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2004.10.01.

変身
 

   予告編を見て、『ベアーズ・キス』を見に行くのは決めていたのだけれど、いざ、という時になって少し悩んでしまう。私は動物が出てくる映画が極めて苦手である。人間になった熊と少女の、民話を元にしたラブストーリーだというが、大抵そういうものは悲劇で終わる。しかし、情報誌を見ても、悲劇的結末、とは書いてない。クマかあ、微妙なところだ。これが、犬とか豚だと絶対やめるのだけど、まあ、クマだから、と、とりあえず出かける。

   ストーリーは簡単だ。サーカスでヨーロッパを旅する少女が子熊を飼い始める。旅暮らしの孤独を子熊で埋める少女。少女を信頼するクマ。でも、クマであるので、かわいいのはほんの一瞬、すぐに巨大になってしまうのだけど、二人の愛情は続く。成長するにつれ、クマは毛深い若者に変身し、二人の愛情は更に深まる。スペインでは、ジプシーの手相見に、クマであることを見破られが「もうすぐ永遠に人間になるよ」 などと言われて喜ぶ少女。しかし、乱暴されそうになった彼女を救うため、人を殺してしまったクマは、もう人間にはなれない…。

   と、ここまで来ると、悲劇的なラストが見えてくる。人を殺したクマとして銃殺されるか、クマが生まれたロシアの森で永遠の別れをするか。逃亡する二人。ところが映画は、あっけなくハッピーエンドで終わる。それがあまりにも痛快で、さりげないので、私は思わず拍手をしたくなったほどだ。

  どうにもならない袋小路に入り込んだ時、どう考えてもうまくいかない時、これ以上一歩も進むことができない時。勇気を出して、自分が変わってしまえばいいのである。それは、人の常識で言えば撤退であったり、退化であるかもしれないけれど。

   何のことはない小品だが、『コーカサスの虜』でどうにもならない民族紛争を描いた監督の、柔らかいメッセージを感じてここちよい。


●ベアーズ・キス

監督・製作・脚本:セルゲイ・ボドロフ
脚本:テレンス・マリック

2002年/カナダ/98分/ビスタサイズ/SRD
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Gシネマグループ

(c) 2000 Shirokuma Seshiro, Hebon-shiki