彼は、この情報を最大限に使ってやろうと考えたのである。 手始めは、人質部長の谷口に 「今度、社長が変るの知っています」 「いや、知らない」 谷口は怪訝な顔をしながら、しかも、その顔には自分を可愛がってくれた社長が変るということを聞いたためか、一瞬、不安の色が過ぎった。
「そう、社長本人も、自分が変るのだとそう云ってますよ。しかし、誰になるかは勿論、云っていないが。」 「誰れになるか教えてあげましょうか。この際、色々と御世話になっていることだし」 「知りたいですか」 「知りたい」と返事が戻ってきた。 「では他に、絶対に云わないということなら話してもよい」と彼が云うと、「絶対に云わない」という。「特に専務には云わない方がよいですよ。どこから情報が入ったか、詮索すると、かえって気の毒だし、迷惑になるから」谷口も、これには同感であると見えて頷いた。
彼は、出所は云わずに、メーカの担当者から聞いた名前を教えてやった。すると谷口から、質問が返ってきた。 「うちの専務とその後任の社長とは、親しい関係があるのかなあ」と云ってきた。 「それは知らない」彼は話を続けた。 「今の社長とうちの専務は、親分、子分の関係で、非常に親しいから、よかったがこんどはどうかなあ」
谷口は、その日の帰り、自分の車に彼を乗せ、近くの駅まで送ってくれた。 それ以来というもの、谷口は彼を、一目も二目も置くようになったのである。こんな事があってから、谷口は彼に、この話を更に聞き出そうとはしなかった。彼の作戦は図に当ったかに見えたのである。(第12章終わり) 第13章へ
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