ピコ通信/第119号
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6月29日 化審法見直しシンポジウム
当会の提言 「ナノ物質管理法の早急な制定」 6月29日に東京国際フォーラムで、環境省主催の「化学物質審査規制法の見直しに関するシンポジウム」が開催され、当研究会を含むNGO/NPO の5団体が意見を発表しました。 化審法は来年度に改正が予定されています。現在、厚労、経産、環境の三省合同の委員会で改正に向けて、見直しが行われており、秋にはパブリックコメントが実施される予定です。 このシンポジウムは、化審法の見直しについて行政がNGO/NPOの意見を聞くという趣旨で開催されたものです。 ■当研究会の発表の経緯 当研究会は2006年以来、「有害性を懸念するに足る合理的な証拠があるのに、安全基準もなく、安全性が確認されていないナノ製品を市場に出して、人の健康と環境を危険にさらすことが許される根拠は何か?」という問いかけを、国、産業界、研究者、メディア、NGO、そして一般市民に向けてきました。 一方、本年5月の国の化審法見直し委員会でなされたナノの取り扱いに関する審議では、本質的な討議はほとんど行われず、全く不十分な審議でした。 そこで当研究会は、「ナノ物質管理法の早期立法」をこのシンポジウムで提言しました。以下に当研究会の発表内容の概要を紹介します。(当日発表パワーポイントPDF版は、下記環境省ウェブページに掲載されています) http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/sympo/pr_1.pdf ■当研究会発表の概要 ナノ物質の有害性報告の事例紹介、ナノ物質管理に関する世界のNGO/著名な機関の意見/勧告、化審法見直し合同会議等での国の見解等を紹介。これらに基づきナノ物質管理の要件を提案し、化審法の改正ではなく、ナノ物質管理法(仮称)を早急に制定すべきこと、及び新法制定までの過渡期対応を提案した。 ■ナノ物質とは 1ナノメートル=10億分の1メートルであり、毛髪の径の約5万〜10万分の1くらいの長さの単位。公式なナノ物質の定義はまだないが、少なくとも1次元が1〜100ナノメートルの物質であるということで世界的に合意が得られている。 物質がナノサイズのように小さくなると、全く新たな特性を示すようになる。例えば
■多くのナノテク製品が市場に出ている ウッドロー・ウィルソン国際学術センターのナノテク製品目録によれば、既に世界中で市場に出ているナノテク製品は約600製品あり、毎週3〜4製品が市場に投入されている。その製品範囲は、電気製品、バッテリー、冷暖房空調、厨房用品、自動車用品、電子機器、 食品・飲料、子ども用品、衣料品、化粧品、身体手入れ用品、スポーツ用品、日焼け止め、家具、建材、装飾品、塗料、ペット用品、医療品等など極めて広範囲である。 ナノ導入製品の市場規模は、2004年は1.4兆円、2007年は31兆円であり、2014年には約280兆円 (全製品の15%)になると予測されており、拡大の一途をたどっている。 ■ナノ物質 日本では何が問題か? 世界的に共通する問題点もあるが、特に日本での主な問題点は下記の通りである。
■世界のNGOの懸念と警告 ナノの安全性を懸念する世界のNGOが警告や提案を行っている。 ●エンバイロンメンタルディフェンス(米) アスベスト、フロン類、DDT、加鉛ガソリン、PCB類等は商業的に有用でも、健康又は環境に害がないということではない。もし、製品が広く使用されるようになった後に危険が分かった時には、人の健康と環境が損なわれるだけでなく、長期の裁判や浄化修復の大きな出費や社会関係の大きな歪みをともなう。 ●ETCグループ(カナダ) ナノ物質の有毒性に関する10の研究事例を挙げてナノ物質の危険性を警告し、安全性が確認されるまで、新たなナノ物質の商業的生産の一時的中止(モラトリアム)を求めている。 ■ナノの危険性を示す研究報告の事例 ナノ物質の危険性を示唆する研究が多数報告されているが、代表的なものを挙げる。
●英国王立協会・王立工学アカデミー報告 イギリスのみならず、世界中に大きな影響を与えた報告書で21項目の勧告がある。
R10:ナノ粒子又はナノチューブ形状の化学物質は、REACH の下に、新たな物質として扱われるよう勧告する。 R12: 消費者製品 (1)ナノ粒子形状の成分は、製品中での使用が認可される前に、関連する科学諮問機関による完全な安全評価を受けるよう勧告する。 (2)製造者は、ナノ粒子の特性がより大きな形状のものと異なるかもしれないということをいかに考慮したかを示す、ナノ粒子を含む製品の安全性を評価するために使用された手法の詳細を公開するよう勧告する。 ●ウッドロー・ウィルソン国際学術センター 米EPAへの勧告2007年7月報告書 ナノ物質について、製造、製品の使用だけでなく、製造中の廃棄物や使用済みナノ製品の廃棄処理について問題提起し、米国環境保護庁(EPA)に対し勧告を行っている。 ●米化学会オンラインジャーナルES&T 2007年11月 ナノとTSCA(有害物質規制法) TSCAの下で新規物質なら、製造者は市場に出す前にEPAにデータを提出しなくてはならないので、ナノ規制のチャンスとなる。しかしEPAは、ナノ物質をサイズが小さいという理由では新規物質として規制していない。 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の労働衛生専門家や環境活動家らは、ナノ物質のサイズが小さいこと、及び生物系及び環境との相互作用の仕方に基づいて、ナノ物質を新規物質と見なすよう強く求め、EPAのナノ物質及びTSCAに関する立場に批判的である。 ■当研究会の意見表明 2006年2月23日、当研究会は次のような意見表明を行った。
欧米の行政・機関のナノ安全管理に関する方針・施策は、2004年ごろから国民に示され、パブリックコメントなども行われている。 ●米環境保護庁(米EPA) 2005年に「ナノ技術:ファクトシート」、「ナノ技術白書(ドラフト)」を発表し、「パブリックコメント」を実施した。 2008年1月には、製造者がEPAに既存のナノ物質及びナノ製品に関する情報を自主的に報告するという「ナノ物質ステュワードシップ・プログラム」を発表した。 EPAは、現行有害物質管理法(TSCA)の枠組みの中でナノ物質を管理するとしており、ナノサイズの物質を新たな化学物質とは見なしていない。 ●米国立労働安全衛生研究所(NIOSH) 2006年「安全なナノ技術へのアプローチ」で、予防的手法が妥当としている。 ●欧州委員会 (EC) 2004年「欧州ナノ技術戦略に向かって」、2007年「ナノ物質リスク評価方法論」、2008年「ナノ科学及びナノ技術行動規範」などを発表している。 2008年6月「ナノ物質の規制的側面」で、既存物質がナノサイズ物質として導入される場合は、REACH登録書類はナノの特性に対応して更新されなくてはならない−と提案した。 ●英環境食糧地域省 (defra) 2006年「人工ナノスケール物質の自主的報告計画」を発表し、製造者に協力を求めている。 ■ナノの安全管理−日本の行政の対応 (1)(2007年まで) 日本では内閣府、文部科学省、経済産業省、厚生労働省、環境省がナノ技術に関わっているが、ナノの安全管理の主管省庁がどこなのか明確でない。少なくとも2007年までは、これらの省庁は関連又は外部の研究機関に調査、研究業務を委託しているに過ぎず、安全管理に関し、政府又は省庁独自の立場や指針、施策を国民にきちんと示していない。 ■ナノの安全管理−日本の行政の対応 (2)(2008年以降) 2008年になって、厚労省及び環境省はようやく通達、検討会等で動き出したが、欧米に比べて3〜4年遅れている。 ●厚労省 2008年2月「ナノマテリアル製造・取り扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について」という 通達を出し、2008年3月、4月、5月に第1〜4回ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会/第1〜3回ナノマテリアルの安全対策に関する検討会(第1〜3回合同会合)を開催した。 ●環境省 2008年6月「平成20年度第1回ナノ材料環境影響基礎調査検討会」を開催した。 ■ナノの安全管理−日本の行政の対応 (3)(ナノサイズの物質は新規化学物質か?) ナノ物質はサイズが小さいことにより、全く新たな特性を示すので、新規化学物質とすべきとのNGOの主張に対し、国は化審法において粒子径が小さいことをもって新たな物質と見なしていないと下記会合で言明した。 ・2006年7月20日 経産省化学物質政策基本問題小委員会第3回 ・2008年5月29日 第3回化審法見直し3省合同WG ■ナノ物質管理の仕組みが必要 日本においてはナノ物質管理に関する公開の議論はもちろん、ナノ物質管理そのものが全く行われておらず、安全性が確認されないままに、ナノ製品が市場に出ている。人の健康と環境を守るために、早急に下記基本要件を備えたナノ物質管理の仕組みを作ることが必要である。 ●ナノ物質管理の基本的要件
●「ナノ物質管理法」を制定する必要性 提案するナノ物質管理の仕組みを実現するためには、下記理由により新たな「ナノ物質管理法」を早急に制定する必要がある。
法制定が実現するまでに時間がかかることが予想されるが、その間、ナノ管理を放置しておくことは許されない。予防原則に基づく過渡期対応の暫定的管理を早急に実施することを提案する。 ●既に市場に出ているナノ物質
化学物質管理もナノ物質管理も理念に変わりはない。 人の健康と環境を守るためには、予防原則と「ノーデータ・ノーマーケット!」 (安間 武) |