運が進歩したのだからといえばそれまでだが、私などには広重から安治へと続いて来たむしろ    素朴な東京の、早春、梅花の薫るに似た、寂しく床(ユカ)しい都会風景、併せてその生活が懐かしい。     (中略)    井上安治は本名安二郎、探景と号して、小林清親の弟子、若くして歿した〟    〈清方の目には、井上安治の画く東京風景の中にも、広重以来の静謐な江戸情緒が絶えることなく漂い続けているように     見えたのである〉   ◇「明治の生活美術寸言」p181(昭和三十七年九月記)   〝私が画人であるからか、明治の生活美術を語るに、まず、これら風俗画と、清親一派の風景画が最初に    思い泛(ウ)かぶ、清親はこれまでにも紹介されて人の知るが、その門人で惜しくも早世した、探景井上    安治は、師風から殆ど一歩も出ないようでいて、どこか広重に通じる詩情と郷愁がしみじみ看者の心を    打つ〟    ◯「幕末明治の浮世絵師伝」『幕末明治の浮世絵師集成』p92(樋口弘著・昭和37年改訂増補版)   〝安治(やすじ)井上探景の本名、その項参照〟