ピコ通信/第154号
発行日2011年6月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 福島県アドバイザーの「安心・安全」に二本松市長が異議 「国民が判断する」
    福島大学準教授らも要望書
    1. アドバイザー山下俊一教授
    2. 二本松市 三保恵一市長
    3. 福島県知事宛 福島大学 12人の準教授による「要望書」
  2. 5/24 ケミネット・シンポジウム―今こそ化学物質政策基本法の制定を 市街地・公共施設での農薬被害について(千葉県在住 CS発症者)
  3. 有害物質被害者、環境NGOs、科学者らがWHO に二つの環境病 MCS と EHS の公式な認知を求める
  4. 海外情報/C&EN Latest News 2011年4月13日 EPAはジイソシアネート類を標的にしている
  5. 調べてみよう家庭用品(44)食品添加物 (3)
  6. お知らせ・編集後記


福島県アドバイザーの「安心・安全」に二本松市長が異議 「国民が判断する」
福島大学準教授らも要望書


 今回の福島原発事故で、国、県、東京電力、御用学者等は、情報を隠蔽し、地震・津波が想定を超えていかに大きかったか、チェルノブイリに比べていかに事故は小さく、汚染も少なく、安心・安全であり、原発がないと電力不足で大変なことになり、電力料金も上がる−等、国民を脅すことにより、脱原発の高まりを抑え、原発推進政策が影響を受けぬよう、あらゆる努力をしています。

 6月18日には、海江田経産相は「原発安全宣言」をし、全国の立地自治体に原発再稼動の要請をしました。多くのマスコミも程度の差はあれ、様々な形で世論が脱原発に傾かないよう"自粛"しているように見えます。

 本稿では震災後、このような状況の下に、福島県が任命したリスク管理アドバイザー(山下俊一・長崎大学教授)が福島県各地で行なった「安心・安全」講演と、その内容に異議を唱えた二本松市の三保恵一市長の決断、及び福島大学準教授12名の「福島県知事への請願書」を紹介します。

 二本松の三保市長は、山下教授が国の言うことを守ることが国民の義務であると繰り返し説いたことに対し、▼大事なことは、国や政府ということではなくて、政治の主人公は国民一人ひとり、主権在民、国民があらゆる判断、行動の基準でなくてはならない−と述べました。このことは、4月29日に東京で開催された「終焉に向かう原子力第11回」の講演で、小出裕章さんが話された▼自分に加えられる危害を容認できるか、あるいは、罪のない人々にいわれの無い危害を加えることを見過ごすかは、誰かに決めてもらうのではなく、一人ひとりが決めるべきこと−という内容と本質的に同じです。


1. アドバイザー山下俊一教授

 東電福島第一原発の事故後、福島県は長崎大学や広島大学の原発推進学者らを放射線健康リスク管理アドバイザーとして任命し、アドバイザーらはクライシス(危機)・コミュニケーションと称して、福島県各地の講演会で「安心・安全」を説いて回りました。

■山下教授 3月21日福島市での講演会質疑応答での安心・安全発言
(福島県ホームページ「福島県放射線健康リスクアドバイザーによる講演会」に基づく)

  • 環境の汚染濃度が100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響を及ぼさない。5とか10とか20とか言うレベルでは、どんどん外で遊んで問題ない。(注)
  • 数マイクロシーベルトなら屋外に洗濯物を干しても全く問題ない。
  • 水道水で問題になるのはヨウ素だけであり、半減期は8日と短い。
  • 地下水に到達するまでに半減期でなくなっている。数メートル以下の地下水は全く問題ない。
  • セシウムは食べ続けても全く問題ない。
  • 少量の慢性被曝の影響は非常に低い。
  • 外部被曝に比べて、内部被曝の方が10分の1、リスクは少ないが、外部被曝と同じ基準で議論するので、今の基準は安全側に厳しく作られている。
  • 放射線の影響は、ニコニコ笑っている人には来ない。クヨクヨしている人に来る。
(注):福島県はホームページで、「質疑応答の『100マイクロシーベルト/hを超さなければ健康に影響を及ぼさない』旨の発言は、『10マイクロシーベルト/hを超さなければ』の誤りであり、訂正し、お詫びを申し上げます。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんと述べている。

■山下教授 5月3日の二本松市での講演
(YouTube『山下俊一氏講演 5月3日二本松市』に基づく)
http://www.youtube.com/watch?v=k5Dv8AC-lwQ&feature=related 他
  • 放射線以外にも遺伝子を傷つけるものは、化学物質や人工着料色など山のようにある。傷ついた遺伝子は直る又は除去される。
  • 国が指針を提示したのだから、国民は国の指針に従う義務がある。
  • 年間100ミリシーベルトの累積線量 以下では、発がんリスクは証明できない。だから不安をもって将来を悲観するよりも、今、安心して、安全であると思って活動しなさい。
  • 今でも100ミリシーベルトの年間積算線量でリスクがあるとは思っていない。これは日本の国が決めたことである。
  • 当初は数値が提示されなかったから、単純に10マイクロシーベルト以下になれば、そんなに心配はいらない。1マイクロシーベルト以下なら全く心配ないと言ってきた。
  • しかし国は20ミリシーベルト(年間積算線量)をもって3.8マイクロシーベルト/hを出したから、その値を測って、そのレベルを遵守することが重要である。
  • 皆さんと話してきた当初はクライシス・コミュニケーションといって危機をいかに未然に防ぐかという話をしてきた。
  • 先ほどの質問で、二本松は危険だから逃げろというのはとんでもない話である。日本のレベルは全く心配ない。その保証に首をかけろというならかける。
  • 皆さんはここに住んでいる。住み続けなくてはならない。

2. 二本松市 三保恵一市長
 5月3日に二本松市で、山下俊一アドバイザーの講演会が開催されました。この講演会を主催し、講演を傍聴した二本松市の三保恵一市長が、山下俊一氏の講演について、取材(Our Planet TV)で述べた内容を紹介します。(YouTube OurPlanetTVのインタビュー5月27日に基づく)
  • 福島原発事故で放射能が漏洩してから76日が経過したが、現在も進行中である。
  • 土壌汚染についても文部科学省の発表によれば、二本松市は30万から60万ベクレルという状況である。
  • これはチェルノブイリでの原発事故の避難区域となった55万5千ベクレルに匹敵する。あるいはそれを上回る地域もある。
  • 国にホールボディカウンターによる検査を要請してきたが、まだそのような段階にいたっていないとのことなので、市民の健康と安全のために市独自でホールボディカウンターによる検査、被曝調査を実施することを決定した。
  • 検査の結果、被曝していなかったということを一番に願っているが、その結果について、必要があれば市長として、あらゆる事態に対処していかなくてはならない。
  • また二本松市というひとつの自治体だけでなく、この中通地域は同じような状況に置かれているので、一緒に、子どもと市民が安全を確保できるよう国に求めていく。
  • 放射能に対してどう向き合うのか、どう対処するのかが大事である。そのような立場で、県のアドバイザーである山下先生に、お忙しい中をおいでいただいて、講演会を開催させていただいた。
  • 放射能から身を守る健康リスクについて、お話いただいた。その中で気になったことがあった。それは放射能について国が、政府が決めたことは、それを守っていくことが国民の義務であるという主旨の話を何度も強調された。
  • 私は、東電のこの事故、そして放射能漏洩放出は、現在までの経過を見て、これは天災ではなく、人災であると判断している。
  • 日本の原子力発電所は安全である。チェルノブイリの発電所、スリーマイルの発電所と日本の原発は違う。世界一の技術で作っているので安全だ。3重の壁、5つの防護をしているので大丈夫だと聞かされてきた。そのような中で、安全神話が絶対的となっていた。
  • 山下先生は原爆投下を受けた長崎県の長崎大学の先生だということで期待していたが、先ほど申したとおり、政府の言うこと、国の言うこと守ることが国民の義務であるという主旨のことを言われた。
  • 私は二つのリスクがあると思う。ひとつは肉体的なリスク、もうひとつは精神的なリスクである。山下先生はどちらかというと精神的な健康リスクを強調したかったのかなという、いい意味での捉え方もある。
  • 精神的なものはもちろんだが、放射能から直接、どう守っていくかということが大切である。
  • 大事なことは、国や政府がということではなくて、政治の主人公は国民一人ひとり、主権在民、国民があらゆる判断、行動の基準でなくてはならないということである。
  • 国民がそういう時代に置かれている。福島県民や二本松市民が置かれている。そのことに対して、放射能から市民や県民や国民をどう守っていくかということが問われており、大事なことなのだと考えている。
  • そういう意味では、福島県のこのアドバイザーの発言の中には、これでいいのかとの思いと、このような話がなされたことについて、主催者としての責任を感じている。
  • 科学者として、原理原則に基づいて、誰が言うからではなくて、一番大切な真実は何なのか、真実をやはり話していただきたい。
  • その真実に対して、どう対処していけばよいのか、どう身を守ったらよいのか、それらについては、国民は高い見識を有していると確信している。
  • だから、今大切なことは、都合の悪い情報はできるだけ出さないようにしようとか、隠蔽しようというような、そんな意思があるなしにかかわらず、国民からそのように取られる行為はすべきではない。
  • 都合の悪い情報こそ、いち早く情報を公開して、国民とともに歩むということでなくてはならないと考えている。
  • 3.11を境に、新たな安全・安心、経済尊重から人間尊重、人間優先、地球や環境と共生できる、持続可能な美しい、豊かな未来を築く。その歴史の分水嶺であると判断している。
  • また、そうした歴史の分水嶺にしていかなくてはならない。そうすることが、この地震や津波や放射能によって失われた多くの尊い命、また今も尚、行方不明になっている多くの方々、そういう犠牲になられた皆さんに応える唯一の道であると確信している。

3. 福島県知事宛 福島大学 12人の準教授による「要望書」
 福島大学の準教授12名が、佐藤雄平・福島県知事に、現アドバイザーの山下俊一氏、高村昇氏、神谷研二氏とは異なる立場の学者を招聘すること等、7項目の要望からなる要望書を6月5日に提出しました。
 原発王国福島県及び、経済産業省とともに原発推進の旗頭である文部科学省に逆らって、長期・低線量曝露と内部被曝の重要性を考慮して、要望書を出した12人の勇気ある準教授に敬意を表します。
 また、福島県のNGO「子どもたちを放射能から守る 福島ネットワーク」は「山下俊一の解任を求める県民署名」のキャンペーンを開始しました。
 なお、福島県は、県民の被ばくによる長期の健康影響を疫学的に明らかにするために調査検討委員会を発足させましたが、その座長になんと山下俊一氏が就任しました。
 チェルノブイリで多くの被害者と事故との因果関係を認めず、1991年にチェルノブイリ安全宣言を出したIAEA事故調査委員会の委員長は悪名高い放射線影響研究所(*)の元理事長、重松逸造氏であり、山下氏は重松氏の直弟子であると言われています。
(*):アメリカが原爆投下後、設置した原爆傷害調査委員会(ABCC)の後身

以下に7項目の要望を示します。

【要望1】 福島県は、低線量被ばくの健康影響に詳しい専門家として、次の二つの立場の学識者をそれぞれ放射線健康リスク管理アドバイザーとして招聘してください。
(1)被ばく量が少なくなればリスクは減るものの、どんな低線量でもリスクはゼロでないとする立場
(2)内部被ばくのリスクを重視し、低線量であっても決してリスクは小さくないとする立場

 この二つの立場は、低線量被ばくの健康影響はほとんどないと主張する現アドバイザーの山下俊一氏、高村昇氏、神谷研二氏とは異なるものです。低線量被ばくの健康影響についての様々な見解を県民に示すことは、県民をいたずらに不安にさせるという懸念があるかもしれません。しかしながら、一面的な情報だけを流し、見せかけの「安心」を作り出しても、長い目でみれば、県民の健康を守ることにつながるとは思えません。
 低線量被ばくの健康影響に関する専門家の見解は定まっていないという事実がある以上、県民ひとりひとりがその事実を受け止め、考え、議論していかなくてはなりません。
 そのための下地を作ることは、県行政の重要な役割であるはずです。医療現場におけるセカンド・オピニオンの重要性が指摘されているように、様々な立場のリスク管理アドバイザーに意見を求める機会を県民に与えることは、むしろ、県民の健康を守るうえで有効であると考えます。

【要望2】 福島県は、県民の被ばくによる長期の健康影響を疫学的に明らかにするために調査検討委員会を発足させ、その座長には、低線量被ばくの健康影響はほとんどないと主張してきた山下俊一氏が就任しました。この人選のプロセス及び根拠を説明してください。

【要望3】 先の調査検討委員会を含め、今後行われる疫学調査につきましては、研究計画、データ、分析過程を細やかに公表するとともに、調査結果の正当性に対する第三者による評価体制を整えてください。疫学調査の結果が、仮に、これまで健康リスク管理アドバイザーが発言してきた内容と食い違うものになったとしても、その結果が正しく公開されるよう透明性を確保することが重要であると考えます。第三者によるチェック機能により透明性を確保することの重要性については、今回の事故における原子力安全・保安院や原子力安全委員会の独立性に関する教訓などからも明らかです。
 なお、長期の疫学調査の必要性は否定しませんが、県民の健康チェックは、何よりもまず、県民の被ばく線量を少しでも低減し、健康を維持するために行われるべきであると、我々は考えます。

【要望4】 福島県は、公衆の被ばく線量が年間1mSv 以下に収まることを短・中期的な目標とし、それに基づいた具体的な除染計画(表土の除去、高圧洗浄など)を迅速に作成し、公表してください。
 国際放射線防護委員会(ICRP)が福島原発事故を受けて表明したコメントでは、公衆の被ばく線量限度は年間1mSv であり、20mSv はあくまで非常時に暫定的に許容されるレベルであることが示されています。つまり、行政は、子供が長時間過ごす学校などを優先的に除染するのはもちろんのこと、すべての地域に住むすべての住民の被ばく線量が年間1mSv を下回るように努力し続けなければなりません。
 ただし、余計な被ばくは少なければ少ないほどよいという観点から、我々は、究極的には、平常時のバックグラウンドの放射線レベルに戻すことが理想であると考えております。県としても、長期的には、医療を除く人工線量をゼロにすることを目標に据え、諸策を講じてください。

【要望5】 福島県は、県民が外部被ばくをどれだけ受けているかチェックできるような体制を早急に整えてください。具体的には、モニタリングポストの拡充、ホットスポットマップの作成、バッジ式線量計の配布、サーベイメータ式線量計の配布または貸与、といった策を迅速に講じてください。

【要望6】 福島県は、県民が内部被ばくをどれだけ受けているかチェックできるような体制を早急に整えてください。具体的には、ホールボディカウンター(WBC)の県内病院への設置及びその支援、ならびに無料検診サービスの整備を、迅速に進めてください。

【要望7】 福島県は、県民が日常生活を送るうえで余計な被ばく(内部、外部とも)を避けることができるように、県民に向けたガイドラインを作成してください。また、被ばくを避けるためのマスク等の日常品を配布してください。

(文責:安間 武)


5/24 ケミネット・シンポジウム―今こそ化学物質政策基本法の制定を
市街地・公共施設での農薬被害について

(千葉県在住 CS発症者)


 私は、十数年前に当時住んでいた団地で、斜め上の部屋の漏水と結露によって傷んだ壁の補修や塗装がきっかけで、化学物質過敏症を発症しました。私が発症してからは、生活全般にわたって有害なものに曝露しないよう心がけて生活してきましたが、3人の子どものうち、長女だけが約4年前に小学校の書道で使用する墨汁がきっかけで発症してしまいました。
 娘は、教室にワックスを塗布しない、換気をする、農薬散布を行わないなどの学校の様々な対応のおかげで、頭痛などの症状はあるものの、現在はあまり休むこともなく通学しています。
 本日は、CS発症者の一母親として、特に農薬の散布による被害についてお話したいと思います。

■保育園の砂場の上の桜にも農薬散布
 数年前の話になりますが、休日に子どもが近くの公園で遊んでいたところ、急に気分が悪くなり、帰ってきました。その後、鼻血がでて、なかなか止まりませんでした。何が原因かその時はわからなかったのですが、後日、50メートルほど先にある保育園で桜の木に農薬を散布していたことがわかりました。
 その桜の木の下は砂場になっています。散布翌日から園児が遊ぶところで、有機リン系農薬が散布されていたのです。 屋外の植栽や家庭菜園などには「住宅地等における農薬使用について」や「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」があります。
 これには、害虫の早期発見、物理的防除(捕殺や剪定,焼却)の優先、定期散布の禁止、散布の事前周知などが書かれています。しかし、散布当時、市の保育園を管理する担当課はこの通知もマニュアルも知らなかったことが後にわかりました。
 樹木等への薬剤散布による健康被害は、CS発症者だけに限られたものではありません。
 先日も、娘が下校途中、庭木に薬剤が散布された直後と思われる家の前を通ったとき、娘だけでなく、一緒にいた同級生も気分が悪くなったといいます。自宅周辺で散布された薬剤が原因で頭痛や吐き気がするという人は私の周りに何人もいます。その人たちの症状は軽く、私達発症者と違って散布場所から離れると症状が改善することから、公共機関に相談することなくすんでしまいます。しかし、間違いなく、健康被害はおこっているのです。

■図書館など施設内でも農薬散布
 問題は屋外だけではありません。施設の中でも薬剤が使用されています。
 2年ほど前のことになりますが、近くの図書館に行ったところ、入ってすぐに嫌な感じがしました。娘も変なにおいがすると言ってすぐに図書館を出ましたが、体がだるくなり、起きられなくなってしまいました。このときもすぐにはわからなかったのですが、後に有機リン系の農薬が使用された翌日だったことがわかりました。
 図書館は幼児や児童も頻繁に利用する施設です。そういう施設内でPRTR法第1種に指定されているような危険な薬剤を使用してもよいものでしょうか。
 建物内については、2003年に改正された「建築物衛生法」では、生息調査が義務付けられています。また、「建築物における維持管理マニュアル」には日常的に乳幼児がいる区域では、薬剤散布を避けることなどが書かれています。それが、周知徹底されていないのです。

■千葉県内22市町調査でも違反事例
 このような例は少なからずあります。
 私が参加している「有害化学物質から子どもの健康を守る千葉県ネットワーク」では、千葉県内の22市町に使用している化学物質(主に農薬)についてのアンケートを行い、冊子にまとめました。
 これをみると、事前に周辺に周知することなく、農薬が散布されていたり、1000倍に薄めて使用しなければならない農薬を800倍の濃度で散布していたり、有機リンを2種類混ぜて散布していたり、公民館などで施設全体に年2回漫然と定期的に同量を散布していたりといった事例がありました。
 昨年、CS発症者で国に要望書を提出したときにも、農林水産省の担当者は「農薬は適正に使用すれば、安全で何ら問題ない」との一点張りでしたが、その適正使用すらされていないのが現状です。

■有機リン系農薬が85%占める
 また、使用されているのは、圧倒的に有機リン系農薬です。今年、私が参加している「生活環境を健康にする会」では、千葉県の県立学校と県立公園における農薬の使用状況を調査しました。これは、その内の県立学校の使用状況です。計158校のうち、農薬の使用は92校でした。その使用農薬をグラフにしたものがこれです。有機リン系農薬(青色部分)は、全体の85パーセントも占めています。
 昨年5月にアメリカの小児学会誌に「有機リン系農薬を低濃度でも摂取した子どもは、ADHDになりやすい」と発表されています。他のアメリカの大学の研究でも、母体内で曝露した子どもは就学年齢前後のIQが低くなるともあります。さらに、EUでは、その危険性からほとんどの有機リン系農薬が使用禁止になっています。
 日本でも、PRTR法第1種に指定されているものや劇物に指定されているものがたくさんあります。
 このように危険な農薬を、未来ある子ども達の身近な場所で使用してよいものでしょうか?

■通知・マニュアルでは限界、法制化を
 一方で、無農薬での管理を何年も前から実施している自治体(岐阜市や西東京市など)もあります。施設別にみれば、千葉県内でも、大きな総合公園などで施設内外全て、農薬や殺虫剤を使用せずに管理しているところもあります。やれば、無農薬での管理は不可能ではないのです。
 先ほど申し上げた通知やマニュアルがしっかりと守られれば、日本中の空気環境はずいぶん良くなると思うのですが、周知徹底されていません。通知やマニュアルでは拘束力がなく、限界があります。
 私の友人の住む住宅街では、今月、近隣の100軒ほどの家の庭木に農薬散布をしました。長年、習慣的に自治会が取りまとめて1業者が散布しているようです。害虫と呼ばれる虫の発生如何に関わらず、次回は7月と既に決まっています。これは、住宅地通知で禁止されている定期散布にほかなりません。友人が住宅地通知や環境省のマニュアルをもって交渉しても、なかなか理解が得られないようです。
 やはり、法制化し、罰則を設けることが必要ではないでしょうか?
 現代の私達の周りには数限りなく化学物質があり、生活から切り離して考えることはできなくなっています。化学物質の海の中で生活しているようなものです。当然、子ども達も一緒です。
 この資料(注)をみるとわかるように、臍帯(臍の緒)からは、ダイオキシン類、PCB類、DDT、DDE、HCH、クロルデン、HCB、水銀といった環境汚染物質が100パーセント検出されます。つまり、生まれる前、胎児の時から有害な化学物質にさらされているのです。

注: 第6回千葉大学予防医学センター市民講座「環境省のエコチル調査について」千葉大学・環境健康フィールド科学センター戸恵美子氏資料

 私の子どもの友達の中には、ホームセンターへ行くと鼻水が止まらなくなる子、家具屋に入ると頭痛がすると言ってすぐに外に出てしまう子、車は窓を開けないと気分が悪くなる子、プールの塩素処理室の前で咳き込む子、新築に転居し、喘息が悪化した子といろいろな子どもがいます。
 しかし、自分の子どもにこのような症状が少しくらいあっても、有害な化学物質が原因だと結び付けて考える方はなかなかいらっしゃいません。化学物質過敏症というと、とっても特別なもの、自分や自分の子どもには関係がないことだと考える方が大半だからではないでしょうか。
 この子ども達が、現状のまま有害な化学物質に曝露され続けると、化学物質過敏症の発症リスクは限りなく大きくなります。いつ発症してもおかしくない状況なのではないでしょうか。
 私の子どもの通う小学校では、一昨年から体育館と校舎で耐震工事が行われています。この工事が始まってから、食物アレルギーが悪化した子、喘息が悪化した子がいます。さらには、化学物質過敏症を発症してしまった子もいます。学校の工事については、文科省の規制値が6種類ととても甘く、問題もたくさんあります。これについても考えていただきたいことがたくさんあります。

■トキを守るのと同じように子どもを守って!
 現在、環境省では、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)をはじめていますが、この結果がでるのは何年も先になります。今の子ども達はその結果を待っていることは出来ないのです。
 新潟の佐渡では、トキを守るために、有機農業が推進されていますが、子ども達を守るために、殺虫剤を止めようとはなかなか言われません。鳥のためにできることは、子ども達の未来のために、もっと考えるべきではないでしょうか?
 発症してしまった子ども達は、パソコン室に入れない、理科の実験が出来ないなど、日常の学校生活にもおおきな制約がある中で生活しています。ましてや、将来のこととなると、進学や就職といったことで、発症者であるがゆえに、あきらめなければいけないことがたくさんあります。このような子どもをこれ以上増やさないために、予防原則に基づいて、早急に、あらゆる対策をとるべきではないでしょうか?


有害物質被害者、環境NGOs、科学者らが
WHO に二つの環境病 MCS と EHS の公式な認知を求める

■ICD 10 とは
 世界保健機関(WHO)には、死因や疾病の国際的な統計基準のための分類として、疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)(略称 ICD)というものがあります。 現在の最新版は、1990年の第43回世界保健総会で採択された第10版で、ICD-10 として知られています。(ウィキペディア ICD 10)  多くの国は国内版 ICD 10を持っており、日本では、厚生労働省の下、一般財団法人 医療情報システム開発センターが管理する「ICD10対応電子カルテ用標準病名マスター」がこれにあたります。  ある疾病がICD 10 に加えられるということは、その疾病が公式に認められたということになり、重要な意味を持ちます。

■化学物質過敏症と電磁波過敏症
 世界中の化学物質過敏症患者や電磁波過敏症患者は、この疾病が精神的なものではなく、身体的な疾病であることをWHOや国家が正式に認めるよう強く望んでいますが、化学物質過敏症MCSも電磁波過敏症EHSもWHOのICD 10 には加えられていません。
 しかし日本では、多くの患者や支援団体の働きかけにより、2009年10月1日に化学物質過敏症が、分類コードT65.9(その他及び詳細不明の物質の毒作用,詳細不明の物質の毒作用)として標準病名マスター(ICD-10)に加えられました。また、シックハウス症候群は2002年にT52.9(有機溶剤の毒作用、有機溶剤、詳細不明)に登録されています。
 化学物質過敏症が国内版ICD 10 に加えられているのは、日本以外ではドイツ、オーストリア、ルクセンブルグだけであり、電磁波過敏症はどこの国のICD 10 にも登録されていません。
 このような状況の下に、スペインとイタリアの団体が中心となり、化学物質過敏症(MCS)と電磁波過敏症(EHS)を WHO のICD 10に登録するよう要請するために WHO 事務局長宛の手紙を起草し、世界中のNGOs及び専門家(研究者/医師/看護師/法律家など)に呼びかけて賛同署名を募りました。
 日本では当研究会が賛同署名をとりまとめ、専門家12名と、MCS/EHSの患者及び支援16団体が賛同の署名をし、スペインの団体に提出しました。スペインとイタリアの団体は5月13日にジュネーブに行き、WHOの担当者に世界中から集まった賛同署名を添えてWHO 事務局長宛の手紙を手交しました。(ピコ通信第153号(2011年5月))

■WHOとMCS/EHS患者・支援者団体の会談
 スペインの団体から5月13日のWHOとの会談の内容が報告されたので、その概要を報告します。
WHO側出席者:
マリア・ネイラ博士:WHO 公衆衛生環境部門ディレクター
アンネ・プルス−ウスツン博士:WHO 公衆衛生・環境部門チームリーダー
イワン D. イワノフ博士:WHO 労働衛生、公衆衛生・環境部門 T. ベディルハン・ウスツン博士:WHO コーディネータ:分類・用語・標準、健康統計・情報部門
ナダ・オセイラン氏:WHOコミュニケーション担当、公衆衛生・環境部門

MCS/EHS患者・支援者団体側出席者:
アヌンシアシオン・ラフェンテ博士:ビゴ大学教授、スペイン毒性協会(AETOX)副会長
ジュリアン・マルケス博士:多種化学物質過敏症及び電磁波過敏症を専門とする臨床神経学者/神経生理学者
イサベル・ダニエル氏:看護師、神経生理学専門
ジャウメ・コルテス氏:ロンダ弁護士会メンバー、労働法及び環境病(MCS/EHS)専門の弁護士、スペイン全国多種化学物質過敏症認知委員会メンバー
ソニア・オルテガ氏:環境専門の弁護士
フランシスカ R. オリアンド氏:イダリアの連合組織 AMICA 副代表
フランシスカ・グティエレス氏:スペインの連合組織 ASQUIFYDE 代表、スペイン全国多種化学物質過敏症認知委員会メンバー

【ジャウメ・コルテス氏 NGO】
 多種化学物質過敏症(MCS)及び電磁波過敏症(EHS)に関するいくつかの基本的な問題点を提起することにより発言の口火を切った。
  • MCS と EHS は現実の健康問題である。
  • このことを確認する証拠がある。
    ・医学的診断。
    ・曝露と疾病の因果関係を明確にする検査記録。
    ・その存在を確認する科学的研究がある。
    ・これらの疾病についての欧州議会による認知と、本日提出された文書一式中の証拠文書がある。
    ・この証拠を支持するスペインにおける200の判例がある。
    ・スペインで患者のための(経済的)補償を得ている。
  • 私たちは、これらの疾病をWHO 国際疾病分類(ICD)に含める必要があると考える。それは、WHO 国際疾病分類(ICD)にこの疾病についてのコードがないために、この疾病の法的認知を難しくしているからである。
【ジュリアン・マルケス博士 NGO】
  • 患者が直面している問題のひとつは、これらの病理について、ほとんど、あるいは全く知られていないために、医療関係者の理解が不足していることである。
  • MCSについては、発症の原因は、多くの場合に有機リン農薬である。ほとんどの患者は中毒症状がないので、中毒ではない。臨床的症状は曝露によって現れ、患者がその毒性源を回避すれば、症状は消える。
  • MCSは、複数の器官(系)の疾病であり、約90%のケースで神経系に影響を与える。頭痛、まひ、筋力低下、めまいのような症状のある重要な認知神経科学的な疾病があり、全ては、気管支系、心臓血管系、ホルモン系など複数器官疾病である。女性には一般的に生理周期の異常がある。
  • 低用量の物質であっても、炎症、ほてり、頭痛などの臨床学的問題を引き起こす。環境不耐症(Environmental Intolerance)がWHO 自身によって認知されている。
  • 化学物質又は電磁界放射への反応は、それぞれの患者によって期間が多様であり、症状もまた異なる。患者が再び曝露すると、通常、症状は悪化し、新たな症状を示す結果となる。
  • MCS 及び EHS のどちらの診断も臨床的である。MCS の場合には臨床医に役立つテストである QEESI 問診票が使用できる。このテストを通じて患者の症状を客観化することができる。
  • これらの診断は、完全な中枢及び末梢神経試験、神経生理学的な試験(脳波(EEG)、視覚誘発電位、聴覚脳幹誘発電位、体知覚電位、認識電位、神経画像(特に頭蓋及び脳下垂体 MRI 及び SPECT))、特定の分析研究、ホルモン研究などが必要である。
  • これらの疾病(MCS と EHS)のプロセスは慢性的であり、もし患者らがタラゴナ(スペイン北東部)石油化学工業地域近辺のような有毒環境に住めば、あるいは携帯電話アンテナなどのあるところに住んで電磁界放射に曝されれば、彼らの状況は悪化する。患者らは曝露を避けなくてはならない。
  • 患者らが、疑いを解き、相談及び社会的職業的支援を受け、タイムリーに診療報告書を受け取れる臨床的診断センターを持つことが極めて重要である。
【ウスツン博士 WHO】
  • 1948年以来、WHOは国際疾病分類に責任があり10年毎に分類の見直しを行なってきた。現在、WHOは2015年までに完成すべく次のレビュー作業を行なっている。
  • WHOは、ある疾病と環境問題との間に存在する関連について承知している。現在、ある疾病について含めるか/含めないかに関する激しい議論があり、WHOは現在起きている論争を認識している。
  • 2010年版は、ある専門家グループによって作成された。2001〜2009年の年次レビューは締約国の保健省の出席の下に専門家グループによって行なわれた。このモデルは、国の代表だけが参加することができ、その提案は実際の必要に対応していないと言われ、広く批判された。我々は作業の方法論を見直し、一方、必要性を尊重し、仮想のプラットフォームを通じて公衆の参加を許可した。
  • ICDは、科学的証拠の文書であり、発表された科学的研究について非常に明確な方法論に従って検証している。いくつかの要件は、因果関係、病因論、診断テストなどである。
【ラフェンテ博士 NGO】
  • 基本的科学における彼の経験から、両方の疾病(MCS と EHS)が認知され、ICDに含まれるべきとすることの妥当性を示す科学的論文があることを示した。
【ウスツン博士 WHO】
  • 改訂版は科学審査委員のグループによって行なわれている。第一に、どれが環境病であるのか、それらが職業病であるのかどうか知らなくてはならない。そして二番目に発症のレベルを数値で示さなくてはならない。 【フランシスカ・グティエレス氏 NGO】  ドイツ、日本、オーストリア、ルクセンブルグが自国の ICD で MCS を認知したのに、残りの国は認知していないのはどういうわけか。このことは、国によって、また患者の間に不公平な状況を作り出す。 【ウスツン博士 WHO】
  • ICDは世界レベルのものであるが、それでも全ての国は自主権の実施に基づき、必要な変更をどのようにしてもよい。
  • 2011年5月16日に、このレビューにおける非常に包括的な最初のドラフトが完成し、2012年5月までにもっと詳細なドラフトが作成されるであろう。2015年、世界保健機関総会で結果が発表されるであろう。
  • 作業の過程で、これらの疾病をどこに配置するかについて科学的な議論が行なわれるだろう。医学的専門性に関して、特に MCS と EHS の場合、複数器官の疾病なので具体的な病因をどこに分類するかについて合意がなく、これは複雑な問題である。
  • ドラフト分類はオープンで透明性があり、情報はWHOのウェブサイトから入手可能である。 【フランシスカ・グティエレス氏とフランシスカ R. オリアンド氏 NGO】
  • 科学的証拠から、これらの病理が器官由来であり、後天的であることが示されており、この証拠からのみ適切な解決が見出され、またこれらは予防可能な疾病なので予防への活動に有用である。 【フランシスカ・グティエレス氏 NGO】
  • 子どもや、学校の問題を含んで、影響を受ける若い人々が増えている。この問題はこれらの疾病の発症の性差、女性の生殖機能と母親が特に妊娠中と授乳中に曝露した有毒物質を子どもに伝達することに関連している。
【フランシスカ R. オリアンド氏 NGO】
  • MCSに関するWHOのポジション・ペーパーがあるか? 【ネイラ博士とウスツン博士 WHO】
  • 私が知る限り、関連部局にはそのような文書はない。 【ネイラ博士 WHO】
  • 関連団体は、ICD11 に取り組んでいる世界中のWHOの様々な作業部会との連絡をぜひ確立するよう提案する。
【フランシスカ・グティエレス氏 NGO】
  • MCSとEHSは、影響を受ける人々が小人数であるということではなく、まったくその反対である。我々は、すでに診断を受けた人々の数の多さに直面しており、MCSは人口の12%〜15%の人々が化学物質の存在に何らかの被害を受けている。EHSでは、影響を受けている人々の数は、人口の3〜6%であるが、これらの数も増加している。

■NGO代表団のいくつかの所見
  1. ICDを更新するためのルールが変更になった。以前は国家の保健関連代表だけが参加できた。現在は、新たなコードを開発するための参加に関して、有益な仮想的プラットフォームを通じて、もっとオープンになった。"WHOキャンペーン2011"から、両方の疾病について、調整され、合意された基準の下に、世界中のワーキング・グループが参加をすることができる。

  2. 我々は、 MCS と EHS の存在を示す十分な科学的証拠があり、すでにICDで認知されている他の諸国と同様に、アクセスコード(ICD)を持つことは特に大きな問題とはならないと信じる。肯定的に評価させるために、WHO手法に従って情報を系統化しなくてはならない。

  3. 我々は神経系症状が最も重要であるということを忘れてはならないが、恐らく、最も微妙な部分は、MCSとEHSはともに複数の器官(系)の疾病であり、分類上、異なる分野(医学的特殊性)に配置される可能性がある。我々は、ICDにおける分類を含んで、これらの新たに出現している疾病に対するいくつかの疑問に答える新たな医学的パラダイムを確立する必要がある。

  4. WHOは、これらの症状が存在することを知っている。

  5. WHOの中で、これらの疾病の緊急性は論争を引き起こしたが、2015年のためのICDの開発のための手法が変化したという説明、及びワーキング・グループへの参加の可能性は、認知のために新たな可能性を開くものである。

  6. 各国は、WHOとは独立に、これらの疾病を認知し、それらを自国のICDに含めることができる。WHOによれば、各国はこの問題に対して自主権を持つからである。
(文責:安間 武)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る