ピコ通信/第175号
目次
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ふくしま集団疎開裁判意見書
福島の小児甲状腺がんの発生率は チェルノブイリと同じかそれ以上のおそれがある 松崎 道幸さん (深川市立病院内科・医学博士) 先ごろ、福島県県民健康管理調査検討委員会(座長:山下俊一福島医大副学長)は2011年度の調査で、甲状腺がんの子どもが既に3人、そして強い疑いのある子どもが7人いることを発表しました。この調査結果について、どのように評価したらよいのかについて、ふくしま集団疎開裁判の原告側意見書として仙台地方裁判所に提出された松崎道幸さんの意見書を転載します。委員会は「放射能の影響ではない」とほとんど断言していますが、意見書を読むと、一刻も早い避難が必要であることが改めてわかります。
意見書
1. 福島と同じ方法で実施された子どもの甲状腺検診データがチェルノブイリにある松崎 道幸 (深川市立病院内科・医学博士) 2013年2月19日 2013年2月13日、福島県県民健康管理調査検討委員会において、甲状腺検診を受けた18才以下の子どもたち3万8千人から3名の甲状腺がんが発見されたことが報道されました。 しかも、このほかに甲状腺がんの疑いのある子どもさんが7名おられるということです。したがって、原発事故から2年も経たないうちに、3万8千人の子どもたちから最大10名の甲状腺がんの発生が予測されるという事態になりました。この福島の数字が多いのか少ないのかを判断する上で、参考にできる調査があります。 それは、チェルノブイリの原発事故の5年後から開始された日本の医学者による被災地周辺の子どもたちの甲状腺検診結果です。 この検診の最初の詳しい報告は、1995年に山下俊一氏(現長崎大大学院医歯薬学総合研究科教授・福島県立医科大学副学長)、長瀧重信氏(長崎大学名誉教授)らが共同著者となった論文(以下「山下チーム論文」と記す)としてThyroidという医学雑誌に発表されています。 (【論文名】チェルノブイリ周辺の子どもの甲状腺の病気 【著者】Ito M, Yamashita S(山下俊一), Ashizawa K, Namba H, Hoshi M, Shibata Y, Sekine I, Nagataki S(長瀧重信) 【掲載誌】『Thyroid(甲状腺)』第5巻第5号、365〜8ページ、1995年)。 これは、事故時10才以下だったチェルノブイリ周辺の約5万人の子どもたちを対象に、事故から5〜7年後に初めて甲状腺超音波検査を行った結果を報告したものです。 このチェルノブイリ検診が、今回の福島の検診結果を解釈する上で参考になるのは、次の共通点があるからです。 @ 原則として調査地域のすべての子どもを検診対象とした。 A 超音波検査で直径5ミリ以上の結節性病変のある者を穿刺細胞診の対象者として選択した。 下表に、チェルノブイリと福島の小児甲状腺検診の概要および結果を示します。
**(福島民報)「新たに2人甲状腺がん 県民健康管理調査」 http://www.minpo.jp/news/detail/201302146637 2.福島の甲状腺がん頻度はチェルノブイリ周辺の高汚染地域と同じだった チェルノブイリの検診では、径5ミリ超の甲状腺病変を超音波検査で検出し、穿刺細胞診検査などで診断を行った結果、55,054名から4名(1万4千人に1人)の甲状腺がんが発見されました。 下記地図に山下チーム論文の調査地域と放射能汚染度を示します。同縮尺で、福島周辺の放射能汚染度も併置しました。 下表は、山下チーム論文の表1をもとに、地域別の超音波検診数と甲状腺がん発見数を示したものです。調査地区中最も放射能汚染の高度なゴメリ地区では8,949名中2名に甲状腺がんが発見されました。
3.福島調査では3名が甲状腺がんと確定 他の7名も甲状腺がんの可能性が極めて濃厚 20130214k0000m040061000c.html したがって、現在の時点で、福島では、1万3千人に1人が甲状腺がんを発病しており、もし、他の7名がすべて甲状腺がんと確定したなら、3千8百人から1人甲状腺がんが発生したことになります。 左図は、チェルノブイリ周辺と福島の検診人数を四角形で、確定甲状腺がん数を黒丸、甲状腺がん疑い数を灰色の丸で表示したものです。(図の左はゴメリ地区だけを表示) 原発事故数年後にチェルノブイリの高汚染地域(ゴメリ地区)では4千5 百人に1人が甲状腺がんと診断されました。しかし福島では原発事故後2年も経たないうちに、甲状腺がん確定例が1万3千人に1人、疑い例も含めると3千人に1人と、ゴメリ地区に匹敵する発生率になる恐れがあることが明らかになりました。 5. 山下チーム論文は、初期被ばくだけでなく、慢性低線量被ばくも甲状腺がん増加の原因であろうと正しく指摘していた 山下チーム論文は、チェルノブイリの小児甲状腺がんが、急性の直接被ばく(事故初期のヨード被ばく)だけでなく、その後の持続的低線量被ばく(放射性降下物による地表汚染)によって発生増加していると述べています。私もこの結論に同意します。 私たちが出来るのは、子どもたちにこれ以上の放射線被ばくをさせないことです。子どもたちを現状の放射線汚染地域に住まわせることを見直し、移住・疎開等を真剣に考慮すべきです。 【山下チーム論文367ページ右段本文最終段落(松崎訳、太字も松崎)】
結論
以 上
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編集後記
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