6/17 水俣シンポジウム 「再々度、水俣病未認定問題を問う」
当研究会は水銀条約と国際NGOs の連帯を発表
■シンポジウムの主旨
“チッソと国の水俣病責任を問うシンポジウム実行委員会”主催のシンポジウム「再々度、水俣病未認定問題を問う」が、6 月17 日に東京のYMCAアジア青少年センターで開催されました。シンポジウムの主旨は、次のようなものでした。(シンポジウム開催お知らせのチラシから引用)
“水俣病はこの5月で公式確認から56年が過ぎましたが、2009 水俣病特別措置法による未認定患者の救済は、「7月末で受付締め切り」が強行されんとしています。不知火海対岸・天草では潜在患者への住民検診や申請呼びかけのさなか、特措法の申請者が月々増加する中での、見切り発車ならぬ見切り停車。1995 年に続き今度こその未認定問題決着をめざして国・環境省が標榜した「あたう限りの救済」は看板倒れで、三たび「未認定患者」を放置することになるのは必至です。
他方、2月に高裁で逆転勝訴した溝口チエさん棄却取消・認定義務付け訴訟に対しては、被告の熊本県知事が非情な上告。逆転敗訴により原告が上告した大阪のFさん訴訟ともども、最高裁の水俣病判断が再び問われる事態となっています。高齢の原告が裁判を更に闘わねばならないことには心が痛みますが、かくなる上は、国がひたすら護持し続ける35 年前の「水俣病判断条件」の狭隘さを、上告審でたださねばなりません。
<来る2013 年の国際水銀条約締結までに水俣病の幕引きを図りチッソ免責を果たす>という国・県の目算は、すでに破綻しています。東日本大震災の被災地や原発状況も息詰まる展開が続いていますが、今回は「水俣病未認定問題」という原点を、現地の皆さんや弁護団のお話からじっくり考えます。”
シンポジウムは、溝口裁判弁護団や現地支援者らの報告が中心でしたが、当研究会の安間 武は、“水銀条約案「汚染サイト」の問題と国際NGOs の水俣への連帯の報告”を行ないましたので、その概要を紹介します。詳細は、当研究会ウェブの「水銀問題/当研究会発表資料」に掲載のパワーポイントpdf 版をご覧ください。
■報告(1)水銀条約第14 条「汚 染サイト」
▼水銀条約制定の経緯/プロセス
国連環境計画は、2013 年の水銀条約締結に向けて、5 回の政府間交渉会議(INC1〜5)開催を決定、INC1、2、3 は既に開催済みです。本年6 月末からウルグアイでINC4 が開催され、当研究会はINC1、2、3 に引き続きこのINC4 にも参加します。
▼条約ドラフト・テキストの構成
水銀条約は下記のような主要条項からなっています。
A 前文
B はじめに
C 供給
D 水銀の国際貿易
E 製品とプロセス
F 人力小規模金採鉱
G 大気排出と水と陸地への放出
H 保管、廃棄物、汚染サイト(第14 条)
I 財源と技術的及び実施支援
J 意識向上、研究と監視、情報伝達
(以下省略)
▼INC3 の条約案第14 条(汚染サイト) 昨秋、ケニアのナイロビで開催されたINC3 において、討議用に示された事務局案は次のようなものでした。
(注:条約案には、多くのカッコ[ ]付きのオプションが示されています。)
- サイトを修復 [するよう努力しなくてはならない] [しなくてはならない]。
- 汚染サイトを特定・評価・優先付け・修復するための戦略及び方法論を開発し、実施するために、協力 [してもよい] [しなくてはならない]。
- 汚染サイト管理の原則に関するガイダンスを開発しなくてはならない。
▼INC3 第14 条案の問題点
INC3 第14 条案は上記のように、非常に“自主的”な要求であることに加えて、“水銀汚染被害者及び汚染サイトへの責任と賠償に関する記述がない”ことが重大な問題であると、NGOs は指摘しました。
▼INC3 コンタクト・グループの討議
INC3 の期間中に、重要条項を協議するためにコンタクト・グループ”が立ち上げられ、本会議終了後、主に夜に集中的に重要条項を討議し、その結果を事務局に提出しました。
第14 条に関するINC3 でのコンタクト・グループの検討結果は、INC3 案からさらに大きく後退し、水俣の教訓が反映されていない下記のような問題のある条項案となりました。
- 汚染サイトの修復についての記述なし
- 汚染サイトと被害者への責任の記述なし
- 被害者への補償の記述なし
- 汚染サイトの義務的調査の要求なし
▼INC4 の第14 条「汚染サイト」条文案
事務局はコンタクト・グループの討議結果、及びINC3 後の各国からの意見を取りまとめて、INC4 での討議のために、新たな条約テキストを提示しました。
INC4 討議用の第14 条「汚染サイト」の条文案の概要は下記のようなものです。
- 汚染サイトを特定し、評価するための適切な戦略を開発する努力をしなくてはならない。
- 汚染サイトのリスク削減は、[適切なら]、環境的に適切な方法で実施しなくてはならない。
- 汚染サイト管理の原則に関する指針を [採択しなくてはならない] [開発してもよい]。
- 汚染サイトを特定し、評価し、優先付け、管理し、[適切なら]、修復し回復するための戦略と方法論を開発し実施することに協力 [しなくてはならない] [してもよい]。
▼2012 年1 月23 日 市民団体共同声明
このように、INC3 における水銀条約第14 条案は、水俣の教訓が反映されていな
い非常に弱い条項となったので、INC3 終了後の昨年末、当研究会が中心となり、水俣病被害者互助会及びグリーン・アクションとともに、水銀条約に「水俣の教訓」を求める市民団体共同声明を、1 月23 日付けで外務大臣、経済産業大臣、環境大臣あてに提出しました。(ピコ通信161 号2012年1 月24 日発行を参照ください)。
この共同声明の要求骨子は下記のようなものでした。
- 汚染サイトへの責任と修復を汚染者に求める。
- 全ての被害者への責任と補償を汚染者に求める。
- 国と汚染者に被害の全貌解明のための徹底的で透明性のある調査を求める。
- 被害の原因と被害に関連する情報を全て開示することを求める。
環境省はこの共同声明に、INC4 への出発直前の6月22日、文書で回答がありました。内容については次号で紹介します。
▼「水俣条約」という名前に値しない!
日本政府は水銀条約に「水俣条約」という命名を提案していますが、現在の水銀条約案には「水俣の教訓」が反映されていません。また、水俣の問題もまだ終っていません。このような状況で「水俣条約」と命名するなら、それは水俣の被害者の尊厳を侮辱し、水俣の悲劇が二度と起きないようにするための水銀条約の権威を損なうものです。
■報告(2) 国際NGOs の水俣への連帯
水銀条約政府間交渉委員会(INC)の第1 回会合(INC1)からNGO として参加している当研究会は、水銀汚染による水俣の悲劇を二度と起こさないようにするために、シンポジウム開催、パワーポイント資料、写真展示、報告書、ポスター、メール発信、英字紙報道紹介など、様々な形で水俣問題について世界のNGOs に情報を発信してきました。
当研究会からの情報を受けて、世界のNGOs は、水俣の教訓を水銀条約に生かすことが水俣の被害者を敬うことであるとの認識の下に、INC1 以来一貫して水俣への連帯を表明してきました。以下にINCを中心に、当研究会の情報発信と国際NGOs の連帯の概要を紹介します。
▼原田正純先生の訃報を6 月12 日早朝、ネットワークを通じて水銀に関わる国際NGOs に伝えたところ、Rio+20 に関連してブラジルのリオで総会を開催していた国際POPs 廃絶ネットワーク(IPEN)から、総会参加者32 か国60 人以上を代表する弔意や、国際的に水銀問題に特化して取り組むゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)の共同代表からの弔意など、多くの団体/個人から心のこもった弔意をいただいたので、リストにして報告しました。
▼また、リオでのこのIPEN 総会の参加者らが、水俣への連帯を表わしたブルーとオレンジ色の長い布帯2 本を配置して納まった記念写真が送られてきました。ブルーは水俣の海、オレンジは水銀汚染の警告を意味するものであり、IPEN は2011年1月のINC2(千葉)と2011年10月のINC3(ケニア)で、胸への着用にデザインされた2色の水俣連帯リボンを参加者に配りましたが、今回は、特大のリボンをあしらって、改めて水俣への強い連帯を示してくれました。

写真:John Wickens/IPEN |
▼2010 年6 月にストックホルムで開催されたINC1では、当研究会はZMWGのブースに下記を出展しました。
- パワーポイントによる「水俣病と日本の水銀問題」を上映
- ポスター「水俣を忘れるな/患者と家族を敬え/日本の水銀輸出をやめろ」(ZMWG との共同制作/展示)
- チラシ「水俣の悲劇と水銀貿易禁止の必要性」ZMWG との共同制作/展示
▼2010 年12 月に、当研究会はINC2 に向けた国際NGO水銀シンポジウムを東京で開催し、日本側からは、原田正純先生の講演「水俣から学ぶ−50 年の歴史から」、谷洋一さん(水俣病協働センター理事)、佐藤英樹さん(水俣病被害者互助会会長)、佐藤スエミさん(水俣病被害者互助会)、そして当研究会の安間武の報告がありました。
海外からはジョセフ・ディガンギ博士(米)(国際POPs 廃絶ネットワーク(IPEN)科学顧問)と、リチャード・グティエレス氏(比)(バン・トクシックス代表/ZMWG)がそれぞれ、世界の水銀問題と小規模金採鉱について講演しました。
▼INC2(2011 年1 月、千葉)では、当研究会とZMWG はランチタイム・サイドイベントで、アイリーン・スミスさん(グリーン・アクション)、坂本しのぶさん(水俣病被害者)、谷洋一さん(水俣病協働センター)、そして当研究会の安間武が水俣の状況と水銀条約への取り組みについて世界中の参加者に報告しました。
▼INC2 サイド・イベントとして当研究会/ZMWG が「アイリーン・アーカイブ写真展」を主催しました。
▼さらに、INC2 のサイド・イベントでは水俣被害者団体及び支援者団体がIPENの協力を得て、水銀条約を“水俣条約”と命名するとする日本政府の提案に対して、水俣の悲劇にきちんと向き合い、本質的な
解決の道筋が示されない限り反対するとする声明を発表し、下記を求めました。
▽水俣病被害の全容の解明▽全ての被害者への補償▽汚染企業を擁護するのでなく、「汚染者負担の原則」の確実な実施▽水俣及び不知火海の水銀汚染の浄化▽被害者が地域社会で安心して暮らせる医療や福祉の仕組みの確立
▼INC2 の本会議では坂本しのぶさんがアイリーン・スミスさんの英語通訳で次のように感動的な発言をしました。
「私の名前は坂本しのぶです」、「私は胎児性水俣病です」、「水俣病は終わっていません」、「人は終わったといいますが、終わっていません」、「政府は、水俣病のことをもっとよく学んでほしい」、「水俣病が二度と起こらないようにしてください」、「どうぞ、よい水銀条約を作ってください」。
▼INC2 のNGO 会議室でIPEN は「水俣被害者団体を支援する国際連帯声明」を発表し、IPEN 共同議長による署名式を行いました。この声明は、英語版|日本語版|ロシア語版|アラビア語版|スペイン語版が発表され、INC2 の期間中に、42か国のNGOs 72 団体が賛同署名しました。
▼INC2 とINC3 の間の2011 年6 月、IPEN と当研究会が中心となり、世界のNGOs16 団体が水俣に連帯を示す下記プラカードを掲げて各国で写真をとるキャンペーンを実施し、IPEN の水俣支援キャンペーンのウェブ・ページに写真を掲載しました。Honoring Minamata:(水俣を敬う)http://ipen.org/minamata/
- 水俣を敬い、被害者を敬え
- 全ての被害者を補償せよ
- 水俣の水銀汚染場所を浄化せよ
- 水俣病の全容を解明せよ
▼2011 年 10〜11 月のINC3(ナイロビ)では、本会議前のIPEN 主催NGO 準備会合で、当研究会は、水俣の補償問題の動向、水俣湾の水銀汚染ヘドロ埋め立ての問題と八幡プールの問題などについて紹介しました。また、NGOs ブースにはIPENとZMWGがそれぞれ当研究会と共同で制作した水俣関連ポスターを展示しました。
▼本年6 月末からウルグアイで開催されるINC4 に向けて、坂本しのぶさんから次のようなメッセージをいただきました。
“加害責任の検証、全ての被害者への補償、水俣湾などの水銀ヘドロ埋め立て問題、水俣病の全容解明など、水俣病はまだ解決していません。被害者を苦しめることのない、強い水銀条約にしてください。”
IPEN は、この坂本しのぶさんのメッセージとINC2 での坂本さん(日本)とフェルナンド・ルグリス議長(ウルグアイ)の写真をあしらったポストカードを検討中でありINC4 会場で配付する予定です。
(文責:安間 武)
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