ピコ通信/第131号
発行日2009年7月24日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 化学物質過敏症が病名マスターに登録予定記念シンポジウムを開催します
  2. 市民団体共同声明 「日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める」
    なぜ共同声明を出したか
  3. ナノの話 (1)ナノ日焼け止め/二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子
  4. 健康な庭づくりのために大事なこと
  5. 調べてみよう家庭用品(28)蚊取り製品
  6. 海外情報:客室乗務員の病気/有害室内空気の問題を明るみにする
  7. 化学物質問題の動き(09.06.23〜09.07.22)
  8. お知らせ・編集後記


化学物質過敏症が病名マスターに登録予定
記念シンポジウムを開催します



 本紙前号で報告したように、"化学物質過敏症"が10月1日に標準病名マスターに収載されることになりました。病名マスターのどこに分類されるのか、健康保険の適用との関係など不明な点は多々ありますが、ともかく、正式病名として堂々とカルテや保険請求のレセプト(診療報酬明細書)に書くことができます。"病名が公式に認められた"と言ってもいいのではないかと思います。
 この病名収載を記念するとともに、化学物質過敏症の展望や課題を考え、今後の活動につなげるシンポジウムが計画され、当会も実行委員会に参加しています。
 多くの皆様のご支援とご参加をいただきたく、賛同団体ならびに賛同個人を募っております。どうぞよろしくお願い致します。

シンポジウム開催にあたり賛同のお願い
2009年7月14日
関係者各位
 10月1日付けで化学物質過敏症が標準病名マスターに登録されるにあたり、記念のシンポジウムを企画いたしました。
 第一部では、北里研究所病院の石川哲先生、宮田幹夫先生をお招きし、基調講演をしていただきます。
 第二部のパネルディスカッションでは、今後の展望と課題を探ります。終わりにシンポジウム宣言を採択し、総括いたします。
 つきましては、多くの皆様にご参加いただきたく、賛同団体ならびに賛同個人を募ります。皆様方のご協力を賜りたく、よろしくお願い申しあげます。

<名称>やったね!病名登録記念シンポジウム 〜化学物質過敏症の今後の展望を探る〜
<日時>10月31日(土)開場午後1時 開演午後1時30分〜5時00分(終了後に懇親会を予定)
<会場>ECOとしま(豊島区生活産業プラザ)8F多目的ホール(池袋駅東口徒歩7分)
<参加費>1,000円
<主催>やったね!病名登録記念シンポジウム実行委員会

<賛同団体・個人>
このシンポジウムを支えてくださる賛同団体・賛同個人を募ります。
団体: 賛同金3,000円/口(1口以上 シンポジウム開催資金に充てます)
    団体名、連絡先を明記下さい。
個人: 賛同金なし(カンパは歓迎です)
    「名前」「連絡先」「発症者か否か」を明記ください。
締め切り:10月16日(金)
賛同団体・賛同個人のお名前は、当日のレジメに掲載させていただきます。

下記まで、お申し込みください。
< 実行委員会連絡先 > 郵送:〒136-0071東京都江東区亀戸 7-10-1 ビル4階 化学物質問題市民研究会気付「やったね!病名登録記念シンポジウム実行委員会」
メール:gponyo@gmail.com (メール担当実行委員宛)
FAX:0465-20-4534 (FAX担当実行委員宛)

賛同金・カンパ振込み先:
郵便振替口座 00230-1-140065
化学物質過敏症病名登録記念実行委員会
◇シンポジウム実行委員会は下記のメンバーで構成されています。
市川信子(シックハウス連絡会) / 安間節子(化学物質問題市民研究会) / 広田しのぶ(化学物質過敏症支援センター) /村田知章(化学物質過敏症知ってね☆うぉーく) / 木村優子(有害化学物質から健康と暮らしを守る会・千葉) / 槌田博(化学物質アドバイザー) / 越智邦子(オーガニックな暮らしをめざすネットワーク) / 森典子(オーガニックな暮らしをめざすネットワーク)

◆ ◇ ◆ プログラム ◆ ◇ ◆
<第一部>基調講演
●「MCSの世界の流れと現状」
  石川哲先生 北里大学医学部名誉教授
●「健康保険のこと、今後の課題」   宮田幹夫先生 北里大学医学部名誉教授
<第二部> パネルディスカッション
「今後の化学物質過敏症の展望を探る」
予定:石川哲氏、宮田幹夫氏、槌田博氏(化学物質アドバイザー)
厚生労働省(交渉中)
小沢祐子氏(発症者)、滝ヶ崎照子氏(発症者)
コーディネーター(実行委員)
<シンポジウム宣言の採択>
シンポジウムの総括として、化学物質過敏症で苦しむことのない社会を目指す宣言を採択します。
(安間節子)


市民団体共同声明
「日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める」
なぜ共同声明を出したか



 2009年6月25日、当研究会を含む国内3、海外1の団体()の呼びかけ人は、「市民団体共同声明 日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める」 を国内外で発表し、8月31日までに賛同市民団体を募るキャンペーンを開始し、すでに国内36団体、海外21団体から賛同を得ています。共同声明は本号ピコ通信に同封し、また当会のウェブサイトにも掲載していますので、賛同いただける団体はぜひ連絡ください。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/mercury_cso_master.html
本稿ではなぜこのようなキャンペーンを開始したかの背景を説明します。

1.水銀は人体及び環境に極めて有害

▼日本では水俣や新潟で悲惨な体験をし、有機水銀(メチル水銀)の神経毒性についてはよく知られています。しかし無機水銀であっても水銀蒸気の吸入による毒性があり、また環境中に放出されるとバクテリアなどの作用でより有毒なメチル水銀となります。
 食物連鎖を通じて魚類に蓄積する水銀の60%〜95%はメチル水銀であると言われており、先進国では主に魚類からメチル水銀が取り込まれます。

▼途上国の零細な金採鉱現場では、金鉱石から金粒子を選鉱/濃縮し、水銀を用いて金と水銀の合金(アマルガム)を作り、この合金を加熱して水銀を飛ばし、金を得ています。これにより金採鉱現場の労働者や周囲の人々の健康が蝕まれ、環境を汚染しています。
 この様な零細金採鉱労働者はアジア、南米、アフリカなど全世界で約1,000万人近くいると言われています。

2.水銀使用の削減は世界の動きである。
2.1 国連環環境計画(UNEP)の取り組み

▼UNEPでは、2001年より地球規模での水銀汚染に関連する活動を開始しており、本年2月のナイロビでの第25回管理理事会で、法的拘束力のある「国際水銀条約」の制定に向けて取り組むことが全会一致で決まりました。
 このUNEPの水銀削減の柱は次の2点からなります。
(1) 水銀輸出を禁止し、世界の市場に水銀を出さない。
(2) 非鉄精錬、水銀含有廃棄物、廃止した塩素アルカリ・プラント等から回収される水銀(余剰水銀)は市場に循環しないよう永久保管施設を作り、封じ込める。

▼2009年3月にバンコクでUNEPアジア水銀保管プロジェクト・ワークショップが開催され、当研究会も参加しました。このワークショップにはアジアのほとんどの主要国(16ケ国)と米国の計17ケ国、国際機関、およびアジアとアメリカのNGOs計8団体が参加しましたが、アジアの水銀問題の取組に主導的な役割を期待される日本政府はこのワークショップに参加しませんでした。
 このワークショップの狙いは次の通りでした。
(1) アジアで封じ込まれるべき水銀の予想量に関する専門家の報告書を検証すること。
(2) 余剰水銀の長期的な安全保管のために考慮されるべきオプションと問題を検討し、ワークショップ後の詳細な実施可能性調査の実施とそこから得る勧告につなげること。
(3) 回収水銀封じ込めのための水銀保管施設の開発を検討すること。

 詳細はピコ通信127号(2009年3月)をご覧ください。

2.2 EUの取り組み

▼2005年、欧州委員会は、地域及び地球規模での水銀汚染に目を向けた包括的な計画である共同体水銀戦略を発表しました。この戦略では、欧州委員会は、水銀使用の制限とEUからの水銀輸出の禁止を提案しています。
 この戦略の重要な点は国際的な行動の支援と推進であり、そのひとつが世界の水銀供給、貿易、及び需要の削減で、UNEPの水銀プログラムの求めるものと一致します。
▼2006年に発効したRoHS 指令により、水銀など6物質について規定値以上(水銀 は1,000ppm)含有する電気・電子製品は市場に出せないことになりました(適用除外はある)。
▼2008年9月、水銀輸出を禁止し、余剰水銀を安全に保管する規則が採択され、2011年に発効することになりました。
▼UNEPにおいては、法的拘束力のある水銀条約を主張し、世界の水銀削減の取り組みにリーダーシップを発揮しました。

2.3 アメリカの取り組み

▼アメリカでは水銀削減のための様々な取り組みが行われていましたが、2006年7月に米EPAは水銀ロードマップを発表し、環境中の水銀を削減するための活動によるこれまでの成果と今後の取り組みについて、米国のみならず国際的な視点からの展望を示しました。
▼2008年10月に米議会は、水銀輸出を2013年に禁止する法案を採択しました。この法案は現大統領であるオバマ上院議員(当時)が上院における法案提出者でした。
▼この法案は、2010年までに民間企業から排出される金属水銀の長期的管理と保管方法を策定することを求めています。
▼UNEPにおける水銀削減の取り組みにおいてアメリカは当初、EUが主張する法的拘束力のある水銀条約の制定に反対し、自主的な取り組みを主張していました。
▼しかし、本年2月のナイロビ会議の直前に、法的拘束力のある国際条約に賛成するという180度の劇的な政策転換をして世界を驚かせました。水銀に取り組む世界のNG0sは、オバマ政権によるこの政策転換を歓迎しました。

3.日本の現状 3.1 アジアで唯一の水銀輸出国

▼国内の水銀消費は、電池、蛍光灯、高輝度放電灯(HIDランプ)、水銀柱血圧計など年間15トン弱ですが、一方、非鉄金属精錬や水銀含有廃棄物等から生成されるリサイクル水銀を2006年:約250トン、2007年:約220トン、2008年:約157トン、海外に輸出しており、日本はアジアで唯一の水銀輸出国です。 ▼輸出水銀の大半を途上国が占め、零細な金採鉱現場で水銀が使用され、人の健康と環境を脅かしていると言われています。
▼熊本日日新聞2009年6月20日の記事によれば、経済産業省は「輸出段階で用途や輸出先などを確認するが、最終的に輸出先国で水銀がどのように管理されているのか把握していない」としています。
▼また同記事によれば、環境省は「必要不可欠な需要がある現状で輸出を止めると、管理の行き届かない国で新たな採掘を招く」と述べていると報じています。
▼これは環境省の詭弁であり、日本に求めらることは水銀輸出ではなく、途上国の廃棄水銀の安全な回収のための技術移転です。もし途上国に必要不可欠な水銀需要があるなら、その水銀回収技術に基づく回収水銀を充当することができるはずです。
▼水銀輸出を禁止するとリサイクル水銀を保管しなくてはならず、立地の問題があるので国内保管はしたくないというのが日本政府の本音ではないのでしょうか。有害な余剰水銀を輸出して途上国に押し付けるというのは、中古品名目で使用済み電子機器を途上国へ輸出して厄介払いするのと同じ構造です。
▼本年3月にバンコクで開催されたUNEPのアジア水銀保管プロジェクト・ワークショップでは、全ての参加国/団体が余剰水銀の永久保管の必要性に合意しましたが、日本政府はこのワークショップになぜか参加しませんでした。

4.国際NGOsの指摘

▼水俣を経験しているのに、日本政府は水銀削減の国際的リーダーシップを発揮していない。日本の市民社会も、「国内及び世界の水銀削減」に十分に取り組んでいるように見えないと国際NGOsは指摘しています。
▼しかし、市民組織が日本政府に働きかけ、日本が水銀輸出禁止を決め、日本、EU、米国の三大国が足並みを揃えれば、世界の水銀輸出禁止に決定的な弾みがつくとしています。

5.日本の市民社会がなすべきこと

 水俣病問題では、加害企業チッソを事業継続会社と補償債務返済会社に分離し、認定基準の見直しも行なわれない水俣病特別措置法案が7月15日に施行となりました。
 私たちは、水俣病に対する国と加害企業の責任をあくまで求めるとともに、水銀の輸出禁止/余剰水銀の永久保管/使用削減を政府に求めていく必要があります。(安間武)


注:呼びかけ団体
・化学物質問題市民研究会
・有害化学物質削減ネットワーク ・ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議
・Ban Toxics! / Zero Mercury Working Group, Philippines



ナノの話 (1) ナノ日焼け止め
二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子



1.日焼け止めの仕組み

 日焼けは、太陽光線の中でも波長の短い紫外線が皮膚のメラニンの保護能力を越えて照射されて起きる熱傷です。また、過度に紫外線を受けると、発症数は多くありませんが皮膚がんのリスクが増加すると言われています。したがって紫外線をカットする日焼け止めが使用されます。
 日焼け止めで紫外線を防ぐ方式には、紫外線を反射する紫外線散乱剤を用いる方式と、紫外線そのものを吸収して化学反応で熱や赤外線に変える紫外線吸収剤を用いる方式があります。
 紫外線散乱剤は、紫外線を物理的に反射・散乱させて、紫外線の肌への照射を防ぎます。主に二酸化チタンや酸化亜鉛などの白色の無機粉体が使われています。
 紫外線吸収剤は、紫外線を吸収すると熱や赤外線などのエネルギーに変化させて放出し、紫外線の皮膚への照射を防ぎます。しかし、皮膚表面での発熱や発熱時の紫外線吸収剤の化学反応により、皮膚に負担を与えると言われています。

2.ナノサイズの二酸化チタンや酸化亜鉛

 日焼け止めには、紫外線散乱剤として比較的安全であるとされてきた白色の二酸化チタンや、酸化亜鉛が多く使われてきました。しかし近年は、少量の成分で紫外線防止効果を上げ、白色を透明にして仕上がり効果を上げるために、二酸化チタンや酸化亜鉛をナノサイズにした"ナノ日焼け止め"が市場に出ていると言われています。  ナノサイズにすることで粒子の比表面積が桁違いに大きくなり、また物理的特性が変わる(この場合は白から透明)というナノ粒子の特性を利用しています。
 しかし、ナノ成分の表示義務がないこと及びナノ粒子の使用に対する消費者の不安を恐れて、世界的にメーカーがナノ粒子の使用を表示しない"ナノ隠し"の傾向があります。特に日本では、ほとんどのメーカーが表示していません。したがって、消費者は製品がナノ粒子を使用しているのかどうか判断できません。

3.ナノ日焼け止めの安全性の懸念

 日焼け止めに使用される二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子については、安全性に関して次のような懸念があります。
(1) 二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子が持つ有害性
(2) ナノ粒子が皮膚を浸透して使用者の体内に入り込む懸念
(3) ナノ粒子が使用後洗い流されて排水系から環境中に入り込むことの懸念
(4) ナノ粒子を扱う労働者の暴露の懸念

3.1 二酸化チタン及び酸化亜鉛ナノ粒子の有害性の懸念

 アメリカの化粧品団体は、日焼け止め中の二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子はヒトに対して安全であると2006年に米品医薬品局(FDA)に訴えましたが、ヒトへの有害影響を懸念させる研究報告は次々と発表されています。ここではその一部を紹介します。
(1)二酸化チタンは発がん性物質(国際がん研究機関のグループ2B(ヒトに対して発がん性を示す可能性がある)で、粉じん吸引が懸念される。
(2) 二酸化チタン/酸化亜鉛のナノ粒子は、ヒトのDNAを傷つける。
(3) 二酸化チタン微粒子は、マウスの脳細胞を損傷する。
(4) 二酸化チタンのナノ粒子は、マウスの脳の細胞を損傷する神経毒性を示す。
(5) 酸化亜鉛ナノ粒子は、ヒト肺表皮細胞の生存能力に影響を与える。
(6) 酸化亜鉛ナノ粒子は、ヒト皮膚表皮細胞のDNAを損傷する。
(7) 酸化亜鉛のナノ粒子は、バクテリアに高い毒性を示す。

3.2健康でない皮膚からの浸透の懸念

 日焼け止めのナノ粒子が、ヒトの皮膚を浸透して、体内に入り込むかどうかについて議論があります。化粧品団体は(健康な)皮膚からは浸透しないと主張しますが、日焼け、発疹、かぶれ、ニキビなど損傷を受けた健康ではない皮膚からの浸透については言及していません。一般的には、健康ではない皮膚からは浸透する可能性があると言われていますが、皮膚浸透に関する研究自体が少ないようです。

 例えば、ナノ情報を提供するイギリスのウェブサイトNanowerkは、"生体での実験は、ナノ粒子が健康な上層皮膚バリアを浸透できるかどうかの疑問にはほとんど答えておらず、日焼けで損傷を受けた皮膚を浸透するかどうかの確認もなされていない。マウスモデルを用いたナノ粒子の浸透に関する研究によれば、商業的に入手可能なクオンタムドット・ナノ粒子は、健康な肌に比べて、紫外線でダメージを受けた肌で、より容易に浸透するということを示した"と述べています。

 英国王立協会・王立工学アカデミーが2004年に発表した勧告の中で、"二酸化チタンのナノ粒子は皮膚を通過しないことを示すいくつかの証拠があるが、同じ結論が太陽光で損傷を受けた皮膚や湿疹など普通にある疾病を持つ人々に当てはまるかどうか明確ではない。化粧品に用いられている他のナノ粒子 (酸化亜鉛など) が皮膚を通過するかどうかについて十分な情報がなく、これについてはもっと研究が必要である。これらの成分の安全性に関連する情報の多くは産業側の実施によって得られたもので、科学論文として公開されていない"と述べています。

 欧州委員会/消費者製品科学委員会(EC/SCCP)が2007年に発表した意見によれば、"従来のリスク評価においては、皮膚浸透研究は健康な又は損なわれていない皮膚を用いて実施されている。損なわれた皮膚の場合には、摂取が強まる可能性があるので安全域(MoS)でカバーされるよう考慮される。しかし、ナノ物質のリスク評価においては、従来の安全域は適切ではないかもしれない。もし活性な組織に対する全身的吸収があるなら、皮膚から全身的循環への急速な展開をもたらすかもしれない。どのような全身的吸収も異常な皮膚状態(例えば日焼け、アトピー、湿疹、乾癬)でより多く起こりそうであるということが予測される"と述べています。

3.3日焼け止めのナノ粒子の環境への排出による有害影響の懸念

 身体から洗い流されたり、廃棄された日焼け止めのナノ粒子の環境運命及び環境へ及ぼす影響についての研究は、ほとんど行われていません。したがって、今後、ナノ粒子の環境運命及び環境へ及ぼす影響についての研究が必要です。
 そのような状況の中で、酸化亜鉛のナノ粒子はバクテリアに高い毒性を示すことが報告されており、環境中に放出された日焼け止めのナノ粒子が、生態系に有害影響を及ぼすことが懸念されます。ナノ粒子を使用した日焼け止めについては、製造、使用、廃棄にわたるライフサイクル評価が実施されるべきです。

3.4 ナノ粒子を扱う労働者の暴露の懸念
 ナノテク産業が拡大するとともに、ナノ粒子を開発する研究者だけでなく、労働者も、ナノ粒子を含む製品の製造、包装、処理、輸送、設備の保守・点検の間に、ナノ粒子に暴露する懸念が高まっています。現在、ナノ粒子への暴露に関して安全レベルというものは分かっておらず、また労働者のナノ暴露を検出し、暴露から保護するための信頼できるシステムはありません。ナノ粒子によって及ぼされる新たなリスクは、既存の技術や規制では管理できません。

4.権威ある機関、NG0s、専門家の見解

 ナノ化粧品や特にナノ日焼け止めの安全性については、国際的に権威ある機関、専門家、NGOsが懸念を示しています。その懸念を集約すると下記のようになります。

(1) ナノ化粧品中のナノ粒子がヒトの皮膚を浸透するかどうかの研究はまだ不十分であり、特に損傷を受けた皮膚からの浸透についての懸念がある。
(2) ナノ粒子は環境へ負荷を及ぼす可能性があるので完全なライフサイクル評価が必要である。
(3)ナノ粒子に対する表示義務とテスト実施義務がないために、ほとんどの製造者は製品にナノ粒子を使用しているかどうかを含めてナノ粒子とテストに関する情報を公開せず、製品にも表示していない。
(4) 環境及び消費者4団体のうち3団体(地球の友(FoE)オーストラリア、天然資源防衛協議会(NRDC)、コンシューマ・ユニオン)は、ナノ日焼け止めはリスクがあるので反対、又は懸念があるので推奨しないという立場ですが、エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)は、リスクとベネフィットを勘案して、ナノサイズの成分を含むいくつかの日焼け止めを推奨するとしています。
 EWGは健康ではない皮膚からの浸透によるヒト健康へのリスク、及び環境に排出されるナノ粒子の環境へ及ぼすリスクについての評価を行っていません。(安間武)

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参考:日焼け止め豆知識
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■紫外線の種類は3種類
 UVA(400〜315nm)、UVB(315〜280nm)
 UVC(280nm以下)

■日焼けの種類は2種類
 サンバーン:UVBにあたった後2〜6時間で皮が赤くなり、発熱や水泡、痛みが6〜48時間の後に最もひどくなる。
 サンタン:UVAにあたった後24〜72時間で色素沈着が進行し3〜8日後に皮膚が剥離し始める。皮膚が浅黒く変色し、シワ、タルミの原因になる。

■日焼け止めの指標は2種類
 SPF:数値が大きい方がUVBの防止効果大
 PA :+、++、+++の3段階があり、+の数が多いほどUVAの防止効果大
(出典:日本化粧品工業連合会)



健康な庭づくりのために大事なこと
塩屋 虫引 (川崎市在住)


■化学物質過敏症の予備軍?
 私は造園業を営んでいます。園芸好きだった父の影響を受け、趣味が高じて進んだ道です。それがどうやら、この数年化学物質過敏症の予備軍であるようなのです。アマチュアの頃の間違った庭とのかかわりが、私を病気に近付けたのだろうと思っています。
 プロとなって農薬を必要としない庭づくりをしている私に、今頃、遅れて届いた警告。それは、ますます安全な庭づくりをしていくよう、後押しするために届いたのかも知れません。

■アマチュアの頃の失敗
 アマチュアの頃、好みの花を美しく咲かせることにしか意識が向いていない時期がありました。見映えにこだわるあまり、管理が難しい負荷のかかる庭になっていたように思います。花を傷める虫に敵意をむきだし、立ち枯れる花株にぴりぴりしていたものです。
 コントロールするために農薬に頼りだすと、もう引き返せない道を行くようなものでした。ゆったりと庭を眺める余裕もなく、敵だらけの庭に疲れていきました。
 精妙なバランスの中でこそ庭は豊かに息づく。そんなことに気づけずに、ひとりよがりな庭仕事をしていた頃の失敗です。

■農薬が庭の問題を解決すると思い込んでいませんか?
 昔の私のように、庭への理解や農薬の知識がないうちに、植物や庭の管理には農薬が必要だという思い込みをしている人は多いようです。そして、農薬の知識が足らず、間違った使い方によって自らトラブルを招いているケースもよく見かけます。
 農薬での対症療法的な措置で、かえって悪循環を起こしていることもあるでしょう。そのことに早く気づき、庭との対話のなかで、問題解決の道を見つけて欲しいと願っています。

■農薬を使いこなすのは至難のわざ
 でも現状は、農薬は"庭の必需品"という顔をして家庭に入り込んでいます。きちんと理解をされぬまま、漫然と使われている様子がうかがえます。病害虫の見極めは簡単ではなく、ぴたりと合う薬剤を選ぶのは、とても難しいはずなのに。
 病態や害虫の成育過程によって、効果のある薬剤が変わってもきます。タイミングを間違えればなんの効果もなく、かえって耐性をつけてしまったり、天敵だけが被害を被ったりすることもあります。かえって防除を難しくしてしまうのでは、本末転倒ではありませんか?
 私自身、一つの病害虫への対策にやむを得ず農薬の使用を考える場合、何冊もの本で調べて充分検討しますが、かなりの神経を使います。その難しさや得られる効果と損失を合わせて考えると、緊急性がある異常事態のほかは、使う気にならないものです。
 農薬を安易に使う前に、本当に必要か、他の方法はないのか、近隣への影響はどうか、じっくり考えることをお願いします。それが、庭との新しい関係づくりのスタートになるはずです。

■園芸書などメディアも問題
 園芸書には施肥や剪定などの情報と一緒に、病害虫妨徐の時期と代表的な病害虫名や防除の薬剤名などが書かれていることが多く、農薬での防徐は当然行うべき庭仕事として、多くのアマチュア園芸家の頭に刷り込まれています。特に病気には、発生する前の予防使用が大事だと、何度もインプットされるのです。それが、庭での不要な農薬使用につながっていると感じています。
 また、園芸の本や雑誌での植物の紹介にも問題を感じています。生育上の特性についての情報より、葉や花の美しさばかりを強調した紹介が目につきます。環境に適する植物を選ぶという大事な部分がおざなりで、切り花のアレンジメントをするような消費的ガーデニングにつながっているのではないでしょうか?
 環境に合わないとストレスで弱まり、病害虫の大発生の原因にもなります。新しい品種や珍しい品種に飛びつかず、入手前に情報を集めてからにすることが大事です。昔から身近にある植物を上手にコーディネートすることも、優しい庭づくりと言えるでしょう。

■バランスがとれた安定した庭を目標に
 人は地球に線を引き、権利を主張していますが、庭と環境には境界線はありません。家は人の巣であるから、住まう者の心と体と事情を第一に考え、それぞれの欲求を追求するものなのかもしれません。でも庭は、そうではありませんね?
 境界線のない世界で、病害虫の発生に農薬で刹那的なけりをつけても意味のないことです。
 病害虫に侵されるのは、植物がストレスを受けて弱っている場合が多いのです。環境に合う植物を選ぶとともに、植物が健康に育つよう、敷地の問題をよりよく改善することが大事です。
 それである程度、病害虫は発生しにくくなり、また、発生しても大事にはならないのです。自然環境、人的環境、植物、他の生物、それらのバランスがとれてくれば、手のかからない安定した庭になるでしょう。安定した庭が増えれば、人にとって住みやすい環境にも近づくはずです。
 今一度、病害虫発生の問題点を確かめて、できるだけ農薬を使用せず、根本的な改善をはかりたいものです。

■庭づくり10のチェックポイント
●土壌の排水は良好ですか?
 土壌の質や排水環境により水はけが悪いと、根を傷めて弱ります。
 土壌改良をしたり、排水設備を設けたりして、改善しましょう。根の環境がいいことは植物が健康に育つための必須条件です。ただし、植物により、水はけの好みが違うこともあります

●庭の日当たりを把握していますか?
 その場の日射量と植物の好む条件が合わないと、植物は弱ります。
 樹木や隣地の建物など、日差しを遮るもので、場所ごとに日射量が違うことも計算に入れること。

●気候風土にあった植物を選んでいますか?
 園芸本や園芸店で気に入った植物は、自生地や原産地を確認して、ご自分の地域で無理なく育ちそうかを第一に考えて入手しましょう。草花は多少の無理を管理で補えますが、樹木類は気候風土に合うことが絶対条件です。合わない樹木は、枯死するだけでなく、特定の病虫害を発生させて近隣にも迷惑をかける場合があります。

●風通しが悪くありませんか?
 風通しが悪いと病害虫の発生が多くなります。密植を避け、植木の剪定では刈り込みでなく枝を間引くほうが、風が通っていいでしょう。

●枝が混み合っていませんか?
 重なった枝は、日の当たらない方が弱っています。虫の隠れ処にならないためと、他の枝に日が当たるように、不要な枝は整理しましょう。

●同じ科の植物ばかりを植えていませんか?
 特定の病害虫が発生しやすくなるので、偏らない植物えらびが安全です。特にバラ科のものに注意を。
●苗を無造作に購入していませんか?
 病害虫を庭に持ち込まないように、健康な苗を選びましょう。ウイルス病にかかったものを見かけます。

●病害虫の発生しやすいものを植えていませんか?
 どうしても植えたい場合は、たくさん植えるのは避け、目が行き届き、手が届くくらいに仕立てることが安全です。被害を見つけやすく、早期であれば被害も少なく、処置も簡単にすみます。毛虫など、群がっている数枚の葉の処分で済むのです。虫取り網が届けば、コガネムシやカメムシの捕獲も確実です。

●虫や、その他の生き物を毛嫌いしていませんか?
 訪れる生き物が多いと自然にバランスがとれて、庭は落ち着いていきます。甚大な害を与えるものでなければ、色んな生き物が来ることを静かに見守ることも必要です。カエル、クモ、トカゲ、カマキリなどは虫も捕ってくれます。毛嫌いせずに大事にしましょう。池や水場、小さな実のなる木などがあると、寄ってくるものはさらに多様化します。

●植え付けの適期を守っていますか?
 植え付けのダメージが、その後の根の活着や樹勢の回復に影響を与えます。できるだけダメージが少ない適期を守りましょう。
 落葉樹は休眠中の落葉時期が安全。常緑樹は根の成育が良い春や秋が適する場合が多い。草花類はそれぞれの適期を確認した上で植えつけましょう。
 特に注意が必要なのは、植え付けに向かない時期に出回るもの。例えば柑橘類や千両などは実のつく冬に出回ることが多いですが、植え付けには向きません。しばらく仮植えでしのぎ、適期に植えるなどの配慮が大事です。



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