発行日:2009年7月24日 発行者:化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ |
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健康な庭づくりのために大事なこと
塩屋 虫引 (川崎市在住) ■化学物質過敏症の予備軍? 私は造園業を営んでいます。園芸好きだった父の影響を受け、趣味が高じて進んだ道です。それがどうやら、この数年化学物質過敏症の予備軍であるようなのです。アマチュアの頃の間違った庭とのかかわりが、私を病気に近付けたのだろうと思っています。 プロとなって農薬を必要としない庭づくりをしている私に、今頃、遅れて届いた警告。それは、ますます安全な庭づくりをしていくよう、後押しするために届いたのかも知れません。 ■アマチュアの頃の失敗 アマチュアの頃、好みの花を美しく咲かせることにしか意識が向いていない時期がありました。見映えにこだわるあまり、管理が難しい負荷のかかる庭になっていたように思います。花を傷める虫に敵意をむきだし、立ち枯れる花株にぴりぴりしていたものです。 コントロールするために農薬に頼りだすと、もう引き返せない道を行くようなものでした。ゆったりと庭を眺める余裕もなく、敵だらけの庭に疲れていきました。 精妙なバランスの中でこそ庭は豊かに息づく。そんなことに気づけずに、ひとりよがりな庭仕事をしていた頃の失敗です。 ■農薬が庭の問題を解決すると思い込んでいませんか? 昔の私のように、庭への理解や農薬の知識がないうちに、植物や庭の管理には農薬が必要だという思い込みをしている人は多いようです。そして、農薬の知識が足らず、間違った使い方によって自らトラブルを招いているケースもよく見かけます。 農薬での対症療法的な措置で、かえって悪循環を起こしていることもあるでしょう。そのことに早く気づき、庭との対話のなかで、問題解決の道を見つけて欲しいと願っています。 ■農薬を使いこなすのは至難のわざ でも現状は、農薬は"庭の必需品"という顔をして家庭に入り込んでいます。きちんと理解をされぬまま、漫然と使われている様子がうかがえます。病害虫の見極めは簡単ではなく、ぴたりと合う薬剤を選ぶのは、とても難しいはずなのに。 病態や害虫の成育過程によって、効果のある薬剤が変わってもきます。タイミングを間違えればなんの効果もなく、かえって耐性をつけてしまったり、天敵だけが被害を被ったりすることもあります。かえって防除を難しくしてしまうのでは、本末転倒ではありませんか? 私自身、一つの病害虫への対策にやむを得ず農薬の使用を考える場合、何冊もの本で調べて充分検討しますが、かなりの神経を使います。その難しさや得られる効果と損失を合わせて考えると、緊急性がある異常事態のほかは、使う気にならないものです。 農薬を安易に使う前に、本当に必要か、他の方法はないのか、近隣への影響はどうか、じっくり考えることをお願いします。それが、庭との新しい関係づくりのスタートになるはずです。 ■園芸書などメディアも問題 園芸書には施肥や剪定などの情報と一緒に、病害虫妨徐の時期と代表的な病害虫名や防除の薬剤名などが書かれていることが多く、農薬での防徐は当然行うべき庭仕事として、多くのアマチュア園芸家の頭に刷り込まれています。特に病気には、発生する前の予防使用が大事だと、何度もインプットされるのです。それが、庭での不要な農薬使用につながっていると感じています。 また、園芸の本や雑誌での植物の紹介にも問題を感じています。生育上の特性についての情報より、葉や花の美しさばかりを強調した紹介が目につきます。環境に適する植物を選ぶという大事な部分がおざなりで、切り花のアレンジメントをするような消費的ガーデニングにつながっているのではないでしょうか? 環境に合わないとストレスで弱まり、病害虫の大発生の原因にもなります。新しい品種や珍しい品種に飛びつかず、入手前に情報を集めてからにすることが大事です。昔から身近にある植物を上手にコーディネートすることも、優しい庭づくりと言えるでしょう。 ■バランスがとれた安定した庭を目標に 人は地球に線を引き、権利を主張していますが、庭と環境には境界線はありません。家は人の巣であるから、住まう者の心と体と事情を第一に考え、それぞれの欲求を追求するものなのかもしれません。でも庭は、そうではありませんね? 境界線のない世界で、病害虫の発生に農薬で刹那的なけりをつけても意味のないことです。 病害虫に侵されるのは、植物がストレスを受けて弱っている場合が多いのです。環境に合う植物を選ぶとともに、植物が健康に育つよう、敷地の問題をよりよく改善することが大事です。 それである程度、病害虫は発生しにくくなり、また、発生しても大事にはならないのです。自然環境、人的環境、植物、他の生物、それらのバランスがとれてくれば、手のかからない安定した庭になるでしょう。安定した庭が増えれば、人にとって住みやすい環境にも近づくはずです。 今一度、病害虫発生の問題点を確かめて、できるだけ農薬を使用せず、根本的な改善をはかりたいものです。 ■庭づくり10のチェックポイント ●土壌の排水は良好ですか? 土壌の質や排水環境により水はけが悪いと、根を傷めて弱ります。 土壌改良をしたり、排水設備を設けたりして、改善しましょう。根の環境がいいことは植物が健康に育つための必須条件です。ただし、植物により、水はけの好みが違うこともあります ●庭の日当たりを把握していますか? その場の日射量と植物の好む条件が合わないと、植物は弱ります。 樹木や隣地の建物など、日差しを遮るもので、場所ごとに日射量が違うことも計算に入れること。 ●気候風土にあった植物を選んでいますか? 園芸本や園芸店で気に入った植物は、自生地や原産地を確認して、ご自分の地域で無理なく育ちそうかを第一に考えて入手しましょう。草花は多少の無理を管理で補えますが、樹木類は気候風土に合うことが絶対条件です。合わない樹木は、枯死するだけでなく、特定の病虫害を発生させて近隣にも迷惑をかける場合があります。 ●風通しが悪くありませんか? 風通しが悪いと病害虫の発生が多くなります。密植を避け、植木の剪定では刈り込みでなく枝を間引くほうが、風が通っていいでしょう。 ●枝が混み合っていませんか? 重なった枝は、日の当たらない方が弱っています。虫の隠れ処にならないためと、他の枝に日が当たるように、不要な枝は整理しましょう。 ●同じ科の植物ばかりを植えていませんか? 特定の病害虫が発生しやすくなるので、偏らない植物えらびが安全です。特にバラ科のものに注意を。 ●苗を無造作に購入していませんか? 病害虫を庭に持ち込まないように、健康な苗を選びましょう。ウイルス病にかかったものを見かけます。 ●病害虫の発生しやすいものを植えていませんか? どうしても植えたい場合は、たくさん植えるのは避け、目が行き届き、手が届くくらいに仕立てることが安全です。被害を見つけやすく、早期であれば被害も少なく、処置も簡単にすみます。毛虫など、群がっている数枚の葉の処分で済むのです。虫取り網が届けば、コガネムシやカメムシの捕獲も確実です。 ●虫や、その他の生き物を毛嫌いしていませんか? 訪れる生き物が多いと自然にバランスがとれて、庭は落ち着いていきます。甚大な害を与えるものでなければ、色んな生き物が来ることを静かに見守ることも必要です。カエル、クモ、トカゲ、カマキリなどは虫も捕ってくれます。毛嫌いせずに大事にしましょう。池や水場、小さな実のなる木などがあると、寄ってくるものはさらに多様化します。 ●植え付けの適期を守っていますか? 植え付けのダメージが、その後の根の活着や樹勢の回復に影響を与えます。できるだけダメージが少ない適期を守りましょう。 落葉樹は休眠中の落葉時期が安全。常緑樹は根の成育が良い春や秋が適する場合が多い。草花類はそれぞれの適期を確認した上で植えつけましょう。 特に注意が必要なのは、植え付けに向かない時期に出回るもの。例えば柑橘類や千両などは実のつく冬に出回ることが多いですが、植え付けには向きません。しばらく仮植えでしのぎ、適期に植えるなどの配慮が大事です。 |