ピコ通信/第151号
![]()
目次 |
EUの新しい化学物質規則 REACH
初めて6物質が認可対象に おさらい:REACHの経緯と現状 REACHは、Registration, Evaluation, and Authorization of Chemicals(化学物質の登録、評価、認可)であり、欧州連合(EU)の新しい化学物質規則のことです。 REACHには、いくつかの重要な規則がありますが、そのうちのひとつが"認可"です。認可対象に指定された非常に高い懸念のある物質(高懸念物質)は、特別の許可がない限り、市場に出すことができなくなります。 本年2月17日にREACH運用開始後、初めて6物質が認可対象物質に指定されたので、本稿ではまず、これについて解説し、次に、2007年6月1日に発効したREACHは、現在どのようになっているのかおさらいします。 1. REACHで初めて6物質が使用禁止に 2011年2月17日、EU加盟国の委員会は投票により、次ページに示す6種類の高懸念物質(SVHCs)を、初めてREACH化学物質規制の認可リストに加えることを決定しました。これにより、これらの物質について、所定の期日までに特例申請をしないと、所定の期日(日没日という)以降はこれらの物質を市場に出すことができなくなります。 REACHの認可要求は、物質の製造/輸入量にかかわらず適用されます。REACHには認可リストのほかに、認可物質に指定される物質の候補リストがあり、現在、46種類の候補物質がリストされていますが、さらに7物質が候補として提案されています。今回の6物質のように、候補物質の中から認可物質として指定されると、認可リストに記載されます。 欧州化学物質産業協会(Cefic)は、高懸念物質として候補リストに載ることはブラックリストに載ることであり、問題であると主張していますが、環境団体は候補リストに載ることで、製造者は認可対象物質になる前に製造をやめるインセンティブが働くとして候補リストの存在を評価しています。 米化学会(ACS)のオンライン・ニュースC&ENによれば、Ceficのメンバーである欧州可塑剤中間体協議会と米化学協議会(ACC)のフタル酸エステル類委員会は、DEHPを医療、自動車、その他の応用分野で継続して使用する許可をEUに求めるであろうと報じています。 今回、初めて認可物質に指定された6物質は下記に示す通りです。
2. REACHのおさらい 2003年5月に欧州委員会により初めてそのドラフトが発表されて以来、欧州連合(EU)内のみならず、世界中で多くの利害関係者による激しい議論とロビーイングが行われた後に、2007年6月1日にREACHは発効しました。 約3万種あるといわれる対象化学物質(1業者当り製造/輸入量が1トン/年(t/y)以上の物質は2018年までに所定のデータとともに段階的に登録され、また非常に高い懸念のある化学物質(高懸念物質(SVHC))も特定され、特別な認可がない限り市場に出すことができなくなります。 今までにピコ通信で、何度かREACHについて紹介しましたが、昨年11月30日にREACHの最初の登録が締め切られたこと、及び、すでに紹介したとおり、本年2月に6種類の高懸念物質が初めて認可物質に指定されたことなど、ひとつの区切りを迎えているので、改めてREACHの理念、成立の経緯、主要なプロセス、現状についておさらいします。 2.1. REACHの理念 REACHの根底には多くの重要な理念が込められていますが、その中で特に重要な理念として、次の7つを挙げることができます。 ▼ノーデータ・ノーマーケット 被害が出るまでその物質は安全であるとみなすのではなく、安全が確認されていない化学物質は市場に出さない。 ▼立証責任の転換 化学物質の有害性を被害者が立証するのではなく、化学物質が安全であることを化学物質の製造者が立証する。 ▼予防原則 有害性が科学的に完全には立証されていなくても、合理的な懸念があれば、事前に予防措置をとる。 ▼代替原則 より安全な代替物質又は代替方法を探し、採用する。 ▼市民参加 政策決定プロセスに市民を参加させる。 ▼情報公開 決定のプロセスや安全に関わる全ての化学物質情報を市民に分かりやすい形にして、公開する。 ▼一世代目標 有害化学物質から一世代以内に脱却する。(次世代に残さない)。 2.2. REACH成立の経緯 1990年代、EUでは化学物質が人の健康と環境に及ぼす影響が懸念されているのに、EU市場に出ている10万種に及ぶ化学物質のほとんどにデータがなく、安全性が確かめられていないことが問題となりました。 そのために市場に出ている全ての化学物質の安全を確かめ、高い懸念のある化学物質を市場からなくそうとする大きな波がEU内に起こりました。 2003年に欧州委員会がREACH案を発表すると、それに反対する化学産業界やアメリカを中心とする勢力の激しい抵抗があり、当初のREACHは後退しました。しかし最終的にREACHは2007年6月1日に発効しました。 新たな化学物質規則REACHには、登録、評価、認可という主要なプロセスがあります。 2.3. REACH 登録プロセス 事業者は、製造・輸入量とリスクの大きさにより、2018年までに下記のスケジュールで段階的に化学物質を登録することになりました。 ▼2008年6月1日〜12月1日 既存化学物質の予備登録を行なう。予備登録を行なわないと、以下に示す化学物質の量と特性により設定された期限まで登録を延長する権利が失われる。 ▼2008年12月1日〜2010年11月30日 ・1,000t/y 以上の化学物質(*1) ・100t/y 以上の水生生物毒性及び水性環境に長期影響のある化学物質(*1) ・1t/y 以上の発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)のある物質(*1) 登録は2段階で行なわれる。ECHAへの申請に当たり、ECHAへの情報を準備するために、同一化学物質を扱っている会社は化学物質情報交換フォーラム(SIEF)に参加しなくてはならず、そこでは取りまとめ申請者が選出され、化学物質及び毒性データの詳細書類を作成する。 次に、二次申請者は、自社に関連する情報を含んだ軽い文書を提出する。 ECHAによれば、2010年11月30日締め切りの登録の結果、20,175件(書類)、3 483物質が受理された。 ▼2013年5月31日締め切り ・100〜1,000t/y の化学物質化学物質(*1) ▼2018年5月31日締め切り ・10〜100t/y の化学物質化学物質(*1) ・1〜10t/y の化学物質化学物質(*2) (*1)化学物質安全性報告書(CSR)(有害性評価及びリスク評価)が必要 (*2)有害性評価のみ必要 2.4. REACH の評価プロセス ECHAは、事業者から提出される化学物質安全性報告書(CSR)の内容について、3つの観点から評価を実施します。 (1)書類の遵守性チェック (2)提案されたテスト手法の検証 (3)物質評価 2010年における評価に関するEHCAプレスリリースは次のように報告しています。
REACHでは、本稿前半で解説したとおり、高懸念物質(SVHC)が認可対象となり、認可物質に指定されると特別の認可が与えられない限り、市場に出すことができなくなります。 REACH第57条は高懸念物質を、次の特性を持つ物質として定義しています。 (a)発がん性物質(C) 分類1a及び1b (b)変異原性物質(M)分類1a及び1b (c)生殖毒性物質(R)分類1a及び1b (d)難分解性、生体蓄積性及び毒性物質(PBT) (e)極めて難分解性で高い生体蓄積性を有する物質(vPvB) (f 内分泌かく乱性を有するか、又は難分解性、生体蓄積性及び毒性を有するか、又は極めて難分解性で高い生体蓄積性を有するような物質であって、(d)又は(e)の基準を満たさないが、(a)から(e)に列記した他の物質と同等レベルの懸念を生じさせるとの科学的証拠のある物質。 2.6. ナノ物質の取扱い 2007年6月のREACH発効時にはまだ十分に議論されなかったナノ物質のREACHでの扱いについて、議論が始まっています。 2009年4月7日、欧州議会は欧州委員会に対し、全ライフサイクルにわたって潜在的な健康、環境、又は安全に影響を及ぼす製品中のナノ物質の全ての応用について、ノーデータ・ノーマーケット原則を完全に実施するために、全ての関連する法規をレビューするよう欧州委員会に要求しました。 2009年4月24日発表の欧州議会プレスリリースは、議会は欧州委員会に対し、特に下記の観点からREACHを見直すことの必要性を検討するよう求めるとしています。 ・1トン以下で製造又は輸入されるナノ物質の簡略化された登録。 ・全てのナノ物質を新規物質とみなすこと 。 ・全ての登録ナノ物質について暴露評価を伴った化学物質安全報告書の提出。 ・ナノ物質自身、調剤中、または成型品中の全てのナノ物質の届け出。 2.7 まとめ REACHの概念が初めて提起されてから10年近く経過した現在でも、REACHの理念は光り輝いているように見えます。普遍的な理念だからでしょう。 SAICMによれば、2020年までに化学物質による有害な影響をなくすことになっています。日本の化審法もノーデータ・ノーマーケット原則に基づき、製造者にナノ物質を含んで、全ての化学物質のデータを提出させ、高い懸念のある物質を特定し、それらが市場に出ないようにすることができるよう、抜本的に改正すべきです。(安間武) |