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2000.02.03

私の好きな曲2
 

  パフィでぼろ儲けしている奥田民生さんの作る詩は、一見奇抜でその派手さばかりが目立つのだけれど、自分の欲望とか好きなものへの態度がはっきりしているところがとてもいいと思う。例えば一つの恋愛についてでも、なぜそうなのか、どういうことなのか、何が問題なのかといった疑問や不安を考えに考えて、最後にたどり着く〈君をこの手で抱きしめたい〉というとてもシンプルで素直な思いが描かれる。

  「すばらしい日々」は、すれ違い別れてしまった恋人たちの歌で、〈すばらしい日々だ  力あふれ  すべてを捨てて僕は生きてる〉という歌詞は民生流の皮肉にも聞こえるのだけれど、むしろ、嘲笑や捨て鉢や悲しさを通り越した後の、静かさを感じる。それは、いろんな感情が乗り越えられた後に残る、もう既に自分でも対象化したり把握したりすることのできない《思いの核》のようなもので、その存在に気づいてしまった以上は、ただ超然と繰り返し確認するしかないという、とても悲しいがやはり、素晴らしい日々なのだ。多くの場合、「忘れられない」とか「やっぱり愛している」といった安っぽい台詞にすり替えられてしまうこうした思いを、彼は〈君は僕を忘れるから  そうすればもう  すぐに君に会いにゆける〉という美しい表現で歌う。ユニコーン時代の彼自身による演奏も淡々としていてなかなかだけど、やはり矢野顕子さんがカバーしたものが秀逸です。

  〈そういうことにしておけばいい感じ〉というパフィの厭世的な歌が、新聞コラムの話題になって、大学教授や作家が非難反論を書いていたけれど、彼らは、一方で彼がこうした詩を書いていることを知らないのだろうなあ。と思うと、確信犯の笑みを浮かべて悠々と釣りをする民生の姿が彷彿としてしまう。才能ある人にはかないません。


 

●ユニコーン 「すばらしい日々」
1993年4月に、ユニコーンの最後のシングルとして発売された。同5月発売のアルバム『SPRINGMAN』にも収録。

●矢野顕子 「すばらしい日々」
1994年発売のアルバム『エレファント・ホテル』に収録。シングルとしても、発売された。

(c) 2000 Shirokuma Seshiro, Hebon-shiki