ピコ通信/第176号
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目次
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神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記U H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告) 2005年4月以降を詳細に記述します。 県立学校施設整備に伴う化学物質対策検討委員会(以下県対策検討委員会)・保護者説明会(300名を越す参加者)・校内対策委員会(職員と保護者と教育財務課)・PTA対策委員会が事故対策を進めました。それぞれが、全力でがんばったのに、結果としては、事故対策として十全であったとはいえないように考えています。県対策検討委員会では、健康被害を受け、事故の事実をもっとも理解していた芸術科の職員は発言すら認められませんでした。 県教育委員会の思惑のとおりに、教育委員会の責任も追及されませんでした。事故の発生メカニズム・安全配慮義務に関する大きな問題の検討、健康被害者に対する具体的な支援も全くできていません。生徒の健康被害に関しては、個人情報を理由に健康被害生徒名は学校内でも知らされていません。職員は誰が体調不良なのかを、生徒が卒業した現在でも把握できていません。公務災害・労務災害に関しても、人権の問題として提訴したいような課題が続いています。 不明確の問題を抱えたまま、改修工事は進められ、改修工事が終了した翌年の2006年5月には、音楽準備室でハンドベルのABS樹脂が溶けるという事態になりました。生徒や保護者の真剣な苦情は無視されました。 2005年4月25日(月) 1校時、体育館にて全校集会を行い、北棟3階の立入り禁止について説明。6校時終了後、私が南棟5階の1年6組のホームルーム終了後、西棟5階「部室倉庫」付近を確認したところ、廊下全体に漂っている異常なシンナー臭気に驚いた。管理職Bにすぐに連絡。多数の生徒が臭気に不快を感じた。管理職Eは教育財務課に出向き、緊急の対応を依頼。芸術科より管理職Eに、有機溶剤の名称と健康被害について生徒に連絡するよう要望したが、管理職Eは、この要望を受け入れなかった。合唱部の顧問が、健康調査をまとめ、2学年に報告した。 4月26日(火) 1校時、体育館にて全校集会を行い、西棟5階の緊急対応について生徒に説明。集会後、南棟5階で授業を受けていた1年生は家庭学習となり帰宅。4階の2年、3階の3年は平常の授業を行った。午後、有機溶剤の拡散を防ぐため、西棟5階「部室倉庫」、「国際理解準備室」、「男女トイレ」部分を石膏板で閉鎖する工事を行った。工事は保全協会が行った。 管理職Eより保護者に『緊急対応に伴う家庭学習のお知らせ』を配布。芸術科より管理職Eに、再度、有機溶剤の名称と健康被害の例を生徒に連絡するよう要望したが、この要望を無視した。私ほか数名の職員は、管理職Eと緊急事態の対策について、4時間交渉した。 4月27日(水) 1校時、体育館にて全校集会を行い、西棟5階の臭気対策工事の行われたことについて生徒に説明。3校時、南棟5階1年の教室内に窓から異臭が入る。西棟4階、3階でも異臭があった。3階の選択E教室での書道の授業中に異臭があり、南棟2階多目的教室に移動して授業を行った。生徒の不安が増幅し、頭痛などの症状を訴える生徒が増加した。 第1回県対策検討委員会が教育委員会内で開催後、保土ヶ谷高校にて事故現場を確認した。芸術科職員3名が応接室にて意見陳述を行った。芸術科として45頁の資料を提出。陳述時間は15分のみ。職員が陳述中に、委員長は、「あと2分」の発声をした。委員長はたえず時計を気にして、陳述を聞いていた。15分ちょうどで陳述は打ち切られた。委員会から、今回の有機溶剤汚染事故についての謝罪はなかった。きわめて形式的な委員会であった。保護者3名が同委員会の傍聴を要望したが、委員会は受け容れなかった。 委員の職は、教育財務課長、教育財務課長代理、保健体育課副課長、保健体育課主幹、厚生課主幹など10名。委員から、謝罪・質問・意見は無かった。同委員会後、PTA会長、副会長、1年保護者及び芸術科職員3名と管理職E、管理職Bとの話し合いを行った。 4月28日(木) VOC検査が行われた。検査方法はアクティブ法吸引式、6物質。 検査対象は、音楽室、同練習室2室、同準備室、書道室、美術室、視聴覚室、西棟5階部室倉庫。17時から21時、今後の対応策を職員会議で議論。生徒は体調不調を訴え続けた。音楽室個別練習室にてキシレン=1000μg/m3を検出。基準値(870μg/m3)を超えた。音楽室、書道室で基準値に近い値が検出される。天井裏はキシレン=4000μg/m3〜2000μg/m3の値であった。 4月29日(金) 職員は、有機溶剤大量発生の対策作業を21時まで行った。 4月30日(土) 午後、職員は事故対応策を検討した。13時から17時 5月2日(月) 管理職Eより保護者に『保護者説明会のお知らせ』を配布。この通知によって初めて、原因物質「キシレン」「エチルベンゼン」の名称が公表された。体育館にて全校集会を行い、これまでの経過とシックハウスについて生徒に説明。体育館にて健康調査を実施。 この調査で308名が体調不良を訴えた。情報公開で調査票を入手し確認したが、症状の訴えに関して、308枚中の63枚に黒塗りがあった。8行=2枚、7行=2枚、 6行=3枚、5行=5枚、4行=7枚、3行=12枚というように、生徒の健康被害の訴えは、個人情報を理由に現時点では非公開である。健康被害場所も1組、2組、3組というように有機溶剤発生源から100mも離れた教室でも訴えがあった。4階、3階、2階というようなフロアの違う場所でも、体調不良を生徒は訴えていた。 南棟2階、生徒指導室、小会議室、入選資料室、進路指導室、多目的教室、数学科教材室、国語科教材室の教材を移動。17時から21時に事故対策について職員会議。 5月3日(火) 封鎖された南棟5階から、生徒机、椅子、ロッカーのすべてを2階に移動した。(専門業者) 朝日新聞「保土ヶ谷高校シックハウス 」、神奈川新聞「シックハウス症候群か」と記事掲載。 5月4日(水) 読売新聞「数十人 頭痛や吐き気 シックハウス症候群か」、日経「生徒ら数十人シックハウスか」、サンケイ 「横浜の高校でシックハウス症候群?」、 神奈川新聞「シックハウス症候群か」と記事掲載。 5月6日(金) 臨時休業(8月に授業振り替え)。神奈川県高等学校教員組合と県教育委員会との交渉が教育財務課で行われた(14時から15時30分)。参加者は教育財務課(課長、課長代理、技術班班長)、 保健体育課(2名)、高校教育課(2名)、 保土ヶ谷分会職員(3名)、組合本部(2名)合計12名。教育財務課は、原因物質の有機溶剤をコンクリート内に封じ込める改修工事案を押し付けた。コンクリート内の有機溶剤の残留量を減らす工事案ではなかった。17時から21時に、上記の提案について職員が対策会議。 5月7日(土) 14時から20時。第1回有機溶剤汚染事故保護者説明会が開催された。会場は体育館。県より教育財務課長、保健体育課長、高校教育課長出席。県会議員 2名。保護者は、県の示した案を差し戻し、改修工事に関し、責任ある立場の者の出席と具体的な回答を要求した。職員は21時まで対応した。 5月9日(月) 14時から職員会議。1年生は2階教室に移動し、個人物品を確認し、学年集会後にロングホームルーム。 2年生、3年生は、学年集会後、ホームルーム。早稲田大学・T教授「改修工事について」職員に講演。教育財務課長が同席した。私は、T教授が事故の事実関係を詳しく理解していないという印象をもった。T教授は、「私学であれば、建て替え工事になるだろう。公立なので、改修工事になると考える」と発言した。有機溶剤簡易測定器を貸してくれると提案があったが、残念ながら何も行われなかった。カウンセリングのためスーパーバイザー(注)が来校。 注 学校カウンセラーの活動を支援し、指導する立場の心理臨床家。 管理職EとPTAの保護者との会議が行われた。応接室で17時から22時の5時間、激論があった。 5月10日(火) 教育長が来校し、事故現場の教室等を視察した。教育長の来校の事実を職員が知ったのは5月26日(木)であった。当日は、全校生徒は学年遠足で、職員も引率で不在であった。被害を受けた職員から、直接話を聞くこともなかった。VOC検査が封鎖教室以外の12箇所でアクティブ法による採取測定(6物質)された。スーパーバイザー来校。 5月11日(水) 教育委員会より『保護者説明会における質問の回答』が届く。@本件にかかる情報についてはすべて公開。A新たに学識者等を追加することについては検討する。Bコア抜き調査(14.5センチの厚みがある屋上のコンクリートスラブを、有機溶剤がどの深さまで浸透しているかを調査するために、直径7.5センチの円筒状に機械でくりぬき、5層にカットして有機溶剤の放散速度を調査)は実施する。 C生徒・住民の安全を最大限配慮する。D定期的にVOC検査を実施する。検知管方式の簡易測定器を当分の間、学校に置き、その結果は速やかに知らせる。E卒業生の健康状態を把握したい。F健康診断については、公費負担について検討する。G屋上防水工事が発端となり結果として学校現場に混乱を招いたことについて、生徒・保護者・学校職員など関係者の皆様にお詫び申し上げる。健康被害を受けられた2名の先生(音楽担当と書道担当。私はこの時点で未だ診察を受けていない)についても県として出来る限り支援を行いたいと考えている。他。 事故発生以来、教育財務課は、一度も文書での回答をしなかった。今回の回答書は、教育委員会から出たはじめての文書である。本日より、授業は特別時間割6時間となった。 北里研究所病院・M先生の講演会「シックハウス症候群について」が行われた。20時から22時まで会議室で行われた(対象は保護者・教職員)。保健体育課長が出席。保護者30名、職員10名ほどが参加した。(M先生は北里研究所病院での診察の後、お疲れの中を22時まで、ご講演くださいました。心から深く感謝し、お礼申し上げます。)生徒=5月14日の振り替え休日。スクールカウンセラー2名来校。 5月12日(木) 生徒 臨時休業。VOC簡易検査実施。 5月11日に30分開放後閉鎖。測定法:検知管法122P ガステック社製)、ガス採取装置:GSP−300FT ガステック社製、吸引条件:200ml/分、30分間吸引、測定者:学校薬剤師I氏。*測定20教室すべてにおいて、トルエン、キシレン:検出限界以下。スクールカウンセラー2名来校。朝日新聞「308名体調不良訴え 有機化合物基準超す」 朝日新聞「県教委の対策に甘さ」。 5月13日(金) 生徒:臨時休業。スクールカウンセラー2名来校。神奈川新聞「不安消えず休校 改修工事あす提案 認識甘く対応に遅れ」と記事掲載。17時から21時に職員会議。 5月14日(土) 第2回有機溶剤汚染事故保護者説明会が開催された。16時から20時。会場は体育館。県より教育局・学校教育担当部長、教育財務課長、保健体育課長、 高校教育課長出席。県会議員2名出席。 県の示した改修工事案を基本的に受け入れる。教室配置について=1年生は南棟2階を使用する。北棟は3階に加え、2階も使用中止とする。授業について=芸術科の授業は、教室・教具の確保ができないので、他の教科に振り替える。 国立病院機構相模原病院(以下相模原病院)H先生の生徒向け講演会(13時から14時体育館)。H先生が合唱部員10名の個別相談・診察を行う(14時30分から15時30分)。朝日新聞「きょう保護者らに説明 改修や授業再開など」、読売新聞「あす授業再開」、神奈川新聞「あすから授業再開改修工事や生徒ケア対策示し」等記事掲載。職員勤務21時まで。 5月15日(日) 朝日新聞「原因校舎 全面補修へ あすから授業」記事掲載。 5月16日(月) 管理職EとPTA役員との話し合いに立会い(私19時から21時)。授業再開。県教育委員会が記者発表を明日か明後日に行うとの情報が高校に入る(実際にはなにも行われなかった)。 5月17日(火) 読売新聞「保土ヶ谷高校授業を再開」記事掲載。 5月18日(水) 第2回健康調査。神奈川新聞「汚染拡大の原因未解明」記事掲載。衆院決算行政監視委員会で公明党古屋範子議員の質問に対し、中山文部科学相が「保土ヶ谷高校のシックハウス症候群とみられる健康被害について、学校のシックハウス対策の基準や指針を都道府県教育委員会に通知しているが、しっかりしていなかった」と答弁。芸術棟、西棟5階に空気清浄機を設置する。合計10台。美術準備室に教材を取りに行くと、猛烈な臭気があった。清浄機は全く役に立っていなかった。 5月19日(木) 問診票による健康調査(全校生徒対象)。神奈川新聞「基準や指針徹底せず 衆院決算行政監視委員会での議論」、読売新聞「シックハウス対策強化」と記事掲載。 5月20日(金) 保土ヶ谷高校を松沢知事視察。生徒から悲痛な訴えを聴いたが、芸術科の職員からは知事自ら事情を聞こうとしなかった。 5月21日(土) 神奈川新聞「社説 原因究明も進めよ」、朝日新聞「シックハウス 県全施設に対策 知事 保土ヶ谷高校で陳謝」、読売新聞「保土ヶ谷高校シックハウス対策マニュアルを 視察の知事」、毎日新聞「体調不良訴え続出」と記事掲載。 事故教室のコンクリートスラブのコア抜き検査のため、音楽室、書道室、部活倉庫の3教室のコンクリートスラブから3本ずつ、合計9本のサンプルを抜き取る。小型チャンバー試験(芸術科がコア抜きの調査を要請していた)。3本はダイヤ分析センターにてチャンバー試験を行う。5月31日分析開始。6月7日頃、結果が出る予定。6本は日本品質調査機構にて検査を行う。強度検査、組成検査。6月20日頃、結果が出る予定。 5月25日(水) 音楽室他内装等改修工事設計業務委託入札・契約。 5月26日(木) 生徒の臨時健康診断(全生徒対象=学校医及び応援医により実施)。学校薬剤師が1月17日に実施した西棟部活倉庫の検知管によるトルエン検査報告を、管理職Bが公表した。「トルエン=基準値よりやや多めに検出された。ただ、原因として閉切りの部屋で生徒の出入りがほとんどない状態と、記念祭使用後の絵の具、その他、化学物質が沢山放置してある状態なので、それによる原因と見なされる部分も多いと考察されたが」と。 西棟の教室環境の危険性を考えると、重大な検査結果である。管理職Bは、4ヶ月以上、検査結果を公表せず。4月の有機溶剤の大量発生を想定し、曝露を防ぐことができたはずであった。 5月28日(土) 13時30分から20時、PTA総会にて有機溶剤汚染事故が議論される。約8時間。教育委員会担当者は欠席した。PTAの要望を文書にし、PTA会長が県対策委員長に提出した。回答は6月6日(月)とする。(つづく) ※ 第17回裁判は、4月30日(火)13時10分開廷予定。横浜地方裁判所5階502号法廷。神奈川県横浜市中区日本大通9(みなとみらい線日本大通り駅から徒歩1分。JR京浜東北線関内駅・横浜市営地下鉄線関内駅から徒歩約10分)。裁判終了後、報告集会を開催予定。弁護団から現在の進捗状況の説明等があります。傍聴よろしくお願いします。 |
編集後記
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