ピコ通信/第177号
発行日2013年5月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. ふくしま集団疎開裁判 4・24判決 子どもたちの生命・健康は由々しい事態 しかし、避難させる義務はないと!
  2. 原発にもメーカー責任を 鈴木かずえ(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン)
  3. 12・22 終焉に向かう原子力第15回 (5)IAEAとICRP 国際原子力マフィアによる被曝強制の歴史と福島県内の深刻な被曝の現実(下) 広瀬 隆 さん
  4. 神奈川県立保土ヶ谷高校 シックスクール事故の顛末記 V
  5. 編集後記(藤原寿和)


ふくしま集団疎開裁判 4・24判決
子どもたちの生命・健康は由々しい事態
しかし、避難させる義務はないと!


130518_Shinjyuku.jpg(41506 byte) 2013年5月18日新宿
 4月24日、仙台高裁において、ふくしま集団疎開裁判に対する判決(決定)が出ました。「避難させて」という子どもたちの郡山市への求めに対して、訴えを斥ける判決です。
 同裁判は、2011年6月に福島県郡山市の小中学生14名が裁判(仮処分申請)を起こし、同年12月に却下され、仙台高裁に異議申し立てをしていたものです。
 今回も却下はされましたが、その判決内容には、「郡山市の子どもは低線量被ばくにより、生命・健康に由々しい事態の進行が懸念される」などと、福島の子どもたちの被害状況についての原告側の訴えが初めて認められるという画期的な内容を含んでいます。
 原告側は、本裁判を起こす予定ですが、それと同時に支援組織である"ふくしま集団疎開裁判の会"では、避難プロジェクトを準備中で、みなさんに参加・支援を呼びかけています。

■ふくしま集団疎開裁判とは
 2011年6月、郡山市の小中学校7校に通う子ども14人が、郡山市に対して「年間被曝線量が1ミリシーベルト以下の場所への"集団疎開"」を求めて、仮処分を申請しました。
 2011年12月に、福島地裁郡山支部は「年間被曝量が100ミリシーベルト以下なら問題はない」などとして、申し立てを却下。同12月に仙台高裁に異議申し立てをしたものです。

■大きく矛盾する判決
 4月24日の仙台高裁の判決は、以下のとおり、事実認定では子どもたちの置かれている状況は、「生命・健康に由々しい事態の進行が懸念される。避難するしかない」と正しく認定しておきながら、結論では「郡山市には避難させる義務がない」という全く矛盾する二つのことが書かれているという前代未聞のおかしな判決です。

  1.事実認定
(1) 郡山市の子どもは低線量被ばくにより、生命・健康に由々しい事態の進行が懸念される。(原文:郡山市に居住し○○学校に通っている抗告人は、強線量ではないが低線量の放射線に間断なく晒されているものと認められるから、そうした低線量の放射線に長期間に わたり継続的に晒されることによって、その生命・身体・健康に対する被害の発生が危惧されるところであり、チェルノブイリ原発事故後に児童に発症したとされる被害状況に鑑みれば、福島第一原発付近一帯で生活居住する人々、とりわけ児童生徒の生命・身体・健康について由々しい事態の進行が懸念されるところである。)

(2) 除染技術の未開発、仮置場問題の未解決等により除染は十分な成果が得えられていない。

(3) 被ばくの危険を回避するためには、安全な他の地域に避難するしか手段がな。い

  2.結論
 (子どもを安全な環境で教育する憲法上の義務を負うはずの=編集部付記)郡山市に、郡山市の子どもを安全な他の地域に避難させる義務はない。

   結論部分を、詳しく紹介すると、次のようになります。
 子どもたちは郡山市の現住所に住み続ける限り、通学する学校外においても、日夜間断なく相当量の放射線にさらされていることになり、学校外において、その値は年1ミリシーベルトを越える。
(しかし)現に、郡山市の学校施設で教育を受けている生徒がおり、その教育活動を継続することが直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまでは認め得る証拠もない。だから、郡山市が現在の学校施設で教育活動を継続しても直ちに不当であるというべきものではない。
 避難先での教育は、避難先の市町村の手で行われるのが原則であり、郡山市がわざわざ避難先の市町村を差し置いてまで、新たな学校を開設する必要はない。
 子どもたちは、自主避難すれば、避難先の市町村の学校が受け入れてくれるから、それで放射線障害から解放されるという目的は十分に達成できるはずである。
 以上から、「子どもたちを年1ミリシーベルト以下の安全な環境で教育をしろ」という要求は認められない。

■事実認定の基になった意見書
4・24仙台高裁判決の最良部分は、「郡山市の子どもは低線量被ばくにより、生命・健康に由々しい事態の進行が懸念される」ことを認定したことです。この認定の基になったのは、原告側が提出した、専門家の以下の3つの意見書です。

▼長期間にわたる低線量の放射線を被ばくした場合に現れる晩発性障害として、発がん率が高くなるなどの健康被害が挙げられる。例えば、甲状腺がんは児童10 万人当たり数名程度しか発症しないとされているのに、福島第一原発と同レベルの重大な原発事故とされるチェルノブイリ原発事故においては、事故発生の5、6年後から 甲状腺疾病と甲状腺腫が急増し、9年後には児童10人に1人の割合で甲状腺疾病が現れたとの報告がある(矢ヶア意見書)。

▼チェルノブイリ原発事故による健康障害調査データから、郡山市で今後発症するであろう種々の健康障害(晩発性障害)の予測として、先天障害の増加、悪性腫瘍の多発、1型糖尿病の増加、水晶体混濁・白内障、心臓病の多発のおそれがある (松井意見書)。

▼福島県県民健康管理調査検討委員会が発表した平成24年度甲状腺検査の検査結果とチェルノブイリ原発事故後に行われた小児の甲状腺検診データとを対比して、福島の児童には被ばくから数年後のチェルノブイリ高汚染地域の児童に匹敵する頻度で甲状腺癌が発生し、甲状腺癌が今後激増するおそれがある(松崎意見書)。

■報道しない日本の大手メディア
 なんと、日本のマスメディアは、疎開裁判の判決を1行も報道しませんでした。NHKの記者は「子どもたちが勝ったら会見を取材したい」と問い合わせてきたそうです。あきれるばかりです。ところが、世界の主要メディアはAP通信の報道を基に、ニューヨークタイムズ、ワシントンポストをはじめ、いっせいに疎開裁判の判決を報じたのです。その結果、世界中の人々はこの重要な判決をいち早く知りました。知らないのは、当事者であるはずの日本人だけです。
 さすがに、東京新聞特報部だけは、5月3日にまとまった良い記事を載せました。原発報道における日本のメディアの腐敗ぶりがここでも露わになりました。
 判決が出た後、世界的に著名な言語学者、平和活動家、ノーム・チョムスキーさんから寄せられたメッセージを紹介します。

   「裁判官たちが健康リスクを認めるにもかかわらず、福島現地から子どもたちを避難させるための施策を阻んだと知って、深刻な困惑を覚えます。社会が道徳的に健全であるかどうかをはかる基準として、社会の最も弱い立場の人たち、この場合、社会の最も大切な宝である子どもたちを、どのように取り扱うかという基準に勝るものはありません。わたしは、この冷酷な決定が破棄されることを望みますし、そうなると信じています。」

   原告側は、仙台高裁判決を受けて本裁判を起こすということですが、子どもたちをこれ以上被曝させないために、避難プロジェクト(仮称)の立ち上げを準備しています。

◆避難プロジェクト立ち上げ集会
日時:6月9日(日)午後1:00開場
1:30 開始
場所 ラクアス東新宿 2階会議室
(〒169-8526 新宿区大久保2-2-6 東京メトロ副都心線・都営地下鉄大江戸線 東新宿駅B2出口から徒歩3分 JR山手線新大久保駅から徒歩10分)
多くの方が参加されるよう呼びかけます。(まとめ 安間節子)



原発にもメーカー責任を
鈴木かずえ(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン)

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■青天井の東電支援
 東京電力福島原発事故のために、政府が東電に注入した税金は現在までで3兆5千億円を超えています。東電は賠償が10兆円にものぼるとしており、今後も政府に援助要請をするでしょう。
 度重なる地震・津波による事故の警告を、コスト上の判断で無視をして事故を起こした東京電力は刑事罰も受けず、巨額な賠償支払いには税金による支援を受け、そのおかげで東電の株主も、融資の貸し手も責任を免れています。原子炉をつくったメーカーは事故処理でも利益を上げ、さらに原発で売り上げ倍増を宣言しています。

■今後も原発事業を続ける――日立・東芝・三菱重工の回答
 今年初め、グリーンピースでは、日立(GE)、東芝、三菱重工の3社に事故責任をどう考えるか、原発事業を今後も続けるつもりかとの公開質問状を送りました。答えは、3社とも、原発事業からは撤退しない、というものでした。事故責任については、直接の回答を避けたり(日立)、「法的に責任を負担するものではない」(東芝)などとしています。

■原子力産業を守る日本の原賠法
 湯沸かし器が爆発すれば、製造物責任(PL)法でメーカー責任が問われます。原発も水を熱して発電するという点では湯沸かし器ですが、爆発してもメーカー責任が問われていません。これは、原子力損害賠償に関する法律(原賠法)で、メーカー責任が問われず、PL法ができたときも、対象外となったからです。この原賠法のおかげで、日本の原子炉メーカーは事故時の賠償を心配することなく、次々と原発を作ってきました。

■欠陥があっても事故責任が問えない?
 東電福島原発で使われた原子炉MARKT。圧力抑制系などに問題があったことは1970年代から指摘されており、設計に携わった元GE社の設計士ブライデンボー氏は事故後もNHKや週刊誌などの取材で「欠陥があった」と証言しています(現在GE社は、日立製作所と原発部門を経営統合しています)。日本の原子炉はその誕生期、アメリカの原子炉メーカーからの輸入品でした。メーカー責任の除外はアメリカの意向だと言われています。

■ボパール事故を経験したインドの原賠法
 1984年に多国籍企業ユニオン・カーバイド社が起こしたボパール化学工場有毒ガス流出事故。公式の数字で事故当日2500人、後に2800人が死亡、社会活動家らの報告では事故当日で8000人、以降で8000人が死亡したという史上最悪の産業事故です。1986年、インド政府はユニオン・カーバイド社を訴え、30億ドルの損害賠償を請求しましたが、1989年の最終合意でインド政府に支払われたのはわずか4億 7千万ドルでした。後遺症に苦しむ被害者には、ほとんど賠償はいきわたりませんでした。
2010年に、インドで成立した「原子力損賠に関する賠償民事責任法」では、原子力事故の際にメーカー責任を問えるようになっています。これには、外国の企業活動により自国民が甚大な被害を被ったボパール事故の教訓からだ、とインドの原賠法成立に尽力したモハンティ弁護士は述べています。

 インドでは、グリーンピース・インドも関わり、メーカー責任を含む原賠法成立キャンペーンが2009年から始められました。まず、前司法長官がメーカー責任を含む原賠償法の必要性について意見表明、メディアがこれを報じ、多くの弁護士の支持が広がりました。グリーンピースは数十万の署名を集めて政府に提出しました。そうした運動の結果、保守・リベラル双方の政党の支持を得て、2010年にメーカー責任を含む原賠法が成立しました。その法律には電力会社がメーカーに、明らかな瑕疵、もしくは隠れた瑕疵であっても損害賠償を請求できると書かれています。

■日本でも、原発にもメーカー責任を
 原発事故を繰り返さないために、今、責任のあるものに責任を負わせる制度が必要です。グリーンピースでは、今年2月19日「原発にもメーカー責任を」求めるオンライン署名を開始しました。現在、世界中から10万筆以上の署名が寄せられています。同時にレポート「福島原発事故 空白の責任――守られた原子力産業」を発表、日本そして海外の原子力賠償制度を比較しながら、その不備を指摘しました(グリーンピースのサイトからダウンロードできます)。
 2月末にはインドからモハンティ弁護士を招いて、議員会館内でインドの原賠法を学ぶセミナーを開催しました。3月からは東電福島原発を作った原子炉メーカー日立と東芝あてに、原発からの撤退やメーカー責任を求めるハガキを一万部印刷して、消費者から声を出そうとよびかけ、配布しています。
 4月には5団体(末尾記載)でよびかけ、20余りの団体賛同を得て「被害者保護を優先した原賠法改正を求める要請書」を自民党などに提出しました。ぜひ、こうしたさまざまな取り組みにご参加お願いします。要請書への賛同も募集しています。

  最新情報は、グリーンピースのウェブサイトをご参照ください。
http://www.greenpeace.org/japan/


被害者(被災者)保護を優先した原賠法改正を求める要請書
 福島原発事故で被災し、今なお、ふるさとに帰れない福島の人たちは16万人以上にのぼります。賠償金は、東京電力だけでは払いきれず、すでに3兆2000億円の税金が投入され、当初予定されていた5兆円でも足りなくなるとも言われています。
 今、政府自民党では、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)の見直しに向けた検討が始まっています。見直しには、現在、電力会社が無制限に負うとされている賠償責任を国も負担すると明記するかどうかの検討も含まれるとされています。見直しの方向によっては、国民が重い負担を強いられる一方、責任を問われるべき電力会社は負担が減り、賠償を気にせず原発を推進することにもなりかねません。
 原子力損害賠償支援機構法が成立した時、国会の付帯決議では、政府に対して「国民負担の最小化」を求めると同時に、東電に対して、経営の合理化や、株主その他の「利害関係者に対して必要な協力を求める」ことと定めています。
 また現在、賠償を支払うために事業者の加入が義務づけられている原子力保険の保険金は実際の賠償額よりはるかに少なく、地震のときには保険がおりません。地震のときは国が肩代わりしてくれるため、電力会社は事故リスクをきちんと認識せず、安全対策を怠ったまま安易に原発を拡大し、結果としてそのツケを国(国民)が負担しています。
 原賠法は、原子力政策の根幹にかかわる重要なルールです。事故責任をあいまいにして、国民負担だけが増えていくような改定であってはなりません。
 国民負担を最小化しつつ被害者に充分な賠償をし、福島原発事故の教訓を今後に反映するために、原賠法改正にあたっては、次の5つの要素が不可欠です。
  • 法律の目的として「被害者の保護」を優先する
  • 国民負担を最小化するため、巨額の賠償と地震リスクに対応できる規模の資金的保証(保険への加入または関連事業者の出資による損害賠償基金の設立)を義務付ける
  • 国民負担を最小化するため、株主および融資の貸し手が、国民(税金)や電気料金による負担よりも優先的に賠償責任を負う
  • 原子炉も製造物責任法の対象とし、原子炉メーカーをはじめ事故の原因に責任のある者から優先的に賠償責任を負う
  • 事故が第三者の過失によって引き起こされた場合も求償の対象とする
以上

環境エネルギー政策研究所
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO グリーンピース・ジャパン
原子力資料情報室
日本消費者連盟 (50音順)

■有権者パワーで原賠法の改正を
 「原賠法」が生まれた50年前には「被害者」はいなかったかもしれません。しかし、今、16万人もの人々がふるさとに帰れず、数百万人が被ばくの不安の中で暮らしています。存在している「被害者」に向き合えば、原賠法改正の方向は一つしかありません。なにより「被害者保護」を優先に、事故の責任者にきちんと賠償をさせることだと思います。
 法律を変えるのは国会議員です。ところが、ある国会議員の秘書は「ほとんどの国会議員は原賠法の問題点を理解していない」と言います。そこで、今、グリーンピースでは「マイ議員」プロジェクトを準備しています。これは、地元の国会議員に、原賠法の問題点を伝え、あるべき姿に改正することをはたらきかける行動提起です。
 有権者パワーで、原賠法を改正させ、消費者パワーで原子炉メーカーに原発からの撤退をせまりましょう。

★原賠法勉強会のお知らせ
6月7日には福田健治弁護士を講師に原賠法の問題点とあるべき姿を考える勉強会を第一衆議院議員会館で2時から開催します。ぜひ、ご参加ください。


神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記V

H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告)

 2005年5月30日以降を記述します。

 この5月は、2004年9月からの汚染事故の実態が、「308名の体調不良の訴え」によって露見して社会問題になり、神奈川県教育委員会は根本的な解決を迫られ、保護者に「根本的な解決」を約束した重大な転換点でした。
 6月は、汚染有機溶剤を除去すべく改修工事の内容が具体化してきて、大量多種類の有害な有機溶剤で汚染された校舎が、安全な状態に戻るか!中途半端な対策で禍根を残すか!いばらの道を歩むような日々が続きました。一日の会議の中で10項目の大きな課題に取り組んだこともありました。
 保護者の前では頭を下げ、誠実な対応を誓ったにもかかわらず、県教育委員会の常識では考えられないような人権を侵害するような対応も続きました。

5月30日(月) 20時から県教育委員会にて、PTA会長と管理職Eは、PTA総会(5月28日実施)で議決された9項目の要望書を、県対策委員長に提出した。課長数名が同席。  @県対策委員会のあり方の見直し。「5月11日付け回答」以降の検討結果の報告。構成委員の中に専門医師を入れること。
 Aコア抜き検査の結果を公表し、原因究明を踏まえて工事を開始すること。
 B対策工事の設計図・工事仕様書の公開。
 C対策工事実施にあたって、学校や保護者の意向を踏まえて行うこと。
 D夏季休業中に登校する生徒に配慮すること。
 E北里研究所病院M先生の講演会の内容を、質疑を含めて書面で公開すること。
 F5月26日に実施した全校生徒臨時健康診断結果の生徒・保護者への報告の仕方と、今後の対応について知らせること。
 G5月14日に行われた専門医による健康診断において、合唱部生徒の未受診者の健康診断を早急に実施すること。  H第3回保護者説明会には、当該専門医の出席をお願いする。

6月1日(水) 19時から「第一回保護者対策委員会」が開催された。委員長、副委員長、書記を決定。PTA総会の9項目の要望書についての報告。PTA会長の報告。委員会の進め方について協議。生徒の健康回復と保護。学校の安全化・原因究明についての要望等を取りまとめ、窓口になることを決定。

◎県保健体育課が「健康調査票」を卒業生に郵送した。質問紙による健康調査を行い、必要と認められた者に対しては、個別の措置を検討する。

6月2日(木) 5月26日実施の臨時健康診断によって26名が要精密検査と診断され、相模原病院にて診察を受けることになった。6月7日より数名ずつ行う。6月20日の第2回県検討委員会の議事録に、「1名化学物質過敏状態の診断が出ている」との報告あり。

6月3日(金) 英語科準備室、LL教室のVOC検査実施。校内対策員会(応接室) 15時から17時(教育財務課3名、本校対策委員4名、設計事務所2名、合計9名) 議事内容:財務課=対策工事は音楽室、書道室、部活倉庫の3教室のみ行う。
 私=「「音楽準備室は新たな天井を設けて、ダクト工事をする」と県対策委員長は、5月14日の第2回保護者説明会で確約した」。財務課=「部長(県対策委員長)から聞いていない。確認する」。私=「汚染されたコンクリートの隣接部のフレック検査をし、有機溶剤の放散を確認してほしい。コア抜きした9本の検体はどこで検査するのか」。財務課=「3本がダイヤ分析センター、6本が日本品質保証機構で行う。3教室以外の工事が行われると、2学期に間に合わない」。私=「改修工事に関し事前に保護者説明会をし、改修工事内容を確認してほしい。単一VOC濃度が指針値を下回っているから安全だというのは問題だ。汚染物質が多数である」

6月3日(金)・4日(土)・5(日) 仮設音楽室防音改修工事。

6月6日(月) 教育委員会からの回答書(「生徒ならびに保護者の皆様」)が16時に学校に届く。 以下の内容であった。

学校教育担当部長(県対策委員長)より。
重点的に進めること:
@生徒の健康の確認と確保。横浜市医師会のご協力をいただき、全校生徒の皆さんを対象に健康診断を実施。「専門医による診察が必要と思われる」とのご診断をいただいた生徒の皆さんには国立相模原病院にてご診断いただき、継続治療が必要との診断があった場合には、引き続き治療継続をお願いしてまいります。
A早期の安全な学校環境の確保。屋上防水工事のウレタン防水部分の撤去をはじめとして、該当教室天井内の空気の強制換気工事、該当教室の内装工事等をさせていただき、安全な学校環境の確保を進めてまいります。現在閉鎖をしている区域から、化学物質を含んだ空気が漏れないよう、該当区域へ炭素吸着装置の配置等の措置をさせていただいております。 
B健康被害にあわれた教職員への支援。当該の教員と話し合いを進めており、県教育委員会としてできる限りの支援をしてまいります。
  1. シックハウスに係る専門医をはじめ、建築関係の大学教授や学校関係者(校長・PTA会長)も含めた外部委員を充実させる。委員長は、外部委員でなく学校教育担当部長とする。
  2. コアを採取し、有機化合物の放散量試験を(株)ダイヤ分析センターが、コンクリート成分試験と強度試験を(財)日本品質保証機構で行っている。コア抜き試験の結果などを基に原因究明を行い、公表する。
  3. 対応工事の設計図面及び工事仕様書は、公開する。
  4. 施工業者決定後速やかに、工事スケジュールを学校側と協議する。
  5. 対策工事は粉塵などが飛散しない工法で行うとともに、工事前に工事方法や注意事項について学校側に説明の上、工事を進める。
  6. 北里研究所病院のM先生の講演会の内容・質疑応答は、本日配る。
  7. 個々の生徒の健康診断結果については、今秋前半にも学校長からすべての保護者あてに連絡する予定になっており、その中に今後の対応についても示す。
  8. 合唱部未受診者は、6月10日と21日に相模原病院で受診する予定。9.第3回保護者説明会には、専門の医師は大変忙しい方が多く、出席するのは難しい。
事故発生以来、教育委員会から出た二度目の文書である。

英語科準備室、LL教室のVOC検査を実施。

◎職員全員で事故対策について議論した。議題は以下の通り、重要なものばかりであった。第2回保護者説明会で、県対策委員長が確約したことも無視され、以降の対策工事に関して不信感の高まる内容であった。具体的な内容は以下の通り。

@芸術3科目(音楽・美術・書道)の授業再開について(仮設教室の確保と再開の時期)。
A仮設音楽室に「防音カーテンの設置」を県に要望。
B5月30日に、PTA会長が県に対して、「PTA総会の要望書」を提出したことを報告。
C音楽準備室は、7月からの事故対策改修工事の対象から除外されている=大問題である。
D西棟5階の部活倉庫教室に隣接している教室のコンクリートスラブの調査は行わない=早稲田大学T教授は横方向の拡散の危険性を指摘しているのに調査しないのはどういうことか。
E改修工事前に工事内容の承認のための「保護者説明会」の実施の確約がない=保護者の賛同を得ることができない。
F26名の生徒が国立相模原病院にて専門医の検査を受けるが、生徒の健康支援のため該当生徒の名簿の公表が必要だ。健康被害を受けた生徒が誰なのかは、個人情報であることを理由に職員に対しても全く知らされなかった。
G2005年1月17日に西棟5階部活倉庫教室の有機溶剤簡易検査を学校薬剤師が行ったが、検査結果が5月まで管理職によって公表されていなかったことについて報告。
H5月10日に教育長が保土ヶ谷高校の事故現場を視察していた事実を、職員に知らされていなかった。I芸術科が汚染事故の経過(24頁)を作成し、配布することになった。

◎第二回保護者対策委員会が開催される。県からの回答書について議論し、対策の基本方針を協議した。
◎神奈川県高等学校教員組合役員と保土ヶ谷高校分会との話し合いのため、組合本部の書記長が来校。他の県立高校へ、今回のシックスクール事故に関する情報を提供すること、保土ヶ谷高校と同じ工事方法で防水工事を実施した学校での有機溶剤の検査結果を組合として確認し、保土ヶ谷高校に報告することを要望。今回の事故に関して、組合の支援のあり方に疑問を表明した。

6月7日(火) 「教育委員会からの回答書」と北里研究所病院M先生の「講演会の冊子」が全生徒に配布された。

6月9日(木) 保土ヶ谷高校教諭のシックスクール事故による公務災害の申請に際し、人権を侵害すると考えられる申請書類が、教職員課より申請教諭に送られる。あたかも精神疾患であるかのように書かれるなど(具体的な文書名は、明記するのがはばかられる)悪質な文書であった (平成11年9月14日地基補第173号 ) 。同申請書類の記載項目は、人権を無視した内容で、教諭本人および職員全体に大きな打撃を与えた。

6月10日(金) 職員全員で有機溶剤汚染事故の関係事項が検討される。「人権侵害文書」の問題点を議論する。5月26日実施の臨時健康診断結果一覧についての資料が配布された。
「芸術科の授業再開について」の通知が保護者あてに配布された。中学生対象の「保土ヶ谷高校体験プログラム」は改修工事を考慮し、中止とする。

6月11日(土) VOC検査が実施される。PTA広報委員会がVOC検査を取材。
 検査箇所 南棟:2-6、3-6、1-6、西棟:選択B、選択D、数学・国語準備室、中央棟:フォークソング部室、物理実験室、 会議室、職員室、北棟:第2視聴覚室、図書室、以上12室(5月10日の検査と同じ場所。)
*シックスクール事故の現場教室等は、調査されなかった。

6月13日(月) 芸術科の授業が再開される。担当者(教師)、授業中窓あけ換気をし、ドアを開け、風を入れながら授業をしたにもかかわらず、午後、目がちかちかし、のどの痛み等の症状が出る。

6月14日(火) 担当者、病院で診察を受け、「室内化学物質に起因する病気」の診断を受ける。午後、学校教育担当部長、課長代理来校し、臨時教室を視察。「教具メーカーから貸与された教具からホルムアルデヒドが発生している」と判断する。青少年センター所蔵の教具を借用できるかを検討中との回答が部長からあった。6月16日(木)からの授業は、指導主事が当面代行することになる。 20時30分から22時「改善工事打ち合わせ」が行われる。出席者:教育財務課3名、設計事務所2名、PTA本部2名、PTA対策委員会3名、管理職3名、職員4名、合計17名。検討内容:仮設音楽室工事について。前回議事録確認。改修工事計画について。今後のスケジュールについて。
上記の会議内容に関して、「保護者対策委員会」から8項目の要望・提案が文書で提出された。
 @屋上の既存防水層・スラブ下の木毛板撤去後にVOC減衰工事を提案。
 Aダクト配管図等の詳細図がないので、安全性が確認できない。
 B建具製作にはムク板を使用し、接着剤にはドイツ製のブレーマーを使用してほしい。
 CEP塗りは論外。
 Dシーリング材は、できれば使用しないほうが良い。
 E床にはワックスは塗らないほうが良い。 
 F清掃時には、薬剤は一切使用しないようにしてほしい。G仕様書に、施工方法も明記してほしい。

6月15日(水) 指導主事が来校し、音楽の授業の準備を行う。(つづく)

編集後記

▼この4月26日に岩波書店から待ちに待った『調査報告・チェルノブイリ被害の全貌』が発売されたので、すぐに書店に走り、その日のうちに購入して読み始めた。原書のChernobyl:Consequences of the Catastrophe for People and the Environmentは、すでに以前から英訳のニューヨーク科学アカデミー版がインターネットでダウンロードが出来ていたことと、今回岩波から翻訳本を出版した「チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム」による暫定訳がウェブサイトに掲載されていたので、ざっとは目を通していたが、今回完全翻訳本を手にしてあらためてその内容に衝撃を受けた。▼この岩波本の冒頭に、翻訳チームの一人の崎山比早子さんが「日本語版序:いま、本書が翻訳出版されることの意味」について一文を寄せているが、その中で、同じ衝撃的な思いを語っている。それは「これらの報告書には、これまで断片的にしか知られていなかった、放射線が多種多様ながん以外の疾患が多発していること、放射線障害の特徴は老化に似ていること、子どもの健康に与える深刻な影響等であった。」というものである。▼これまで日本で紹介されていたチェルノブイリ被害の「公式」報告といえば、2005年9月に国際原子力機関(IAEA)と世界保健機関(WHO)がまとめたチェルノブイリ・フォーラム報告の『チェルノブイリの遺産−健康、環境、社会経済への影響、およびベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナ各国政府への勧告』で、これは崎山さんも日本語版序文で触れられているように、日本の放射線専門家や文部科学省が認めているのは、急性障害で死亡した運転員、消防士などいわゆるリクビダートルの31人と、小児甲状腺がんのみというその根拠となっているネタ本である。しかし、今回邦訳されたこのチェルノブイリ被害の全貌を読めば、これまで断片的にしか知られていなかった放射線が生物に与える様々な影響が、膨大なデータや文献の引用と解説によって系統的に明らかにされていることがわかる。日本政府をはじめ、原子力推進の「原子力ムラ」に群がる専門家がなぜこの本を無視し続けてきたかが、一目瞭然のごとくに理解できる。▼当研究会では、これまでダイオキシン類をはじめとする内分泌かく乱化学物質による人体影響を問題にしてきたが、今回、放射線による甲状腺がんのみならず、非がん性疾患として心臓血管系や血液・リンパ系疾患、遺伝性疾患、内分泌系疾患、免疫系疾患、呼吸器系疾患、泌尿生殖系疾患・生殖障害、骨・筋肉系疾患、神経系・感覚器疾患、消化器系・その他内臓疾患、皮膚・皮下組織疾患、感染症・寄生虫症、先天性奇形(原文のまま)など、実に全身に及ぶ全臓器疾患をもたらしていることが明らかにされていて、言葉が出てこない。これだけの詳細な調査がなぜ日本の広島・長崎の原爆症やビキニ被曝者などに対して行われてこなかったのか、あらためて日本の医師や科学者、医療機関、そして政府の組織的サボタージュに憤りを覚える。ぜひ多くの方々にこの本が読まれることを願っています。(藤原寿和)


化学物質問題市民研究会
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