ピコ通信/第181号
発行日2013年9月25日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 福島県民健康管理調査結果:甲状腺がんとその疑いが43人と多発!
  2. 子ども・被災者支援法/基本方針案発表:支援法が骨抜きにされてしまう恐れ
  3. フィリップ・グランジャン博士のウェブサイト:化学物質による脳の汚染
  4. 神奈川県立保土ヶ谷高校:シックスクール事故の顛末記 X
  5. 編集後記・お知らせ


福島県民健康管理調査結果
甲状腺がんとその疑いが43人と多発!


 8月20日、福島市で開かれた第12回県民健康管理調査検討委員会で2012年度の検査結果の中間報告がされ、前回6月には12人だった甲状腺がんと確定診断された子どもの数が、今回、新たに6人増えて計18人、それ以外に25人が甲状腺がんの強い疑いと発表されました。つまり、合計して43人が甲状腺がんあるいは甲状腺がんの(強い)疑いという結果でした。

 通常は100万人に1人という発生率と言われている小児甲状腺がんが、このように高率で発生しているということは大変なことではないでしょうか。それにも関わらず、日本の大手メディアは小さく報道しただけでした(NHKは早朝4時の放映!)。しかも、内容は正確性に欠くものでした。おまけに、検査の責任者である福島県立医大の鈴木眞一教授の「原発事故との関連性は低い」というこれまで同様のコメントを紹介するという、腹立たしい報道内容でした。

■福島県民健康管理調査とは
 次の5項目について、2011年7月から実施されています。
@基本調査(問診票による被ばく線量の把握):
 ・対象:2011年3月11日時点での県内居住者
 ・方法:自記式質問表
 ・内容:3月11日以降の行動記録(被ばく線量の推計評価)
A甲状腺検査:
 ・対象:18歳以下の全県民36万人(県外避難者含む)に順次実施
 ・内容:甲状腺超音波検査−3年程度で全員の現状を把握し、その後は定期的に検査
B健康診査:
 ・避難区域等の住民および基本調査の結果、必要と認められた方。:一般検診項目+白血球分画等
 ・避難区域等以外の住民:一般検診項目
Cこころの健康度・生活習慣に関する調査:
 ・避難区域等の住民へ質問紙調査
D妊産婦に関する調査:
 ・母子健康手帳交付者へ質問紙調査

■甲状腺検査は?
<一次検査>
 甲状腺の超音波検査を実施。A1判定(結節、のう胞なし)
 ・A2判定(小さな結節、のう胞)
 ・B判定(大きめの結節等)
 ・C判定(直ちに二次検査)
 ・結節:しこり。甲状腺の一部にできる中身の詰まった塊
 ・のう胞:体液のたまった袋状のもの

<二次検査>
 一定以上の大きさの結節やのう胞等が認められた場合(B判定)や甲状腺の大きさや結節の形状から早めの検査が必要な場合(C判定)は、詳細な超音波検査、血液検査、尿検査、必要に応じて細胞診等を実施
 「県民健康管理調査概要」の「甲状腺調査の目的」では、最初に次のように書かれています。

 「放射線の影響は?福島における外部被ばく線量や甲状腺内部被ばく線量は、チェルノブイリやその周辺国と比較しても低いと分かってきており、今回の事故が原因で甲状腺に影響が出る可能性は低いと考えられます。」
 さらには、「質問『甲状腺結果の判定基準でのう胞や結節があった場合、今回の原発事故による放射線の影響が出ているということでしょうか?』 答え『以前から存在していたものが超音波検査により見つかったと考えられます。本検査では、非常に高い精度の装置を使用しており、きわめて小さいものまで認識できるようになっています』」

 つまり、最初から「放射線による影響は無い」という結論を、保護者や受検者等に植えつけようとしていると言えます。

■今回の検査結果 (下記表を参照ください)
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結果概要 【細胞診結果

(@)平成23年度(平成25年7月31日現在)
・悪性ないし悪性疑い 14例(手術10例:良性結節1例、乳頭癌9例)
・男性:女性  5例:9例
・平均年齢 17.2±2.0歳(13-20歳、震災当時 15.6±2.0歳 11-18歳)
・平均腫瘍径 4.7±6.7mm(6.0-33.0mm)
 
(A)平成24年度(平成25年7月31日現在)
・悪性ないし悪性疑い 30例(手術9例:乳頭癌9例)
・男性:女性 13例:17例
・平均年齢 16.3±3.0歳(8-21歳、震災当時 14.3±2.9歳 6-18歳)
・平均腫瘍径 15.7±8.2mm(5.2-34.1mm)

 2011年度と12年度の2年間で、甲状腺検査を受診した176,648人のうち、2次検査を受診したのが768人で、そのうち625人の検査が終了しています。その625人のうち、穿刺細胞診を実施した子どもは206人で、そのうち約20%にあたる43 人が悪性または悪性疑いと診断されました。(甲状腺がん手術を行って、良性結節との診断を受けた1人を除く)

 「甲状腺がんの疑い」というのは、通常考えられる「疑い」とは異なり、ほとんどが甲状腺がんである(擬陽性は約10%の確率)ということが分かっています。(今回の甲状腺がん疑いの25人は、25人×0.1=2.5人が良性である可能性があるという計算になります)

 新聞報道等では、"約22万人調査して、甲状腺がんまたは甲状腺がんの疑いが43人"という言い方をしていますが、これは正しくありません。
 表を見て分かるように、22万人のうち二次検査対象者は1,280人(0.6%)、そのうち実際の受診者は771人(60.2%)、さらにそのうち修了者は625人(48.8%)なのです。つまり、二次検査対象者のうち、約半分の子どもしか二次検査が終了していないということです。単純に計算すると、43人×2=86人の子どもが甲状腺がんにかかっている可能性があるということになります。
 しかも、一次検査は全検査対象者36万人の6割しか終わっていません。ということは、現時点でおそらく百人以上が既に甲状腺がんにかかっている可能性があるということになります。

 これは、とんでもない数字ではないでしょうか。それなのに、検査主体である県立医大は「原発事故が原因の可能性は低い」「チェルノブイリでも甲状腺がんは発症まで最も短くて4年かかっている」「福島では広島・長崎のような外部被ばくやチェルノブイリのような内部被ばくも起きていない」「「甲状腺がんはゆっくり大きくなるのが特徴であり、診断確定した人のがんの大きさから、2、3年以内にできたものではないと考えられる」などと、原発事故との因果関係を否定し続けています。

 2013年2月に12年度の調査結果(3人のがんと7人のがん疑い)が出た時に、疫学専門家である岡山大学の津田敏秀教授は「原発事故の話が無ければ、"原因不明の多発"です。」「空間的もしくは時間的に一定の範囲の中で3例集積すると、多発であると、昔から考えられている」と、はっきり言っています。
 そのような重大な結果を検討する有識者による検討委員会にも、まったく危機感が感じられません。わずかに今後、甲状腺検査に特化した専門部会を設置することを決めたことでお茶を濁しているという情けない状況です。

 福島医大がなんと言おうとも、福島で小児甲状腺がんが多発し、今後も増えて行くだろうということは隠しようがない事実です。ところが、安倍がIOCで「福島で健康影響は出ていないし、今後も出ない」と断言したように、国も県も御用学者も産業界も、原発推進マフィア達は、これからもどんな結果が出てもそれを隠し、あるいは別の理由をこじつけて、「健康影響はない」ということにしようとするでしょう。もしかしたら、データ改ざんもするかもしれません。

 今回の発表でも、前回第11回に発表された年齢別・性別データが間違っていたとして、遡って取り替えられるという奇妙なことが起きています。そして分かったのは、データにアクセスできるのは県立医科大・県民健康管理センターの甲状腺検査委員会の数人の人間で、チェックもされていないということでした。これでは、データの改竄など簡単にできてしまいます。

 また、心配されているのは甲状腺がんだけではありません。放射線の影響の目安になる白血球分画(注)のデータ(おとなと子ども)が、第10回の検討会でちらっと出てきたそうですが、すべて減っていたというのです(ホームページには、掲載されていない)(おしどりマコさん情報)。

(注):白血球は、5種類の球(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)からできている。その5種類の割合を調べるための検査。白血病等のリスクを見る。甲状腺がんは放射性ヨウ素の初期被ばくが一番影響が大きいようですが、セシウムは甲状腺にもっとも蓄積するというベンダジェフスキー氏の研究などから、その後のセシウム等の被ばくの影響も大きいのではないかと言われています。一刻も早く、福島の子どもたちを避難させなくてはなりません。(安間節子)


神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記 X

H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告)


 今回は、2005年8月下旬から2007年4月までの汚染事故の記録である。重大な過失がありながら、全く責任を明確にしない教育委員会の姿勢に、あらためて憤りを感じた。保土ヶ谷高校の事故は、同校学校史から消えた。

 事故以降も全国で、シックスクール事故は続発している。そのほとんどが、規制された揮発性有機溶剤の使用が抑えられ置き換えられた、健康影響の知見が不明な有機溶剤が原因である。北海道の小学校のシックスクール事故に際して、「1メチル2ピロリドン及びテキサノール」が原因物質であると突き止めたことが、2011年5月25日(水)の「あさイチ・謎のシックハウス症候群」で報道された。しかし、テキサノールなどは代用有機溶剤の一角に過ぎない。保土ヶ谷高校の改修工事に際しても、2005年10月2日の検査記録TVOC41,900μgのうち99%の物質が不明であったにも関わらず、当時の教育財務課は、原因物質を突き止めなかった。接着剤や防水剤を製造している工業関係者は、事実を知っているだろう。誰もが見て見ぬふりをしている。

 家・学校・事務所・工場などすべての建築物は合板を多用している。合板はまさに、接着剤の塊である。保土ヶ谷高校美術室の天井裏では、竣工後30年経っても相変わらずトルエンが発生していた。合板と塗料、洗剤などに含まれる有害な化学物質や原発事故の放射能に汚染された環境の中で、子どもたちは過ごさなければならない。床面すれすれの低位置に換気扇の設置を義務づけるなどの建築基準法の改正や、クラック処理の詳細な基準づくりなどをしなければ、有機溶剤汚染事故は、今後も続くであろう。残念の極みである。

 神奈川県に限れば、耐震建て替え工事の際のプレハブ校舎。職員は転勤できるが生徒は転校できない。雨漏りも続発するであろう。クラック処理の報告すら受けずに、保全協会に支払いを続けている教育委員会。防水工事をもう一度考えてほしい。いい加減な態度で、子どもたちの学習している学校は改修されているのである。

 2005年8月31日(水) 生徒の健康異常(七つの症状)が報告された。健康調査(保健体育課):生徒のシックハウス症候群1名判明。卒業生169名に健康調査アンケートを郵送=66人から回答があった。「9名から異常あり」と報告された(対象者への具体的対応は、非公開)。
 9月14日(水) 職員会議にて改修工事内容を検討した。教室再開条件:高校=VOC濃度が他の教室と同程度を要望した。教育財務課=県対策委員会の判断にゆだねる。高校要望=北棟3F・西5FのVOC測定結果+PTA視察(安心)美術室に換気扇の設置を要望した。
9月27日(火) フレック検査のVOC放散速度測定結果が本校に届く。(9月15日付け)報告内容:8月18日から23日に行われた西棟、北棟コア抜き検査、コンクリート内の残量検査。5月採取サンプルのおよそ10分の1になっている。室内側より屋上側からより多く放散した。
10月1日(土) 北棟3階、音楽室、書道室他4教室14か所のVOC検査(52品目)を実施した。
10月2日(日) 西棟5階、部活倉庫他3教室7か所のVOC検査(52品目)を実施した。
10月19日(水) 対策工事完成検査実施。

10月20日(木) 第4回県対策検討委員会。PTA対策委員が傍聴。*検査報告=TVOC(以下単位μg)音楽練習室1:2180音楽練習室2:1190、音楽室:440、美術室:383、美術室天井裏:425等、問題点多数。10月2日実施フレック検査記録=西棟5F国際理解天井裏:TVOC放散速度28400、気中濃度41900=大変な異常値。選択A教室天井裏:放散速度1910 気中濃度2860=異常値。原因揮発性有機溶剤は不明のまま、国際理解教室以外の教室使用の再開が決まった。選択A教室も再開となった。*相模原病院での診察が9月9日終了。26名中2名シックハウス症候群、経過観察2名、合計4名の生徒の健康被害が明確になった。*コア抜き検査の結果、コンクリートスラブの室内側には有機溶剤が残っているが対策なし。*芸術科が調査を要請していたTDI(トルエンジイソシアネート)とDOP(フタル酸ジオクチル=DEHP)のチャンバー試験は行わないことになった。

◆校内職員対策委員会 *音楽練習室=キシレン濃度が 西棟と比較し高い数値。改修工事後の方が高い。TVOC検査結果 音楽練習室1、音楽練習室2は非常に高い。厚生省の暫定目標値400をはるかに越えている。
10月22日(土) 保護者見学会を実施。教室内で不快を感じた保護者がいた。
  10月28日(金) 北棟4教室14箇所のVOC検査(52品目)
11月14日(月) 西棟2階から4階の教室使用を再開した。
11月15日(火) 家庭科教室に「空気清浄機」を設置した(被服室3台、調理室2台、家庭科準備室1台)。
11月22日(火) 換気扇設置(被服室3台)。
11月29日(火) 原告、メンタルクリニック受診。自律神経失調症の診断を受けた。現在も、通院中。
12月3日(土) 第4回保護者説明会。県対策検討委員長が安全宣言。室内環境調査の結果概要、使用中止エリアの説明。

*芸術科からのメッセージを配布(工事責任。健康被害。なぜ事故が発生したのか。検査の実施が遅れた。危険物質の情報を報告しなかった。危険箇所の情報を報告しなかった。改修工事中の危険性。汚染原因物質の危険性)

12月16日(木) 物品移動(教室復元):音楽室、音楽準備室、書道室。
12月17日(土) PTA対策委員会委員長より保護者にプリントが配布された。内容:開催予定の改修工事教室見学会への参加の要請。「11月26日の教室見学会において十分な換気を行っていながら、保護者から臭いがあるとの意見が出され、すべての保護者が納得できるものではない」
2006年1月6日(金) VOC検査(52品目・ストーブ非燃焼)TVOC結果: 音楽室他4教室<50、家庭科準備室<267、  3年6組<421。南向きで気温が上がると、TVOC濃度が高濃度になる可能性。
1月13日(金) VOC検査(52品目・ストーブ燃焼)TVOC結果:音楽室準備室<389、書道室<137、音楽室個別練習室1<539、音楽室個別練習室2<545、音楽室<487、3年6組<245. 
2月23日(木) PTA対策委員会開催: 委員会解散を決定。
2月27日(月) 新三年に健康診断実施の案内配布。
3月 神奈川県が県立学校における室内化学物質対策マニュアルを発行。
3月3日金) 有機溶剤に関する健康診断の申し込み締め切り:申込者16名
3月10日(金)、14日(火) 申込者16名、相模原病院で受診。
3月17日(金) 職員会議にて「教室再開に向けて」を議論。改修施工した教室の再開について検討。生徒の健康診断=新1年、2年。改修施工教室の使用再開後に実施。*3月16日の合格者説明会では、有機溶剤汚染事故について触れられなかった。
3月17日(金)、18日(土) 換気扇を設置:家庭科準備室1台、図書室2台、美術室2台、美術準備室1台。
3月22日(水) 第5回県対策検討委員会開催。音楽・書道担当、PTA対策委員傍聴。
4月20日(木) 職員会議にて管理職Fが、音楽室等の教室再開の考え方を示した。
4月28日(金) 中央棟3階仮音楽室にて、ミュージックベル(注 以下ハンドベルと表示)1セットを1、2時間目の授業で使用した。
注:ハンドベル。学校で使われるものは"ミュージックベル"と言われる。20〜30音のセット。
5月9日(火) VOC検査(52品目):北棟3F、西棟5Fなど合計11箇所で実施。
5月11日(木) 音楽科担当者が、ハンドベル4セットを、音楽準備室に移動した。

5月26日(金) 音楽科担当者が音楽準備室にて、ハンドベルの柄の下に茶色の液体のあるのを発見。音楽準備室に移動して、15日しか経過していない。液体は直径5ミリ、円形で中央が盛り上がっていた。結露とも考えたが、茶色で粘性は低いが水ではなかった。80本調査し、同様に液体のあるものが2本。柄の下部に液体が付着したものを2本発見。翌日も発見し、合計19本。ティッシュを紙縒りにしてつけたが、茶色になった。27日、29日もついた。複数の職員が確認。

5月27日(土) 保護者教室見学会:環境測定等の結果報告、該当教室の見学。
*音楽担当者が管理職Eに「音楽準備室のハンドベルの柄が溶けている件について」報告書を提出:音楽準備室の臭気は、化学物質の臭いである。なぜ合成樹脂の柄が溶けたかを解明すること。準備室の使用、楽器等の使用の中止を要望した。

*PTA運営委員会:管理職F=教室見学会後、教室使用を再開する。異臭があれば、退避する。簡易検査は薬剤師が行う。健康調査票を作成する。保護者=音楽室に空気清浄機をつけてほしい。十分な換気も必要。3年生にシックハウス症候群の生徒がいる。音楽室・個別練習室では、頭が重くなる。息苦しい。病気の1名を忘れてほしくない。夏の検査が出てから再開してほしい。管理職F=北棟3階の教室は使用再開する。TVOCが高かったが、ストーブ燃焼時の石油の影響ではないか? 教育委員会は、2005年12月に安全宣言を出している。病気の生徒は、個別対応したい。音楽室の換気は励行したい。3月22日に県対策検討委員会は解散した。報告書とマニュアルが出た。保護者=合唱部が音楽室を使用するのが心配だ。管理職F=音楽室は3年6組よりVOCが低い。音楽担当者=毒になる物質がないといえるのか。管理職F=自信を持って安全であるといえる。保護者=卒業生の健康も心配だ。*管理職は、ハンドベルの液だれ現場を確認。

5月29日(月) 放課後、6月16日の音楽室再開について、再度職員打合せを行った。職員意見=夏の気温上昇時の検査をしてからでもよい。関係教科、部活と話合いがないまま、日程が決まった。ハンドベルの"液だれ"は準備室に移動して起こった現象なので、準備室との因果関係を明確にしてほしい。換気をし、検査の数値が低いのに臭気がある。再開は見送るべき。管理職F=すでに安全な数値が出ている。再開を遅らせる理由はない。ハンドベルの柄については、県に写真を報告し、検査してもらう。再開の日程は十分にとってある。製造元に問い合わせる。

5月30日(火) 製造元担当者、教育財務課職員、来校し、音楽準備室にてハンドベルを確認。製造元担当者=「柄が溶け出す報告を受けたことはない。自然な状態でそのようなことはない。」「これまできいたことも見たこともない。柄が色落ちしているのがおかしい。会社に持ちかえりたい。」(「危険ですね」とも発言)。管理職G同席。財務課3名と管理職と7名で音楽室を確認。*書道室、音楽室の換気扇 排気口、吸気口をチェック。「換気扇下の液だれ(注)は、外から吹き込んだ汚れが落ちたもの」と発言。化学担当教諭来室。「部屋と廊下に臭気あり。窓辺で特に臭気が強い。薬品庫の臭い。楽器の柄は明らかに溶けている。」と専門家として意見を述べた。
注:音楽室個人練習室に設置した排気装置の室内側吸気口に茶色の液だれが付き、金属部分が腐蝕していた。

5月31日(水) 合唱部保護者音楽準備室に来室。ハンドベルの柄を確認し、現場の状況を確認。「教室再開に際しては生徒の健康状態を配慮してほしい。」との要望があった。
6月2日(金) 昨年の2005年6月24日(金)の改修工事打ち合わせで「音楽準備室天井裏排気口、屋上までダクト立上げ」と記載されているのを確認した。なぜ、確約を無視した工事を設計・施工したのか大きな疑問だ。
6月5日(月) 合唱部保護者より電話。「合唱部員の気持ちを聞きたい」と。放課後、保護者と部員が話す。生徒の意見=あの部屋で練習するのなら退部する。絶対に安全でなければ嫌。少しの刺激でも、入りたくない。
製造元来校。液だれのあった1セットを搬出した。何に溶けるのかを検査するとのこと。
6月12日(月) 財務課来校し、ハンドベルを調査。
6月16日(金) 化学工業の専門家の意見を聞いた。「(ハンドベルの写真を見て)空気中の有機溶媒でこのような症状が発生するとは、驚きだ。常識的には、相当の高濃度に暴露された結果と想像される。」
6月29日(木) 管理職Gが、台に付いていたハンドベルの液だれを拭きとってしまった。検体を持ち帰った検査機関の人は、「貴重な証拠なので保全するように」と注意していた。証拠隠滅の疑いを感じた。生徒の学習環境の安全性確認の重要な検証材料を失った。
7月4日(火) ハンドベル部材(柄部分)の調査結果を製造元が出した。「ABS樹脂は耐薬品侵漬試験(トルエン)で7日間でも膨潤するのみで、空気中放散では、溶解はしない。」(原告検証=ABS樹脂は、特性としてトルエンでは膨潤するのみで、溶解しないことが、わかっていた。後に、2009年5月の実験で、酢酸エチルによってABS樹脂は完全に溶解した。)
7月6日(木) 管理職Gが拭き取った部分の拡大写真を撮影。ハンカチで拭き取ったとは思えない緻密な作業に見えた。
7月7日(金) 音楽準備室内のハンドベル液だれを撮影。5月26日から43日経過、まだ液だれは消えない。
7月10日(月) 保護者に西棟5階教室の再開についてのプリントを配布。液だれ情報の記載なし。
7月11日(火) 原告が調査のため、音楽準備室内に発泡スチロールをぶら下げたガムテープの溶解した拡大写真撮影。布製のガムテープの糊部分(あるいは接着剤)は8日間で、どろどろに溶けてしまった。この状態を見ても、有機溶剤は存在しないといえるのか。
8月2日(水) ダイヤ分析センターVOC検査実施。
9月4日(月) 合唱部保護者と保土ヶ谷高校管理職との音楽室再開についての会議があった。保護者=2学期から音楽室再開と管理職Fから保護者に話があり、説明を求めたい。保護者の希望は、気温の低くなる11月ころからの再開である。神奈川県の対応は、あまりに強行的だ。TVOCが高い。管理職F=ハンドベルは温度と湿度の関係で、水滴が付着しただけだ。
9月11日(月)、12日(火) 音楽準備室の換気用のダクトの屋上への立上げ工事がおこなわれた。教育財務課の説明では、立上げ工事は困難とのことであったが、簡単に工事は終了した。2005年12月に「県によって出された安全宣言」には、大きな問題があり、これを認めた知事の責任も重大である。
9月14日(木) 美術担当原告、北里研究所病院にて、診察の結果、シックビルディング症候群(化学物質過敏症)の診断を受けた。
9月15日(金) 管理職Fにシックビルディング症候群(化学物質過敏症)の診断を受けた旨の報告をすると、「何で今頃受診をしたんだ。」との発言。汚染事故を通じ、最も人間性の欠如した発言として記憶した。謝罪なし。
10月20日(金) 生徒7名が音楽室・書道室・視聴覚室を見学した。複数の生徒が臭気を自覚し、図面に臭気の程度にあわせて濃さを明記した。合唱部1年2年も気分が悪くなった。
10月25日(水) 音楽室・書道室・音楽準備室・視聴覚室の検知管によるVOC検査を実施。TVOCの検査はしていない。使用有機溶剤のごく一部しか検査していない。有機溶剤汚染事故は、この検知管による検査で幕が下ろされた。
2007年3月24日(土) 神奈川県は、健康被害を受けた生徒と個別交渉し、「神奈川県は、卒業後、10年間、健康保障をする。」との確約をした。他の生徒の健康被害は、闇のなかに消し去られた。
4月1日(日) 原告は、「シックビルディング症候群(化学物質過敏症)」発症を理由に転勤した。転勤先の美術室・美術準備室に油絵具の臭気が残っており、換気に特に気を使った。
(つづく)


化学物質問題市民研究会
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