ピコ通信/第179号
発行日2013年7月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 福島原発事故被害者への支援 子ども・被災者支援法が1年たな晒し 今すぐ実施せよ!
  2. 緊急・集団避難プロジェクト(仮称)6.9キックオフ会議 市民の手で、今すぐ子どもたちを避難させよう
  3. 2013年4月28日−5月10日 バーゼル、ロッテルダム、ストックホルム条約 締約国会議及び拡大合同締約国会議 概要(2) 拡大及びバーゼル締約国会議
  4. 神奈川県立保土ヶ谷高校 シックスクール事故の顛末記 W
  5. 編集後記


福島原発事故被害者への支援
子ども・被災者支援法が1年たな晒し
今すぐ実施せよ!


 福島原発事故から2年4ヶ月余り経ちましたが、事故そのものも収束からはほど遠く、メルトダウンした核燃料がどこにあるかさえ分からず、夜間、敷地から大量に出る白い煙(あるいは湯気)がTBSカメラに時々捉えられているという状況です。その上、原発事故被災者の方々に対しては、ほとんど支援がなされていません。それどころか、国は不十分な除染を一度行ったきりで、まだ高い線量の土地へ住民を帰そうとしています。
 例えば、7月に行われた、避難指示解除準備区域になっている福島県田村市での避難指示解除に向けての説明会で、除染目標の1ミリに達していないので再除染を求める住民に対して国は「希望者には新型の線量計を渡すので自分で判断してほしい」と述べ、帰還して自己管理しながら生活していくことを提案したということです(東京新聞7月11日付け)。
 "住民切り捨て"の酷い現状ですが、昨年6月に成立した「原発事故子ども・被災者支援法」があるのです。この法律が実施されれば、このような事態にはならないはずなのに、そうなっていません。一体、何が起きているのでしょうか。

■法律の概要
 福島の子どもたちを守る法律家ネットワークによる法律概要図を参照ください・

 法律成立1周年の6月21日に開催された「【記者会見&集会】子ども・被災者支援法成立から1年 〜支援実施を求める原発事故被災者の声」(主催:原発事故子ども被災者支援法市民会議)での、福田健治弁護士(福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク)の本法律についての説明・現状についての話と、当日発表された声明を紹介します。

■福田健治弁護士の話

 子ども・被災者支援法は、ちょうど1年前に成立した法律。議員立法によって、衆議院、参議院全会一致で成立した。この法律は、福島原発事故による被災者・被害者に支援の手を差し伸べようという画期的な法律である。避難区域が年間20ミリシーベルト以上で区切られている中、支援法ではその基準よりも低い線量の地域についても支援を行うことをうたっている。

 もう一つ画期的なのは、汚染地域での居住を継続するのか、避難を選ぶのか、避難後の帰還を選ぶのかについても自らの意志で決定できるよう必要な支援を行うとしている。まさに、避難を権利として確立していこうという理念が盛り込まれている。この法律がきちんと実施されることで、避難者、そして居住地に残っている方の状況が少しでも解決できるのではないかと期待が寄せられた。しかし、1年が経って目に見える成果はほとんどない。

 この法律では政府が基本方針を定めて、その中で支援の対象となる避難区域外の区域、具体的な支援策を定めることになっている。また、生活支援策だけではなく、健康・医療の点についても、子どもの健康診断については政府が責任をもってやる、医療費の減免のための必要な措置を政府が取ることが書かれている。

 しかし、基本方針は未だに作成されていない。法律の中では、支援対象地域を1年ごとに見直すことが書かれている。それにも関わらず、既に1年間にわたって支援対象地域が決められていない。これは、法律が政府に対して行えと言った仕事を、政府が無視をしているということで、違法であると考えている。

 政府は、3月15日に被災者支援施策パッケージというものを発表した。これは支援法の基本政策によるものではなく、既存政策の寄せ集めである。復興大臣は「現在必要な施策はすべて盛り込んだ」と記者会見で言っている。しかし、例えば被災者にとっての住宅支援一つとっても、実は何の進展もない。避難者は、これまで災害救助法に基づく民間借上げ住宅の支援を受けてきたが、新規適用が昨年の12月で打ち切られてしまった。新たに避難をしたいと考えている被災者は、住宅に関して支援を受けるのはきわめて困難となってしまった。

 現在、復興庁は、年間20ミリシーベルトよりは低い支援対象地域を決めるための基準線量を自分たちでは決められないと言って、原子力規制庁に専門的・技術的知見を依頼している状況である。それが出て来ないと基本方針を決められないと言っている。

 この法律は基本方針を決めるに当たって、被災者の意見を聞くように、基本方針あるいは実施の過程を透明化するための必要な措置を取るように定めている。しかし、政府は未だに基本方針のパブリックコメントを行っていないし、公聴会も開いていない。被災者の意見を聞くための何の措置も講じていない。復興庁のウェブサイトを開いても、管轄する法律としてすらこの法律は載ってもいない。

 このような状況の中、復興庁の担当者がツイッターで支援団体やこの法律の立法に携わった議員を愚弄するような書き込みをしていた(注)ということが発覚した。まさにこれは、復興庁の姿勢が表れているのだろうと考えている。政府は、直ちに被災者の意見反映のために公聴会等を開催し、速やかに基本方針を策定するべきだ。

(注)水野靖久復興庁参事官が、今年3月に被災者を支援する市民団体が開いた集会に参加した後、「左翼のクソどもから、ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席」「感じるのは相手の知性の欠如に対する哀れみのみ」などと書き込んだ。また複数の国会議員に対し、「某大臣の虚言癖に頭がクラクラ」「ドラえもんの通告が遅い」などと書き込みをしていた(東京新聞6月13日付け)


2013年6月21日
政府による1年間にわたる不作為に抗議し、
原発事故子ども・被災者支援法に基づく基本方針の速やかな策定を求める声明
原発事故子ども被災者支援法市民会議

 原発事故子ども・被災者支援法の成立から、本日で1年になりました。
 支援法は、福島第一原発事故後、広範な放射能汚染が続く中、被災者自身が避難するか居住を継続するか選択できるよう必要な支援を行うことを定めています。放射線の影響を懸念する被災者は、支援法に基づく支援策が充実することで、被ばくを避ける権利が確立される一助になると期待しました。
 しかし、成立から1年を経たにもかかわらず、支援法に基づく基本方針はいまだに策定されていません。私たちは、日本の国内法令や国際的な勧告に基づき、少なくとも追加被ばく線量1mSv以上の区域を支援対象区域とすること、被災当事者や支援者との常設の協議機関を設けることなどを要請し続けてきましたが、いまだに回答はなく、すべてが曖昧なままにされています。
 区域外避難者への施策も、高速道路無料化措置が復活した以外には、何も進展がありません。福島県外の被災者への健康診断の実施や、子ども・妊婦の医療費の減免措置も実現していません。保養・移動教室のための予算はごくわずかにとどまります。
 そしてなによりも、政府は、被災者からの意見を集約し反映させるための措置を何ら採っていません。これは、明らかに支援法の規定に反するものです。
 民間借り上げ住宅の新規適用は打ち切られ、新規避難は極めて困難になりました。乏しい支援の中、避難者の経済的・精神的苦境はより深まっています。いまだ汚染地域に住む被災者は、被ばく回避や保養、そして県外に避難した家族とのつながりを維持するための往復など、多くの出費を強いられています。また民間の善意からなる全国的な避難者支援・保養プログラム支援の取り組みも、資金面や人材面での苦境に立たされています。
 支援法に基づく基本方針に被災者の声を反映させ、具体的な支援策の実現を目指してきた私たちは、ここに、政府に対し、1年間にわたり支援法の条文を無視した不作為に対して強く抗議し、直ちに被災者の意見反映のために公聴会等を開催し、速やかに基本方針を策定するよう、改めて求めます。

(まとめ 安間節子)


緊急・集団避難プロジェクト(仮称)6.9キックオフ会議
市民の手で、今すぐ子どもたちを避難させよう

 6月9日、ふくしま集団疎開裁判の会主催の、「緊急・集団避難プロジェクト(仮称)6.9キックオフ会議」が開催されました。これは、集団疎開裁判の仙台高裁判決(ピコ通信177号参照)を受けて開催されたものです。

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■今後の方針−緊急集団避難プロジェクト(仮称)
(光前幸一弁護士)

 4月24日に仙台高裁の決定(判決)があった。子どもの健康を守るには、避難しかないというのが結論だ。
 原発事故当初は、福島でも子どもを守るためのいろいろな動きがあったが、20mSv/年が撤回されてから、除染、保養が中心になった。しかし、2年経って、その限界が明らかになった。福島はチェルノブイリと同じ道を歩んでいる。大人に課された、失敗が許されない試練だ。
 第一次疎開裁判の結果を踏まえて、第二次疎開裁判をスタートさせる。そうはいっても、子どもたちを今すぐどこかへ逃がさなければならない。漫然と司法の救済を待つわけにはいかない。直ちに「脱被曝」を実行しなければならない。
 本来は国がやるべきだが、行政も立法も司法も救済しようとしないのなら、市民が自分たちの手で子どもを守らなければならない。そのため、「緊急・集団避難プロジェクト」(仮称)を立ち上げることにした。

 避難の障害となっているのは、経済的事情、介護、子ども同士の友情などだ。形として家族単位か、子どものみか、個別か集団か。それらと社会的インパクトなどを総合的に判断して、子どものみ、集団避難というのが一番実現性が高いと考えた。
 具体的には、全国各地の過疎地の既存の学校を利用し、自然豊かな田舎という環境のもと、数十人のグループで避難する。学校生活以外は寮生活を送る。山村留学がそのアイデアのもとになっている。自然の中でのびのびと学べることは、過酷な運命から避難するというだけでなく、子どもにとっても、素晴らしい経験をする、新しい人生を切り開く、という積極的意味合もある。寮をどうするか、スタッフや資金をどう集めるかという課題があり、広範な支援が必要だが、地元自治体の協力があればかなりクリアーできる。 村の教育の維持のためということで、受け入れてくれそうな自治体はある。先日話を聞きに行った群馬のある自治体では、寮も備えた地域外の子を受け入れる学校の構想をしている。
 脱被曝プロジェクトの最終目標は裁判と同じく、国の責任による集団的避難を実行させることである。そのための突破口になると考えている。

■第二次訴訟について(柳原敏夫弁護士)
 裁判の経過については、
  • 2011年6月24日、郡山市の小中学生14名が福島地域郡山支部に「郡山市に1mSv以下の環境で教育を受けさせるよう」仮処分を申し立て
  • 同年12月16日、郡山支部が申立て却下
  • 同年12月27日、仙台高裁に異議申立て
  • 2013年4月24日、仙台高裁で却下決定
 第一次訴訟を引き継いで、二次訴訟で迅速な救済を求める。行政訴訟法3条6項1号の「義務付け訴訟」というものだ。原告は「危険な環境下で義務教育を受けている子ども」10人以上を予定。被告は「学校を設置、運営する各市町村」になる。「小学校設置基準12条に基づく、空間線量1mSv/年以下の環境下の学校施設を使用するか、同環境下の分校の設置」を求める。
 最大の責任者たる国に対しては、直接訴える手段がない。国家賠償請求をつけることも考えられるが、時間と金がかかる。自治体は国の出先であり、国を相手にやっているつもりだ。
 第一次は仮処分申し立てだったので、非公開だったが、第二次訴訟は公開となる。第一次訴訟が高裁にかけられた1年数カ月で、裁判所での放射能への認識が変わってきた。高裁判決以降、国連の「健康に対する権利」福島原発災害報告書で、日本政府へ警告がなされた。一方で、放射線の影響に関する国連科学委員会ではそれとは異なった報告をしている。

■野呂美加さん(チェルノブイリへのかけはし)
 行政は子どもに大人の都合を押し付けている。一刻も早く保養に出さなくてはならない。空間線量とは、今飛んでいるものを測っているのであって、住民の健康を守る目安にはならない、ごまかしだ。
 年間1mSvは、大人にとっては厳しい基準かもしれないが、子どもにとってはその2分のか3分の1にする必要がある。ベラルーシでは、基準を5mSvから1mSvに変えた。
 甲状腺がんだけが問題ではない。チェルノブイリエイズといって、頭痛から始まり様々な症状が出ている。
 ベラルーシの保養を手伝っているが、保養には国内と国外がある。ベラルーシに対して、ドイツでは戦後補償の一部として援助している。期間は1カ月、昼は集団生活、夜は小学生はホームステイだが、中高生は耐えられるので集団生活。
 保養は、心身のリハビリを目的としている。体だけではなく、心も抑圧から解放されるようにする。放射能のことがその期間だけでも忘れられることも重要だ。
 1か月で、力をもって戻ってもらう。1カ月だけでも大きな効果がある。セシウムが排出され遺伝子が修復される。子どもはダメージも大きいが、修復力もある。
 ベラルーシでは、国家予算の4分の1を使ってやっている。そのベラルーシが福島の子ども1,000人を招待している。お金のある日本として、恥ずかしいことだ。
 チェルノブイリ事故の例を適用すると、甲状腺がんは福島でも2015年に急増する。2年が無駄に失われたと思うとたまらない。
 大人たちにとっては、移住しても、心が癒されることはない。ふるさとを失った傷は癒せない。だが、子どもたちにとっては新しい人生をプレゼントすることになる。子どもたちに未来を与えるために大人たちは厳しい覚悟が必要だ。岡山、高知などで町づくりと位置づけて移住の受け入れに取り組もうと手を挙げている自治体がある。そういう自治体ときちんと話をつければ、避難の実現は可能だ。
 福島の議員がチェルノブイリ視察に行くが、実情は伝えない。自己判断を入れずにありのままを伝えるべきだ。国が移住させないのは、補償が大変だからだ。命よりお金が大事、だから逃がさない。そういう相手と闘っていることを理解しないといけない。チェルノブイリが強制避難できたのは、土地が国有で補償の必要がなかったからだ。ローンで動けないのなら、福島の人は集団自己破産することも考えていいと思う。

■松崎道幸医師(北海道深川市)
 福島県の甲状腺検診結果を最大限に見ると、チェルノブイリと同じか2倍だ。セシウム被ばくでも甲状腺がんになる可能性もある。ホールボディーカウンターは、検出限界値が高い。一方、尿検査は10倍の感度で内部被曝を調べられる。がんがみつかったのは中高生が中心だ。8歳以下ではいないというのは、がんが大きくなっていないので手術に至らずということかと思う。県は原発事故が原因ではないとしているが、増えた理由を説明していない。県の検査は、不真面目なのか、意図的なのか、やり方がずさんだ。異常無しの判定でも、セカンドオピニオンでB判定(要二次検査)という話はざらにある。

■他の報告者の話
▼山下由佳さん
 高知県四万十町、土佐町で、「子ども被災者・移住・生活支援・仮の町復興特区」構想という活動をやっている。四万十町は浪江町の仮の町構想を支援している。緊急集団避難プロジェクトについて、廃校を利用して受け入れられるよう、町に働きかけている。

▼大武智恵さん
 埼玉県吉川市の1mSv/年を越える地域で、こども達を放射能から守る会『吉川健やかネット』を作っている。関東のホットスポットの母親のネットワークで、1mSv/年の地域を子ども被災者支援法のエリア指定に入れるよう要請行動をしている。甲状腺検診に対して、文科省、復興庁は、自治体の要望があればやってもいいという態度だが、環境省は、福島以外の健康影響はないというWHO報告に依拠して動こうとしない。

▼長谷川克己さん
 郡山市から静岡県富士宮市に自主避難(家族ごと)した。"勝手に逃げた人たち"と言われる。自分たちは避難先で生活の基盤を作ったが、まだ厳しい状況だ。それでも、2年経ってまだ多くの子どもたちが福島に残っている。再び戻って、救い出したい。

▼二瓶和子さん
 福島市から東京へ自主避難(母子)した。避難者は経済的に困窮し、福島に戻る人も多い。福島に残っている親子にはかける言葉も見つからない。東京の被災者で地域密着型のコミュニティスペースをつくって、福島の人も出てこられる環境を作りたい。自分が発言しているのは、県にいる人が声をあげられるようにしたいからだ。

▼瀬戸大作さん(生協パルシステム)
 仮設住宅の支援や、米沢、笹神で保養プロジェクトをやっている。ニーズが多く、対応しきれない。福島の生協も安全キャンペーンにすがってしまう。福島は"被曝戒厳令状態"で、多くの人は不安だが声に出せない。疎開裁判と県外に避難している人たちと、大きくネットワークを作って一緒に取り組むうねりをつくっていく必要がある。被災者支援法に実効を持たせて、国に金を出させる一方で、自分たちでお金を集める算段も必要だ。

(まとめ 花岡邦明)


2013年4月28日−5月10日
バーゼル、ロッテルダム、ストックホルム条約
締約国会議及び拡大合同締約国会議 
概要(2) 拡大及びバーゼル締約国会議

 本年4月28日(日)〜5月10日(金)、スイスのジュネーブで、有害な化学物質及び廃棄物に関わる重要な3つの国際条約である▼ストックホルム条約第6回締約国会議(SC COP6)、▼バーゼル条約第11回締約国会議(BC COP11)及び▼ロッテルダム条約第6回締約国会議(RC COP6)、並びに▼第2回3条約拡大合同締約国会議(ExCOPs2)が開催されたこと、及びこれらの条約の概要と今までの経緯をピコ通信前号(2013年6月/178号)で紹介しました。
 本稿では、IISD(*)の会議報告、会議に参加した様々なNGOsの報告、及び政府やUNEP等の発表資料を基に、拡大合同締約国会議(ExCOPs2)及びバーゼル条約締約国会議(BC COP11))の概要を紹介します。

■拡大合同締約国会議(ExCOPs2)
◆主な議題
 3条約の連携レビュー、今後の協力・連携、3条約共同事務局の活動と予算について討議が行われた。

◆主な結果
(1) 2011年の各条約のCOP決定に基づき、3条約共同事務局長が実施した事務局の組織再編と3条約共同事務局の2014〜2015年の予算が承認された。

(2) 3条約による連携を促進するため、締約国、事務局、国連環境計画(UNEP)及び国連食糧農業機関((FAO)が実施する行動の勧告リストが作成された。

(3) 3条約共通の国家及び地域レベルでの実施促進に向けた活動のさらなる推進を行うこととなった。

(4) 環境省の平成25年5月13日報道発表資料によれば、約80か国の大臣・副大臣級が参加したハイレベルセグメントでは、3条約の協力や連携による効率的な実施について議論が行われ、「適正な化学物質・廃棄物管理に関するジュネーブ声明」と題した閣僚宣言が承認された。
  • リオ宣言、ミレニアム開発目標、WSSD 2020年目標※を再確認
  • バーゼル条約、ロッテルダム条約及びストックホルム条約の実施の協力
  • 連携を促進するための作業を歓迎
  • 適正な化学物質・廃棄物管理における長期的な資金の必要性を認識
  • 3条約と水銀に関する水俣条約との将来的な協力及び連携について検討
  • 水銀に関する水俣条約外交会議(10月、熊本市及び水俣市)の開催を歓迎
  • バーゼル条約地域センター及びストックホルム条約地域センターの重要性認識
※WSSD 2020年目標:予防的取組方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成するとの国際目標

◆今後のスケジュール  2015年5月にジュネーブで3条約の締約国会議と、3条約拡大合同締約会議が開催されることになった。

◆ExCOPs2についてのNGOsの評価
 ExCOP2は長い込み入った会議であった。多くの代表者らは会議全体を通しで出席しておらず、全体の協働プロセスを複雑にした。 "このアプローチは多国間協議に必要な三つの要素である時間、エネルギー、そして明快さを低減した"と報じたIISDは的確である。

■バーゼル条約第11回締約国会議
◆技術ガイドライン
電子廃棄物及び水銀廃棄物

 バーゼル条約第11回締約国会議で国境を越える電子廃棄物(e-Waste)に関する政策論争がありました。提案されたe-Wasteに関するガイドラインは、使用済みの機器で機能テストが行われておらず、機能しないものは廃棄物であるとみなされ、それが有害なら、有害電子廃棄物の輸出は輸入国に通知され、輸出前に輸入国の同意を受けるということを最低限求めるバーゼル条約の管理手続きの対象となるであろうと記述していました。

 しかし、国際技術産業協会(ITI)に代表される電子機器製造者、及び欧州連合、アメリカ、日本、カナダを含む産業大国は修理可能な電子廃棄物を国際的なバーゼル条約の有害廃棄物貿易規制手続きから除外しようと企てているとして、開発途上国はその阻止に団結しました。
 しかし、先進国が支持しなかったために、"製品"と"廃棄物"を定義する電子廃棄物ガイドライン案は採択されず、次回の締約国会議までに、特にOEWGの2014年〜2015年の作業プログラムの中で検討されることになりました。
 以下にIISDによる電子廃棄物に関するガイドライン討議経過と最終決議、水銀廃棄物に関する最終決議の報告、及びバーゼル・アクション・ネットワークによる電子廃棄物ガイドラインに関するプレスリリースを紹介します。

◆IISDによる討議経過の報告
  • バーゼル条約(BC)ペレツ議長は、電子廃棄物の国境を越える移動、特に廃棄物と非廃棄物の区別に関する技術ガイドラインを紹介した。
  • いくつかの開発途上国は、寿命の尽きた製品の輸入により引き起こされる電子廃棄物の"急速な発生"を報告し、国際的な協力を求めた。
  • 中国、イラク、モロッコ、ドミニカ共和国は、電子廃棄物の明確な定義、及び、廃棄物と非廃棄物の区別を求めた。韓国は使用済み電子機器を特定する必要性を強調し、EUとオーストラリアはガイドラインがカバーする要素を明確にすることを求めた。
  • 日本は、直接再使用を意図した使用積み機器の国境を越える移動のための手続きの検討を求めた。
  • カナダは、開発途上国のためのリサイクル・センターの重要性を強調し、リサイクルのための品目を制限しないことを望んだ。
  • アメリカは、締約国はガイドラインの目標に焦点を合わせ、真の世界の状況に目を向け、自主的な手続きへの言及を削除するよう求めた。
  • バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)は、廃棄物と非廃棄物に関するガイドライン中での定義は産業関係者らにより影響を受けてきたので、バーゼル禁止令の健全性が損なわれることを強調し、すべての電子機器が修理可能であるわけではなく、産業側に影響を受けたガイドラインは採択しないよう締約国に求めた。
◆電子廃棄物 最終決議  バーゼル条約締約国会議は、特に:
  • 電子廃棄物の国境を越える移動に関する技術ガイドライン、特にOEWGの2014年〜2015年のための作業プログラムの中でバーゼル条約の下における廃棄物と非廃棄物の区別に関する開発を含めることを決議する。
  • 技術ガイドライン開発のための主導国となることを検討し、その意思を2013年7月31日までに事務局に知らせるよう締約国に要請する。
  • 使用済み機器が通常廃棄物としてみなされる、又はみなされない状況(第26(b)項)に関連する論点に関する情報、現状の実施方法、及び検討を2013年9月15日までに事務局に提出するよう締約国及びその他に要請する。
  • 締約国及びその他による提出及びCOP11での討議を考慮して、会合間小作業部会と協議しつつ、修正技術ガイドラインを準備し、条約ウェブサイトに2013年11月30日までに公開するよう主導国及び事務局に要求する。
  • 修正技術ガイドライン、特に第26(b)項で参照されている論点に関するコメントを2014年2月2日までに提出するよう締約国とその他に要請する。
  • OEWG9による検討用コメントを考慮しつつ、リソースの利用可能性を条件に、第26(b)項で参照されている論点の影響に関する情報を収集して分析し、報告書を作成することを事務局に要求する。
  • 会合間小作業部会と協議しつつ、OEWG9の検討のためにドラフト修正技術ガイドラインを作成することを主導国、又は事務局に要求する。
  • 技術ガイドラインの開発に関する作業の進捗に関してCOP12に報告するよう事務局に要求する。
◆水銀廃棄物 最終決議
 バーゼル条約締約国会議は、特に:
  • 水銀に関する水俣条約とバーゼル条約(BC)の間の関連、特に水銀廃棄物のESMに関して注意を払う。 OEWGの2014年-2015年の作業プログラムの中に、元素水銀からなる廃棄物及び水銀を含む又は水銀で汚染された廃棄物のESMのための技術ガイドラインの更新を含めることを決定する。
  • 技術ガイドライン更新のための主導国となることを検討し、その意思を2013年6月30日までに事務局に知らせるよう締約国に要請する。
  • 会合間小作業部会に参加する専門家候補者を指名し、その指名を2013年6月30日までに事務局に知らせるよう締約国に要請する。
  • 会合間小作業部会と協議しつつ、ドラフト更新技術ガイドラインを準備し、条約ウェブサイトに2013年12月31日までに公開するよう、主導国又は主導国がいない場合には事務局に、要求する。
  • OEWG9の検討用に、会合間小作業部会とともに、修正ドラフト更新技術ガイドラインを準備し、条約ウェブサイトに2013年12月31日までに公開するよう、主導国又は主導国がいない場合には事務局に、要求する。

BAN Toxic Trade News 2013年5月8日
電子廃棄物を貿易規制から
除外しようとする産業側の企てを阻止するために途上国が結集

 【ジュネーブ 2013年5月8日】 国際技術産業協会(ITI)により代表される電子機器製造者、及び欧州連合、アメリカ、日本、カナダを含む産業大国が修理可能な電子廃棄物を国際的なバーゼル条約の有害廃棄物貿易規制手続きから除外することを許すことになる抜け穴を作り出そうとする企てを阻止するために力を合わせた。
 "すでに、開発途上国は、北アメリカやヨーロッパから、貧しい人々を助け、ディジタル格差を埋めるという名目で彼らの国に送り込まれて来る、がらくたのコンピュータ、ファックス機器、プリンター、テレビなどの洪水を管理することはできない"と、バーゼル・アクション・ネットワークの代表ジム・パケットは述べた。
 "先進工業国は、世界の残りの諸国を廃電子機器のゴミ捨て場のように扱っている"。開発途上国が、事態を悪化させる産業側の提案を評価しないということは、何も不思議なことではない"。

 ジュネーブにおけるバーゼル条約第11回締約国会議で国境を超える電子廃棄物(e-Waste )に関する政策論争があった。ガイドラインの草稿は、機能テストが行われておらず、機能しない使用済みの機器は廃棄物であるとみなされ、もしそれが有害なら、少なくとも、有害電子廃棄物の全ての輸出は輸入国に通知され、輸出前に輸入国の同意を受けるということを最低限、求めるバーゼル条約の管理手続きの対象となるであろうと記述していた。しかし、修理するために輸出される機器を除外しないこのガイドラインに先進工業国が同意しなければ、それは採択されない。
 産業側は、すでに確立されている有害廃棄物の貿易規制を緩和しなければ使用済み機器の再利用は禁止されることになると主張した。しかし彼らは、開発途上国に輸送されて、そこで有害な部品が取り除かれるという'世界の有害機器の不公平な負担'をどの様に防ぐのか、そして、どのような貿易においてもこの"修理(repair)"という主張が投棄を正当化するために使用されることをどの様に防ぐのかについて説明することができなかった。
 "電子機器を修理するということはもちろんよいことである"と、ジム・パケットは述べた。"しかし修理は、部品が取り替えられるときに廃棄物を生成する。そしてそれを規制しなければ、どの様なものものでも修理可能であるといつでも主張することができる。したがって我々は、空っぽの修理の約束に基づいて、電子廃棄物の船出の見送りで投げキッスをし、道中ご無事でと簡単に言うことは決してできない。我々はやはり、バーゼル条約により規定される国際的な規則を必要とする" 。
 BAN(バーゼル・アクション・ネットワーク)はまた、環境保護のためにもっと重要なことは、製造者が有害ではない部品、すぐにアップグレードできるハードウェア、そして長寿命の製品を作り出す努力をすることであると信じる。
 会議の終わりに、コロンビアの代表は、バーゼル条約からの電子廃棄物の重要な免除についての産業側によりかけられる諸国への強い圧力に狼狽すると公式に表明した。チリ、スイス、そしてベネズエラは、バーゼル条約が開発途上国の利益を守るガイダンスを作成して、彼らを支援することができないことへの失望を、声を合わせて表明した。

次号では、ロッテルダム条約及びストックホルム条約の締約国会議の概要を紹介します。
(まとめ:安間武)

訳注(*) IISD: International Institute for Sustainable Development
http://www.iisd.ca/vol15/enb15210e.html
当研究会下記ウェブページ「世界の化学物質政策」に日本語訳があります。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/chemicals_policy_master.html


神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記 W
H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告)

2005年6月16日〜8月24日】
 この時期は、改修工事の施工方法が具体化してきた重大な時期でした。安全な教室を取り戻さなければならないという使命感と、第2回保護者説明会で、県対策委員長が約束したことが、教育財務課の職員に伝わっていないことなど、期待を裏切られることもあり、緊迫した日々が続きました。校内対策委員会では、保護者も含めて、23時まで議論し、肉体的にも精神的にも追い詰められていました。
 事故被害者の当事者として、有機溶剤汚染事故の詳細を記録し安全対策を提案してきた芸術科の職員は、県対策委員会では、発言も認められませんでした。4月に着任した管理職は、芸術科職員から2004年9月以降の事故経過の話を聞こうとしませんでした。保護者の中には、管理職の対応に不信感をつのらせ、学校の対応に絶望された方もありました。私はそれぞれの方から、立ち会いを求められ、管理職や県対策委員長との交渉に同席し、意見を述べました。それでも10数名ほどの職員の大きな支援で、可能な限りの力を尽くすことができたと感じています。
 汚染事故現場の教室では、窓を全開して、換気が行われました。窓から、有機溶剤が放散され続けている状態で、事故現場以外の教室は本当に安全だったのか、今でも疑問を感じています。安全確認のためのVOC検査は、窓を閉め切って行われたのです。事故現場から放散された有機溶剤は、空気より比重が重いので、階下の教室内に窓から侵入する可能性がありました。事故から9年経過した現在でも、教室や廊下の窓を開けるたびに、事故当時のことを思い出します。教室は安全だったのかと!

2005年6月16日(木)
▼シックスクール事故の支援団体より以下の連絡があった。汚染有機溶剤の危険性が深刻と感ずる。第三者の検証機関が必要。元衆議院議員S氏から知事に働きかけをしたい。改修工事で二次災害の危険性が高い。大阪大学芝原校舎で同様の防水材料を使用し、健康被害が出た。最近では、ウレタン防水剤は使用されていない。トリレンジイソシアネート(注)も杉並病の原因物質とされていて、危険性がある。DOP(フタル酸ジオクチル=フタル酸ジ2-エチルヘキシル)も健康への影響が大きい。現状で工事をするのは危険である。注:主な用途は、ポリウレタン原料(軟質フォーム、硬質フォーム、塗料、接着剤、繊維処理剤、ゴムなど)
▼「県立学校施設整備に伴う室内化学物質対策検討委員会」(以下県対策委員会)が、編成し直して設置された。
▼管理職Eより県対策委員会に要望書を提出(有機溶剤原因物質の調査、隣接スラブ(鉄筋コンクリートの床版)のフレック検査(注)の実施、生徒・保護者の希望する医療機関での診察・検査・医療費の県負担、有機溶剤暴露証明書の発行ほか)。注:スラブの表面から放散される有機溶剤の量を検査するもの。

6月17日(金)
▼神奈川新聞「ネット横浜シックハウス情報を ホットライン開設」記事掲載。
▼PTA対策委員会は、県議、財務課、保健体育課、高校教育課と協議し、「要望事項」を申入れた。

6月20日(月)
▼第2回県対策委員会(PTA対策委員会傍聴):T委員「初期にかなりの量がクラック(ひび・割れ目)を伝わって抜けているのではないか。」、I委員「VOCはクラックから滲み出している」、T委員「全部撤去は少し非現実的。隣の部屋の半分くらいまで気密シートを貼る選択肢もある」、0委員「100人が100人、異臭を感じないとの確認をしてほしい」。躯体コアからのVOC放散量の検証、常時換気設備の設置決定。
 
6月21日(火)
▼朝日新聞「ひび通じ溶剤流入」記事掲載。

6月23日(木)
▼PTA対策委員会が、教育財務課と協議した。

6月24日(金) ▼読売新聞「被害対策急務」記事記載。神奈川新聞「公明党県会議員 保土ヶ谷高校シックスクール問題を取り上げる」記事掲載。▼第3回校内対策委員会:財務課、管理職、PTA、教諭、設計出席。PTA対策委員会から提案8件。県説明=フレック検査は実施。トリレンジイソシアネート、DOPの危険性は理解している。音楽準備室の排気ダクトは屋上まで立上げる。工期を延ばしたい。

6月25日(土)
▼第3回保護者説明会:事故原因と対応策。生徒の健康管理について。原告は独自の質問書を作成し(危険物質の検査・二次災害はないか。学校警備員の健康問題。生徒26名の健康被害の情報がなく、支援ができない。美術準備室前の廊下の臭気がものすごい。音楽室・書道室のドアを閉めた封鎖状態で、なぜ臭気が異常なレベルなのかなど)、県対策委員長に対して質問。

6月30日(木)
▼校内会議(職員のみ):校内対策委員会への要望書を原告が作成。(生徒・職員の安全確保=立入禁止区域・期間。緊急時の対応マニュアル作成。VOC検査機器の配備。窓あけ換気は不可能=エアコンの整備。化学物質過敏症専門家の助言と講演。追加工事が行われたときの対応。制汗スプレーの使用禁止の指導。希望する医療機関での診療をサポート。事故関係資料の公開=校長・教頭・事務長所持の事故関係資料の公開を要請)
▼校内会議(PTA参加):安全確認は、PTA対策委員会の判断を尊重。防水層、木毛セメント板を撤去するときは、生徒・職員を退去させる。(職員の退去は、管理職Eによって拒否された。)
▼財務課より音楽・書道・西棟倉庫の1月、2月、4月、6月のVOC検査の対比表が届く。気温との相関関係が明確。事故当初の高濃度が推定されていた(キシレン1714μg/m3)。

7月1日(金)
▼「芸術科から知事への請願書」を前衆議院議員S氏に託す(事故原因物質調査。有機溶剤汚染の広がり調査。事故原因を設計・施工・安全配慮など多角的な視点での究明。中立的な検討委員会の設置など)。
▼教育委員会より公立中学校に「汚染事故の対応のお願い」発出。

7月5日(火)
▼芸術科職員の労務災害申請に関して、環境検査を実施。検査物質=キシレン・トルエン・ホルムアルデヒド・酢酸エチル。検査機関=中央労働災害防止協会関東安全衛生サービスセンター。

7月7日(木)
▼音楽室他内装等改修工事の現場説明会

7月8日(金)
▼PTA対策委員会が学校教育担当部長と面談し、要望事項を提出し、回答を要求。
▼第4回校内対策委員会:H建設が改修工事を担当。工事中の安全確保。自然放散期間は十分か。トリレンジイソシアネートのチャンバー試験の実施を要請など。▼神奈川新聞「徹底究明を知事に要望」記事掲載。

7月11日(月)
▼職員会議にて『改修工事期間における対応』のプリント配布。

7月14日(木)
▼音楽室・音楽準備室・書道室・西棟5階部室倉庫=トリレンジイソシアネート、DOPのアクティブ法検査を実施。書道室前の廊下・国際教育準備室・選択A=天井フレック検査を実施。(52品目)

7月16日(土)
▼第5回校内対策委員会:PTA、管理職、職員、教育財務課、設計、H建設出席。工事期間:7月21日〜9月20日。防水面自然放散期間:8月4日〜8月10日。クラック調査:8月4日、5日。クラック補修8月6日〜13日。

7月20日(水)
▼「一水祭(学校祭)」の延期、及び登校禁止期間等についての文書を生徒に配布。生徒登校禁止期間:7月25日(金)〜8月1日(月)。近隣住民に「改修工事のお知らせ」を配布(有機溶剤汚染事故の事実、改修工事中に有機溶剤の放散等の危険性の注意事項はなかった)。

7月22日(金)
▼第6回校内対策委員会:簡易測定器を常備し、毎日測定(実施されず)。スラブ下断熱材撤去工事=開放部分は、仮囲し、隙間は密閉する(工事では、窓を開け、粉塵が煙状に排出された)。簡易測定を活用し、各工程ごとに室内濃度の確認を行う(実際は測定の結果は非公開。MSDSも非公開)。県対策委員会への要望書を提出(工事の危険性について、H建設に事前に説明しているか。トリレンジイソシアネートの作業環境基準を説明せよ。「改修工事は安全である」との管理職Eの判断根拠は何か。生徒は登校禁止、職員は通常勤務!理由は何か)。(7月25日(月)〜8月1日(月)屋根スラブ下木毛セメント板撤去期間、生徒登校禁止。:窓から白い粉塵等の煙がもうもうと出た。原告は、校舎に入るとき、粉塵を吸ってしまい、痰が多量に出た。30分ぐらい痰が出続けた)。

7月26日(火)
▼第3回県対策委員会(PTA対策委員傍聴):I委員「自然放散後、どれくらい軽減されるのか。内部に残るのではないか」 事務局「5月にコア抜きをし、放散試験をした。1週間後かなりの低減が見込まれた。(よって)7日間とした。」T委員「放散ゼロはありえない。52品目の測定で、どのくらい止まったかは、ある程度判断できる。」T委員「「防水の真下だけでなく、隣の部屋の半分くらいまで気密シートを貼る選択肢もある」。I委員「クラックが主な原因であることを特定するチャンス。探傷検査、蛍光塗料を使う方法もある」。W委員「基準値以下にもかかわらず、保土ヶ谷高校では健康被害者が出たというが、事故当初はかなりの高濃度の中にさらされていた事件だ。非常に心外である」情報の提供が財務課に偏り、公正な会議とはいえないと私は思った。

  7月27日(水)
▼改修工事開始。

7月28日(木)
▼北棟の防水ウレタン膜を除去。3時間で完了。財務課S氏は、ウレタン膜は、はがすことはできないと何度も言っていたが、すばやい作業に驚いた。 7月28日・29日
▼北棟防水膜撤去後、コンクリートを研磨。クラックが太く、長く伸びていることに驚く。

7月29日(金)
▼午前中、職員健康診断。目がかゆい等の症状が出た職員がいた。被服室周辺で臭気を感じたので、扉を閉めた。PTA対策委員から「健康診断の延期の要請」があったが、管理職Eは、この助言を無視して、健康診断を実施した。VOC用のマスクも要望したが、管理職は用意しなかった。
▼管理職Eが、解体工事中の音楽室内の吸音材サンプルを会議室に持参した。原告も手に取ったが、ガラス繊維とは違い、小さな破片が空中に自然に飛散した。アスベストの可能性もあるので、至急、調査を申し入れた。
▼書道室前の廊下部分に、1mはみ出して、防水工事が行われたことがわかった。財務課は、書道室前廊下部分に汚染源があることを知りながら、事実を隠していた。美術室に教材を取りに入ったときの異常な臭気は、廊下部分からの放散が原因だった。保護者説明会でも、異常な臭気情報を話したが、教育財務課は廊下部分に発生源があるという重大な危険情報を、保土ヶ谷高校に提供しなかった。

7月30日(土)
▼工事現場を確認。解体作業中の教室の窓から粉塵が多量に飛散していた。帰宅時、多量の痰が出て、不快であった。

8月1日(月)
▼管理職Eに、M工業によって昨年行われた防水工事箇所が書道室前の廊下部分に1メートルはみ出していることを、中央棟屋上から説明した。窓からの粉塵飛散も管理職Eより現場監督に注意したが、猛暑の中の作業のため完全には閉められなかった(職員の退避を求めたが、無視された)。原告は、帰宅時痰が多量に出た。

8月2日(火)
▼管理職Bに、「書道室前の廊下部分の有機溶剤発生源の存在」を報告した。

8月4日(木)
▼改修工事現場屋上で、室内放散量試験実施。

8月8日(月)
▼県対策委員会現場見学。委員は西棟屋上より見学した。クラックの半数以上はザイペックス(注)で、すでに補修してあった。クラックは深く大きかったが、ブルーシートで覆われ、3割程度しか見えなかった。H建設は「保土ヶ谷高校のスラブはひび割れだらけで、機械的な工事をすると、コンクリートが、ばらばらになる可能性があるので、注入式のザイペックスで改修工事を行った」と話した。 (注)コンクリート内部の空隙やひび割れなどの欠陥部にセメント結晶を増殖させることで緻密化し、水などの浸入を遮断し、耐久性能を向上させる改質材。

8月10日(水)
▼PTA対策委員2名 改修工事現場見学

8月11日(木)
▼屋上、室内放散量試験実施。

8月12日(金)
▼第7回校内対策委員会:設計変更=工期延長。各種調査中間報告。施工部分を廊下、準備室全体まで広げる。内部工事=木毛セメント板を撤去し、気密シートを貼り2重天井とする。天井裏換気設備設置。

8月15日(月)
▼改修工事対策会議:管理職Eより「生徒登校禁止期間(追加)のおしらせ」を保護者に通知。登校禁止期間:8月18日(木)〜20日(土)22日(月)とする。

8月18日(木)〜21日(日)
▼書道室前廊下天井木毛セメント板撤去工事。

8月20日(土)
▼VOC検査

8月23日(火)24日(水)
▼書道室前廊下で大量の雨漏り。2階の床まで水浸し。天井・電気追加工事になった。

8月24日(水)
▼第8回校内対策会議:改修工事の設計変更=工期延長7月21日〜10月18日の90日間ほか。原告が13項目の考察提出(書道室前の廊下の天井部分のフレック検査によって、有機溶剤の放散が確認でき、廊下部分の追加工事が行われる事になった。西棟5階の国際理解教室は、県検討委員会T委員も「隣接のスラブには、フィルムを貼った方が良い」と発言している。美術室、視聴覚室は工事なし。換気扇による強制換気が必要。2004年9月に実施された工事において、トリレンジイソシアネートやDOPが室内を汚染した可能性を危惧など)。(つづく)



編集後記

▼参議院選挙が終わった。はじめから分かっていたとはいえ、結果に愕然とする。「自民圧勝」の大文字が新聞で躍っている。テレビは観ていないが、たぶん大騒ぎしているのだろう。自分達が煽ってつくった結果でもあるのだから。▼投票率は予想通り、近年では最も低い52.61%。選挙の前々から耳にタコができるほど「自民圧勝」を聞かされれば、投票に行かない人が増えても不思議ではない。実に半分の人が棄権したのだ。棄権した人たちの考えを聞きたいと思う。▼外国の投票率を調べてみたら、北欧は軒並み高くて70〜85%もある。他の西欧はドイツ71%、イギリス66%、米国54%と高くはない。投票が義務化されている国は、オーストラリア93%、ベルギー89%、トルコ88%とやはり高い。せめて7割、8割の人たちの意志で政治の方向が決まっていったらと願う。デンマークでは小・中学校から政治についての教育が行われ、選挙権のある18歳より前から政治活動に参加する子もいるのだという。▼選挙に行こうと呼びかけていた団体の話では、「学校の社会科レベルのことが分かっていない」と感じたという。衆院と参院の違いや衆参のねじれの意味も理解されていない、「組織票って何?」と聞かれたとも。投票の基礎となる最低限の知識も持てていないとしたら? 必要な教育を意図的に避けて、お上の言いなりになる"愚民"をつくってきたのではないか? ▼そんな八方塞がりの中で、東京選挙区の山本太郎さんの当選は希望だ。あいにく演説会には行けなかったが、写真や動画を観ると、圧倒的に大勢の人が集まって、若い人たちの熱気がすごい! 山本さんは「ここからがスタート。だから万歳はしない」と言っている。多くの当選議員たちは、きっと当選がゴールなんだろう。▼選挙結果に消沈していたら、1通の手紙が届いた。水俣病裁判で40年も闘ってきた山口紀洋弁護士からである。題名は「自民党憲法改悪案を読まれましたか?」。選挙の結果に一喜一憂することなく、今後の護憲のために読んでいただきたいとある。▼天皇を戴く国家・・、天皇は日本国の元首であり・・・、国防軍を保持する、(国民の責務)公益及び公の秩序に反してはならない、(人としての尊重)公益及び公の秩序に反しない限り・・・、緊急事態宣言(新設。戒厳令)。そして、現憲法の基本的人権の本質を規定した第97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」の全文削除。要するに、現憲法の国民主権、天皇象徴、基本的人権、平和主義、憲法の最高法規性などが全部抹殺されているのです、と。手紙は「共に人生を賭けて、行動して行きましょう」と結ばれていた。日蓮宗僧侶でもある山口弁護士からの重い呼びかけである。(安間節子)


化学物質問題市民研究会
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