ピコ通信/第104号
発行日2007年4月23日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. ビル管理法・衛生維持管理要領改正/IPMに基づく防除が提案される
  2. 化管法の見直し委員会/環境省・経産省第3回合同会合傍聴報告
  3. 調和小シックスクール訴訟和解/元調和小学校保護者
  4. 調べてみよう家庭用品防虫剤
  5. 海外情報/米公衆衛生機関が化学産業と関係
  6. 化学物質問題の動き(07.03.22〜07.04.22)
  7. お知らせ・編集後記


ビル管理法・衛生維持管理要領改正
IPMに基づく防除が提案される

 3月22日、厚労省の第2回建築物衛生維持管理要領等検討委員会が開かれ、傍聴しました。事務局は健康局生活衛生課です。
 建築物衛生維持管理要領(以下 要領)とは、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(いわゆるビル管理法)にもとづき、具体的な管理法を1983年(昭和58)年に策定したものです。委員会は、この改定案と「建築物における維持管理マニュアル」を策定することを目的として設置されました。今年1月に第1回が開催され、4回の委員会を経て、今夏ごろにとりまとめが行われる予定です。

■03年にビル管理法政省令改正
 ビル管法の対象は、"多数の者が使用し、または利用する建築物"であり、興業場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、旅館(以上、延べ床面積3,000平方メートル以上)、学校(延べ床面積8,000平方メートル以上)です。集合住宅、病院などは対象となっていません。
 2003年のビル管理法政省令の改正で、ねずみ・昆虫等の防除について、それまでは「ねずみ、昆虫等の防除を6ヶ月以内ごとに1回、定期的かつ統一的に行うこと」となっていたのを、「 ねずみ等の発生場所、生息場所及び侵入経路並びにねずみ等による被害の状況について、6か月以内ごとに1回、定期に統一的に調査を実施し、その結果に基づき、ねずみ等の発生を防止するため必要な措置を講ずること」 と、生息の有無に関わらず6ヶ月ごとに機械的な薬剤散布が行われていたのを、調査をしてから対策を講じる等の改定が行われました。
 委員会では、空気環境、給水、排水、清掃、ねずみ・昆虫等の防除について検討が行われていますが、その中で「ねずみ・昆虫等の防除について」が私達の関心のある所です。その部分の改正案を紹介しましょう。

■改正案/「ねずみ等の防除」の概要
 1.ねずみ等の防除を行うに当たっては、総合的有害生物管理の考え方を取り入れた防除体系に基づき実施すること。
(1)特定建築物におけるねずみ・害虫等の対策のための総合的有害生物管理とは、建築物において考えられる有効・適切な技術を組み合わせて利用しながら、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめるような方法で、有害生物を制御し、その水準を維持する有害生物の管理対策をいう。
(2)総合的有害生物管理の実施にあたっては、次の点に留意して行うこと。
  ア 的確に発生の実態を把握するため、生息密度調査法に基づき生息実態調査を実施すること。
  イ 標準的な目標基準を設定し、対策の目標とすること。
  ウ 防除にあたっては、人や環境に対する影響を可能な限り少なくするよう配慮すること。特に、薬剤を用いる場合にあっては、薬剤の種類、薬量、処理法、処理区域について十分な検討を行い、日時、作業方法等を建築物の利用者に周知徹底させること。
  エ まず、発生源対策、侵入防止対策等を行うこと。発生源対策のうち、環境整備等については、発生を防止する観点から、建築物維持管理権限者の責任のもとで日常的に実施すること。
  オ 有効かつ適切な防除法を組み合わせて実施すること。薬剤やトラップの利用、侵入場所の閉鎖などの防虫・防鼠工事を組み合わせて実施すること。
  カ 対策の評価をすること。評価は有害生物の密度と経済的効果等の観点から実施すること。

2.施行規則第二十条の帳簿書類には、防除作業を実施した日時、場所、実施者、調査の方法と結果、決定した基準、措置の手段、実施場所、滋養薬剤、評価結果等を記載すること。

■IPMに基づく防除
 このように、「要領」の改正案では、ねずみ、昆虫等の防除はIPM(総合的有害生物管理)の考え方に基づき実施することとなっています。
 IPM(Integrated Pest Management)は今、特にアメリカで広まっている防除法で、日本でも最近、農業などでも普及してきています。
 サンフランシスコ市は1996年にIPM方針を出し、市の敷地内では有害化学物質の使用を最小にし、人と環境の健康リスクが少ない方法で有害生物を防除する条例を作っています。条例が施行されて以来、殺虫剤と除草剤の使用を全体で50%以上削減しており、最も危険な成分を含む製品の使用は廃止されました。
 ロサンゼルス郡学校区は、農薬使用に関する政策に予防原則を取り入れ、有害化学物質を使用せずに害虫を管理することを目指すシステムであるIPMを構築しています。
 2000年には、マサチューセッツ州は子ども達の農薬暴露を制限するために、全ての学校に対しIPM計画の提出を義務付ける法律を通過させました。
 2006年には、メーン州知事はより安全な化学物質の推進とグリーン・ケミストリーの構築に関する命令に署名し、州内全ての施設でIPMアプローチを採用することを求めています。メーン州の学校では既に、IPMアプローチを採用しています。

■すべての環境にIPM導入を
 IPMは、環境省と農水省が今年1月に出した通知「住宅地等における農薬使用について」(本紙103号参照)でも、その基になっている考え方です。化学物質過敏症の患者さんはもちろん、アレルギーを持つ人、子ども、妊娠中の人など、公共施設やビルなどの農薬散布による被害に遭っている人たちは大勢います。今回の「要領」の改正案で、IPMに基づく防除が打ち出されたことは画期的であると評価します。
 今回紹介した改正案は最終案ではありませんので、今後修正が行われる可能性があります。旧「要領」に盛り込まれている内容で、「薬剤散布後、安全が確かめられるまで入室を禁じる等建築物の利用を制限すること」などが改正案では削られていること、発生源対策の優先、薬剤散布ではなく物理的防除優先がもっと強調されるべきであることなど、不十分な点があります。したがって、意見を言っていく必要があります。
 改正「要領」が出来たなら、ビル管法の対象建物だけではなく、小規模学校や幼稚園・保育園、病院、集合住宅などについても、IPMに基づいた防除が行われるよう、監視して安全な環境を実現していきましょう。 (安間節子)



調和小シックスクール訴訟和解
元調和小学校保護者

 2004年6月に、東京都調布市立調和小学校の元児童である私たちの子ども4人は、調和小学校の新築校舎の化学物質高濃度汚染による健康被害と、教師等学校関係者の不適切な対応のために精神的・肉体的な被害を受け、教育を受ける権利を侵害されたことに対して、調布市に対して損害賠償請求訴訟を起こしました。提訴から3年、今年1月に調布市と和解が成立しました。事件当時小学校2年生と5年生だった子どもたちは、今春、中学生と高校生になりました。

■開校前トルエン数値が38倍
 この事件が起きたのは2002年(平成14年)9月の事でした。全国で初めてPFIを導入して建設された地域一体型の複合施設を持つ学校が、盛大な記念式典と共に開校されました。  この年の5月、原告の母親の一人が喘息を持つ子どもの健康を心配して教育委員会(以下 教委)に相談した所、「今は学校の衛生基準も変って測定もするし、数値も守る。換気も十分にするから、安心して学校に通わせるように」と言われました。9月の開校とほぼ同時に、この母親が室内の化学物質の室内放散濃度を確認した所、開校1か月前の測定ではトルエンが基準値の38倍、2週間前でも15倍の濃度の数値、ホルムアルデヒドも基準値を超える教室が多数ありました。話が違うと教育委員会に詰め寄った所、「建築の契約をしたのは学校衛生基準が出来る前なので、違法ではないから開校しても何の問題もない」と開き直りました。

■窓開け換気も拒否される
 すぐに私達は学校に行き、校長先生に事実を伝えすぐに窓を開けて換気をすることと、化学物質の測定濃度結果を全保護者に伝えるようにお願いしました。しかし、学校や教委から返ってきた答えは、「数値が一人歩きをするのは良くない。いたずらに保護者や児童を不安にならせるのは良くないから絶対に公表はしない。窓開けも、せっかく冷房が入って子どもたちが喜んでいるので、もう少し涼しくなるまでは窓は開けない」と言われてしまいました。
 シックハウスには何より換気が大事なのに、それさえも拒否されたのです。その背景には、複合施設のため室内プールを含め電気代が非常にかかる事、全国から200人もの視察者が押し寄せていて、世間体を気にした事、視察の対応に追われて学校の対応が手薄になった事がありました。新校舎のすぐ隣りに旧校舎もあるので戻る事も出来たのに、引越しの費用が出せない、学習環境としてふさわしくないと拒否されました。

■学校、教委「具合が悪くなるはずがない」
 体調を崩した原告の子ども4人の内2人は、数値が下がっても校舎に入ると具合が悪くなるのでその年の暮れに転校、後の2人はフリースクールに半年間一時避難することになりました。半年後何とか学校に戻れるようになったのですが、今度は学校内の教材や備品、先生のつけている化粧品、友達の持ってくる香水、スプレーなどで倒れるようになりました。しかし学校や教委は「数値が下がっているのだから具合が悪くなるはずはない。他の児童はみな回復して元気なのに、あなた達の子どもは特異体質なのだ」と対応してもらえませんでした。
 校長も担任教師も理解がなく、卒業するまで非常に苦しい思いをしました。担任の化粧品で具合が悪くなるようになると、「化粧品が原因かどうかわからないから証明するように。数値が測れるものなら測って下さい」と言われました。また給食の時に、担任が同じ班で一緒に食べる時は具合が悪くなるので、ベランダで食べていました。最終的には、担任が基礎化粧品だけ天然系の物にしてくれたのですが、その後ホームルームで他の生徒の前で、原告児童のために化粧品を買い替えさせられて何万円もかかって大変だったなどと発言したのです。フリースクールにいた時も、担任はほとんど子どもたちとは連絡もとらずにほったらかしでした。
 具合が悪くなるので他の児童と一緒に授業が受けられなくなり、そのような事が続くうちに他の児童や保護者からも、あの子達はさぼっている、わがままだ、ずるいと言われるようになり、いわれの無い差別やいじめを受けるようになりました。結局一人は完全に不登校になり、もう一人も保健室登校のまま卒業することになりました。

■法施行以前の契約だから適法と主張
 私達は真実を明らかにしなければいけない、二度とこのような問題をおこしてはいけないと考え、在学中から準備を進め卒業と同時に提訴しました。
 係争中も両者の主張は真っ向から対立しました。調布市側はあくまでも、学校環境衛生基準施行以前の契約の建物だから開校しても違法ではないと、最後まで主張していました。私たちは、それは調布市と建築業者間の契約上の事であって、高濃度に汚染された校舎を使用する事とは別のことで、高濃度であると知っていて開校したのは故意による重大な過失であると主張しました。
 また、当時の担任教師を証人尋問したのですが、自分は何も知らなかったから悪くない、何も覚えていない、知らないを繰り返すだけでした。
 昨年の春に裁判官が変り、和解に向けての話し合いが続きました。途中何度も和解は無理、最後まで戦おうと思いましたが、裁判所が和解条項を提示した事でやっと和解にまでこぎつけることができました。

■謝罪と今後の対策約束で和解
 以下は和解文の前文です。(2007年1月26日)
 「被告は、平成14年8月に完成した調和小学校校舎において、文部科学省が同年4月1日から改正適用した「学校環境衛生基準」の4化学物質のうちホルムアルデヒド及びトルエンについて放散濃度の基準値を大幅に上回る状態であったが、化学物質の曝露による児童・生徒への影響について十分な知識・認識を有していなかったことから、結果として放散濃度が十分に低減されるほどの換気などの対策をとらないまま同年9月2日に同校舎の使用を開始したところ児童・生徒に健康被害を発生させたこと、その後の保護者等への対応等に際し、その要望や情報開示の申し出に満足のいく回答をすることができずに不信感を与えたこと、及び児童・生徒の健康な教育環境の実現を速やかに行えなかった事を深く反省し、原告らに対して謝罪する」
 「被告は、原告らに対し、既に作成している「調布市公共施設等シックハウス対策マニュアル」及び「調布市立学校における室内化学物質対応マニュアル」を実効性のあるものとして運用する事を約束する」
 和解の内容は大きく分けてこの二つです。市の対応が悪かった事を認め謝罪の意思表明をしていること、今後のマニュアルの運用について具体的に約束をしていることです。

■すべての子ども達に安全な学校環境を
 同年2月5日に教育委員会と原告保護者の間で確認書を交わし、今後も子ども達の安全な学校環境のために話し合いを続けていく約束をしております。第1回目の話し合いが3月28日に行われましたが、行政と私達の意識の差は大きく、状況はなかなか厳しいです。教委は、CS(化学物質過敏症)の子には個別対応をすればそれで解決すると思っているようです。もちろん個別対応は必要なことですが、私たちはそれだけではなく、すべての児童・生徒に安全な学校環境を求めているのです。
 ワックス・消毒・農薬散布の選び方や使用方法、なるべく使用せずにすむように代替品のリスト、清掃の仕方、安全な教材のリストの提供、改修工事などの情報をもっと積極的に学校現場に提供すべきだと思うのです。今私達が望んでいる事は、学校環境のアンケートやチェックリストを作成し、内容に問題のある学校は教委が責任をもって指導する。またチェックリストやアンケートの内容をHP上で市民に公開することです。
 実は、私達の子どもたちはこの春全員が調布市内の学校を卒業しており、現在は在籍しておりません。しかし、原告が在籍していないからと対応がおろそかになることは許されないのです。それでは和解した意味がありません。
 裁判は和解という形で終わりましたが、実際に私達の生活は何も変りません。子どもの病気が治るわけではないですし、今後も教育委員会との話し合いは続いていきます。


化学物質問題市民研究会
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