悪性褐色細胞腫について
1/疫 学
 褐色細胞腫は副腎皮質、あるいは旁神経節などのクロム親和性組織から発見される腫瘍で、エピネフリン(E)、及びノルエピネフリン(NE)などのカテコールアミン(CA)を生成分泌し、持続性、あるいは発作性の高血圧を中心とした多彩な症状を示し、約90%は副腎髄質に、約10%は副腎他に原発します。
性差に関しては、女性にやや多く、30〜50才代に比較的多く発生します。全高血圧症患者の0.1〜0.5%程度を占め、このうち悪性褐色細胞腫は10%前後とされています。
1983年から86年の四年間の176例の褐色細胞腫中、悪性例は六例報告されています。悪性例の30〜40%は副腎原発と言われています。

2/病態について
 臨床症状は、良性のものと同様に過剰に産生されたカテコールアミン(CA)による症状が主体です。皮質癌と同様に病理組織学的に悪性と判断することが困難で、多発性、あるいは周囲への浸潤、非クロム親和性組織への遠隔転位の有無などにより総合的に悪性と診断される場合が多いと言われます。良性例と比べ、腫瘍は巨大で壊死範囲が広く、肝門部リンパ節、骨、肝、肺、脾等に転位しやすく、患部の腎にも転位しやすい特徴があります。初回手術時、完全に腫瘤が摘出できても、また良性と考えられた場合でも、術後十年以上の後に再発転位のための死亡例も稀ではありません。

3/病 理
 組織学的には良性と悪性の識別は困難で通常悪性の指標とされる被膜や脈管内浸潤像は良性例でも認められます。
【悪性細胞褐色腫】
イ:小細胞型
 悪性褐色腫の大半。小型細胞腫が単調に増殖する
ロ:偽ロゼット形成型
 毛細血管を中心に腫瘍細胞がロゼット様を示す
 最近では褐色細胞腫ではミトコンドリアの中心に存在するマンガンSОD活性が低値であり、悪性例ではより低いレベルであると報告されています。
4/診 断
 褐色細胞腫としての診断は、血中カテコールアミン(CA)測定が普及してきたため、診断が容易になりました。良性の鑑別は困難であり、CT、MRIなどの診断に関しても転位や周辺浸潤という以外に悪性例に特徴的な所見はありません。

5/治療と予後
 病期分類は明確に定時されていませんので、化学療法や放射線治療でも満足ゆく効果は得られていません。治療の原則は外科的治療で、一般に良性と比して腫瘍が巨大で周辺臓器への浸潤が多く認められます。また、悪性褐色細胞腫は、治療が困難で、腫瘍そのものの増殖傾向はあまり強くなく、転位が発見されて腫瘍が増大して死亡するまで、かなりの時間を要することも稀ではありません。従って初回手術時に悪性と診断された症例や術後に転位巣の発見された症例に於ても縮小外科手術は意義があると思われます。
化学療法財として、CVD療法、
シクロフォスアミド750mg/m2
(Day1)dacarbazin 600mg/m2(Day1,2)、ビンクリスチン1,4mg/m2(Day1)を、三週毎に繰り返し行い、十四例中、腫瘍縮小効果五十七%、分泌抑制効果七〇%の報告があります。
 放射線療法に関しては、画像診断に用いられるB1 I-MIBGを治療に導入した内照射療法が注目を浴びています。診断用使用量(0,5〜1,0mCi)の数百倍を一回大量に(100〜300mCi)投与し、腫瘍細胞に取り込まれたB1 Iによる放射線治療効果を狙うものです。

 予後に関しては本腫瘍が悪性と判定することが困難なため、正確な検診は難しいとされていますが、転位巣発見後の生存期間は数ヵ月〜三年以内との報告があります。

 文献の資料については上記で紹介を終わりますが、いずれにしても被病率も少なくないが、良性、悪性の判定も難しく且つ治療法も非常に厳しいのが現状の様です。


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