ピコ通信/第176号
発行日2013年4月25日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. IPEN世界各地の魚と毛髪の水銀調査 米EPAの基準値を超えている 大間のマグロも、東京地域の毛髪も!
  2. 12・22 終焉に向かう原子力第15回 (4)IAEAとICRP 国際原子力マフィアによる被曝強制の歴史と福島県内の深刻な被曝の現実(中) 広瀬 隆 さん
  3. 神奈川県立保土ヶ谷高校 シックスクール事故の顛末記 U
  4. 調べてみよう家庭用品(60) トピックス (10)
  5. 編集後記(安間 武)


IPEN世界各地の魚と毛髪の水銀調査
米EPAの基準値を超えている
大間のマグロも、東京地域の毛髪も!

 国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)が2012年に実施した水銀監視プロジェクトでは、世界各地でIPEN参加メンバーが魚と人の毛髪サンプル収集し、米国の生物多様性研究所(BRI)がそれを分析して、IPENとBRIが報告書「世界の水銀ホットスポット」にまとめ、ジュネーブで開催された第5回水銀条約政府間交渉会合(INC 5)の直前の2013年1月9日に発表しました。
 IPENメンバーとして当研究会も参加し、日本の多くの方々の協力を得て、毛髪及び魚のサンプルを収集しました。
◆毛髪サンプリング:
・東京地域19人(男性9人、女性10人)
◆魚サンプリング:
・大間/三厩(みんまや)クロマグロ:9サンプル
・不知火海 カサゴ:9サンプル
・不知火海 マアジ:9サンプル

本稿では、プロジェクト概要、世界の水銀ホットスポットの汚染状況、日本とクック諸島の毛髪の分析比較、及び日本のサンプル分析結果を紹介します。

■IPENの水銀監視プロジェク概要
 IPENの世界の魚と地域の水銀監視プロジェクトは、世界の生物学的水銀ホットスポットを特定するために、IPENとアメリカの生物多様性研究所(BRI)が共同で取り組んで実施されました。生物学的水銀ホットスポットとは、生理的、行動的又は生殖に、生物的水銀濃度が安全レベル超える場所として定義されます。
 このプロジェクトでは、水銀汚染が高いことが知られている又は疑いがある地域に住む又は働く人々のコミュニティから魚と人の毛髪サンプルをIPEN参加組織が収集しました。BRIは、サンプルの選択と輸送を計画し、米国メーン州ゴーハムで全自動水銀分析装置(DMA)を用いてサンプルを分析し、BRIとIPENの科学者らがその分析結果を評価しました。BRIの魚の水銀濃度の分析手法は"EPA SW-846 Method 7473"であり、総水銀(Total Hg)を測定していますが、 測定された水銀の大部分はメチル水銀であるとみなすことができます。

■世界のホットスポットの魚の水銀濃度
 表 1 は、汚染サイト、塩素アルカリ施設、及び石炭火力発電所という3つの共通の水銀汚染源及び、水銀の非点源から大気や水へ放出された水銀が海流により広く拡散されて生じる世界的堆積を代表する9か所の魚の水銀濃度を示しています。 9か国のそれぞれは、米EPAの月間メチル水銀摂取ガイドラインである0.22ppmを超える魚を高い比率で含んでいました。0.22ppmのガイドライン**は、60kgの人の月間の摂食は1種類の魚肉170 グラム以下にすべきということを意味します。
 分析された魚の43〜100%が、月に1 種類以上の魚肉を摂取するための勧告値を超えており、特に日本とウルグアイの近海で取れた魚の水銀濃度は非常に高いので、米EPA のガイドラインによれば、"食べないこと"が推奨される水銀濃度です。また世界保健機関と欧州委員会は水銀濃度が1.0ppm 以上の魚の"市場での販売を推奨しない"としていますが、日本のクロマグロとウルグアイのメカジキのサンプルはこの値を超えています。

表1 9か国で摂取される魚(サンプル数108)の水銀濃度(ppm)
潜在的な
水銀汚染源
サンプル
魚種 平均水銀濃度
(ppm ww *)
EPAガイドライン
(0.22 ppm)**超の
サンプル割合
アルバニア 汚染サイト 14 タラ、ヒメジ 0.29 +/- 0.23 50%
チェコ共和国 塩素アルカリ施設 16 淡水ブリーム/コイ 0.43+/- 0.34 88%
イタリア 世界的な堆積 6 ビンチョウマグロ 0.91 +/- 0.35 100%
日本 世界的な堆積 9 クロマグロ 1.12 +/- 0.24 100%
ポルトガル
(アゾレス諸島)
世界的な堆積 2 クロタチウオ 0.75 +/- 0.04 100%
ロシア 塩素アルカリ施設 30 ナマズ, パーチ、コイ 0.44 +/- 0.16 97%
タイ 石炭火力発電所
製紙工場
20 ライギョ 0.34 +/- 0.11 85%
ウルガイ 世界的な堆積 4 メカジキ 1.31 +/- 0.16 100%
アメリカ
(アラスカ)
世界的な堆積 7 オヒョウ 0.37 +/- 0.48 43%
 *ww:湿重量
 **米EPAの参照用量(RfD):1日体重g当りメチル水銀0.0001μg

■世界のホットスポットの毛髪水銀濃度
 表2は、世界的な水銀の堆積、及び3つのタイプの点源、すなわち、人力小規模金採鉱(ASGM)、石炭火力発電所、及び製紙工場、そして複合産業サイト(塩素アルカリ製造、石油精製、廃棄物焼却、セメント製造、及びその他の潜在的な水銀汚染源)からの放出による水銀汚染源を代表する8か国からのヒトの毛髪中の水銀濃度を示しています。8か国全ての人々の82%以上の毛髪が、米EPAの参照用量(RfD)レベルである1.0 ppmを超える水銀濃度であり、インドネシアのASGMサイトでは、20人の内19人が、日本では東京地域の19人中18人が、そしてタイでは、20人全員が、米EPAのRfDを超えていました。

表2 8か国のヒト毛髪(サンプル数150)の水銀濃度(ppm)
潜在的な水銀源 サンプル数 平均水銀濃度
(ppm, fw)
EPA参照用量***
(1ppm 超の)
サンプルの割合
カメルーン 複合:セメント、焼却、その他 17 1.9 +/- 1.1**** 76%
クック諸島 世界的堆積 9 3.3 +/- 1.4 89%
インドネシア 人力小規模金採鉱 20 4.3 +/- 3.3 95%
日本 世界的堆積 19 2.7 +/- 1.9 95%
メキシコ 複合:石油ガス精製、
塩素アルカリ施設、焼却
22 1.8 +/- 1.1 73%
ロシア 塩素アルカリ施設 28 1.9+/- 1.5 67%
タンザニア 人力小規模金採鉱 15 18.3 +/- 60.4 67%
タイ 石炭火力発電所、製紙工場 20 4.6 +/- 2.7 100%
 ***:水銀濃度は、式量(fw)ベースで、ppm又は等価のμg/gで与えられる。
 ****:カメルーンからの2つの毛髪サンプルは非常に高く、アウトライアー(外れ値)であるとみなされる。それらは542 ppm 及び546 である。

■分かったこと
  • 水銀汚染の程度は、世界中の海水と淡水の生態系のどこにでも見られる。
  • "生物学的水銀ホットスポットは、世界的に共通であり、複数の点源タイプからの大気、土壌、水への人間活動に由来する水銀排出に関連している。
  • 点源タイプは、人力小規模金採鉱(ASGM)、石炭火力発電所、及び製紙工場、そして複合産業サイト(塩素アルカリ製造、石油精製、廃棄物焼却、セメント製造)などである。
  • 世界的な堆積は、上述の複数点源に加えて、石炭燃焼、鉄及び非鉄金属製造、鉱石処理、焼却炉、化学品製造などの複合排出源から大気や水へ放出された水銀が海流により広く拡散されて生じる。
  • 今回分析された世界中の魚のサンプルのほとんどの水銀濃度は、米EPAのガイドライン0.22ppmを超えている。
  • 今回の調査で9か国からの43〜100%の魚のサンプルが1種類の魚肉170グラムという魚の月間安全摂取量を超えた。これらのサンプルに対応する水銀汚染タイプは、塩素アルカリ施設(チェコ共和国、ロシア)、汚染サイト(アルバニア)、石炭火力発電所(タイ)及び世界的堆積(イタリア、日本、ポルトガル−アゾレス諸島、アメリカ−アラスカ、及びウルグアイ)である。
  • カメルーン、クック諸島、インドネシア、日本、メキシコ、ロシア、タンザニア、及びタイからの毛髪サンプルの82%以上は、1.0ppmという米EPAの参照用量(RfD)レベルを超えている。
  • インドネシアでは、ASGMサイトの近くでサンプルが収集されたが、一方日本は、19人中18人がRfDレベルを超えており、タイでは石炭火力発電所と製紙工場を含む産業地域の近くで、20人全てが米EPAのRfDレベルを超えた。
  • これらのサンプルに対応する排出源は、人力小規模金採鉱(インドネシア、タンザニア)、塩素アルカリ製造、石油精製、廃棄物焼却、セメント製造、及びその他の潜在的な水銀点源を含む複合化学産業(カメルーン、メキシコ)、世界的堆積(クック諸島、日本)、塩素アルカリ施設(ロシア)、及び石炭火力発電所と製紙工場(タイ)を含む。
■日本(東京)とクック諸島(ラロトンガ島)の毛髪比較
 魚を多く食する太平洋の二つの国、日本とクック諸島が、非点源、又は世界的堆積に関連する場所として選ばれ、水銀曝露を示す毛髪水銀濃度が比較されました。

表 3 東京(日本)とラロトンガ(クック諸島)の毛髪サンプル中の水銀濃度(ppm)
  サン
プル
水銀
平均値
(ppm)
標準
偏差
水銀
最低値
(ppm)
水銀
最高値
(ppm)
参照用量
(ppm)
参照用量
1ppm超
の割合
日本(東京 19 2.739 1.923 0.523 8.537 1.00 95%
クック諸島
(ラロトンガ)
9 3.290 1.371 0.935 4.996 1.00 89%


 表3は、魚や海産物が食事の主要な要素である日本(東京)とクック諸島(ラロトンガ)の人の毛髪中の水銀レベルを示しています。この調査の毛髪提供者の全ては少なくとも週に1回は魚を食べます、そのほとんどは週に2〜3回、あるいはそれ以上食べています。実際、日本の毛髪提供者の84%と、クック諸島の89%が週に複数回、魚を食べています。また彼等の約60%が非常に頻繁にマグロを食べています。
 表3によれば、日本人毛髪サンプルの95%が、そしてクック諸島のサンプルの89%が米EPAの水銀参照用量1ppmを超えていました。日本の毛髪サンプル中の平均水銀レベルは、米EPAの参照用量より2.7倍高く、クック諸島のそれは、参照用量よりほとんど3.3倍高いものでした。また日本の最大水銀レベルは参照用量より8,5倍高く、クック諸島では約5倍高い値でした。実際、両方のグループで米EPAの参照用量1ppmより低かったのはそれぞれ1サンプルだけでした。  この調査の日本人毛髪の水銀のレベルは、Yasutake, Matsumoto et al. (2003)による日本の集団についての調査の男性2.55 ppm及び女性1.43 ppmより高い値でしたが。今回の調査は少人数のグループについて行なわれたという点に留意する必要があります。

■日本の魚サンプルの水銀濃度
 日本から提供した魚サンプルは、築地市場で購入した青森県の大間及び三厩(みんまや)港で陸揚げされたクロマグロ:9サンプルと、水俣市場で購入した不知火海で獲られたカサゴ:9サンプル及びマアジ:9サンプルでした。表4、5、6に各サンプルの水銀濃度を示します。
 表5に示されるとおり、不知火海のカサゴでEPAのガイドライン0.22pmを超えるものは9サンプル中4サンプルでした。また、表6に示されるとおり、不知火海のマアジの水銀濃度は、9サンプル全てがEPAのガイドラインより十分に低い値でした。

■東京地域19人の毛髪水銀濃度
 東京地域の女性10人、男性9人,合計19人から毛髪サンプルと2週間の魚摂食頻度と魚の種類を提供いただきました。19人中18人がEPAの参照用量(RfD)1.0ppmを超えており、これは日本人の魚摂取に起因すると思われます。(安間 武)

表 4 大間・三厩(みんまや)/築地市場 クロマグロ 水銀濃度 (ppm)
No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9
大間 三厩 三厩 大間 大間 三厩 大間 三厩 大間
濃度 1.32 0.9 1.14 1.59 1.03 0.79 0.94 1.26 1.08

表 5 不知火海/水俣市場 カサゴ 水銀濃度 (ppm)
No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9
濃度 0.69 0.11 0.19 0.30 1.2 0.15 0.11 0.14 0.22

表 6 不知火海/水俣市場 マアジ 水銀濃度 (ppm)
No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9
濃度 0.04 0.06 0.07 0.05 0.04 0.04 0.05 0.03 0.03

表 7 東京地域19人の毛髪水銀濃度(ppm)
No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
性別
濃度 1.33 4.92 2.88 4.26 2.59 2.08 3.15 5.28 1.66 1.04
No. 11 12 13 14 15 16 17 18 19 平均
性別
濃度 0.52 1.43 1.70 3.57 1.67 2.37 8.54 1.30 1.75 2.74



神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記U

H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告)

 2005年4月以降を詳細に記述します。
 県立学校施設整備に伴う化学物質対策検討委員会(以下県対策検討委員会)・保護者説明会(300名を越す参加者)・校内対策委員会(職員と保護者と教育財務課)・PTA対策委員会が事故対策を進めました。それぞれが、全力でがんばったのに、結果としては、事故対策として十全であったとはいえないように考えています。県対策検討委員会では、健康被害を受け、事故の事実をもっとも理解していた芸術科の職員は発言すら認められませんでした。 県教育委員会の思惑のとおりに、教育委員会の責任も追及されませんでした。事故の発生メカニズム・安全配慮義務に関する大きな問題の検討、健康被害者に対する具体的な支援も全くできていません。生徒の健康被害に関しては、個人情報を理由に健康被害生徒名は学校内でも知らされていません。職員は誰が体調不良なのかを、生徒が卒業した現在でも把握できていません。公務災害・労務災害に関しても、人権の問題として提訴したいような課題が続いています。
 不明確の問題を抱えたまま、改修工事は進められ、改修工事が終了した翌年の2006年5月には、音楽準備室でハンドベルのABS樹脂が溶けるという事態になりました。生徒や保護者の真剣な苦情は無視されました。

2005年4月25日(月) 1校時、体育館にて全校集会を行い、北棟3階の立入り禁止について説明。6校時終了後、私が南棟5階の1年6組のホームルーム終了後、西棟5階「部室倉庫」付近を確認したところ、廊下全体に漂っている異常なシンナー臭気に驚いた。管理職Bにすぐに連絡。多数の生徒が臭気に不快を感じた。管理職Eは教育財務課に出向き、緊急の対応を依頼。芸術科より管理職Eに、有機溶剤の名称と健康被害について生徒に連絡するよう要望したが、管理職Eは、この要望を受け入れなかった。合唱部の顧問が、健康調査をまとめ、2学年に報告した。

4月26日(火) 1校時、体育館にて全校集会を行い、西棟5階の緊急対応について生徒に説明。集会後、南棟5階で授業を受けていた1年生は家庭学習となり帰宅。4階の2年、3階の3年は平常の授業を行った。午後、有機溶剤の拡散を防ぐため、西棟5階「部室倉庫」、「国際理解準備室」、「男女トイレ」部分を石膏板で閉鎖する工事を行った。工事は保全協会が行った。
 管理職Eより保護者に『緊急対応に伴う家庭学習のお知らせ』を配布。芸術科より管理職Eに、再度、有機溶剤の名称と健康被害の例を生徒に連絡するよう要望したが、この要望を無視した。私ほか数名の職員は、管理職Eと緊急事態の対策について、4時間交渉した。

4月27日(水) 1校時、体育館にて全校集会を行い、西棟5階の臭気対策工事の行われたことについて生徒に説明。3校時、南棟5階1年の教室内に窓から異臭が入る。西棟4階、3階でも異臭があった。3階の選択E教室での書道の授業中に異臭があり、南棟2階多目的教室に移動して授業を行った。生徒の不安が増幅し、頭痛などの症状を訴える生徒が増加した。
 第1回県対策検討委員会が教育委員会内で開催後、保土ヶ谷高校にて事故現場を確認した。芸術科職員3名が応接室にて意見陳述を行った。芸術科として45頁の資料を提出。陳述時間は15分のみ。職員が陳述中に、委員長は、「あと2分」の発声をした。委員長はたえず時計を気にして、陳述を聞いていた。15分ちょうどで陳述は打ち切られた。委員会から、今回の有機溶剤汚染事故についての謝罪はなかった。きわめて形式的な委員会であった。保護者3名が同委員会の傍聴を要望したが、委員会は受け容れなかった。
 委員の職は、教育財務課長、教育財務課長代理、保健体育課副課長、保健体育課主幹、厚生課主幹など10名。委員から、謝罪・質問・意見は無かった。同委員会後、PTA会長、副会長、1年保護者及び芸術科職員3名と管理職E、管理職Bとの話し合いを行った。

4月28日(木) VOC検査が行われた。検査方法はアクティブ法吸引式、6物質。 検査対象は、音楽室、同練習室2室、同準備室、書道室、美術室、視聴覚室、西棟5階部室倉庫。17時から21時、今後の対応策を職員会議で議論。生徒は体調不調を訴え続けた。音楽室個別練習室にてキシレン=1000μg/m3を検出。基準値(870μg/m3)を超えた。音楽室、書道室で基準値に近い値が検出される。天井裏はキシレン=4000μg/m3〜2000μg/m3の値であった。 4月29日(金) 職員は、有機溶剤大量発生の対策作業を21時まで行った。

4月30日(土) 午後、職員は事故対応策を検討した。13時から17時

5月2日(月) 管理職Eより保護者に『保護者説明会のお知らせ』を配布。この通知によって初めて、原因物質「キシレン」「エチルベンゼン」の名称が公表された。体育館にて全校集会を行い、これまでの経過とシックハウスについて生徒に説明。体育館にて健康調査を実施。
 この調査で308名が体調不良を訴えた。情報公開で調査票を入手し確認したが、症状の訴えに関して、308枚中の63枚に黒塗りがあった。8行=2枚、7行=2枚、 6行=3枚、5行=5枚、4行=7枚、3行=12枚というように、生徒の健康被害の訴えは、個人情報を理由に現時点では非公開である。健康被害場所も1組、2組、3組というように有機溶剤発生源から100mも離れた教室でも訴えがあった。4階、3階、2階というようなフロアの違う場所でも、体調不良を生徒は訴えていた。
 南棟2階、生徒指導室、小会議室、入選資料室、進路指導室、多目的教室、数学科教材室、国語科教材室の教材を移動。17時から21時に事故対策について職員会議。

5月3日(火) 封鎖された南棟5階から、生徒机、椅子、ロッカーのすべてを2階に移動した。(専門業者) 朝日新聞「保土ヶ谷高校シックハウス 」、神奈川新聞「シックハウス症候群か」と記事掲載。

5月4日(水) 読売新聞「数十人 頭痛や吐き気 シックハウス症候群か」、日経「生徒ら数十人シックハウスか」、サンケイ 「横浜の高校でシックハウス症候群?」、 神奈川新聞「シックハウス症候群か」と記事掲載。

5月6日(金) 臨時休業(8月に授業振り替え)。神奈川県高等学校教員組合と県教育委員会との交渉が教育財務課で行われた(14時から15時30分)。参加者は教育財務課(課長、課長代理、技術班班長)、 保健体育課(2名)、高校教育課(2名)、 保土ヶ谷分会職員(3名)、組合本部(2名)合計12名。教育財務課は、原因物質の有機溶剤をコンクリート内に封じ込める改修工事案を押し付けた。コンクリート内の有機溶剤の残留量を減らす工事案ではなかった。17時から21時に、上記の提案について職員が対策会議。

5月7日(土) 14時から20時。第1回有機溶剤汚染事故保護者説明会が開催された。会場は体育館。県より教育財務課長、保健体育課長、高校教育課長出席。県会議員 2名。保護者は、県の示した案を差し戻し、改修工事に関し、責任ある立場の者の出席と具体的な回答を要求した。職員は21時まで対応した。

5月9日(月) 14時から職員会議。1年生は2階教室に移動し、個人物品を確認し、学年集会後にロングホームルーム。
 2年生、3年生は、学年集会後、ホームルーム。早稲田大学・T教授「改修工事について」職員に講演。教育財務課長が同席した。私は、T教授が事故の事実関係を詳しく理解していないという印象をもった。T教授は、「私学であれば、建て替え工事になるだろう。公立なので、改修工事になると考える」と発言した。有機溶剤簡易測定器を貸してくれると提案があったが、残念ながら何も行われなかった。カウンセリングのためスーパーバイザー(注)が来校。
注 学校カウンセラーの活動を支援し、指導する立場の心理臨床家。
 管理職EとPTAの保護者との会議が行われた。応接室で17時から22時の5時間、激論があった。

5月10日(火) 教育長が来校し、事故現場の教室等を視察した。教育長の来校の事実を職員が知ったのは5月26日(木)であった。当日は、全校生徒は学年遠足で、職員も引率で不在であった。被害を受けた職員から、直接話を聞くこともなかった。VOC検査が封鎖教室以外の12箇所でアクティブ法による採取測定(6物質)された。スーパーバイザー来校。

5月11日(水) 教育委員会より『保護者説明会における質問の回答』が届く。@本件にかかる情報についてはすべて公開。A新たに学識者等を追加することについては検討する。Bコア抜き調査(14.5センチの厚みがある屋上のコンクリートスラブを、有機溶剤がどの深さまで浸透しているかを調査するために、直径7.5センチの円筒状に機械でくりぬき、5層にカットして有機溶剤の放散速度を調査)は実施する。 C生徒・住民の安全を最大限配慮する。D定期的にVOC検査を実施する。検知管方式の簡易測定器を当分の間、学校に置き、その結果は速やかに知らせる。E卒業生の健康状態を把握したい。F健康診断については、公費負担について検討する。G屋上防水工事が発端となり結果として学校現場に混乱を招いたことについて、生徒・保護者・学校職員など関係者の皆様にお詫び申し上げる。健康被害を受けられた2名の先生(音楽担当と書道担当。私はこの時点で未だ診察を受けていない)についても県として出来る限り支援を行いたいと考えている。他。
 事故発生以来、教育財務課は、一度も文書での回答をしなかった。今回の回答書は、教育委員会から出たはじめての文書である。本日より、授業は特別時間割6時間となった。
 北里研究所病院・M先生の講演会「シックハウス症候群について」が行われた。20時から22時まで会議室で行われた(対象は保護者・教職員)。保健体育課長が出席。保護者30名、職員10名ほどが参加した。(M先生は北里研究所病院での診察の後、お疲れの中を22時まで、ご講演くださいました。心から深く感謝し、お礼申し上げます。)生徒=5月14日の振り替え休日。スクールカウンセラー2名来校。

5月12日(木) 生徒 臨時休業。VOC簡易検査実施。 5月11日に30分開放後閉鎖。測定法:検知管法122P ガステック社製)、ガス採取装置:GSP−300FT ガステック社製、吸引条件:200ml/分、30分間吸引、測定者:学校薬剤師I氏。*測定20教室すべてにおいて、トルエン、キシレン:検出限界以下。スクールカウンセラー2名来校。朝日新聞「308名体調不良訴え 有機化合物基準超す」 朝日新聞「県教委の対策に甘さ」。

5月13日(金) 生徒:臨時休業。スクールカウンセラー2名来校。神奈川新聞「不安消えず休校 改修工事あす提案 認識甘く対応に遅れ」と記事掲載。17時から21時に職員会議。

5月14日(土) 第2回有機溶剤汚染事故保護者説明会が開催された。16時から20時。会場は体育館。県より教育局・学校教育担当部長、教育財務課長、保健体育課長、 高校教育課長出席。県会議員2名出席。 県の示した改修工事案を基本的に受け入れる。教室配置について=1年生は南棟2階を使用する。北棟は3階に加え、2階も使用中止とする。授業について=芸術科の授業は、教室・教具の確保ができないので、他の教科に振り替える。 国立病院機構相模原病院(以下相模原病院)H先生の生徒向け講演会(13時から14時体育館)。H先生が合唱部員10名の個別相談・診察を行う(14時30分から15時30分)。朝日新聞「きょう保護者らに説明 改修や授業再開など」、読売新聞「あす授業再開」、神奈川新聞「あすから授業再開改修工事や生徒ケア対策示し」等記事掲載。職員勤務21時まで。

5月15日(日) 朝日新聞「原因校舎 全面補修へ あすから授業」記事掲載。

5月16日(月) 管理職EとPTA役員との話し合いに立会い(私19時から21時)。授業再開。県教育委員会が記者発表を明日か明後日に行うとの情報が高校に入る(実際にはなにも行われなかった)。

5月17日(火) 読売新聞「保土ヶ谷高校授業を再開」記事掲載。

5月18日(水) 第2回健康調査。神奈川新聞「汚染拡大の原因未解明」記事掲載。衆院決算行政監視委員会で公明党古屋範子議員の質問に対し、中山文部科学相が「保土ヶ谷高校のシックハウス症候群とみられる健康被害について、学校のシックハウス対策の基準や指針を都道府県教育委員会に通知しているが、しっかりしていなかった」と答弁。芸術棟、西棟5階に空気清浄機を設置する。合計10台。美術準備室に教材を取りに行くと、猛烈な臭気があった。清浄機は全く役に立っていなかった。

5月19日(木) 問診票による健康調査(全校生徒対象)。神奈川新聞「基準や指針徹底せず 衆院決算行政監視委員会での議論」、読売新聞「シックハウス対策強化」と記事掲載。

5月20日(金) 保土ヶ谷高校を松沢知事視察。生徒から悲痛な訴えを聴いたが、芸術科の職員からは知事自ら事情を聞こうとしなかった。

5月21日(土) 神奈川新聞「社説 原因究明も進めよ」、朝日新聞「シックハウス 県全施設に対策 知事 保土ヶ谷高校で陳謝」、読売新聞「保土ヶ谷高校シックハウス対策マニュアルを 視察の知事」、毎日新聞「体調不良訴え続出」と記事掲載。
 事故教室のコンクリートスラブのコア抜き検査のため、音楽室、書道室、部活倉庫の3教室のコンクリートスラブから3本ずつ、合計9本のサンプルを抜き取る。小型チャンバー試験(芸術科がコア抜きの調査を要請していた)。3本はダイヤ分析センターにてチャンバー試験を行う。5月31日分析開始。6月7日頃、結果が出る予定。6本は日本品質調査機構にて検査を行う。強度検査、組成検査。6月20日頃、結果が出る予定。

5月25日(水) 音楽室他内装等改修工事設計業務委託入札・契約。

5月26日(木) 生徒の臨時健康診断(全生徒対象=学校医及び応援医により実施)。学校薬剤師が1月17日に実施した西棟部活倉庫の検知管によるトルエン検査報告を、管理職Bが公表した。「トルエン=基準値よりやや多めに検出された。ただ、原因として閉切りの部屋で生徒の出入りがほとんどない状態と、記念祭使用後の絵の具、その他、化学物質が沢山放置してある状態なので、それによる原因と見なされる部分も多いと考察されたが」と。 西棟の教室環境の危険性を考えると、重大な検査結果である。管理職Bは、4ヶ月以上、検査結果を公表せず。4月の有機溶剤の大量発生を想定し、曝露を防ぐことができたはずであった。

5月28日(土) 13時30分から20時、PTA総会にて有機溶剤汚染事故が議論される。約8時間。教育委員会担当者は欠席した。PTAの要望を文書にし、PTA会長が県対策委員長に提出した。回答は6月6日(月)とする。(つづく)

※ 第17回裁判は、4月30日(火)13時10分開廷予定。横浜地方裁判所5階502号法廷。神奈川県横浜市中区日本大通9(みなとみらい線日本大通り駅から徒歩1分。JR京浜東北線関内駅・横浜市営地下鉄線関内駅から徒歩約10分)。裁判終了後、報告集会を開催予定。弁護団から現在の進捗状況の説明等があります。傍聴よろしくお願いします。



編集後記

▼4月16日午後、最高裁で1時間の間隔をおいて、水俣病被害者の認定に関する二つの訴訟(通称、溝口訴訟とFさん訴訟)にそれぞれ判決が下された。▼溝口訴訟は、認定を認めた溝口さん勝訴の熊本高裁判決を不服とする熊本県の上告を棄却する判決で、故溝口チエさんの認定が確定した。Fさん訴訟は、Fさん敗訴の大阪高裁判決を破棄し、審理を差し戻す判決で、今年3月に亡くなられたFさんの認定への道が開けた。▼最高裁の南門前では、多くの被害者とその支援者らが報道に囲まれて、固唾を飲んで判決結果を待っていたが、それぞれの判決結果が知らされるたびに、歓呼の声が上がり、法廷から出てきた被害者、支援者、弁護士らを拍手で迎えた。その場にいた私も感動を共有した。▼二つの裁判の焦点は、1977年に国が通知した基準に基づき「手足の感覚障害に加え、視野狭さくや運動障害など複数の症状の組み合わせを条件とする行政認定であった。▼最高裁の判決は「感覚障害だけの患者がいないという科学的実証はなく、認定の余地はある」として、行政の審査では救済の巾が狭すぎるとし、「症状の組み合わせがない場合でも、個別具体的な判断で水俣病と認定できる余地がある」として司法が独自に認定できるとの初の判断を示した。▼昨年7月に締め切られた特措法の救済には、約6万5千人が申請しており、特措法の対象外とされたり、申請をしなかった未認定患者らが、今後新たに裁判で認定を求める可能性がある。▼4月18日毎日新聞ウェブ版によれば、環境省の南川秀樹事務次官は18日、記者会見し、「判決で認定基準は否定されておらず、基準を変える必要はない」と述べ、40年もの長きにわたり、多くの被害者を認定せず、苦しめ続けてきたこの認定基準を見直さない方針を明らかにした。▼水俣病の長い歴史の中で、行政もチッソも責任を逃れ、補償対象者の拡大を恐れ、補償金額を抑えるために、数々の許しがたい行為をしてきた。▼最近の新聞報道によれば、Fさん訴訟で環境省が証言を要請した医師に対し、環境省の担当官が女性を水俣病と認めなかったのは妥当だと、本人の見解に反する虚偽の証言をするよう繰り返し求めていたことがわかった。医師は証言を断り、出廷しなかった。水俣病まだ終っていない。▼ピコ通信読者から、TPPが食の安全脅かす恐れがあるとする日本農業新聞4月19日の記事の紹介があった。▼日米両政府がTPP交渉と並行して協議を進めることで合意した9分野の非関税措置は長年、米国が改善を要求していたものがほとんど。衛生・植物検疫措置(SPS)も対象で、日本の食の安全を脅かす恐れがあるとしている。▼付属文書のSPS分野の項目で、米国が名指ししたのが (1)防かび剤や、人間が消費するゼラチン・コラーゲンに関する課題に取り組むこと、(2)食品添加物に関するリスク評価の迅速・簡素化――。いずれも世界貿易機関のSPS協定に基づく対応を求めている。▼一方、米国は今月1日に公表した2013年版のSPS報告書でも、防かび剤については、日本がポストハーベスト(収穫後)に使用する防かび剤を「食品添加物」と「農薬」の両方でリスク評価をしていることに対し、手間が二重に掛かり、新製品の認可を妨げていると問題視している。▼同報告書は、米国での牛海綿状脳症(BSE)発生を受けて日本が続けている、米国産の牛など反すう動物を原料とするゼラチンやコラーゲンの禁輸解除を要求。食品添加物については「米国や世界中で広く使われている添加物が、日本では認められていない」として規制緩和を訴える。▼TPPによりアメリカ様から様々なご指導があるが、食の安全の脅威もそれらからもたらされる弊害のひとつである。(安間 武)


化学物質問題市民研究会
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