その4


 フィンランディアの聴き比べをしてみよう。

コンサート 会場 指揮 冒頭時間 最終部
1969 第30回定演 観光会館 山下成太郎  −
1975 第2回サマコン 観光会館 河原啓一  51秒 1分14秒
1980 第5回サマコン 厚生年金 斉藤忠直  52秒 1分11秒
1985 第10回サマコン 厚生年金 松浦正純  1分6秒 1分14秒
1991 第16回サマコン 観光会館 尾崎祐司 58秒 1分10秒
1996 第21回サマコン 観光会館 池田宗介 51秒 1分 5秒



  4番目の演奏は、1991年第16回サマコンの演奏である。指揮は、尾崎祐司氏。この演奏会は、「マラ5」の第40回記念定期を終え、再び団員数のピークを迎えた時期。
 160名を越える団員を抱えて、オケ運営システムは成熟し、全盛を謳歌した時代だったろう。この時代は、実演を聴いていないので、録音でしかものが言えないのだが・・。
 この時代の生の証言(えぴそーど)がほとんど寄せられていないのだが、10年も経ったことだ、ぜひ、投稿を期待したい。

 冒頭部は、そんな時代を反映してだろう、観光会館の豊かな響きもあり、余裕しゃくしゃくの演奏だ。音も無理なく安定して出ている、音程も合っているし、これといって欠点もないのだが、今ひとつ決め手に欠けるか・・。贅沢かも知れない。1975年のがむしゃらな演奏とは、余裕も違うが、切実さも違うのだ。

 後半も、コントロールされた「大人」の?演奏。弦楽器の音圧が十分なので、オーケストラとしてバランスが取れている。アッチェレランドの後で、6.5拍を伸ばす部分でも、背後の弦楽器の動きがちゃんと聴こえる!のはこの演奏だけだ。その後、連続シンコペでも、金管コラールffの背後で弦楽器がちゃんと鳴っているので、音楽の構造も透けて見える。
 安定感・安心感はあるが、スリルは少ない。エンディングコードに「ため」がないのは、ちょっとものたりない。ともかく安定感では、随一の演奏だろう。

     第16回サマコンフィンランディア
 




 最後のフィンランディアは、さらに5年後、1996年の第21回サマコンだ。指揮は、池田宗介氏。
 この時、既に金大フィルはお城から退出し、角間へと移転を完了していた。文字通り、新時代の演奏だ。団員数がどういうわけか減っていった時期で、観光会館のステージ上の人数も少なかったように覚えている。自分にとっては、この演奏は、マーラーの5番以来、6年ぶりに聴いた金大フィルの実演だった。

  CD解説によれば、この演奏では1st、2ndヴァイオリンがそれぞれ、3.5プルト、3プルトしかいなかった。この5年前の1991年のフィンランディアでは、6プルトは軽く越えていたはずだから、かなり小振りの編成だった。この辺の苦労は、コンマスの唐木氏のエピソードにある。

 編成の小ささのため、迫力不足はしょうがないだろう。しかし、逆に、細かい弦の動きなどが意外にはっきりと聴き取れる。
 冒頭、金管は無理なく響きがまとめられている。個々の楽器では、発音自体が不安定な部分もあるが、全体でカバーしている。鳴りきったという快感はないが、これでよいだろう。

 
 後半、弦の編成が小さい分を、現場的な工夫でうまくカバーしている。シンコペのアッチェレランドの部分でも、金管をうまく抑えて、弦のシグナルが聴こえてくる。最終部のコラールはテンポが相当速い(今回の5つの演奏中、1分5秒で最速!)が、エンディング向けて、音楽の呼吸が自然なので、鳴りが不足気味でも、不満足感はない。お客さんの自然な拍手が証明している。

     第21回サマコンフィンランディア



                         

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