ピコ通信/第171号
発行日2012年11月22日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

ピコ通信171号(2012年11月22日発行)
編集後記 (エートス)

▼福島で今やられようとしている「エートス」は、放射能で汚染された福島で生活し続けるための放射線防護の文化(!)を住民自らの手でつくり出すという、一見善意に満ちたプロジェクトのように見える。しかし、10年前にチェルノブイリで実施された"お手本"は、そんなものとはまったく違うものだということを示している。

▼福島での実施団体は「福島のエートス」(代表は安東量子)、「たむらと子どもたちの未来を考える会」(半谷輝己)、そして、「福島ステークホルダー調整協議会」のようだ。同会の代表は何とあの安井至氏。農薬擁護の松永和紀氏、ICRP委員である丹羽太貫・京大名誉教授もメンバー。同会は「家族のリスクマネジメント勉強会」も開催している。この勉強会は半谷輝己氏を講師とし、放射線の健康影響について全国で開催。支部が東北関東8県、愛知・京都にある。この半谷氏は「おじいちゃんが釣ってきたアユが2万ベクレル!さぁ!1kgアユ食うか!ふきのとう1kgたべるか!はい、そういう事で、実は食べ物に関して言えば、ハーイ!結論が出ました。何を食べてもだいじょうぶ!」などと講演して周っている、福島エートスの伝道師ならぬ"洗脳師"のようだ。

▼同会は、今年8月に大阪府茨木市の小学5年6年生を福島へ連れて行って、桃の食べ放題をしたり、除染プラザを見学するというピーチプロジェクトを企画したが、ネットで知った人たちから非難が殺到して、中止になった。また、同じく8月に「心の汚染国際シンポジウムin福島」を開催予定となっていたが、開催したのかどうか分からない。事業目標には「多くの県民(国民)が放射能知識をより正確に共有し、不安の解消を目指しながら、「心の除染」を目指していきたい」とある。心の除染とは、放射能に対する不安を取り除くということ、つまり洗脳を意味するのではないだろうか。恐ろしい団体だ。

▼11月18日、福島県民健康管理調査で甲状腺がんの疑いのある女性(16歳〜18歳)が1人出たと発表された。9月11日には甲状腺がんが1人確認された、しかしチェルノブイリでは4年経ってから出てきたので、放射線の影響ではないと発表された。調査が進むうちに、次々と発見されるのではないかと心配である。そして、調査の実施機関である福島医大による説明会が県内で始まった。10ヶ所で行う予定で、郡山市、福島市、南相馬市で既に実施された。

▼説明会では、調査の責任者である鈴木眞一・福島医大医学部教授が講演、質疑応答が行われた。その中で鈴木氏は「甲状腺がんは若いほど進行が遅い。予後も良い」「福島はチェルノブイリよりも被ばく量が少ないので、甲状腺がんは起きない」「チェルノブイリではヨードが欠乏している。福島は過剰摂取だから甲状腺がんにならない」などと、医学者とは思えない発言をして物議を醸している。お笑いコンビのおしどりマコさん(3・11後、熱心に取材している)は甲状腺がんを発症した子どもについて「避難指定地域の道一本挟んだ隣です。なので、すごく汚染された地域で、それを避難せず3月11日以降ずっと住んでいた子がそうだったんですね。」と暴露している。

▼福島では、いま残っている人たちに対して、猛烈な洗脳の嵐、放射能が心配などと言えない周りの空気、そして依然として放射能の汚染が続いている。原発の即時停止・廃炉を求めることはもちろんだが、いま福島で起きていることを多くの人に知らせ、そして闘っている人たちを支えていくことが必要だと思う。毎週金曜日の午後5時〜7時、文科省前でのふくしま集団疎開裁判の人たちのアピール行動に参加している。

▼『八月の光』(偕成社)という本を読みました。作者は朽木洋という被爆2世の作家です。ヒロシマ原爆投下の後を生き抜いた10代の若者たちの物語三編です。若者たちは生き残った哀しみを記憶することで生きる力を得ようとします。ささやかで愛おしい日常を切り裂いたものへの怒りを感じました。小学5、6年から読めるので、お薦めします。今年の年末も"たたかい"ですね。
(安間節子)


化学物質問題市民研究会
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