この娘の、合理的というか、融通の利かない娘というか、驚いていると、一人の男性が巡回して来た。すると、娘はその男に彼の困っている状況を話して呉れたのである。 彼はこれでやっと助かったと思った。男は、娘から鍵を受けとり、彼の部屋まで同行して、ドアの錠を外して呉れた。彼はその男に、握手してお礼をいった。
あの娘は不親切であったのではなく、彼には慣れていない慣習があるのである。言葉が不自由である上に、システムが日本とは異っているし、さらには、考え方の規準が違うなどで、話は増々、理解できなくなり、一時間の間、どうなることかと彼は不安でならなかった。今でこそ笑い話になろうが、その時の彼は真剣そのものであった。
夏期休暇中のカリフォニア大学の寄宿舎は宿泊している学生とてなく、彼と同行した一行が泊っていたのみで、人気がなく、まして、夜も更けているので、寂しいものであった。通路は何の飾りも付いていない灰色の冷たいコンクリートが連なり、彼と鍵を開けてくれた男の足音が、妙に静けさを増しているようであった。(第8章おわり) 第9章へ
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