ピコ通信/第115号
発行日2008年3月26日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 第2次循環型社会形成推進基本計画(案)
    当研究会の意見及び環境省の回答
  2. 第2回アジア3R推進会議でNGOとして発言
    3R政策の策定と実施におけるNGOの役割−透明性と真の市民参加が実現されることを望む/安間 武 (化学物質問題市民研究会)

  3. 10周年記念連続講座U 有機リン問題を考える
    第3回 有機リンへの群馬県の取組みと研究成果
    小澤 邦寿さん(群馬県衛生環境研究所長)

  4. 環境省/農薬散布に伴う環境リスクの低減のための検討会二つ 進捗状況(上)
  5. 調べてみよう家庭用品(13)家庭園芸用農薬
  6. 海外情報:幼児用品は乳幼児のフタル酸エステルの曝露源の可能性
  7. 化学物質問題の動き(08.02.26〜08.03.25)
  8. お知らせ・編集後記


第2回アジア3R推進会議でNGOとして発言
3R政策の策定と実施におけるNGOの役割
透明性と真の市民参加が実現されることを望む

安間 武 (化学物質問題市民研究会)

 アジアにおける3Rの推進を図るためとして、環境省は3月18日(火)〜19日(水)、東京・三田会議所にて第2回アジア3R推進会議を開催しました。会議にはアジア23か国、G8各国、国際機関などが出席しました。
 この国際会議も、会議の透明性及び市民参加という点に問題がありました。(1)会議開催公表は2週間前、(2)会議の討論にNGOが参加していない、(3)会議開催案内時にアジェンダ及びイシュー・ぺーパーが公表されていない、(4) 会議開催案内によれば傍聴者には同時通訳受信機が貸与されない。
 このような状況の中で、傍聴を申請したNGOに対し、開催4日前に環境省よりNGOの役割に関する10分以内の発言要請があり、化学物質問題市民研究会の安間武が発言することになりました。以下に発言内容を紹介します。

3R政策の策定と実施におけるNGOの役割
透明性と真の市民参加の実現を望む

 化学物質問題市民研究会の安間武です。発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。私は「3R政策の策定と実施におけるNGOの役割」についてお話します。

 3R活動に関するNGOの役割には、大きく分けて二つあります。ひとつは3R政策策定以前の政策立案の時点から参画し、基本理念や政策の策定に建設的な提言を行い、政策に反映させるという役割です。もうひとつの役割は、政策決定後、行政・産業・市民が政策実施を効果的に進めるにあたり、市民すなわち公益(public interest)の立場から、政策実施を推進すると同時に、行政の政策実施を監視するという役割です。

 このセッションで期待されているNGOの役割は、3R政策決定後の国内における3R活動への参画という後者の役割であるように思われます。そのようなNGOの役割としては、「行政の3R政策を推進すること」、及び「行政の3R政策を監視すること」という二つの側面があります。

 「行政の3R政策の推進」には、NGOが行政と市民の仲介役となり、行政の3R政策を市民に分りやすく伝え、その目標達成のための情報を市民に提供し、あるいは3R推進キャンペーンを実施するなどの活動が含まれます。例えば、廃棄物発生量の削減、使用済み電気製品やパソコンの法に基づく正規ルートでの回収、使用済み製品の再利用、海外を含めた3R実践の事例紹介などの分野で3Rを推進することができます。

 一方、「行政の3R政策の監視」は、3R政策の実施に改善すべき点や問題点があれば、それらを指摘し、その是正を求めるために提言、協議、交渉、抗議、反対運動などの活動を行うことです。例えば、東京都は廃プラスチック焼却政策を推進していますが、これについて本来リサイクルされるべきプラスチックが焼却され、有害物質やCO2を排出するなどの問題があるとしてNGOや市民が反対しています。また、NGOは、廃棄物処理に関する技術が本当に安全で、持続可能で、市民の合意が得られる技術なのかどうかを厳しくチェックする必要があります。

 しかし、NGOの役割は、このような政策決定後の政策実施における行政と市民/コミュニティーとの間の仲介・推進というような受動的なものだけではありません。むしろNGOが政策決定以前の政策立案の段階から参画し、建設的な政策提言を行い、その提言を政策に実現させていくということがNGOの非常に重要な役割です。

 NGOは常にこのような形での参画を求めていますが、それが認められることは少なく、今回のこの会議のイシューペーパーの中にも、NGOのそのような参画についての言及は一切ありません。また、NGOが建設的な提言を行っても、それが政策に取り入れられることは日本ではあまりありません。

 洞爺湖G8サミット/神戸環境大臣会合に向けて、NGOは国際的なネットワークの下に「気候変動」、「生物多様性」、及び「3Rイニシアティブ」に関するポジション・ペーパーを発表しています。皆さんのお手元にある配布資料の「3Rイニシアティブ」に関するポジション・ペーパー概要をご覧ください。

 製品には製造、使用、廃棄というライフサイクルがあります。途上国のNGOや市民は、先進国はこの製品のライフサイクルのうちの"製造"と"使用"というポジティブな部分では利益をあげ便益を享受しているのに、"廃棄"というネガティブな部分は途上国に押し付けていると考え、途上国の人々は先進国に対し強い不信の念を持っています。

 そのような途上国のNGOや市民の懸念と不信を払拭するために、我々は「3Rイニシアティブ」に関するポジション・ペーパーの中で、「国内処理原則を実現しつつ、資源の国際循環を可能とする新たな3Rイニシアティブを提言しています。提言の中には次のような項目が含まれています。
  • 国際条約交渉、貿易交渉、国際会議などでの議論や政策の策定について、最大限の透明性と市民やNGOの建設的な参画の機会を与えること。
  • 先進国内で発生した廃棄物の処理は国内処理を原則とし、途上国に廃棄物処理を肩代わりさせないこと。
  • 中古品と廃棄物の定義を明確にし、それらの動きと量を把握できるようにすること。
  • バーゼル条約修正条項を直ちに批准し、発効させること。 
  • 先進国が使用済み製品を循環資源として輸出する場合には、全ての有害物質を除去し、クリーンな資源として輸出すること。
  • 途上国に対し、リサイクル技術及びリサイクル・システムを向上させるための人的、資金的及び技術的支援をすること。
  • 廃棄物削減量の目標値を設定するなど様々な方法を通じて、廃棄物の発生を抑制し最小にすること。
 NGOは、このようなポジション・ペーパーを発表することにより、3R政策の基本理念と建設的な政策を提言するという重要な役割を果たしています。このようなNGOの提言が真摯に検討され、新たな3R政策に反映されること、さらに3R政策だけでなく、あらゆる政策において透明性と真の市民参加が実現されることを切に望みます。ありがとうございました。



化学物質問題市民研究会10周年記念連続講座U
有機リン問題を考える 第3回
有機リンへの群馬県の取組みと研究成果

小澤 邦寿さん(群馬県衛生環境研究所長)

(文責 化学物質問題市民研究会)

■神経突起の伸びを阻害
 群馬県は2006年夏に有機リン農薬の無人ヘリコプターによる空中散布自粛を要請して、県内では中止が実現されました。しかし残念ながら、後に続く県がまだない状況です。
(ビデオ 前橋市の青山医院での有機リン農薬中毒の患者さんの様子
ビデオ 2006年日本テレビ「カナリアの子供たち」ダイジェスト版上映)

 県衛生環境研究所の「有機リン系等農薬の毒性に関する研究」を紹介します。

(図:農薬曝露後5日目の神経様突起の長さ)
 神経様細胞を使って神経様突起の伸び方や速度を農薬がどのくらい阻害するかをみた実験をしました。最初に細胞毒性試験を行い、細胞が死なない農薬の濃度を確かめて、その濃度以下で実験しました。

 実験結果を見ると、農薬を添加しない場合は突起がよく伸びる。しかし、有機リン系(フェニトロチオン(MEP)、フェニトロチオンオクソン(MO)、クロルピリホス(CPF)、ピレスロイド系(ATRアレスリン)、ネオニコチノイド系(ICPイミダクロプリド)の5種類の農薬をそれぞれ添加すると、突起の伸びが悪くなりました。どの農薬も神経様突起の伸びを阻害するという実験結果でした。有機リンの毒性を見るための実験でしたが、ピレスロイド系は、この実験系では強い毒性を示しました。

 資料は、有機リン農薬の毒性についての医学論文できちんとした医学雑誌に発表された論文を調べ検証したものです。1950年代以降、有機リン系農薬の毒性に関する医学論文は5,000件以上も発表されています。そのうちの最新の約100件の論文を検証してみました。その結果、ほとんどの論文が有機リン農薬に慢性毒性があると報告していることが分かりました。特に、近年では遅発性神経毒性と発達神経毒性があるという論文が多い。

 慢性毒性に懐疑的な論文も3編ありますが、データの蓄積が十分でない等ではっきりとした断定はできないというスタンスのものです。

■欧米における有機リン系農薬の規制の現状
 EUでは、91/414指令で農薬の見直しに着手、有機リン農薬は使用不可となっています。農薬の空中散布は原則禁止です。英国では、EUよりも前に見直しに着手、有機リン系、カーバメート系など、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を持つ農薬は、市場から排除されました。

 EPAは食品品質保護法によって農薬の再評価をしています。すべての農薬について現行の許容量の再評価が行われ、厳しくされました。特に乳幼児への影響を考慮して、影響について信頼できるデータがない場合は安全係数を10倍厳しくしました。また、毒性のメカニズムが同じ農薬は、総摂取量を考慮して規制することになっています。

 昨年5月に、EPAの農薬プログラム部ロイス・ロッシ登録課長が内閣府食品安全委員会の勉強会で講演しました。その際、私の「米国での有機リン農薬の空中散布の規制状況はどうか」という質問に以下のように答えました。

 「今回の再評価・再登録の結果、多くの有機リン系農薬について空中散布での使用登録が末梢された。基本的に、有機リン系農薬の空中散布は米国内では認められない。ただし、例外的に一部の有機リン系農薬について、公衆衛生上の必要性がある場合にのみ、空中散布が許可される」。つまり、西ナイル熱やマラリアなどの感染症対策として必要な場合以外は、原則として有機リン系農薬の空中散布は米国内では禁止されることになったということです。

 昨年、新しく知事になった大沢知事も有機リンの空中散布については、そのまま継承すると県議会で表明し、議会の満場の拍手を受けました。今後、有機リンの空中散布は群馬県では永久に行われないであろうと、私は思っております。

 実は、人間が体内に取り込む化学物質の量の割合は、空気からが8割であって、食べ物からよりも吸い込む空気からのほうがひじょうに多いのです(上図参照 出典:村上周三 東京大学生産技術研究所 臨床環境9:49〜62、2000)

 残留農薬の検査も大切ですが、屋外・室内の空気は人間の生活にとってきわめて重要なことがわかります。また、食べ物は選択ができますが、空気は選択ができません。

■空中散布中止によって有機リン中毒患者が減った
 有機リン系農薬の空中散布中止によって、実際に群馬県内の有機リン中毒患者が減ったのかどうかについて見てみます(次頁図参照)。

 高崎市の青山医院の受診患者の統計を見ると、抗コリン剤(有機リン中毒症状を和らげる薬剤)の投与人数は、平成17年(空中散布中止前年)と平成18年(中止後)では、かなり減っているのがわかります。ただし、患者数そのものが減ったためかもしれないので、患者数と解毒剤点滴者数を比較すると、患者数は変わっていない。それなのに、点滴者数は明らかに減っているという結果でした。有機リンの空中散布中止の効果は、これで医学的に証明されたと思います。

■発達神経毒性試験の導入
 農薬工業会は内部文書で、発達神経毒性試験(注 有機リンに関してまだ日本では行われていない)を導入して登録要件にされる可能性が高いということを予測しています。

 その試験には1億数千万円かかるので、それだけの体力のない会社は淘汰される、ということも書いています。農薬工業会の人が「カナリアの子供たち」(前述 日本テレビ番組)の中で「農薬は安全だ」と強弁していましたが、実は発達神経毒性試験が導入されることを危惧しているということが分かります。

■官民一体の航空防除推進事業
 群馬県の有機リン空中散布中止に対して、農水省は自治体担当者に群馬県に追随しないようにと言ったり、農薬工業会が抗議文書を送ってくるなどしています。有機リン空中散布を中止しても有機リン以外にも農薬はたくさんあるので大きな影響がないはずなのに、何故これほどまでに牽制するのかと私は疑問に思い、少し調べてみました。

 すると、無人ヘリによる農薬空中散布をめぐる官民一体の事業推進の仕組みが浮かび上がってきました。これは国策として推進されている農水省の航空防除推進事業という事業であり、農林水産航空協会、農薬工業会、日本産業用無人航空機協会、ヤマハ発動機・ヤンマー(ラジコンヘリ製造メーカー)などが関わっています。農林水産航空協会の役員名簿を見ると、農水省の役人の天下り先であることが分かります。一方、ヤマハは農業用無人ヘリのシェア・ナンバーワンの会社です。

 無人ヘリの散布面積・機体数・オペレーター数とも、年々増加してきています(数年間で2倍以上)。農水省の事業として、成功した事業であるといえるわけです。加えて、ラジコンヘリの性能はひじょうに優れています。とは言え、日本の農地には限りがあるので、無人ヘリは飽和状態にかなり近づいてきています。やがて、登録台数は頭打ちになるでしょう。したがって輸出を考えていると思います。ヤマハが、中国へ武器転用を認識しながら輸出していた事実が、既に明るみに出ています。

 農水省や農薬工業会は、群馬県の取った措置が、推進してきた国策事業を崩壊させるきっかけになりかねないと危惧して、あのように牽制する態度を取ったのではないかと思います。

Q & A

Q 発達神経毒性試験は既に国際的な試験基準はできていて、他の国では行われているのか。
A 必要だということで、登録要件にしている国はあるようだが、国際的なスタンダードはまだできていないようだ。住友化学が発達神経毒性試験について論文を出していて、インターネットで見ることができる(注)。

Q つい最近、千葉県柏市のカブからイソキサチオン(有機リン系殺虫剤)が高濃度で検出された。柏市の住宅地の真ん中のカブ畑で農薬がばんばん撒かれて、隣接する住宅に住む人が化学物質過敏症になっている。農薬残留基準値以下の野菜を食べても健康な人に影響が出ることはないかもしれないが、農薬を撒くことで周辺住民が健康被害を受ける、それが問題だ。

Q 有機リン空中散布が群馬県では実現できて、他の県ではできない一番の理由は何か。
A 群馬県では食品安全行政は一本化されている。私は食品安全会議と衛生環境研究所の代表で、農薬の問題について知事に意見具申できる立場にある。他の自治体では、農薬の安全性に関わる部署は、農政部、健康福祉部、衛生環境研究所など色々な部署が関わり、一般に農政部が一番強くて、農家にとってマイナスになる決定は難しい。

Q 赤城山の麓の老人ホームで飲んだお水が大変おいしかった。群馬県では空中散布をやめても農薬を使うと思うが、使った農薬は水に含まれてどのくらい人の口に入るのか。
A 群馬県の利根川水系は、首都圏の水源の2/3を担っている。群馬県が水質を守ることはひじょうに大切なことで、利根川水系の農薬調査を予定している。

Q 自粛要請に対して農業団体等の反応はどうだったのか。どのように実現したのか。また、地上散布については何か動きはないのか。
A 農政部に要請をして農業団体への根回しをした。大きな反対はなかった。有機リンだけをやめなさいということで、空中散布そのものをやめなさいということではなかった。ただし、有機リンは一番安い。他の農薬に替えた時の費用を試算すると100万円以下で、農家に補償したとしても大した金額ではないということもわかった。農薬散布の時期が迫っていたので、条例ではなく早くできる自粛要請という方法をとった。また、国が許可している農薬の使用を条例で禁止するのは難しい。空中散布は有機リン以外の農薬も、ある程度減った。空中散布の危険性を世に知らせることができたのではないかと思う。

Q 空中散布をやめたことで、病気や虫の影響が出ているという声はないか。
A それは聞いていない。農薬は上手に使えば、最小限度で効果を上げられる。

Q 学校で有機リンを散布することが多い。子どもは有機リンを樹木に撒かれて、登校しても帰ってくる状態が続いた。
A 学校で有機リンを撒くのは論外。その校長はとんでもない人だ。群馬県では学校では有機リンは使っていない。環境・農水省の「住宅地等における農薬使用について」通知を知らないところが多い。前橋市が大きなバラ園を持っているが、周辺住民への農薬散布の周知は、入り口に小さな紙に書いて貼っているだけ。市の広報できちんと通知しなくてはならないはずだ。

Q 今、床下防蟻剤、建材の防腐剤で増えているのがネオニコチノイド系で、新種のシックハウス問題が起きている。症状として心臓発作がある。野菜にMSDSを、何をどのくらい撒いたかをつけるということ、そして、何%の重曹で中和されるということをマニュアルとしてつけることを提案したい。

注 「発達神経毒性研究-現状と課題-」2002年 「住友化学 発達神経毒性研究」とキーワードを入れて検索。


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