ピコ通信/第156号
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食品安全委員会が
放射性物質の食品健康影響評価案発表 生涯累積線量限度は100ミリシーベルト 7月26日、食品安全委員会の放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループは、食品中に含まれる放射性物質の健康影響評価の案を発表しました。 http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000077759 これは、東電福島第一原発の爆発後の3月17日、厚生労働省が決定した「食品に含まれる放射性物質の暫定規制値」の見直しに必要な影響評価をするために4月から9回にわたって検討されてきたものです。 「暫定規制値」は、3月17日に厚生労働省から、それを超えたら食用にしてはならない、という食品衛生法の準暫定的な基準という扱いで発表された数字です。それまでは、水についてはWHOのガイダンスレベルを採用し、食品では輸入食品に関する暫定限度が使われていました。 しかし、3月17日の暫定規制値が設定されると、それまで水ではヨウ素10ベクレル/リットル(以下Bq/l )、セシウム(137と134合計)20Bq/lだったものが、ヨウ素300 Bq/l、セシウム合計200 Bq/lへとそれぞれ30倍、10倍に増やされ、牛乳ではヨウ素131で220Bq/lだったものが、300Bq/lおよびセシウム200Bq/lになり、全ての食品についてセシウム-134とセシウム-137の合計値が370Bq/kgだったものが、野菜、穀類、肉類それぞれ500Bq/kgとなってしまいました。野菜については新たにヨウ素131で2000Bq/kgが追加されています(末尾表参照)。 日本で、法律に基づいて適用されてきた被曝量の上限は、年間1ミリシーベルト(以下 mSv)(外部被曝、内部被曝あわせて)です。しかし暫定規制値が前提としているのは、年間被ばく線量(実効線量)17mSv(ヨウ素131 2mSv/年、セシウム、ウラン、プルトニウムそれぞれ5mSv/年)という恐ろしく高い被曝量であり、このような高い規制値を長い間適用することは許されません。 この「暫定規制値」は原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を用いたもので、設定にあたりリスク評価を経ていませんでした。4月から9回にわたり、ワーキンググループがリスクを検討してきた結果が、今回出された食品中に含まれる放射性物質の健康影響評価の案です(現在パブリックコメントの手続き(募集)中。詳しくは文末をご覧下さい) 影響評価の案では、「放射線による影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量として、おおよそ100mSv以上と判断した」と結論され、「小児に関しては、より影響を受けやすい可能性(甲状腺がんや白血病)があると考えられる」と付け加えられています。この健康影響評価の問題点を検討するにあたり、私たちはまず、 ▼本来、何人も、放射能汚染に曝露すべきではなく、そうした汚染による放射性物質は本来一切摂取すべきでないこと ▼十分な科学的情報が入手できない場合には予防原則に立つべきであること この二つを基本として確認しておきたいと思います。 公表された評価書案の、特に健康影響評価については次のような疑問、問題があると考えます。 ■閾値に関する記述について 評価書案では、累積線量100mSv以上で影響が見いだされるとし、それ以下の影響について述べていないが、発がん性をもつ物質には閾値がないとするのが従来の考え方であり、放射線量に関しても閾値のない線形モデルが主として用いられてきている。よって、この評価案の中で閾値があるする根拠を提示していない以上、閾値はない(どんなに低量であっても危険がある)ということを前提とすべきであり、それを明記すべきである。 ■100mSv以下の影響について 累積で100mSv以下の線量における影響については、チェルノブイリ原発事故後に各地で起こっている人体影響や原発労働者の健康影響をはじめ、近年次々と報告が上がっている。しかしこれらについて、評価書案で参考の対象にされていないものも多い。 また、この評価書で扱っているのは生涯という時間枠である。評価書には明記されてはいないが、70年を想定すれば、原発労働者の追跡調査やチェルノブイリ事故後25年の間の被害調査ではまだ判らない影響がある可能性も考慮して、より低い値を設定する必要性も議論すべきだったのではないだろうか。国内でも過去にがんを発症して労災認定された原発労働者10人のうち9人は累積被ばく線量は100mSv以下だったことも考慮に入れる必要がある。(毎日新聞 2011年7月26日 東京朝刊) ■内部被曝の危険性について 生涯累積実効線量としてシーベルトで提示されている評価値だが、食品規制は通常ベクレル値で示される。内部被曝に関しては、ICRPの評価は十分に危険性を評価していないとの批判があることから、単純にICRP勧告にもとづいてシーベルト・ベクレル換算を行うことには疑問がある。内部被曝のリスクを大きくとった研究について、例えば欧州放射線リスク委員会(ECRR)の低レベル曝露リスク評価モデルなどを積極的に健康影響評価に採用すべきである。 ■影響を受けやすい集団について 小児が影響を受けやすいことについて言及があるものの、評価書の結論のみではどのようにリスク管理を行うかを判断するには不十分であり、今後不適切な振り分けがなされる危険性がある。しかも、妊婦(胎児)に至っては全く言及がない。十分な評価をする情報がないのであれば、予防原則にたち、摂取・曝露すべきでないと明記すべきである。 ■放射線量の評価−生涯100mSvについて 日本で従来から法律に基づいて適用されてきた被曝量の上限は、年間1mSvだった。生涯を70年と仮定すると、1.43mSv/年を許容することになり、従来より増えてしまう。増加させるのであればその根拠を示すべきである。 生涯の被曝上限を設定するという考え方は重要であると考えるが、同時に年間線量の上限を設けなければ、今年中に20mSvを超える大量の被曝をすることを容認する恐れがある。また、100mSv/年でも安全だというアドバイザーを置いている福島県では、一年間に一生分の被曝が容認されることになりかねない。同じ放射線量であれば一時に大量曝露する方が危険であるとされており、そうなった場合にその後の生涯でその人の被曝を低く(あるいはゼロに)することを担保できる施策がなにも無いというのが現実である。 生涯の上限に加えて、1年毎の上限(現在の1mSvより高くしない)を決め、小児期、妊娠時など、影響を受けやすい時期にはより低く設定した上で、原発事故によって大量に被曝したと考えられる人への、今後の累積線量低減に言及すべきである。 なお、評価書案に関する食品安全委員長コメントでは、100mSvの被曝を一生涯のうちにどう振り分けるか、は、リスク管理機関(→厚生労働省)に委ねるとされている。しかし、こうした振り分けはリスク評価と密接につながっているので、まるごとリスク管理機関に任せるのは無責任である。 パブリックコメントを8月27日まで募集しています。URL http://bit.ly/mZXYFQ この評価は、今後厚生大臣へ答申され、厚生労働省で食品の規制値の見直しのために使われますが、厚生労働省の担当課(基準審査課)に6月に問い合わせた時には「健康影響評価の内容によっては、暫定規制値を変更しないこともあり得る」という返事でした。 健康影響評価の段階で、予防原則にたった判断を求めるとともに、市民の関心が高いことを示すことは、現在のひじょうに高い暫定規制値を放置させないために重要だと思います。残り日数は少ないですが、皆さんで意見を出しましょう。 (関根彩子)
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クリス・バズビー博士講演会 (下)
独立した組織による健康被害調査が必須 ■日本政府の評価は外部被ばくのみ 被ばくには外部被ばくと内部ひばくがあります。内部被ばくには吸入のほかに食べもの、飲みものの摂取によるものがあります。ところが、日本政府は、健康被害の評価はほぼ100%外部被ばくによって行っています。ガイガーカウンターを使って外部線量を測った場合、マイクロシーベルトの数字が上がるということは、空気中に放射性物質が存在するということを意味します。その空気中に漂っている物質が体内に入ってくる可能性があるのです。 私は、調査に車のエアフィルターを使っています。車は私達と同じように空気を吸っています。だから、どのくらい空気を吸っているかということを走行距離、エンジンの大きさから計算できます。人の肺の中を調査するのは難しいですが、エアフィルターなら見ることができます(エアフィルターには、ヨウ素のガスや小さい粒子は引っかからないが、半分ぐらいの核種が引っかかると思う)。 今までに、4台の車のエアフィルターを見ています。1台は千葉-東京間を100日間走り続けた車、そして福島第一原発から100キロ圏の3台の車です。福島の車のエアフィルターの上にガンマ測定器を置くと、すぐにセシウム134と137がはっきりと見えます。福島原発の爆発後たった180キロしか運転されていない車です。人間の目は、可視光線しか見られません。福島原発の近くを歩いても、特別の変化は見られないでしょう。放射性物質は目に見えないから、こういう様子は危険なのです。 千葉市の車のエアフィルターの中にも、福島の車と同じ核種がありました。こういう研究から、空気中にどのくらいのホットパーティクル(高放射性微粒子)があるのか計算ができます。 簡単に測定できるのはセシウムですが、フィルターの中には福島第一原発から出てきた色々な核種が入っているわけです。ガンマ線を測る精密な測定機器で、どのような核種が入っているか簡単に分かります。 さらに、α核種を測定する装置を開発しました。特殊なプラスチックを使ってフィルターに当てると、α粒子の飛跡と濃度を推定できます。エアフィルターには、α線を放出する核種であるウラン、プルトニウム、ラジウムなどが入っていることがわかりました。 一つ一つのポツポツがどのくらいのエネルギーがあるかというと、大体500ミリシーベルト。大きなポツは、直径0.5ミリくらいで肉眼で見えます。机の上のほこりのような感じで見え、手で除けたり、風で飛ばされるかもしれない。ほこりのようで、まったく害がないように見えますが、ひじょうに危険性があります。 福島の車のフィルター中のセシウム(2.7ミリベクレル/m3)は、世界で核実験をしていた頃の濃度と比べて、大体1,000倍くらいです。千葉市の車のフィルターのセシウム濃度は、60年代の核実験時の空気中の最高濃度と比べると、大体300倍くらいということがわかりました。 人間が、これらの車と同じように空気を吸い込んだ場合の線量を計算することができます。セシウムだけの計算ですが、0.3〜0.5ミリシーベルト程度でした。色々な核種が空気中にはあります。昔の核実験後の空気中の核種と同様なものが福島や千葉の空気に存在していると仮定すると、吸い込んだ線量は20ミリシーベルト程度になりました。 ■200キロ圏内で40万人のがん発症増加 少し前に、福島事故によるがん発生率についての推測を立ててみました。日本政府が発表している外部放射線量を使って、地表面にどのくらいのセシウム137の汚染があるかを、ある変換係数をつかって計算しました。スウェーデンのトンデル博士が、100ベクレルあたり11%、がんの発生率が増加したことを実証しています。ガイガーカウンターで、自分の周りのマイクロシーベルト/時間を計ることができますが、それを基に変換率をかけて、ベクレル/m2を計算できます。 福島第一原発事故からの2マイクロシーベルト/時の地域の面積が分かると、がんの発生率の予測ができます。人口統計と外部放射線量から、どのくらいの人が危険に曝されているかが計算できるのです。(計算方法について、論文はインターネット上にあるので参照されたい) 100キロ以内(2マイクロシーベルト/時)の人口3,338,900人のうち、トンデル博士のモデルでは10年以内にがんになる人の増加数は103,329人、ECRRのモデルでは50年間で191,936人という予測となります。 100キロ〜200キロ(1マイクロシーベルト/時)では、トンデルモデルでは10年間に120,894人のがん発症者の増加、ECRRモデルでは50年間に224,623人の増加となります。これに対して、ICRPのモデルでは、3,320人とひじょうに少ない数となっています。
2、3週間前、国連の健康被害と放射性物質に関する委員会の長になった人が、これから福島での健康被害の調査をすると発表しましたが、「ほとんど何も影響がないことが分かるだろう」と発言しました。何が見つかるかということを、調査を始める前から発表しているわけです。 チェルノブイリ事故後の国連の調査と同じような調査をすれば、何も見つからないでしょう。健康被害の隠ぺい工作が起きることが予想されます。福島県で、いくつかのグループと共同で第三者的な独立した健康被害調査を行っていきたいと思っています。 ICRPモデルはがんだけが対象ですが、ECRRのモデルはがんだけではなく、色々な健康被害を予測しています。放射線被ばくは、心臓病、糖尿病、ほかの広範囲の病気と症状に影響を与えるからです。特定できないような老化現象といわれるものも含まれます。そのことは、チェルノブイリ事故の健康影響研究から分かります(下のリスト)。 チェルノブイリ後に見出された内部被曝影響
■独立した健康被害調査の立ち上げを! いくつかの提案をしたいと思います。 ▼まず、現在1マイクロシーベルト/時以上の線量がある地域から住民を避難させるべきだと思います。この値は、国連の"汚染された土地"と同程度の汚染レベルです。また、チェルノブイリ事故後、当局が決めた避難すべき地域の汚染レベルと同じです。 それ以外の土地では、通常のバックグラウンド線量以上であれば汚染されていると見なし、外から汚染されていない水と食料を持って来なくてはなりません。 ▼放射能で汚染された状態は、人々が攻撃されたのと同じとECRRは考えます。だから、人々は賠償されなくてはならない。事故の責任者、つまり原子力産業の人たちが払わなくてはならないのです。 ▼次に、独立した健康被害調査を立ち上げて、将来の賠償裁判のために色々なサンプルを集めなくてはなりません。 原子力産業と政府を弾劾しなくてはなりません。福島原発事故後については、科学的に調査するひじょうに良い機会となっています。チェルノブイリ事故後はきちんとした調査がなされていないので、福島事故調査基金を設立することを提案したいと思います。これは、日本の問題だけではなくて、全世界の問題ではないでしょうか。だから、基金は国際的に集めるのがいいのではないかと思います。 ▼汚染地域に住む人たちが適切な判断ができるように、様々な測定をしなくてはなりません。福島第一原発から20、30、40、50、100、・・・キロに大きなフィルターのようなものを設置して、空気中の汚染度を調査すべきだと思っています。2週間ごとにフィルターの布を分析して、重要な核種、プルトニウム、ウラニウム、ストロンチウム、セシウムなどの値をインターネットで公表すべきだと思います。 ▼今、福島第一原発の原子炉がどのくらいの放射性物質を放出しているかというと、1日約10億ベクレルと発表されています。これはひどい災害なので、緊急に何とかしなくてはなりません。壊れた原子炉を早く環境から遮断するために必要な資金を、世界から集めなくてはならないのではないかと思います。世界規模の災害ですから。最初から「たいしたことはない」などと言っている科学者を、逮捕して裁判にかけてもおかしくないのではないかと思います。 (まとめ:安間節子) |