佳境、辛酸に入る-第6章-

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会議の席上、彼は谷口に向って云った。
「そんなこと云うなら部長には何かよい提案があるのですか?」
谷口は何も云わない。ある筈がない。
優秀大学を出たというプライドが全て評論家役に育て上げてしまったのである。
人一倍、知識が豊富なものだから、アイデアが出る以前に自分で押え付けてしまうのである。しかし、この谷口のもっている豊富な知識なるものも、彼は正しい知識であるとは思っていなかった。

この谷口は、七◯才近い社長がこよなく、可愛がっていた。
時には、自分の席まで呼びつけて、話をさせたりしていた。
毎年、春と秋にはアメリカ、ヨーロッパに出張させてもらっている。
谷口自身も、それが当り前だと考えていて、他の者が誰れも出掛けて居ないのに気付いて「今回は他の人に譲ってあげて下さい」などと億尾にも出さない。

出掛けていっても、もともと谷口の頭の構造はアイデアを押えるように出来上っているので、知識が増えることは、更にこれに拍車をかけることになる。増々アイデアが出なくなるにつれ、社長は期待を募らせる。
この期待と自分のアイデアの出ないこととの板鋏みになり、谷口は焦りに焦った。このことが、谷口の病気の引き金になったのであろう。

彼は、彼自身の生活態度に自然に備わっているもの、そのままをやるだけと考えて、あまり考えないことにした。むしろ、考えてみても、どうにもならないという気持になった。
彼自身の人生を如何に大切に生きるかということが重要であり、悔のない人生を送る。会社での人生も家庭での人生も同様であると考えたのである。(第6章おわり) 第7章へ

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