ビル管理法・衛生維持管理要領改正
IPMに基づく防除が提案される
3月22日、厚労省の第2回建築物衛生維持管理要領等検討委員会が開かれ、傍聴しました。事務局は健康局生活衛生課です。
建築物衛生維持管理要領(以下 要領)とは、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(いわゆるビル管理法)にもとづき、具体的な管理法を1983年(昭和58)年に策定したものです。委員会は、この改定案と「建築物における維持管理マニュアル」を策定することを目的として設置されました。今年1月に第1回が開催され、4回の委員会を経て、今夏ごろにとりまとめが行われる予定です。
■03年にビル管理法政省令改正
ビル管法の対象は、"多数の者が使用し、または利用する建築物"であり、興業場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、旅館(以上、延べ床面積3,000平方メートル以上)、学校(延べ床面積8,000平方メートル以上)です。集合住宅、病院などは対象となっていません。
2003年のビル管理法政省令の改正で、ねずみ・昆虫等の防除について、それまでは「ねずみ、昆虫等の防除を6ヶ月以内ごとに1回、定期的かつ統一的に行うこと」となっていたのを、「 ねずみ等の発生場所、生息場所及び侵入経路並びにねずみ等による被害の状況について、6か月以内ごとに1回、定期に統一的に調査を実施し、その結果に基づき、ねずみ等の発生を防止するため必要な措置を講ずること」 と、生息の有無に関わらず6ヶ月ごとに機械的な薬剤散布が行われていたのを、調査をしてから対策を講じる等の改定が行われました。
委員会では、空気環境、給水、排水、清掃、ねずみ・昆虫等の防除について検討が行われていますが、その中で「ねずみ・昆虫等の防除について」が私達の関心のある所です。その部分の改正案を紹介しましょう。
■改正案/「ねずみ等の防除」の概要
1.ねずみ等の防除を行うに当たっては、総合的有害生物管理の考え方を取り入れた防除体系に基づき実施すること。
(1)特定建築物におけるねずみ・害虫等の対策のための総合的有害生物管理とは、建築物において考えられる有効・適切な技術を組み合わせて利用しながら、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめるような方法で、有害生物を制御し、その水準を維持する有害生物の管理対策をいう。
(2)総合的有害生物管理の実施にあたっては、次の点に留意して行うこと。
ア 的確に発生の実態を把握するため、生息密度調査法に基づき生息実態調査を実施すること。
イ 標準的な目標基準を設定し、対策の目標とすること。
ウ 防除にあたっては、人や環境に対する影響を可能な限り少なくするよう配慮すること。特に、薬剤を用いる場合にあっては、薬剤の種類、薬量、処理法、処理区域について十分な検討を行い、日時、作業方法等を建築物の利用者に周知徹底させること。
エ まず、発生源対策、侵入防止対策等を行うこと。発生源対策のうち、環境整備等については、発生を防止する観点から、建築物維持管理権限者の責任のもとで日常的に実施すること。
オ 有効かつ適切な防除法を組み合わせて実施すること。薬剤やトラップの利用、侵入場所の閉鎖などの防虫・防鼠工事を組み合わせて実施すること。
カ 対策の評価をすること。評価は有害生物の密度と経済的効果等の観点から実施すること。
2.施行規則第二十条の帳簿書類には、防除作業を実施した日時、場所、実施者、調査の方法と結果、決定した基準、措置の手段、実施場所、滋養薬剤、評価結果等を記載すること。
■IPMに基づく防除
このように、「要領」の改正案では、ねずみ、昆虫等の防除はIPM(総合的有害生物管理)の考え方に基づき実施することとなっています。
IPM(Integrated Pest Management)は今、特にアメリカで広まっている防除法で、日本でも最近、農業などでも普及してきています。
サンフランシスコ市は1996年にIPM方針を出し、市の敷地内では有害化学物質の使用を最小にし、人と環境の健康リスクが少ない方法で有害生物を防除する条例を作っています。条例が施行されて以来、殺虫剤と除草剤の使用を全体で50%以上削減しており、最も危険な成分を含む製品の使用は廃止されました。
ロサンゼルス郡学校区は、農薬使用に関する政策に予防原則を取り入れ、有害化学物質を使用せずに害虫を管理することを目指すシステムであるIPMを構築しています。
2000年には、マサチューセッツ州は子ども達の農薬暴露を制限するために、全ての学校に対しIPM計画の提出を義務付ける法律を通過させました。
2006年には、メーン州知事はより安全な化学物質の推進とグリーン・ケミストリーの構築に関する命令に署名し、州内全ての施設でIPMアプローチを採用することを求めています。メーン州の学校では既に、IPMアプローチを採用しています。
■すべての環境にIPM導入を
IPMは、環境省と農水省が今年1月に出した通知「住宅地等における農薬使用について」(本紙103号参照)でも、その基になっている考え方です。化学物質過敏症の患者さんはもちろん、アレルギーを持つ人、子ども、妊娠中の人など、公共施設やビルなどの農薬散布による被害に遭っている人たちは大勢います。今回の「要領」の改正案で、IPMに基づく防除が打ち出されたことは画期的であると評価します。
今回紹介した改正案は最終案ではありませんので、今後修正が行われる可能性があります。旧「要領」に盛り込まれている内容で、「薬剤散布後、安全が確かめられるまで入室を禁じる等建築物の利用を制限すること」などが改正案では削られていること、発生源対策の優先、薬剤散布ではなく物理的防除優先がもっと強調されるべきであることなど、不十分な点があります。したがって、意見を言っていく必要があります。
改正「要領」が出来たなら、ビル管法の対象建物だけではなく、小規模学校や幼稚園・保育園、病院、集合住宅などについても、IPMに基づいた防除が行われるよう、監視して安全な環境を実現していきましょう。 (安間節子)
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