目次
- NLPとは
- 優位感覚
- 学習スタイル
- 優位感覚の特徴
- 授業にどう生かすのか?
- 教師が意識を変えられる
- 優位感覚テスト(ダウンロード)
NLPとは「Neuro-Linguistic Programming」の略,神経言語プログラミングと言われる心理療法です。
NLPを説明しようとするとキリがありません。私自身も勉強の途中ですので,詳しくは,他書,他サイトにお任せしたいと思います。
ここでは,NLPの手法をいかに学校の授業に生かすのか,私なりに説明したいと思います。
NLPのなかに優位感覚という考え方があります。
優位感覚とは,その人が得意とする感覚や使いやすい感覚のことです。
人は感覚を通して,外界(環境,他者)とつながっています。
人それぞれ右利き,左利きがあるように,使いやすい感覚というのがあるのです。
そこで,人間の五感を,視覚,聴覚,体感覚(触覚と嗅覚と味覚を合わせて)の3つに分けて,どの感覚を使うのが得意なのか調べて,コミュニケーションに生かそうとする手法です。
NLPではこの3つの感覚の頭文字をとって,視覚(Visual),聴覚(Auditory),体感覚(Kinestic)を代表システム(VAKモデル)と呼んでいます。
優位感覚をさらに発展させて学習スタイルとして4つに分類します。
4つとは視覚優位,聴覚優位,体感覚優位,言語感覚優位(Auditory Digital)です。VADADモデルと呼びます。
あたらしく出てきた言語感覚優位にオーディトリーとあることから,聴覚優位と関連があります。
人はこの4つの感覚を使って,さまざまなことを学習しています。どれか一つだけということではなく、その中でも使いやすい感覚というのが、人それぞれにあります。
これらの特徴は,学習したことを思い出す,記憶を呼び起こす(想起する)ときにも現れてきます。
たとえば「クリスマス」という言葉を聞いて、何を連想しますか?
赤、白、緑の色やイルミネーションを想起する人は「視覚優位」
ジングルベルやクリスマスソングを想起する人は「聴覚優位」
ケーキの味やパーティーの楽しさを想起する人は「体感覚優位」
クリスマスの計画や段取り、プレゼントのリストを想起する人は「言語感覚優位」
というようにです。
簡単に特徴をまとめてみると,以下のようになります。(詳細は別のページで説明します)
○視覚優位
物事を絵や図で理解します。パッパッと見た目で判断ができます。
勉強方法としては,色分けやチャートが有効です。
○聴覚優位
話をするのが大好きですが,うるさいと集中できません。物事を順番に記憶するのが得意です。
勉強方法としては,従来の授業や講義形式が合っています。
○体感覚優位
物事をからだで理解しようとするため,理解するまでに時間がかかります。
勉強方法としては,実験やロールプレイ,パソコンを使った学習が合っています。
○言語感覚優位
自分で考えたり,他者と話し合ったり発表したりするのが得意です。
勉強法としては,自分なりの方法を作り出していかないといけません。
このように,得意とする勉強方法が違っています。
ちなみに,聴覚優位と言語感覚優位は似ているようですが,聴覚優位が外的対話(おしゃべり)を好むのに対して,言語感覚は内的対話(内省)を好みます。
また,優位感覚は変化することがあります。学年が変わったら再テストして調べたほうがいいと思います。
そして鍛えたい感覚を意識的に使うことで(使わせることで),優位感覚を変えていくことができます。
どの優位感覚が優れているということはありませんので,さまざまな対応ができるようになるという意味で,学習であり,成長でもあります。
この優位感覚(VAKADモデル)を生徒理解に利用して、より有効な授業を組み立てよう。というのが私の考えです。
ここからが本題です。NLPのVAKADモデルをどうやって授業で生かすのか考えてみます。
まず今までの授業を振り返ってみてください。
Q1 授業で生徒を指名するときに、どのような理由でその生徒を指名していますか?
もしかして、こんなことはありませんか。
テストの点数が高い生徒、学級委員を務めている生徒、今日の日付と出席番号が同じ生徒、たまたま目があった生徒、たまたま目をそらしていた生徒…。
それでは指名されることに納得できる根拠がありません。
結果「分かりません」という安直な返答や、無駄な沈黙,もう一度説明する時間で終わってしまいます。
あるいは、わかる子だけが発言して進んでいく授業になってしまいます。
優位感覚を用いると,根拠のある指名ができます。
たとえば,
色や形を答えてもらいたいときには「視覚優位」の生徒,
どのような音が聞こえたか説明してもらうときには「聴覚優位」の生徒,
どんな手触りだったか答えてもらうときは「体感覚優位」の生徒,
考察に書いたことを発表してもらうときには「言語感覚優位」の生徒
というように,その生徒が得意とする感覚を利用して,それを引き出すように指名をするのです。
Q2 理科室で授業を行うとき、どのような意図で座席に座らせ、実験班を編成していますか?
もしかして,こんなことありませんか。
教室と同じ,出席番号順,男女別。成績の高い生徒をリーダーにしている…。
それでは班編成に納得できる根拠がありません。
結果,生徒からの不満の声があがったり,リーダーの生徒の負担だけ増えたり,要注意となる班ができたりします。
優位感覚を用いると,根拠のある班編成ができます。
各班に4つの優位感覚をもった生徒が分かれるように座席を指定するのです。もちろん,男女比や人間関係も考慮に入れます。
こうすると,
反応の様子を細かく見ているのは「視覚優位」の生徒,
手順を確かめるのは「聴覚優位」の生徒,
実験を率先して行うのは「体感覚優位」の生徒,
実験の目的を考え考察に結びつけようとするのは「言語感覚優位」の生徒
というように,班の中で役割分担が行われます。
また,実験結果をまとめる場合でも,
図に書いて説明するのは「視覚優位」の生徒,
ほかの班の意見を取り入れようとするのは「聴覚優位」の生徒
ジェスチャーで説明しようとするのは「体感覚優位」の生徒,
みんなの意見をまとめて考察を深めるのは「言語感覚優位」の生徒,
というように,互いを補完するような学習が行われます。
クラスの優位感覚の分布が偏っている場合でも,班のメンバーで足りない優位感覚の能力を互いに開発していくことができます。教師からの支援(声掛け)も意図的にできます。
もしくは,あえて聴覚優位の生徒に図で説明することを求めることで,能力を開発したり,周囲からの支援を引き出して交流をさせることも意図的にできます。
優位感覚を導入すると,先生の意識に大きな影響を与えます。
今までの成績が優秀な生徒,発言力のある生徒,リーダーの生徒が中心になって進めてきた授業が変わります。
生徒を点数という一つの物差しで測ることは分かりやすいです。そのメリットも重要性も,社会からの要請があることも認めます。
しかしその反面,その物差しから逸脱してしまう,できない子,理解の遅い子,書けない子,発表できない子,おしゃべりばかりしている子…,私たち教師がついしてしまいがちなそういうネガティブな生徒の捉え方を変えることができます。
(ADHDだから仕方がない…)(学習障害だからどうしようもない…),医師の判定を受けたわけでもないのに勝手に都合のいい診断名をつけて安心してしまう,言い訳してしまう自分を変えることができます。
それが,優位感覚という物差しです。生徒の見方が変わります。
その子はもしかしたら…,
「視覚優位」であるために,見ているだけで自分から手を出そうとしないのかもしれません。
「聴覚優位」であるために,おしゃべりはするのに自分の意見をまとめられないのかもしれません。
「体感覚優位」であるために,言葉にするのが遅いのかもしれません。理解が遅いのかもしれません。
「言語感覚優位」であるために,考えているのになかなか発言ができないのかもしれません。
生徒を「優位感覚」という4つの視点で見ることで,より肯定的に生徒を捉えることができるようになります。
そして,自分の授業を変えていくことができます。それが「優位感覚を用いた指名・班編成」です。
発問一つとっても「反応するとき,なにが起きましたか?」ではなく「反応するとき,なにが見えましたか。」と変えるだけで,「視覚優位」の生徒は答えやすくなります。
実験のまとめのときも,最初から成績のよい生徒に言わせるのではなく,まずは「聴覚優位」の生徒何人かに聞いてみよう。そのあと「言語感覚優位」の生徒を指名してみよう。その間に「体感覚優位」の生徒が書けているかどうか机間巡視しよう。と組み立てることができます。
優位感覚を授業に取り入れることで,こんなふうに変わってきます。
以下のファイルをダウンロードして,印刷してください。
「優位感覚テスト」ダウンロード
1ページ目がテストになっています。2〜3ページ目は採点方法と,優位感覚ごとの特徴と学習効果を高めるアドバイスになっています。2〜3ページは縮小してA4一枚に収めると,両面印刷で使用できると思います。
このテストは簡易的に「優位感覚(学習スタイル)」を調べるためのものです。
学習スタイルは変化するものであり,ヒントにはなっても絶対ではないことを留意してください。
このテストは「Test.jp」「Sodan Net Com」の許可をいただいて作成したものですので,あくまでも自己責任で利用してください。