△『増訂浮世絵』p94(藤懸静也著・雄山閣・昭和二十一年(1946)刊)
〝松吟堂芳川
閲歴を明かにしないが、その画風から推せば、元文を稍すぎた頃の人と思はれる。奧村政信の画風に似
てゐるから、芳月堂の一字芳を雅号としたのであらうと思はれる。紙本著色で遊女が軒のつらゝを箒を
取らうとする図がある。これに松吟堂芳川の署名があり、画技の見るべき人である。雪の屋根や竹につ
もつた様は、巧に写され、遊女の後に立つ子供が口に手をあてゝ、寒さに息を吐いてゐる所もよく写さ
れてゐる。描線や色彩も浮世絵一流の法を以てしたのであるから、版画を作らなかつた人で、世に知ら
れなかつた優れた画人であらう〟