ピコ通信/第146号
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新聞報道/記事に香料の問題を見る
香りで苦しむ人がいる 「香料自粛」を 匿名(女性) 私は、生来健康であったが、今から10余年前、医師から投与されたヘリコバクターピロリ菌の除菌薬を服用して身体が強いダメージを受けた。少しずつ回復してきたが、以来、微量化学物質に過敏になった。 07年7月12日産経新聞【談話室】に、つぎのような投稿が掲載されていた。 「朝の通勤電車に慌てて乗り込んだ。・・・近くから濃厚な香りが漂ってくるのだ。汗をかいた後のにおいが気になるのか、香水を使う人は少なくない。・・・扇子で涼をと風を自分に送っていた女性からは、風とともに強い香水の香りが流れてきた。香りに耐えかねて席を立つ人、ハンカチで口元を押さえる人もいたが、当人はどこ吹く風といったあんばいだ。先日訪れたレストランでも同じような目に遭った。近くに座った女性グループの香水の香りが、空気の流れで私の席までやってきた。口から鼻から香水が入ってくるようで、料理の味が分からなくなるほど。ゆっくり堪能できず、早々と退散した3。 近年、企業は「香料」分野を新たな市場として商品開発をすすめ、更なる販路拡大を狙って若い世代を中心に「香り」を啓発し「香り」への嗜好や依存を強めようとしている。新聞報道の中には露骨にそうした企業戦略に荷担し、健康や安全を無視した節操のない記事も目立つ。紙面には、香りを楽しむ、香りのおしゃれ、身だしなみ、悪臭を消す、香りでリフレッシュ、香りの癒し効果、等々、有用性を飾る文字が踊る1。香料に苦痛を覚える人の記事や投稿もあるが、香料の有害性に触れる報道はごく一部である。 香料は化粧品、香水、整髪料、シャンプ−、制汗剤、消臭剤、柔軟剤、洗剤等に使われている。使用の主な理由は、おしゃれ、汗臭さや加齢臭を消すためとある。 強い香りの米国製柔軟剤「ダウニー」の国内での出荷量は、この2、3年で急速に伸び、5年前の10倍以上に増えた。近年、国内メーカーの柔軟剤も香りが強くなっており、ライオンは香料を増量、花王も香りが長期間持続するという商品を発売した。 柔軟剤の使用目的は、花王の調査によれば、「香りづけ」との回答が20代〜30代で7割、40代〜50代で5割を占める。香水・オーデコロン類の輸入量は、09年で約4,000 トンと、20年前の3倍以上に増え、香水を使う人の割合は08年、5〜19歳の52%に上っている。また、職場では緊張を和らげるためオレンジやユーカリの香りを、全日空では企業のブランドイメージを高めたいとして針葉樹の精油を、パーキングエリアでは、リフレッシュして事故を防ぎたいとオレンジの芳香を拡散するなどの動きが出てきた。介護施設や病院、ホテルなどでも植物から抽出した精油の拡散が広がっている2。 一方、列車やマンションエレベーター、飛行機、レストラン、コンサート、教室等の密閉空間や地域の生活圏で香料に曝露し、気分が悪くなったり、吐き気、食欲が失せ、香料自粛を訴えている記事や投稿が多い。3 11歳と14歳の訴えもある。少年Nは、朝新聞を取りに降りる自宅マンションのエレベータ内で女性の化粧品の匂い、男性の香水で気持ちが悪くなり、匂いは少しだけにしてと訴えている4。悪臭と芳香は紙一重である。 教師がつけていた化粧品の香料で意識を失ったことをきっかけに体調を崩した児童もいる5。保護者からの配慮の求めに対し、学校は「教師の人権もあり、化粧品の禁止はできない」と応じているが、身体的弱者である児童の人権は誰が守るのか。学校で余分な化学物質に児童をさらすことは虐待に等しい。加古川市の中学生は、誠意を欠く学校側の対応で、整髪剤、制汗剤等に曝され机に香水をかけられるなどの嫌がらせにあって以来寝たきりとなってしまった。現在、学校側の安全配慮義務違反を問い、市に損害賠償を求めて提訴している6。 横浜国大教授らの調査によれば、化学物質過敏症患者の80%以上が発症を促す物として香料を挙げている7。また専門医によれば、喘息患者は香水で発作が出たり息苦しくなることがあるという8。 ファミリーレストランで香水をふりかける若い女性、列車内で整髪しスプレー缶の整髪料をふりかける女性など、周囲の迷惑を顧みないモラル低下の風潮も香料使用に拍車をかけている9。 私たちは、日常的に「香料」という名の化学物質の暴力にさらされていると言える。 アロマブームで、オイルのついた洗濯物が乾燥機の中で発火する事故が増えている10。海外では、バター風味の食品用香料「ジアセチル」で閉塞性細気管支炎発症の患者が多数報告されている。日本でも年間1.6トンのジアセチルを使って香料を製造しているというが、なぜか患者の報告はない11。また、香料は凶器としても使われ、香水を吹きかけ逮捕される事件が起きている。スズメバチに刺されて死亡した例があるが、ハチはにおいに敏感なので香水類は厳禁だという。メナード化粧品は、女性ホルモンの分泌を促す香水を発売しているが、健康影響の問題はないのだろうか12。加齢臭予防の基本は食事であり、臭いは健康のバロメータと指摘する医師もいる13。 大阪地裁は、シックスクール訴訟やシックハウス訴訟の本人尋問に際し、トイレの芳香剤撤去他、傍聴人の香料を含む化粧品・整髪料などにも配慮を徹底している14。帝国ホテルは、「お客様に快適なサービスを売るのが一番ですから」と、従業員の香水使用を禁じている15。また、公共の場での香料使用に配慮を呼びかける動きが全国の自治体で広がっており、千葉、岡山、広島の3県と21市町村(2009年2月現在)がポスターなどによる啓発を進めている16。宇都宮市は「幼稚園・保育所のシックスクール問題対応マニュアル」で、「・・・香水、化粧品等は園児や保護者の健康に影響を与える可能性があることを周知する」としている17。 日本には、古来より香聞の文化があり、香十徳ということも言われている。しかし、世界の化学物質生産量はOECD(経済開発協力機構)によれば、1930年代(100万トン)から現在(4億トン)まで約400倍になったとされ、この30年間で7倍強となっている。さらに、日本人ひとりあたりの化学物質需要は世界一(OECD 2002)であり、昔のクリーンな空間は既に失われている。 世界の研究者たちは、癌やアレルギー性疾患、生殖異常、先天障害などの増大は、遺伝子や体質が100年で大きく変化したとは考えられず、化学物質の氾濫との関係を疑っている。私たちは、常態的大気汚染の中で有害化学物質に曝されながら生きており、個人差はあるが、微量の香料曝露が「襲いかかる」ものとして思いがけない作用をもたらす。 9 月20日、私は生鮮食品の調達に出向いたコープぎふ芥見店で、強い香料を身にまとった婦人と行き交った。一瞬の曝露で、意識消失、顔面蒼白、言語喪失、筋肉のこわばり、眼のかすみ等でその場にうずくまった。それ以来、身体の過敏性が増し、微香で吐き気、胃のキリキリする痛み、唇・舌のピリピリ感に加え、気管支粘膜刺激、易疲労、脳の混乱・失語に悩まされている。脳の嗅球(嗅覚を司る神経組織)が辺縁系(情動、意欲、記憶、自律神経活動に関与している)に近いところからこうしたことは起こりうると専門医から聞いてはいたが、突然わが身に起こると呆然とする。 いまや、香料曝露が恐怖。香料成分はただ事ではない。とりわけ若い人たちが、濃厚な香料ベールで自身の呼吸器や皮膚粘膜を包んでいること、香料ベールに身を包むママに抱っこされた幼い子どもたちが危惧される。 香料曝露時の症状は、個人差があるが、MCS患者Fは次のように訴える。 呼吸が苦しい、頭痛、めまい、ふらつき、頻脈、胆のう痛、腹痛、下痢、眼の痛み、関節痛、疲労感、脱力感、無気力、思考力の低下、倦怠感、不整脈、動悸、息切れ、口腔、舌の痛み、眼のちかつき、吐き気、血圧低下、顔面紅潮、ひどいのぼせ、皮膚痒み、湿疹、耳の痒み、 ・直後の苦痛 ・時間を経ての苦痛 ・他の化学物質への反応が極端に強くなる ・ひどい時はショック、中毒の症状を起こす 渡部和男氏の報告によれば、香料の数は4,000種を超す。個々の成分は香料としか記載する必要がない。また、法令には、香料成分を直接規制する内容が見当たらない。 香料はアレルゲンとして作用することが多い。この中には天然香料も含まれる。 児童の喘息罹患率は、近年増加し続け、5%に達している。香料は喘息を誘発したり悪化させたりすることがあるため、患者は香料を避けるように勧められている。時には、重症皮膚炎を招き死に至る例も報告されている。香料には内分泌攪乱作用がある。一部の合成ムスク(以後ムスクと言う)※は、産婦人科に関する障害を起こす可能性が指摘されている。香料の神経毒性も知られるようになった。香料自体が変異原性や発癌性を持つ場合があり、他の物質の変異原性や発癌性を高めることもある。 ムスクは、細胞が外から入った異物を排出するメカニズムを妨害し、細胞内の毒物濃度を高める。ムスクは血液脳関門を容易に通り、脳内に高濃度で残留し代謝も遅いため高齢者の血中ムスク濃度は高い。香料添加の日用品はあふれており、ムスクは母乳中からも検出されている。ムスクは分解されにくく、下水処理場に入ったムスクの約3分の1が未分解のまま放出される。残りは汚泥に吸着されたと考えられている。ムスクは、河川や海から、また幼稚園やアパートの空気中からも検出されており、感受性が強い未熟児や幼児、病人への影響が懸念される18。 ※麝香(ムスク)は、雄のジャコウジカの腹部にある香嚢(ジャコウ腺)から得られる分泌物を乾燥した香料、生薬の一種。ワシントン条約により商業目的の取引は原則として禁止された。そのため、現在、香料用途としては合成香料である合成ムスクが用いられている。 今年の夏の終わり、当地は豪雨に見舞われた。降り始めてしばらく、道路に出ると辺り一面に香料臭が漂っていて驚いた。雨が大気中の香料成分を溶かしたのであろうか。 柔軟剤ダウニーが、地域や職場、学校、ネット上などで物議を醸している。柔軟剤の拡散と展着、幾重ものフリーザーバックさえすり抜ける通過性と浸透性に危機感を訴える人もいる。 「い〜ぃ匂い」一見無邪気なそれは、生存に不可欠な空気を人為的に化学物質で汚染し、否応なく人の鼻腔に送り込む。奇跡のように地球に誕生し、長い進化と適応の歴史を経た生命の仕組みに対する冒涜ではないか。 企業は、社会的責任を自覚すべきであり、国は、香料の氾濫に対し良識ある規制を設けることはできないか。業界の喧伝に安易に乗じ、自らの身体をそうとは知らず汚染し障害している若い世代の姿は悲しい。環境意識と消費者教育の遅れを痛感する。製造・販売者は、喘息発作誘導や内分泌攪乱作用など香料の毒性を示し、消費者に使用に際しての注意を促すべきであり、使用者は周りに配慮をすべきである。 「香料自粛」も、国民的合意に至るまで、禁煙と同じく膨大な犠牲と時間を要するのであろうか。私たちには、過ちを繰り返している余裕はない。 (参照記事/情報) 1.読売新聞2007年6月21日【女ごころ学】香り=3 贈り物にはデリケート?。毎日新聞社2010年4月6日研Q・探Q:誰からも好かれる香水とは・・・ミス・リサコ完成/大分。 読売新聞社2010年2月24日[コスメ通]軽やかな香り身にまとう。産業経済新聞社2009年12月30日【パリの屋根の下で】山口昌子「五番」が世界一売れる理由。 2. 読売新聞2010年4月13日[生活わいど]強めの香り好感広がる 若い世代「見えないおしゃれ」 3.毎日新聞2006年5月8日[みんなの広場]香りで他人に迷惑をかけないで。産経新聞2007年7月12日【談話室】香水はほどほどに願いたい。読売新聞2004年12月20日[気流]化学物質過敏症,苦しみ理解して。毎日新聞2003年4月21日[みんなの広場]整髪料、香水・においに不快感。産経新聞2007年7月29日通勤電車のストレス軽減「におい対策」ガムやアメ、暑さには清涼剤。産経新聞2007年4月26日【聞かせて!!ホンネ】case24女性専用車のマナー 4.産業経済新聞社2009年7月20日【談話室】10代の声 臭いエレベータ内の香水 読売新聞2004年7月31日[気流]つけすぎる香水、電車内で「不快」 5.毎日新聞2004年3月7日[続発・シックスクール]子どもを守るために/2 求められる配慮 東京。毎日新聞2004年3月6日[続発・シックスクール]子どもを守るために/1 体と心に二重の傷 東京 6.毎日新聞2007年10月4日【損害賠償:化学物質過敏症を発症【中学校の対応が原因】加古川の生徒、市に:兵庫 7.毎日新聞2004年3月4日化学物質過敏症:新築・改築や農薬使用時に発症横浜国大教授ら、アンケート 8.毎日新聞2003年10月6日ぜんそくに注意 発症ピークは50歳前後、自己管理を 9.読売新聞2005年8月23日[気流]周囲気にせず香水つける女性。産経新聞2005年6月22日[談話室]車内のヘアースプレーに閉口 10.産業経済新聞社2008年12月16日オイルのついた洗濯物 乾燥機使わないで 酸化熱で自然発火。読売新聞社2008年10月22日【アロマオイル拭いたタオル、乾燥機ダメ 大阪でも出火事故】 11.読売新聞2007年9月5日【レンジ用ポップコーン、毎日食べて肺病 バター風味香料原因か 米で報告】。読売新聞2007年9月1日【香料ジアセチル製造で気管支炎多発オランダの研究チーム指摘】 12.読売新聞2004年10月27日女性ホルモンの分泌促す香水発売へ 日本メナード化粧品 13.毎日新聞2006年7月15日加齢臭:本人気付かず周囲困惑においの元、40過ぎから増えストレスで加速 14.読売新聞2005年2月10日傍聴者の香水ご法度・シックハウス異例の配慮、本人尋問で/大阪地裁。毎日新聞2006年3月24日大阪、シックスクール訴訟:地裁、異例の配慮空気清浄機設置、トイレ芳香剤撤去。産経新聞2007年3月24日シックスクール訴訟法廷から化学物質徹底排除大阪地裁、、、、原告に配慮 15.読売新聞2004年6月24日「香水」マナー守り適量を ほのかに香る程度に 飲食、サービス業では禁止も 16.朝日新聞2009年2月15日「授業参観、香水控えて」学校「過敏症の子に配慮を」 17.毎日新聞2010年6月4日シックスクール:乳幼児から対策宇都宮市が[マニュアル]発達への影響を懸念 18.渡部和男 「香料の健康影響」 http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/archiv/chemicals_in_general/fragrance_idx.htm |