序章 これは ひどい

 何となく家を出てふらっとしていると、港の方から「これはひどい」という声が聞こえた。どうやら何かあったようだ。何となくいやな予感がしたので、次の行動を決めかねていると,友人のトレビールがあわてて僕に駆け寄ってきた。

「はあっ はあっ
リオン大変だぞ お前の父さんの船が・・・
とにかくついてきてみろよ」

 ・・・どうやら悪い予感は当たったようだ。確認のため港にいってみると、見事に壊れた父ファルの船が無惨な姿をさらしていた。僕はトレビールのいうがままにこの事実を母に知らせ、ついで女王に呼び出されたので仕方なく王宮に向かった。

 王宮に向かうと、女王はすでにこのことを知っていたらしく、僕がつくと猛然と話し出した。

「急に呼び出してごめんなさいあなたに伝えなければならない大事な話があるのですあなたの一族は代々モンスターを倒すことができる特殊な能力を持っていると聞きましたどこからか現れたモンスターがこのバルセロナのすぐ近くにまで迫りつつあるのです最近の異常なモンスターの進出はどこかにその根源があるはずです本来ならばあなたの父であるファルに頼むのですがそのファルは未だ行方不明のまま消息さえもわかりませんそこで彼に代わりあなたにその根源の壊滅に努めてほしいのですまだあなたは肉体的にも精神的にも不十分な所はたくさんあると思うのですがあなたの一族が持つ特殊な力を信じてこの任務に努めてほしいのですもちろん航海に必要な用意は全て港に整えておきました資金についても5万G用意しておきましょうこの町を救うためそしてファルを探し出すためにも頼みましたよ」

 僕が呆然と聞いている間に女王はこう決めつけると、僕に反論をする暇さえ与えずすぐに追い出した。どうやら、僕はモンスターを倒さなくてはならないらしい。それも一人で。
 呆然としたまま王宮をでてくると、トレビールがなにやら一人で盛り上がっていた。
「俺はファルおじさんのボロボロの難破船を見た時から、旅にでる覚悟はできている」
 のだそうだ。こいつも僕の意見など聞きもしない。結局、明日港で集合ということになってしまった。

 仕方がないので、僕は今後の計画を立てることにした。しかし、考えれば考えるほどひどい話である。まず、女王のくれたお金は5万Gだが、これだけでは二人分の装備を調えることさえできない。この町で売っている剣、鎧、盾は全て買うと26000Gだ。さらにこのお金から航海に必要な物資、戦いにつれていく傭兵、薬草などもそろえねばならない。とてもじゃないがこのくらいのお金では足らない。いったい女王はなにを考えているのだ。
 文句を言いに行こうかとも思ったが、どうせあの王女のことだ。取り合ってはくれないだろう。全く人をなんだと思っているのだろうか。

 出発する前からいやになっていた僕だが、それでもなんとか気力を振り絞ってトレビールと合流し、女王からもらった僕たちの船を見に行った。以前に比べれば幾分その数を減じたとはいえ、それでも多くの船がバルセロナの港にはある。ケッチ級やラティーン級の比較的大きな船もなる中、近くにいた兵士に僕たちの船はどれかと聞いたところ、なんと一番小さいカッター級の船に案内された。
 トレビールはのんきに喜んでいるが、僕はますますやる気がなくなった。ろくに装備も調えられないお金、海賊船ににあったらあっという間に沈められてしまうであろう小さな船、そして頭の悪いトレビール。これらを抱えて、いったいどうやったらモンスターの根源を取り払うことができるのか。
 ともかくも傭兵を雇い、装備を最低限調え、船には「Nearco」という名前をつけた。こんな安物の船にはふさわしくないが、古代神話にでてくる天馬の名前だ。出発する以前から前途多難なこの冒険を前に、僕の頭の中には港から聞こえてきた「これはひどい」のこえが、エンドレスで回っていた。

序章 完

次回予告
 少ない予算、弱い船、馬鹿な仲間という三重苦を背負いながら出発したリオン。その前に立ちふさがるのは果たしてモンスターなのか、海賊なのか、あるいは物資不足なのか。
 次回 第一章”ぴきぴき”
 リオンの前に現れたもの、それは・・・。  
大後悔日誌目次へ
呉青原の部屋へ
Home