ピコ通信/第106号
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寄稿/庭木や家庭菜園・花壇の虫退治には
安全な石けんを使おう 冨田重行さん 緑も深くなり、草木が良く育つ園芸シーズンです。都会の中でも花や木を育てるのは気持の良いものですが、アブラムシやチャドクガ、イラムシなど害虫にも悩まされる季節です。園芸店に言われるままや、宣伝につられて安易に農薬を使用していませんか。基本的には毒をもって毒(病気や害虫)を制するのが薬です。化学物質に特に鋭敏に反応する胎児を抱えた妊娠中の女性もいたり、乳幼児もいたり、ペットも走り回っていたりする中で薬を使用するのはお奨めできません。 庭や家庭菜園にくる害虫の多くは、昔ながらの粉石けんをお湯に溶いてかけてやれば死んでしまいます。石けん水なら手にかかっても顔にかかっても、口に入っても安全です。それでいて、効果があります。遠いところや少し高いところの虫には水鉄砲の様にして飛ばしてかけてください。 たくさんの植物や作物で試して植物への害はありませんでした。いろいろな花や野菜で使ってみて、情報を報告してください。 ■アイロン用のスプレーと石けん水のレシピ 材料: 洗濯用粉石けん(炭酸塩添加)5g〜10g 60度ぐらいのお湯 1リットル 道具: スプレー(噴霧したり、水鉄砲にしたりできるノズルを持つもの) 方法: 粉石けん5〜10gを1リットルのお湯に溶かして、アイロン用のスプレーに入れて虫に噴霧します。なるべくびっしょりとかけてください。お湯の方が汚れが落ちやすいように、60度くらいの温度で噴霧してやると効果が大きくなります。 注意! 必ず石けんを使うこと 合成洗剤は植物を枯らすこともあるし、皮膚から浸透するものもあるので不可。合成洗剤の混ざったまがい品である複合石けんも使わないでください。私は「マルダイ粉石けん琵琶湖」を常用していますが、どこのものでも良いでしょう。値段の高い純石けんでも効果はありますが、むしろ炭酸塩を添加した安い洗濯用粉石けんをお奨めします。 【使ってみて害のなかった樹木や作物、草花】 ばら、梅、さくらんぼ、ざくろ、ぶどう、ゆすらうめ、さつき、なんてん、樫、椿、さざんか、みかん、きんかん、さるすべり、松、まさき、すいふよう、ばらん、おもと、じゃすみん、菊、つるにちにちそう、苺、かぼちゃ、桔梗、おだまき、ねぎ、青じそ、ミニとまと 【退治した虫】 アリマキ(アブラムシ)、チャドクガ幼虫、イラガ幼虫、蝶や蛾の幼虫、カイガラムシ、カメムシ、ハダニ、ゴキブリ、マツケムシ(マツカレハ)、アメリカシロヒトリ、蟻、蚊、ゲジゲジ(虫を退治してくれるクモにも、かかると死んでしまいます) 【治まった病気】 ばらの黒点病、さるすべりのウドンコ病 【効果のない面々】 ナメクジ、ダンゴムシ、ムカデ、ボウフラ ■なぜ虫が死ぬのか−石けん水で水死 毒でもない石けん水でどうして虫が死ぬのでしょうか。 昆虫類は体の側面にあるいくつもの気門という穴から空気を体内に取り入れて呼吸をしています。この穴に水が入ると呼吸ができなくなるので、油分で保護して水にぬれてもはじくようにしています。雨の中でも昆虫は平気なのですが、基本的に水は嫌いなようで、イラガやチャドクガなどは幼虫が雨に当たりにくい下の方に卵を産み付けています。 石けんは水と油を混ぜ合わせる性質(界面活性作用)があるので、昆虫が油で保護している気門を濡らして塞いでしまうのです。昆虫の気門を水が栓をして、空気を取り入れることができないようにし、窒息させるのです。 石けんの界面活性作用は温度が高いほど大きくなるので、噴霧しても植物の枯れない60度くらいのお湯を使う方が良く効くのです。特に濡れにくいカイガラムシなどはお湯の方が良いようです。 直接虫にかからないと効果がないので、予防的には使えません。良く観察して虫そのものに石けん液がかかるようにしてください。白いワックスをもったアブラムシなどはしっかり濡れて黒くなるまでかけてください。裏側に液がかからずに生き残ったものがいるとすぐに増殖してきます。チャドクガの幼虫の群れにも葉の裏表からしっかりかけてください。 ■残った石けんはどうなるのか 石けんは、植物油や動物脂肪をアルカリで分解してつくります。炭素と水素の長い鎖の端にカルボン酸基がついた脂肪酸にナトリウムイオンやカリウムイオンがイオン結合したものです(脂肪酸塩)。植物油や動物脂肪のもととなっている脂肪酸には多くの種類があるので、石けんにはたくさんの種類の脂肪酸が含まれています。植物の表面に残った石けんや地面に落ちた石けんはカルシウムと結びついて脂肪酸カルシウム(いわゆる金属石けん=石けんかす)になるか、植物の分泌する酸で中和されて脂肪酸そのものに変化すると考えられます。 脂肪酸は、油脂を食べると消化器の中でも生成されるもので、腸から吸収され、体内で燃焼されます。従って、石けんに使われる脂肪酸や脂肪酸塩は普通の食事で食べられるものなので、特に大量に摂取しなければ健康影響はないとみなされています。 流れて土に落ちてできた金属石けんは微生物の栄養源となって分解していきます。 合成洗剤はかすにならずにいつまでも界面活性作用が持続されるために、細胞内に浸透しやすく、細胞膜の機能や細胞内の機能に影響を及ぼす恐れがあり、危険性が高いものが考えられるため、使用をお奨めできません。 註:石けんについて http://plaza.harmonix.ne.jp/~krand/index.html#s03(石けん学のすすめ) 合成洗剤の危険性 http://www.live-science.com/bekkan/toba/index.html(石けん百科【別館】鳥羽の海から) ■植物を元気づけるかも!? 葉に残った脂肪酸がどうなるかについて興味深い研究があります。 動物性油脂のラードの中にアラキドン酸という脂肪酸が含まれています。このアラキドン酸をジャガイモの下の方の葉に散布してやると、散布した葉の中のサリチル酸が増加するというものです。サリチル酸は人の医薬としても使われる事のある化学物質で、植物の病害に対する抵抗性を高める物質として注目されています。また、液のかかっていない上の方の葉にもべと病に対する抵抗性を高めたり、疫病に対する幅広い抵抗性を示したりするというものです。 これは、わずか10ppmという濃度で起こるものです。アラキドン酸はラード100gあたり約0.2g含まれているので、廃油石けんなどにも含まれている可能性があります。葉に残された脂肪酸が植物に吸収され、植物に利用されていることを示しているものです。 また、石けん液は比較的強いアルカリ性を示します。葉の表面が酸性に傾くと発病しやすい菌類にも、その発生を抑制する可能性があります。さるすべりのウドンコ病に石けん液を何回かかけてやったところ、ウドンコ病で白変したところは回復しませんでしたが、病変の広がりを抑えることができました。ばらの葉に黒点ができて広がって、落葉してしまう病気にも石けん水をかけたところ黒点の広がりが止まり、落葉も止まりました。 安全な農薬の開発を目的として作られたカリグリーンという炭酸水素ナトリウムを主成分とした農薬がありますが、洗濯用粉石けんに含まれる炭酸ナトリウムも水と反応して炭酸水素イオンを生成することから、同様の効果があるのかもしれません。 |