2000.05.30. |
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のテーマ曲のように使われていたコンパイ・セグンドの「チャンチャン」の、一番いい演奏、というのをラジオで聴いて、久しぶりに全身に鳥肌が立つ。芸術という分野には時々完璧とか普遍といっていいものがあって、単純な旋律の繰り返しなのに、ギターの音とか合いの手の声とかの要素の組み合わせが、それらの集合体を遙かに越えた何かになってしまう。
いわゆるラテン音楽を聴き始めてから、もう7、8年になるが、私の情報源は映画か、NHK-FMで竹村淳さんが担当している〈ポップスグラフティ〉だ。いろんなラテンをエアチェックするのだけれど、一言でラテンといってもロックやジャズと同じくらい多種多様なので、自然と〈意識的に聞かない分野〉というのが出てくる。レゲエ、スチールドラムは最初から聞かない。そしてキューバも、どちらかというと聞かない範囲に入れられていた。別に嫌いとかではなくて、キリがないから聞かないようにしている、ということだ。なのに、この「チャンチャン」。
映画の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で演奏される音楽は、コンパイ・セグンドのアルバムに比べればシャープさに欠けるように思うけど、実際に演奏している人たちを見ながら聞くというのはまた違う楽しさがあるので気にならない。映画はきわめてシンプルで、時々うとうとする。ゆっくりと横移動するハバナの街は特別綺麗なわけではないのだが、独特の美しさがある。ただ老演奏家たちを映すに徹した映像は、最後に少しだけ、メッセージを持つ。社会主義国のキューバとビルの建ち並ぶニューヨーク、どっちを選ぶ?それは西と東のドイツ、どっちを選ぶ?という監督自身への問いとも重なる。 勿論キューバの彼らはキューバの旗を掲げる。こうした映画が流行る時にはありがちだが、「忘れられた人たち」とか再発見とかいうような言われ方がパンフレットには多く見られる。中には靴磨きをしていて、これをきっかけに歌うことができた、というような人もいるけれど、基本的に彼らには、そんなことはどうでもいいことのような気がする。街で無駄話をしている時は生き生きしてるのに、ステージに立つとなんとなく居心地悪そうな「なんでこんなに受けてるの?」といった面もちの人もいる。93歳のコンパイ・セグンドなど、全くもって動じていない。単にアメリカの商業ベースにのっていない(ので日本の私たちは知らなかった)というだけで、どっちにしろ彼らはキューバで音楽と共に生きている。 でもこの映画には私が再発見しました的なお節介な空気は見られない。だから、ちょっと、うとうとして、とても気持ちいい。 「チャンチャン」のような曲を聞いていると、これで私は一生ひとりで生きていける、という気分になるから不思議だ。背筋が伸びて、凛とした気分になる。
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●ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ 監督/ヴィム・ヴェンダース 製作/ライ・クーダー 1999年ドイツ・アメリカ・フランス・キューバ ヴィスタ/カラー/105分 配給/日活 ●竹村淳さんが「チャンチャンではこれが最高」という演奏が入っているのは「COMPAY
SEGUNDO:ANTOLOGIA」。 |
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