ピコ通信/第139号
発行日2010年3月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 2月27日 化学物質問題市民研究会講演会
    身の回りにはこんなに有害な物質があふれている(渡辺 雄二(科学ジャーナリスト)
  2. ケミカルデイズ=ティーンズ向けウェブサイトを開設します
  3. 愛知県教委がシックスクール対応で通知(子どもの未来と環境を守る会名古屋)
  4. 2/22ケミネット院内学習会 化学物質政策基本法制定を求めて
  5. 海外情報 EHN 2010年3月4日 フタル酸エステルはマウスをアレルギーになりやすくする
  6. 環境問題の動き
  7. お知らせ・編集後記


2月27日 化学物質問題市民研究会講演会
身の回りにはこんなに有害な物質があふれている
渡辺 雄二(科学ジャーナリスト

(文責 化学物質問題市民研究会)

■ファブリーズはいらない
 『買ってはいけない』を出して、10年以上経ちます。週刊金曜日では続編を出し続けていて、昨年にはパート6が出ました。『買ってはいけない』は社会現象にもなりましたが、その反動として、健康食品、サプリメントがブームになったような面があって、複雑な心境です。

 最近出した本に、『ファブリーズはいらない』(緑風出版)があります。企業から抗議や脅しがこないかとよく聞かれますが、大手は、違法なことをして自分の首をしめるようなことはしません。『買ってはいけない』の時も、企業からのクレームは3つだけです。私の書いたものでは、メルシャンから、亜硫酸塩が入っていることについて、他社のワインにも入っているのになぜうちだけ取り上げたのかということでした。訴訟は起こされたことがありません。訴訟になっても負けることはないという自信はあります。

 次々に不必要、危険な商品が売り出されています。先日、宇都宮のカプセルホテルに泊まった時、共同浴場に「今日の温泉」と書いてあって、温泉の素「旅の宿 登別」が入っていました。温泉の素に効果はほとんどありません。私は人工的なにおいや色が不愉快だし、タール系色素なのでからだにも悪いのです。

 ホテルにはボディーシャンプーやリンスばかりで、石けんは置いていないので、試しに使ったらヌルヌルしてとれない。合成界面活性剤をからだに塗っているわけで、皮膚全体が熱を持った状態になりましたが、それは化学物質の刺激だと思います。普通の石けんを使えばいいのに、企業としてはボディーシャンプーを生産した方が儲かるので、いつの間にかそれが主流になりました。企業がいろいろな化学物質を使って利益をあげるために、不必要で有害なものがあふれているのです。

 ファブリーズは、けっこういい値段がします。お金は自分の労働の対価なので、一生懸命労働をして、わざわざ不必要なものを買って害を受ける、最悪の場合はがんになる。そういう理不尽なことが起こっているということで今回、本を出しました。

 化学物質は、CASというデータベースがあって、インターネットの日本語版でも調べることができます。分析されたり化学合成されたりした化学物質が4000万登録されています。少し前は3000万で、おそらくすぐに5000万になるでしょう。

■次々出てくる除菌・消臭剤
 日常使われている化学物質は、約10万と言われています。合成添加物、農薬、殺虫剤、除菌剤、化粧品、医薬品などです。消費者に必要なものなら開発してかまわないが、ほとんど必要ないものです。化学物質の安全性を確認するのは大変で、完璧に安全といえるものはほとんどありません。作っている科学者も、国も、利用者も分からない。動物実験のデータをもとに、安全だろうという推定をして使っているにすぎません。利用者の体験によって最終的には分かることになります。個人差があるので敏感な人は化学物質で症状が起こりますが、体が弱いということでなく、有害なものを寄せつけないようにするために反応が出てしまうと考えられます。

 ファブリーズ、リセッシュ、ルックきれいのミストなどの除菌・消臭スプレーが出ています。さらに大幸薬品が、インフルエンザ対策として、室内を無菌化する商品「クレベリン」を出しました。二酸化塩素が細菌を殺します。毒ガスとしても使われ、死亡事故を起こし、「混ぜるな危険」という表示がされるようになった塩素ガスよりも、二酸化塩素は4倍以上急性毒性が強いのです。吸い込んだ人間の肺が傷つくし、過敏症の人はてきめんに出るでしょう。 企業は0.03ppmで濃度が低いから影響が出ないとしていますが、推定でしかありません。空気中にはカビ、ウィルスが浮遊していてもほとんど害はありません。消費者の不安につけ込んで売っているので、販売をやめるように言ったのですが、テレビで宣伝も始めました。手ピカジェルも売れているようですが、ウィルスは水道水で流せばいいだけです。使っている人がいたら、やめるように言ってください。

■ファブリーズの除菌成分は塩化ベンザルコニウム
 ファブリーズは、成分に除菌成分としか書いてありません。問い合わせたら、第四級アンモニウム塩が使われているという答えでした。たぶん塩化ベンザルコニウムと思われます。陽イオンの界面活性剤で、逆性石けんの成分です。細菌の表面はマイナスなので、この成分のプラスとひきつけあって、細菌の細胞膜を破壊します。

 汗くさいのは汗を細菌が分解することで臭いが出てくるので、殺菌して臭いをとるという方法です。香料によるマスキング効果もあります。使うと目の粘膜を刺激します。ちなみに、目薬がしみるのは防腐剤として入っている塩化ベンザルコニウムのためです。私はふつうの目薬は使わないで、使いきりで防腐剤が入っていない目薬を使っています。

 洗濯洗剤には成分名の表示があっても、消臭剤にはありません。洗剤は家庭用品品質表示法の対象なので表示がありますが、消臭剤は同法の対象ではないからです。経産省から、消費者庁に法律の管轄が移ったので、表示の対象に加えるよう言っていきましょう。ルックきれいのミストは、有機系除菌剤のかわりに銀イオンが入っています。銀イオンの殺菌力は強く、水性植物、無脊椎動物はppbレベルの低濃度で死にます。人間の肺へ入るのは確かです。


■トイレ用消臭剤
 「トイレその後に」の小林製薬は、"あったらいいな"という商品をいろいろ出しています。でも、"あったらいいな"は、"なくてもいいよ"なのです。「ブルーレットおくだけ」は、飛行機の、水を循環して使っているトイレ排水の色から思いついたそうですが、そもそも普通のトイレは、必要もないし、水に色がついたら便の色が確認できません。トイレ用消臭剤はLPガスが入っていて危険だし、過敏症の原因にもなります。2000年の国民生活センターの商品テストでは、TVOCが暫定基準値を越えました。便は臭いのはしょうがないのであって、換気扇か窓で換気すればいいものです。

 シックハウス原因物質に対する指針値は、これ以下だと発症しないだろうという推測の値です。原因を断つのが一番で、もともと不必要な製品をお金を払って買って、室内に化学物質を撒き散らし、シックハウス症候群の原因を作るのは不合理なことです。CMに惑わされないで必要なものだけを買うようにしましょう。

■化学物質は免疫を害する
 アレルギーはからだを守る反応として出ます。ディーゼルのトラックが多い国道沿いに住んで喘息になった経験がありますが、引っ越したら治りました。ディーゼル排ガスは発がん性があります。それを体外に排出しようとする、あるいは警告を発するのが喘息です。花粉症も花粉にディーゼル排ガスが加わって発症します。動物実験でも、花粉だけでは花粉症にならず、ディーゼル排ガスといっしょだとなります。化学物質により免疫がおかしくなって過剰反応し、花粉に反応するというところが本当でしょう。除菌消臭スプレーも、毎日吸っていれば免疫がおかしくなり、アレルギーがおこる可能性があります。

 人体は細菌の巣窟で、腸内、口の中、皮膚の表面にもたくさん細菌が住み着いています。その菌と免疫がバランスを保っていて、共生関係にあります。空気中の菌をなくすと体が菌に反応しなくていい状態になるから、免疫バランスもおかしくなると考えられます。

 パナソニックがナノイー発生器を、シャープがプラズマクラスターイオンを出す空気清浄機を売り出していますが、菌は減るかもれしないが、かえって危険だと思います。人体は、周辺の微生物との微妙なバランスの上に成り立っています。ちょっと免疫が弱まっただけで風邪をひいたり、日和見感染症といって、人体にすみついている菌が、免疫が下がると増えて、カリニ肺炎、カンジダ症が発症します。無菌化すると免疫が低下して、こういう病気が増える可能性があります。

■ピレスロイドはヒトにも害
 20代の時、ノミにバルサンを使ったことがありますが、効き目はありませんでした。成分はピレスロイド系のペルメトリンです。除虫菊に含まれている殺虫成分ピレトリンをまねて化学合成したもので、家庭用殺虫剤はほとんどピレスロイドになっています。神経毒があり、虫は殺すが人間には影響しないだろうということで使われていますが、人間にも影響があります。ペルメトリンは、動物実験でも発がん性があります。

 死因の年次推移を見ると、悪性新生物=がんが、ずっと増加し続けています。高齢者が増えたからというのが医者の見方です。しかし、年代別の主要死因を見ると、30代、40代、50代ででも、がんで死ぬ率は一番高くなっています。

 がんを引き起こす要因はいろいろあって、それが若くして出る場合もあるとすれば、その要因の一つとして化学物質があるのではないでしょうか。食品添加物が問題ですし、野菜にも微量の農薬が残留しています。ディーゼル排ガス、自動車の排ガスに含まれるベンゼンも白血病を起こします。そういう化学物質を毎日取り込んでいることが、こういう形で出てしまったのではないかと私は考えています。がんを防ぐ意味でも、化学物質は減らすほうがいいと思います。

 蚊取り線香もピレスロイドを使っています。ごきぶり退治は、ホウ酸ダンゴか、叩き潰す。ただし、ホウ酸自体は毒性があるので注意が必要です。虫除けスプレーには、ディートが使われています。アメリカ軍が開発した忌避剤で、湾岸戦争症候群の原因との説もありました。動物実験で感覚運動機能の異常などが出たので、日本でも子どもへの使用を控えるような規制がかけられました。精油や酢で虫を防げますし、長袖長ズボンで防ぐのが一番です。

 ぶらさげて虫除けをする殺虫プレートは、ジクロルボスという劇物が成分です。中国製ギョーザの包装の外側に付着していた事件では、スーパー店内で吊るしていたものから付着しました。防虫剤は、パラゾール(パラジクロロベンゼン)は臭いがついて嫌だというので、無臭防虫剤が売り出されました。私はセーターなどはポリエチレンの袋に入れて保管していますが、虫に喰われたことはありません。不安な方は、衣料用ケースに入れて密閉すればイガ(ガの一種)等は入ってきません。

 パラジクロロベンゼンは空気を汚染し、吸い込むと肺から血液に入るので、血液からも検出されています。ベンゼンに塩素が二つついているという物質で、これに酸素がつくとダイオキシンになり、構造からも危険な物質と推測できます。母体から胎児に、母乳から乳児に移行する可能性があります。樟脳は口に入れると中毒を起こすので、注意が必要です。

■揮発する化学毒物は特に要注意
 完全に安全というものはなかなかありませんが、特に空気中に拡散する化学毒物は避けたほうがいいです。お金を払って不健康になるという不合理を減らそうと、『買ってはいけない』で、製品を一つ一つ取り上げていますが、CMの影響力が圧倒的で、なかなか浸透しません。

 詐欺的商品が多く、サプリメントも、ぜひだまされないで下さい。自分だけでなく、知り合いにも広げていって、嫌がられるかもしれませんが、「あなたのためだから」と言って、使用を控えるように広めていただければと思います。

(まとめ 花岡邦明)



愛知県教委がシックスクール対応で通知
子どもの未来と環境を守る会名古屋

愛知県教育委員会が、新たなシックスクールの被害を未然に防ぐため、平成22年3月9日付「学校における化学物質対策について(通知)」を発出しました。
塗装、防水工事など揮発性有機化合物(VOC)が発生するような工事はできる限り児童生徒がいない状態で行う、資材もできる限り化学物質を放散しないものを使用するなど工事での注意事項と配慮の他、冷暖房時の換気、夏期休業明けの換気、塗料・文具等、トイレの芳香剤等、床ワックス、農薬・殺虫剤等の使用にあたっての留意事項、化学物質に過敏な者への配慮など充実した内容で、関係者に大変感謝しています。

  ■学期中での塗装工事がとても多い!
 名古屋市では、設計と施工が年度内の数カ月で終わる中規模の改修工事は、前年度に診断、2月に予算が決定し、設計が春に入札、施工が秋以降になることが多く、その場合、学期中、子どもが学校にいる状態で塗装工事が行われることがほとんどですが、前年度設計など工夫している自治体もあります。
 化学物質過敏症の児童・生徒の在籍校ではできる限り長期休業中に施工するよう配慮されていますが、実際には難しいこともあり、工期が長かった改修工事では、秋に入札で2学期から3学期にかけて長期間塗装工事が行われました。塗料はVOCの放散のほとんどない製品になりましたが、他の在籍していない学校では、学期中の工事でもそうした配慮はまずされません。

■他の自治体で続いたシックスクール事故−F☆☆☆☆なら安全か?
 工事の仕様で室内の塗料やベランダ防水剤などF☆☆☆☆が指定されていますが、これはホルムアルデヒドについての規格であり、塗料等で特に問題なのは溶剤で、中にはキシレンやトルエンを含むものもあります。
 03年の建築基準法改正以後もシックハウスによる健康被害の発生は続いており、神奈川県の県立高校では、04年の屋上防水工事で、小さなクラックに溶剤が染み込んで室内空気を汚染、シックスクール事故が発生しました。
 07年の北海道のシックスクールの事例では、原因物質の特定が困難を極め、100物質以上を検証してようやく、国の規制対象物質も、厚労省の室内濃度指針値のある13物質も含まない水性塗料中の成分とわかりました。
 埼玉県では、授業中の塗装工事でシンナーが教室に入り込み多数の児童が救急車で病院に搬送される事故が発生し、教育委員会が平成18年(06年)7月に、塗装工事や補修工事は児童生徒がいない状態で行うよう通知を出しています。文科省も各自治体も、同様の健康被害が生じないよう対策をとるべきではないでしょうか。

  ■床ワックスもできる限りVOCや有機リン化合物を含まないものを
 床ワックスもVOC発生の問題があり、シックスクール対応として、厚労省の13物質の他、有機リン化合物を含まない製品を各社が開発しています。ゴーグルやマスク、手袋などをするよう注意書きのある製品を素手でマスクもせず児童生徒が塗布している学校もあること、県立学校でトイレにパラジクロロベンゼンを使用していた学校があったこと、開放型暖房機器は(※平成20年12月の東京都の室内汚染調査結果もあり、エアコンの設置を進める自治体もある)、特に冬期の換気が不十分で困っている発症児童生徒もいたことなどから、工事以外の内容についても配慮をお願いしました。
 また、農薬・殺虫剤等の使用については、県の薬剤適正使用ガイドラインもあり、以前より各担当課に、よりリスクの低い薬剤の選択について加筆を要望、要望内容は広く関係課にも共有されており、今回の記載となりました。
 ガイドラインの改訂も検討されており、担当課の助言もあったとのことで、要望内容だけでなく、子ども等ハイリスク群の問題などについてもたくさんの関係課や議員に情報を提供し、認識を共有していただいたことも、今回の通知発出につながったと思います。

■名古屋市教育委員会の対応は?

名古屋市は政令指定都市で、今回の県の通知の発出先とはなっていないため、通知発出を要望しています。局内や他局他課との調整が必要なため、県の通知の内容を検討するとのことです。児童生徒の床ワックス塗布等の問題に関する要望へのこれまでの回答は、校長や養護教諭の会議等機会をとらえて周知していくとのことでした。以前にも教頭の会議で伝えているのに改善されていないこと、塗装・防水工事が学期中に行われていること、多数の学校で毒性の強い農薬が散布されていたことなど、市立学校の問題であり、教育委員会として対応していただきたいと思います。 なお、シックハウス対策部会の所管課も住宅都市局の関係課も問題を認識しており、保育園や病院、福祉施設等でも同様の配慮が必要で、シックハウス対策の指針やマニュアル作成など全庁的対応も要望しています。 また文科省は、シックスクールマニュアルを作成中ですが、すぐに発出できるかどうかわからないなら、今後の事故を未然に防ぐよう、埼玉県や愛知県と同様の通知を出すべきです。

■通知全文 平成22年3月9日
各教育事務所長・支所長 殿
愛知県教育委員会教育長

学校における化学物質対策について
(通知)
 学校における化学物質対策については、平成18年3月に、「学校における室内空気中化学物質対策マニュアル〜シックハウス予防のために〜」において示しているところですが、周知が徹底されておらず対応が不十分なケースが見受けられます。
 つきましては、あらためて現在の対応を確認していただき、新たな化学物質による健康被害を未然に防ぐため、下記事項に留意の上、適切に対応していただくよう管内の各市町村教育委員会に対する周知及び指導をお願いいたします。

1 校舎の改修等工事について
(1)揮発性有機化合物が発生するような塗装、防水工事については、長期休業中に行うなどできる限り児童生徒がいない状態で行うよう日程調整に配慮すること。
また、児童生徒に対しては、塗料や接着剤等に含まれる化学物質に曝露することがないよう、作業現場の周囲に近づけさせないなどの注意をすること。
 なお、風向き等により児童生徒に化学物質が曝露する可能性がある場合には、学校は、児童生徒を避難させることや作業を中断することなどについて、事前に施工業者と対応方法を検討しておくこと。
(2)工事終了後、校舎内に塗料や使った材料の臭気が滞留している場合は、換気を十分行うこと。
(3)使用する資材は、できる限り化学物質を放散しないものを使用すること。
(4)化学物質に過敏な者が在籍している学校においては、事前に必ず工事の期間や使用する塗料等原材料の情報を該当する児童生徒の保護者に連絡し、健康被害の発生予防に努めること。

2 冷暖房設備について
(1)学校で冷暖房を行う場合、稼働したまま換気をせずに閉めきっていると、空気が入れ替わらず、室内の空気に含まれる化学物質濃度が上昇し、教室内の児童生徒は汚染された空気を吸うことにな
(2)化学物質に過敏な者が在籍している学校においては、使用方法について該当児童生徒の保護者と調整の上、機械に付着している化学物質を十分飛ばしてから供用すること。また、開放型の燃焼器具はできる限り使用しないこと。

3 夏季休業明けの換気について
夏季休業中は、長期間教室等を閉め切った状態になり、様々な化学物質が放散し、滞留している可能性があるので、十分な換気を行うこと。

4 塗料、文具等の使用について
 換気の悪い教室内でトルエンやキシレン等の有機溶剤を含む塗料、マジック、接着剤等を使用すると、化学物質の室内濃度が高くなり、健康被害を引き起こす可能性があることから、十分な換気を行うよう指導するとともに、有機溶剤等を含まない水性の塗料や文具の使用についても配慮すること。

5 トイレの芳香剤等について
 パラジクロロベンゼンが含まれているトイレの芳香・消臭剤、尿石防止剤は使用しないこと。

6 床ワックスの使用について
 ワックスを選択する場合は、できる限りトルエン、キシレン等有機溶剤及び有機リン系化合物を含まないものを選択すること。
 また、ワックス掛けにあたっては、長期休業中に行うなどできる限り児童生徒への影響がない作業時期及び作業時間に配慮し、塗布後は十分換気を行うこと。

7 農薬・殺虫剤等の使用について
 定期的な農薬、殺虫剤の散布はしないこと。病害虫の防除にあたっては、以下の手順に従い、できる限りリスクの低い方法を選択すること。
(1)日ごろから、病害虫が発生しないよう、枝葉の剪定や清掃に努める。
(2)定期的な生息調査により病害虫等の早期発見に努める。
(3)防除にあたっては、捕殺、防虫網の利用、剪定及び抜き取り、粘着トラップの使用など物理的防除を優先的に行う。
(4)やむを得ず薬剤を使用する場合は、人の健康や環境への影響ができる限り少ない薬剤を選択するとともに、樹の幹への注入、誘殺、塗布等の散布以外の方法を優先する。散布せざるを得ない場合は、飛散防止に最大限配慮する。また、散布前及び散布後に児童生徒、周辺住民等に対して十分な周知に努める。



2/22ケミネット院内学習会 化学物質政策基本法制定を求めて

 2月22日、当会も参加するケミネット(化学物質政策基本法を求めるネットワーク)は、衆議院第二議員会館において、化学物質政策連続学習会第一回を開きました。残念なことに、議員の参加は少なかったのですが、60名近くの市民が参加しました。
当日のプログラムの中から、当会からの推薦で問題提起されたお二人の発言を紹介します。


化学物質過敏症の発症者として、今伝えたいこと−1
(CS発症者/CS児童の親)
 私は、約10年前に当時住んでいた団地で、斜め上の部屋の漏水と結露によって傷んだ壁の補修や塗装がきっかけで、化学物質過敏症を発症しました。私が発症してからは、生活全般に渡って有害なものに曝露しないよう心がけて生活していましたが、3人の子どものうち、長女だけが約3年前に小学校の書道で使用する墨汁がきっかけで発症してしまいました。

 はワックスを塗布しない、換気をする、農薬散布を行わないなどの学校の様々な対応のおかげで頭痛などの多少の症状はありますが、現在はほとんど休むことなく通学しています。本日は、CS発症者の母親として、特に、殺虫剤の散布による被害についてお話したいと思います。

1.「住宅地等における農薬使用について」に罰則規定を
 2年前の夏休み、近隣市の大きな公園へ家族で出かけました。入り口に入ったと同時に薬剤のにおいがし、おかしいと感じました。しばらくすると、長女に頭痛が始まり、体調が悪くなりました。私自身も気分が悪くなりました。
 公園内の職員に聞いてみると、その日の早朝、毛虫発生のため、農薬散布をしたとのこと、広い公園の中央にある事務所の裏手の人目につかないところに小さな張り紙で、農薬散布をしたことだけが掲示されていました。そこには、何の薬剤を散布したかすら、書かれていませんでした。
 私たちはすぐに公園を出て、帰宅しました。楽しい夏休みの1日になるはずでしたが、散々な1日となってしまいました。
 その公園は規模が大きく、夏休みということもあり、大勢の子どもたちが何も知らずに遊んでいました。農薬散布をした場所も立ち入り制限がされているわけでもなく、散布された木の下で子どもたちが遊んでいるのです。 後で、その時、撒かれていたのがEUでは使用が禁止されている有機リン系殺虫剤だったと知りました。
 この公園では、「住宅地等における農薬使用について」(農水省・環境省通知)や「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル」(環境省)は全く守られていません。こういった事例はたくさんあります。
 しかも、樹木等での薬剤散布による健康被害は、CS発症者だけのものではありません。
 以前、小学校の通学路沿いの庭で、下校時刻直前に農薬が散布されたことがありました。子どもたちの下校時に居合わせた父母の話によると、その家の前を通ると咳き込む子ども、気持ちが悪いと言って走り出す子が何人もいたそうです。
 自宅周辺で散布された薬剤が原因で頭痛や吐き気がすると言っている人は、子どもを含め、私の周囲に何人もいます。その人たちの症状は急性でしかも軽く、CS発症者と違い、散布場所から離れると症状が改善するため、公的機関に相談したりすることなくすんでしまいます。しかし、間違いなく、数多くの健康被害は起こっているのです。
 こういったことを防ぐためには、「住宅地等における農薬使用について」通知が今以上に周知徹底されなければいけません。そのためには、通知に違反した場合には罰則を伴うようにするべきではないでしょうか。「化学物質政策基本法」の制定も大事ですが、まずは、私たちの身近にある問題からひとつずつ解決していただきたいと思います。

2.建築物衛生法の周知徹底を
 問題は、公園等の屋外だけではありません。公共施設内でも薬剤は使用されています。
 やはり、一昨年のことになりますが、近くの図書館へ行ったところ、その時も入ったとたん嫌な感じがしました。娘も変なにおいがすると言ってすぐに図書館を出ました。自宅に帰ったところ、娘は鼻血が止まらなくなり、これはおかしいと思い、図書館へ問い合わせをしましたが、電話口の職員は薬剤散布を行っていないと言いました。
 しかし、昨年7月に市のHPで公表された市内の農薬・殺虫剤等の使用状況では、その図書館で有機リン系殺虫剤が使用されていたのです。私が問い合わせをした際の職員が薬剤使用を知らなかったのか、知っていて否定したのかわかりませんが、いずれにしても問題があると思います。
 図書館は、幼児や児童も頻繁に利用する施設です。そういう施設内で、PRTR法第1種に指定されているような危険な薬剤を使用していいものでしょうか。
 しかも、これは、私の住む市の一図書館だけの問題ではありません。昨年、私が参加している「有害物質から子どもの健康を守る千葉県ネットワーク」では、千葉県内の22市に使用している化学物質についてのアンケートを行い、現在集計中です。これを見ると、多くの市で、公民館や保育園などに年2回ずつ有機リン系殺虫剤が散布されており、利用者への告知がない場合も多々あります。公民館も幼児を含む多くの市民が利用する場であり、保育園は乳幼児が生活する場所です。
 03年に改定された建築物衛生法では、生息調査が義務付けられています。それにもかかわらず、毎年、施設全体に年2回ずつ定期的に同量を散布するといった漫然とした薬剤の使用が続くと子どもたちの健康はどうやって守っていけばよいのでしょうか。建築物衛生法の周知徹底、IPMによる防除の徹底が必要ではないでしょうか。

3.今後に向けて
 問題は、先ほど述べた薬剤散布だけではありません。現在すすめられている学校の耐震工事でも、たくさんの有害な化学物質が使用されています。しかし、文科省の規制値はたった6物質です。
 私の子どもたちが通う小学校の生徒の中には、小学校・中学校とあわせて5年間も工事が続く中、学校へ通うことになる学年があります。しかも、たまたま、今朝、小学校の先生と話をしたのですが、つい先日工事が終わり、3月から使用予定の体育館へその先生が入ったところ、「結構新築臭がして臭かった」とおっしゃっていました。
 この気温の低い季節に、健康な大人ですら臭くて気分が悪いと感じる所で、子どもたちは体育の授業や行事をするのです。
 私の知人の子どもが通う別の小学校では、昨年夏に体育館の耐震工事が終了しています。そのお子さんは体育館を使用するたびに、今でも「何となく気持ちが悪いんだよね」と言っていると言います。このような影響を皆さんはどのようにお考えになりますか?
 今の子どもたちは、その生を受けた瞬間からこれらの化学物質に曝露され続けています。しかも、その影響は、確実に子どもたちの体の中に忍び込んでいます。
 娘の同級生の中に、ホームセンターへ行くと鼻水が止まらなくなる、家具屋へ行くと頭痛がすると言ってすぐに外へ出てしまう、自分の家の車が臭いと言って窓を開けないと乗れない、油性ペンを使うと気分が悪くなる、プールの塩素処理室の前で咳き込むといった症状を訴える子どもがいます。これらはすべて別々の子どもです。
 しかし、自分の子どもにこのような症状が少しくらいあっても、有害な化学物質が原因だと結びつけて考える親はほとんどいません。化学物質過敏症というと、とても特別で、まれなものという見方をされている方が大半だからではないでしょうか。
 この子どもたちが、現状のまま有害な化学物質に曝露され続けると、化学物質過敏症の発症リスクは限りなく大きくなります。もっと発症者が増えてしまう前に、重症の方がこれ以上増える前に、早急に対策をとるべきではないでしょうか。


化学物質過敏症の発症者として、今伝えたいこと−2
玉腰了三 (CS発症者 神奈川県平塚市在住)

 今日、お話したいことは、7点です。これらはすべて私の個人的な体験にもとづく話ですから、その点を考慮してお聞き下さい。

1.化学物質過敏症の原因は、微量な物質(化学物質)の毒作用にある
 昨年の10月1日付けで、「ICD10対応標準病名マスター」に「化学物質過敏症」が登録されました。日本の場合は、ICD10コードのT65.9 「その他及び詳細不明の物質の毒作用,詳細不明の物質の毒作用」に位置づけられました。ちなみに日本で、ICD10コードT65.9に登録されている病名は、化学物質過敏症の他には、全身中毒症、中毒、毒物誤飲、 服毒自殺未遂の4つです。このことからも、化学物質過敏症が「物質の毒作用」によるものだということがよくわかります。このことは、端的に申し上げれば、この毒作用のある化学物質がなければ、人は化学物質過敏症にはならない、ということです。
 私は、現在では、日常的に二重の防毒マスク(VOC対応の防毒マスクと活性炭入りマスク2枚を重ねて使用)なしでは生活できません。特に冬は、夜寝る時も外せません。近くのビニールハウスの加温機が、稼動して燃焼ガスを排出するからです。加温機のメーカーのインターネット上のカタログにはこう書いてあります。「燃焼ガスは、人体や作物に非常に有害です。必ず屋外に排出してください」と。非常に有害な燃焼ガスを屋外に排出していいのでしょうか。私にとって、冬の一番の恐怖はこの燃焼ガスです。口の中が苦くなり、舌はしびれ、それと同時に内臓、主に消化器ですが、そこに「毒」を感じます。目・鼻・喉、さらに脳や筋肉、関節にも症状が表われます。その時の体調にもよりますが、やがて身体全体に強い倦怠感がおこり、横になってただ耐えるだけという状態になり、疲れきって寝てしまいます。
 れは、空気清浄機や防毒マスクがあっても、完全に防ぎきることは今のところできていません。私の家がビニールハウスの風上になり、風が強い日などは、比較的安心ですが、逆に風下になるともう地獄です。家から離れ、田んぼのあぜ道や山奥に逃げて車の中で寝ることもしばしばです。
 これは、ほんの一例です。私にとって、現在の世界は、どこへ行っても、「toxic world」つまり「毒の世界」となっています。ppm、ppbの世界の物質の毒性が、私の健康に大きな影響を与えています。多くの化学物質に曝露し、日常的に次々と起こる体調不良はもはや単なる「アレルギー反応」だけでは説明できません。何人もの医師が私の症状に首をひねるだけでした。化学物質の毒性に焦点をあてることなく、化学物質過敏症の本質を理解することは不可能だと思います。
 私は、一時の感情で「毒」(toxic effect)という言葉を使用してはいません。防毒マスクなしでは日常生活を送ることができない私は、「毒」(toxic effect)という言葉を、日常的な現象を普通に説明するために使っているだけです。

2.化学物質過敏症の現実は、複数の物質(化学物質)の複合的な毒作用の結果
 現代社会には、多くの化学物質があふれています。もはや化学物質抜きの生活は考えられません。当然そこには毒作用をもつ化学物質も多く存在していますが、現実の生活はそれらの複合汚染のなかで繰り広げられています。複合的な「毒の世界」(toxic world)が、地球規模で広がっています。
 私は、海外の化学物質過敏症や環境病の発症者とインターネットで連絡をとりあっています。発症者の悲痛な叫び、お互いを思いやる暖かい言葉、各国・地域での取り組みの状況、必要な情報などがネット上の世界を駆け巡っている現実があります。

3.化学物質過敏症は、他の環境病や発達障害などと切り離せない
 化学物質過敏症は、現実の問題としては、とくに「シックハウス症候群、アレルギー性疾患(喘息・アトピー・花粉症)、電磁波過敏症」などの環境病と切りはなすことができません。なぜなら、化学物質過敏症の発症者には、アレルギー体質の人や電磁波過敏症をあわせもつ人が多いからです。
 発達障害はこの点では、少し視点を広げて考える必要はあります。発達障害とは、高機能自閉症、広汎性発達障害、学習障害、ADHDなどですが、これらの発達障害の発症に化学物質が関与しているのではないか、という研究報告が多くなっているのも事実です。

4.化学物質過敏症の症状は、共通性はあるものの、一人ひとり違う。それに伴う生活上の困難や障害も多様である
 「一人ひとりの症状を丁寧に理解する」、しかも「生活上の多様な困難や障害と関連させて理解する」ことの大切さを強調しておきたいと思います。当然、症状と生活上の困難や障害は密接に結びついていますから、丁寧に一人ひとりに即してみていただきたいのです。労働災害者認定や障害認定に際しても、生活上の諸困難を正確に反映させ、すみやかに認定されるようにしていただきたい。

5.発症者の生命と健康の維持、症状の軽減のために必要なことは、毒作用のある物質の曝露を避けること、つまり安全で安心できる居場所の確保を最優先すること
 化学物質過敏症の発症者にとって、毒作用のある物質の曝露を避けることが一番大切です。安全な居場所の確保は、個人の力だけでは限界があります。多くの負担を軽減するためには、行政の援助がどうしても必要です。また、有害な化学物質に関するあらゆる情報を、関係者や市民全体に正確に伝えることも重視すべきだと思います。これは行政、民間問わず、身近な地域から、広くは地方、日本全体、地球全体を視野に入れて取り組む必要があります。 個人的には、花粉、黄砂、紫外線の予報と同じように、気象予報で大気汚染予報も日常的に扱ってほしいと思っています。こうした情報があれば、予防対策ができるからです。

6.私たちを襲う、恐ろしいほどの孤立感、不安と恐怖、無力感
 これは、外国の化学物質過敏症の発症者も、私たちと同じように苦しみ、悩んでいる、とても深刻で、重要な問題の一つです。発症者の中には、絶望のあまり、自殺する人が今なお後を絶ちません。家族を含め、まわりの人に理解してもらえないとき、私たちは強い孤独感、孤立感を味わいます。ずっと続く体調不良、いつまた同じ苦しみが襲ってくるか分からない不安と恐怖、社会参加から閉ざされ、最後に残る無力感と絶望感、これらを乗り
越えるためには、仲間同士の励ましあいとともに、関係者や地域の人、社会全体の理解がどうしても必要です。  毒性の強い化学物質に曝露した時、私もイライラしたり、短気になったり、とにかく機嫌が悪くなります。とてもニコニコしていられないのです。不幸なことは、このような発症者の二次的症状としての振る舞いや言動を、化学物質の毒作用の結果としてではなく、発症者個人の「心」の問題として扱ってしまうことです。こうした本末転倒が、現実に、今も起こっていることを私たちは直視しなければなりません。
 このような不幸が起こらないようにするためには、化学物質過敏症についての正確な理解を広め、自己肯定感や自己評価が低くなっている発症者が、安全かつ自由に安心して生活できるようにし、さらに自尊心をもって社会参加できるように支援することがとても大切だと思います。

7.ケミネットの「化学物質政策基本法」における8つの基本理念の尊重
 以下に挙げた基本理念はどれも大切です。そして、このような総合的な基本理念に基づく総合的な化学物質政策の策定と実現過程の中でこそ、「化学物質過敏症」に関する諸問題の抜本的な解決も可能となるのではないでしょうか。
@持続可能な社会のための化学物質の製造使用(化学物質の総量削減)
Aノーデータ・ノーマーケットの原則
B影響を受けやすい人々(胎児・子供など)や生態系への配慮
Cライフサイクル管理(研究開発から、製造、使用、リサイクル、廃棄処分に至るまで)
D予防原則
E代替原則
Fすべての関係者の参加
G国際的協調

以上で私の発言とさせていただきます。どうもありがとうございました。
(ケミネット/化学物質政策を考える連続学習会(2010.2.22)での発言をもとに加筆修正したものです。(玉腰))



化学物質問題市民研究会
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