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2001.06.30.

ヨーロッパ・コーヒー事情
 

  久しぶりに行ったバルセロナは、随分にぎやかだった。5年ぶり、ぐらいなのだけれど、5年前はオリンピックには間に合わなかった街の整備が全部終わって、無味乾燥なほど、街はきれいだった。ちょっとおもしろくなくなったかなあ、という印象だったのだが、今回は、いくらか元に戻っていた。5年前は随分と勤勉に見えた人々は怠惰になり、食べ物が少し、まずくなっていた。

 一番変わったと思ったのは、カフェ・コン・レチェの味だ。ただのミルクコーヒーなのだけれど、カフェ・オ・レともカプチーノとも微妙に違って、牛乳の自然な甘さがとてもおいしかったのだ。そもそも紅茶党だった私や、コーヒーは全く飲めなかった妹がコーヒー中毒になったのも、このカフェ・コン・レチェが原因だった。
(アメリカのテレビドラマでも、コーヒーを飲めなかったお嬢さんが、スペイン旅行の後コーヒー党になってしまい、家族を驚かすシーンがあった。「だってカフェ・コン・レチェがおいしかったんだもの!」)

 ところが、日本を席巻しているカプチーノ・ブームは、ヨーロッパでも起こっているらしく、コン・レチェの味もほとんどカプチーノと変わらなくなっている。もっと顕著なのはロンドンで、こちらは10年ほど行っていなかったのだけれど、以前は影も形もなかった(と思う)カプチーノが、すべての場所にある。飲み慣れた味で特別おいしいわけでもないのだが、私はイギリスで結局、一杯も紅茶を飲まなかった。さすがにバルセロナでは見かけなかったが、ロンドンにはスターバックスも沢山あった。

  ほんとにおいしいコン・レチェが飲めたのはビルバオだけで、ここにはまだ、カプチーノの波は押し寄せてはいないようだった。観光客は多かったが街全体は落ち着いていて、人も優しく、居心地がよかった。

 今回意外な発見だったのが、テ・コン・メンタというミントティで、バルセロナのカテドラル近くにあるフェデリック・マレ美術館のカフェのそれは、素晴らしくおいしかった。オレンジやレモンの輪切りと、生ミントの葉が沢山入っている少し甘い紅茶なのだが、異常気象の暑さの中で、その爽やかさには本当に救われた。夕暮れ、そのカフェでは、その場にいる全員がテ・コン・メンタを飲んでいた。ストレート・ティは飲んだことがないが、バルセロナは案外、紅茶もおいしい街なのかも知れない。

(c) 2001 Shirokuma Seshiro, Hebon-shiki