ピコ通信/第155号
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6月30日 避難促進・自主避難者支援を求める対政府交渉
国民の声を大きくして、避難支援を実現させよう 福島原発事故の状況は、政府のステップ1達成との評価にもかかわらず、依然として不安定でいつ再爆発してもおかしくない危険な状態が継続しているとする見方が、海外専門家等から聞こえてきます。 福島県の放射線空間線量は低下してきていると、福島県や国は言いますが、地域が汚染され続けている状況は好転していません。 そうした中、6月30日(木)に「避難促進・自主避難者支援を求める対政府交渉」が行われました。本紙153号(本年5月23日発行)で紹介した「20ミリシーベルト撤回政府交渉」に続く交渉です。(主催:子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク、福島老朽原発を考える会(フクロウの会)、国際環境NGO FoE Japan、グリーン・アクション、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)、国際環境NGO グリーンピース・ジャパン) 会場の参議院議員会館講堂には、福島からの参加者を含めて250名が参加しました。当交渉の趣旨は以下です。
政府側からは、経済産業省/原子力被災者生活支援チーム/放射線班(以降経産省)、内閣府/原子力安全委員会事務局(以降安全委員会)、文部科学省/科学技術・学術政策局/原子力災害対策支援本部/モニタリング班(以降文科省)等から13名です。 ■質問と回答(概要)
住民(特に子どもや妊婦)の被ばくをできる限り減らすということへの国の対策は、無いも同然です。そのような意志すらも全く感じられないというのが、交渉の感想です。 それどころか、国は、被ばくではなく、補償をできるだけ少なくするように、対策しているのではないか。そうでなければ、この段階で避難区域の縮小などを言い出すわけがありません。福島県は、一時避難や林間学校の費用支援も県内に限っているという情報があります。できるだけ、県内に留め置きたい。県外に避難している人たちも、戻らせたい・・、そのような意図が透けて見えてきます。 続いて、7月19日に初めて福島現地で行った政府交渉では、原子力災害現地対策本部室長・佐藤暁氏は、住民の訴えを前に、「自らの判断で避難するのは結構だが、国が安全だと認める所については、留まって頂く」と発言したということです。許せません。 福島の子ども達は即刻避難させるべきですが、個人では経済的、社会的に無理があります。国民の声を大きくして、避難・疎開をさせていかなくてはなりません。(安間節子) |
クリス・バズビー博士講演会 (上)
ICRPモデルは内部・低線量被ばくに無効 この度、ECRRの議長であるクリス・バズビー博士が「ふくしま集団疎開裁判の会」の招きで来日し、福島、千葉、東京で講演をされました。7月20日の東京での講演会に参加したので、講演内容の概要を紹介します。 ■重要なのはDNAでの放射線の密度 私は20年間、放射線被ばくに関する研究をしてきています。この40年間くらいの間に、放射線は低線量でもかなり深刻な健康被害をもたらすことが分かるようになりました。 放射線の標的は、細胞の中のDNAです。染色体の中のDNAは、細胞に何をするか指令を出す情報の図書室のようなものです。電離放射線はDNAに変異をもたらします。 健康被害は、がん、白血病、出産の異常など多数あります。 放射線は吸収線量で測定されます。しかし、健康に関わる重要な量は、細胞内のDNAでの電離密度です。吸収線量はあまり大きな問題ではなく、直接DNAに出している電離放射線のエネルギーが問題なのです。だから、福島原発の事故について、飛行機に乗った時の放射線量と比較しても意味がありません。 ■ICRPのモデル 現在の放射線と健康被害についてのベースは、広島・長崎についてのICRPのモデルです。このモデルでは、広島・長崎で1回だけ受けた大量の被ばくでの、ガンマ線の吸収線量とがんの発症数が、線量ゼロから比例する直線となるグラフとなっています。この方法は、体のすべての細胞が同じ線量を受けるであろうという推測に基づいています。 しかし、内部被ばくにおいては、そのような想定は有効ではありません。体の各部で放射線吸収密度が違うからです。火の前で体を温める時(外部被ばく)と、火の中から熱い石炭を口に入れる時(内部被ばく)、吸収線量は同じですが、明らかに大きな違いがあります。
ECRRが気がついたのは、内部被ばくは外部被ばくと同じ計算方式ではモデルができないということです。 ラットの肺の中の写真ですが、ホットパーティクル(高放射性粒子)、プルトニウムの粒子です。粒子の近くは高い線量だが、少し離れると低いです。こういうことのために、ECRRは新しいモデルを開発したのです。 私達は、ウェールズとイングランドについて核実験による「死の灰」(放射性降下物)の影響を調べました。死の灰は、チェルノブイリ事故や福島事故から放出された放射性物質と似ています。セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウムなどの核種が出てきています。ウェールズは海に近く雨が多いので、死の灰が多く降りました。それは、イギリス政府によって計測されています。 核実験後、がんの発生率がウェールズでは、イングランドの3倍でした。(線量では1〜2mSv)。それは、ICRPモデルでの計算値の約350倍でした。つまり、350倍のエラーであったということです。これは大きな数字ですが、ホットパーティクルなどを考えると、理論的に説明できます。 1980年代終わり頃には、チェルノブイリ事故の影響について調査をして、ICRPモデルは違うという証拠がたくさん出てきました。 ECRRのモデルは2003年に発表しました。このモデルは、スウェーデンでチェルノブイリ事故による汚染によって癌がどれだけ増加したかという2004年の調査によって実証されました。 原子力施設周辺における小児白血病についての我々の調査からも、ICRPモデルの誤りは証明されています。そのエラーは350倍〜1000倍であることがわかりました。小児白血病発症の線量は、1mSv〜0.1mSvしかありませんでした。 今の日本になぜそれが重要かというと、福島第一原発から100キロ〜200キロの人たちがそのような線量を受けていて、内部被ばくにもなっているからです。 ECRRモデルは、疫学的な調査、細胞生物学研究等で広範に支持されています。 ■ICRPモデル編集者が間違い認める ICRPリスクモデルは1952年に基礎ができましたが、その当時、DNAはまだ構造が分かっていませんでした。このモデルは、科学者のコミュニティでは大きな恥となってきていると思います。なぜ世界のほとんどの政府がICRPモデルを採用しているかというと、軍事・原子力産業の力が強いからだと考えられます。一番新しい2007年の勧告において、チェルノブイリ事故についての言及はほとんどありません。また、モデルが間違っていると指摘するピアレビューを受け出版された多数の論文も無視しています。 長年ICRPモデルの編集者でICRPの科学の長であったジャック・バレンティンに、彼が退職した2009年にストックホルムで会いました。 そのときの話し合い(ビデオに撮られており、インターネットで見られる)において、彼はICRPモデルの内部被爆に関しては、エラーが最大900倍にもなる可能性があると認めました。このことから、福島事故による健康被害の予測には利用できないということがわかります。そして、チェルノブイリの証拠を見ずにモデルをつくったことは、間違いだったと公に言っています。 ■低線量でがんや幼児死亡率増加 ウェールズにおけるがんの発生率とストロンチウム90の増加のグラフです。線量そのものは0.2mSvと非常に低いです。 ウェールズとスコットランド地方における赤ちゃんの生後1年間に小児白血病にかかった数のグラフです。チェルノブイリ事故翌年の1988年に3-4倍に増えています。チェルノブイリからの死の灰が、0.8mSvと低線量でも乳児達に与えた影響から、ICRPのモデルが間違っている何よりの証拠です。 放射線はがんの発生だけでなく、幼児死亡率も上げます。それは、大気圏核実験が行われた52-63年の幼児死亡率や、ウェールズのストロンチウム90と幼児死亡率の関係で証明されています。自然放射線に近い非常に小さな線量で被害が出ているのです。 ■トンデル博士の研究 スウェーデンのマーティン・トンデルという若い先生が、1988-2004年の北スウェーデン市町村での、人口調査をしました。その結果、セシウム137の濃度とがん発生率の間に重要な相関関係があることを見出しました。セシウム137だけでがんが起きているわけではありませんが、セシウム137は簡単に測定できて、他の核種が同時にあるということが分かるので放射線量の指標となります。 その結果、トンデルは当局によって研究からはずされました。彼の上司ラーズ・ホルムは最近までICRPの議長だった人物で、スウェーデンの国民健康管理の長に就任しました。 チェルノブイリからの汚染は、様々なガス(放射性ヨウ素、テルリウムなど)とセシウム137のような核分裂生成物を多量に伴うウラニウム燃料粒子からのものです。 事故1か月後にキエフを訪れたイギリス女性のスカートからの放射線の写真です(右)。X線フィルムを直接スカートに接写したものです。同じような粒子が、東京と福島から送られてきた車のエアフィルターから検出されています。 (次号につづく) (まとめ 安間節子) |