ピコ通信/第103号
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SAICM国内実施計画の策定と
プロセスへの市民参加・公開を求める ■SAICM とは 国連環境計画(UNEP)が推進する 「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」のことです。ヨハネスブルグ実施計画に定められた「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響を最小化する」との目標を達成するための世界規模の化学物質政策フレームワークです。 SAICMの内容は2003年から2005年の間に、3回にわたる準備会合で議論され、2006年2月4日〜6日アラブ首長国連邦ドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)において議論の末に妥協案がSAICMとして採択されました。 詳細は当研究会ウェブサイト:SAICM 関連情報 及び トピックス57号(2007年3月20日) ■後退させられたSAICM アメリカは経済と貿易や国内の法規制に影響を与えないようにするために、SAICMは"自主的"なものであること、原則とアプローチの条項から予防原則など個々の原則名を削除すること、SAICMの範囲を縮小すること、等を要求してSAICMを大きく後退させました。 これはEUのREACHにアメリカや化学産業界が干渉して後退させた構図と全く同じです。 本年3月16日に環境省主催で開催された「SAICMアジア太平洋地域会合に向けた国内フォーラム」でUNEPのマギッド・ユヌス氏が講演の中でSAICMについていみじくも次のように述べています。 SAICMは: ・法的拘束力を伴うものではない ・新たな組織ではない ・既存の制度やメカニズムに置き換わるものではない ■SAICM関係省庁連絡会議 各国はSAICMの目標達成のために国内実施計画を作成するよう示唆されており、我が国ではSAICMに沿った国の化学物質管理施策の推進のためにSAICM関係省庁連絡会議が設置され、第1回会議が2006年4月17日、第2回会議が2007年1月31日に開催されたことが環境省のホームページに掲載されています。 第1回会議では省庁連絡会議の設置要領が示され、なんと1府8省(内閣府、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産、経済産業省、国土交通省、環境省)が名を連ねています。また国内実施計画を策定すると述べられていますが、具体的な内容とスケジュールは何も示されていません。 9ヵ月後の本年1月31日に開催されたという第2回会議においても、国内実施計画についての議論は何も報告されていません。 ■国内実施計画策定に市民参加を求める
しかし、日本政府は第1回省庁連絡会議で国内実施計画を策定すると約束したのですから、早急に策定方法とスケジュールを発表すべきです。またその策定に当たっては、SAICMの包括的方針戦略のZ.実施と進捗の評価−第22項にあるように、関連した関係者の参加が求められます。したがって、我々は日本政府に国内実施計画策定プロセスへの市民参加と、その公開を確実にすることを要求します。(安間 武) |
環境省・農水省が
新通知「住宅地等における農薬使用について」を出す 前号で、環境省の「自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査」の結果について報告しましたが、今号では書き残した部分を補足します。 環境省はアンケート結果を踏まえ、「適切な方法による防除の徹底を図るため」環境省水・大気環境局長及び農林水産省消費・安全局長の連名による指導通知を出しました。 通知「住宅地等における農薬使用について」(以下 新通知)の発出に伴い、「住宅地等における農薬使用について」(平成15年9月16日付け)(以下 旧通知)は廃止する、としています。(新・旧通知全文は、当会ウェブサイトの"シックスクールとCS"ページ、国の対応(環境省)に掲載しています) ■新通知の内容概略 18消安第11607号 環水大土発第070131001号 平成19年1月31日 都道府県知事・政令市長殿 農林水産省消費・安全局長 環境省水・大気環境局長 1 住宅地等における病害虫防除に当たっては、農薬の飛散が周辺住民、子ども等に健康被害を及ぼすことがないよう、次の事項を遵守すること。 (1)農薬使用者等は、病害虫やそれによる被害の発生の早期発見に努め、病害虫の発生や被害の有無に関わらず定期的に農薬を散布するのではなく、病害虫の状況に応じた適切な防除を行うこと。 (2)農薬使用者等は、病害虫に強い作物や品種の選定、病害虫の発生しにくい適切な土づくりや施肥の実施、人手による害虫の捕殺、防虫網等による物理的防除の活用等により、農薬使用の回数及び量を削減すること。特に公園等における病害虫防除に当たっては、被害を受けた部分のせん定や捕殺等を優先的に行うこととし、これらによる防除が困難なため農薬を使用する場合には、誘殺、塗布、樹幹注入等散布以外の方法を活用するとともに、やむを得ず散布する場合には、最小限の区域における農薬散布に留めること。 (3)農薬使用者等は、農薬取締法に基づいて登録された、当該防除対象の農作物等に適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法(使用回数、使用量、使用濃度等)及び使用上の注意事項を守って使用すること。 (4)農薬使用者等は、農薬散布は、無風又は風が弱いときに行うなど、近隣に影響が少ない天候の日や時間帯を選び、風向き、ノズルの向き等に注意するとともに、粒剤等の飛散が少ない形状の農薬を使用したり農薬の飛散を抑制するノズルを使用する等、農薬の飛散防止に最大限配慮すること。 (5)農薬使用者及び農薬使用委託者は、農薬を散布する場合は、事前に周辺住民に対して、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類について十分な周知に努めること。特に、農薬散布区域の近隣に学校、通学路等がある場合には、当該学校や子どもの保護者等への周知を図り、散布の時間帯に最大限配慮すること。公園等における病害虫防除においては、さらに、散布時に、立て看板の表示等により、散布区域内に農薬使用者及び農薬使用委託者以外の者が入らないよう最大限の配慮を行うこと。 (6)農薬使用者は、農薬を使用した年月日、場所及び対象植物、使用した農薬の種類又は名称並びに使用した農薬の単位面積当たりの使用量又は希釈倍数について記帳し、一定期間保管すること。 2 農作物等の病害虫を防除する際に、使用の段階でいくつかの農薬を混用する、いわゆる現地混用については、散布労力の軽減等の観点から行われている事例があるものの、混合剤として登録されている農薬の使用とは異なることから、農薬使用者等は、以下の点に注意する必要がある。(以下 省略) 3 (混合剤および現地混用 省略) 4 (現地混用に関する情報提供 省略) 5 農薬の使用が原因と考えられる健康被害の相談が住民から貴自治体にあった場合は、貴自治体の農林部局及び環境部局をはじめとする関係部局(例えば、学校にあっては教育担当部局、街路樹にあっては道路管理担当部局)は相互に連携し、必要に応じて対応窓口を設置する等により、適切に対処すること。 ■新通知の問題点 1.旧:「農薬は、飛散することで人畜に危害を及ぼすおそれがあり、近年、学校、保育所、病院、公園、街路樹、住宅地周辺の農作物栽培地等において使用された農薬の飛散を原因とする住民、子ども等の健康被害の訴えの事例が多く聞かれるようになっている。」 新:「農薬は、適正に使用されない場合、人畜及び周辺の生活環境に悪影響を及ぼすおそれがある。」 旧通知では、健康被害の訴え事例が多いと認めているが、新通知では無くなっている。また、旧通知の「危害」は「悪影響」へと変わっている。 さらに、新通知では「適正に使用されない場合」が加わり、悪影響(危害)があるケースは限定的となっている。 2.旧:「学校、保育所、病院、住宅地に近接する公園等の公共施設内の植物、街路樹及び住宅地に近接する森林等における病害虫防除については、病害虫の発生や被害の有無に関わらず定期的に農薬を散布することを廃し、」 新:「農薬使用者等は、病害虫やそれによる被害の発生の早期発見に努め、病害虫の発生や被害の有無に関わらず定期的に農薬を散布するのではなく、」と、新通知は、旧通知からトーンダウンしている。 3.旧:「学校、保育所、病院、住宅地に近接する公園等の公共施設内の植物、街路樹及び住宅地に近接する森林等における病害虫防除については」と、「住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を含む。)において栽培される農作物等の病害虫防除に当たっては」との二つに分けて、それぞれについてきめ細かい指導が書かれている。 新:単に「農薬使用者等は」と、一本になっている。 4.新:「使用の段階でいくつかの農薬を混用する、いわゆる現地混用について」の指導について、5項目のうち3項目を割いて書かれている。旧通知では記述がない。 ■新通知が出された本当の理由は? 新通知よりも、旧通知のほうが論理が明快で分かりやすく、しかもきめ細かく、新通知は後退していると評価します。「現地混用への注意」にかなりのスペースを割いているのも、「農薬は正しく使えば安全」という基本認識に立ってのことと思われます。なぜ農薬散布による健康被害が起きているのかについて、「適正に使われていないから」との認識に立っているようで、農薬そのものが有害で、飛散・ミストの拡散は避けるのが困難との認識はないように思われます。 そもそも、なぜ旧通知がありながら、新たな通知を出す必要があるのでしょうか。新通知の中で、自治体アンケート調査の結果、一部自治体において不適正な事例が見られたからとしていますが、それならば旧通知の徹底、補足で足りるはずです。また、旧通知よりも徹底した内容の通知が出されるのが当然ではないでしょうか。 そうではないのは、旧通知への農薬工業会や農業団体からの風当たりが強くて、トーンダウンしたものを改めて出さざるを得なかった、と想像するのは考え過ぎでしょうか。 3月、反農薬東京グループの呼びかけに当会も賛同して、環境省に対して、通知「住宅地等における農薬散布について」と「農薬吸入毒性評価手法確立調査」、および2月5日に公表された「モニタリング調査結果概要報告」に関しての質問状を送り、3月20日に回答がありました。詳しくは、当会ウェブサイトの"当会の意見"ページをご覧ください。(安間節子) |