ピコ通信/第102号
発行日2007年2月21日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 環境省/公園・街路樹農薬散布実態 自治体アンケート調査結果発表
  2. 廃棄物輸出何がおきようとしているのか?
  3. 2/10 Tウォッチ主催講演会/インキと印刷業
  4. 厚労省科研費研究/微量化学物質によるシックハウス症候群の病態解明、診断、治療対策に関する研究−3
  5. 化学物質問題の動き(07.01.22〜07.02.20)
  6. お知らせ・編集後記


環境省/公園・街路樹農薬散布実態
自治体アンケート調査結果発表

 1月31日、環境省(水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室)は"「自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査」の結果について"を発表しました。
 2005年度に地方公共団体に実施した、街路樹、公園等での防除実態の把握を目的とするアンケート調査の結果です。
 環境省は「多くの自治体で、適切な病害虫防除及び農薬使用がなされている実態が明らかとなる一方、一部の地方公共団体においては、病害虫の発生状況に関わらず定期的に農薬を散布している事例、散布対象範囲を最小限の区域に留めていない事例、これまでに知見のない農薬の現地混用を実施した事例が見受けられた」として、「適切な方法による防除の徹底を図るため、環境省水・大気環境局長及び農林水産省消費・安全局長の連名による指導通知を本日付けで発出した」ということです。

■実態調査とは
 アンケート結果について見る前に、どのような経緯で調査が行われたのかについて見てみましょう。
 環境省は、「農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会」を立ち上げ、昨年8月11日に第1回会議を開いています。会議は非公開で行われ、開催についても公表されていません。
 検討会の趣旨の中では、
  • 市街地における農薬散布に伴う環境リスクの低減を図るため、2005年度に農薬飛散リスク評価手法等確立調査を開始した。
  • 2005年度には自治体での防除実態把握のためのアンケート調査等を実施した(今回結果を発表したのが、これです)。
  • 2006年度からは、モデル的に公園等でのモニタリング調査を実施し、暴露実態を把握する。 などと書かれています。さらに、
  • 公園等の市街地での使用実績が多い農薬や航空防除農薬環境影響評価検討会報告書(平成9年(97年)12月;環境庁水質保全局)で設定した気中濃度評価値(10農薬)を中心としてモデル的に評価値の設定(見直し)を行う。
  • 公園等の管理者向けの病害虫・雑草管理マニュアルを策定する(樹木等の病害虫防除の基本的な考え方及び農薬の暴露実態を踏まえ、市街地において農薬を使用する場合の留意事項等をデータで示しつつマニュアルとして取りまとめる)。
  • 事業実施期間は平成21年度まで。
となっています。
 つまり環境省は、自治体アンケート調査による防除実態把握(今回発表)、モニタリング調査による曝露実態把握、よく使われる農薬の評価値(基準値)の設定、市街地における農薬使用のマニュアル作成の4つを、4年かけて実施するということです。

■自治体防除実態アンケート調査と結果概要
調査対象:
 人口10 万人以上の268 自治体(市及び特別区)に調査票を送付し、計226 の自治体(部署として421 部署)から回答を得た。
 多くの自治体では、街路樹・公園緑地等の対象ごとに管理部署が異なるため、回答は部署別に寄せられたものが多く、このため、自治体別、部署別の両方で集計した。
 アンケート内容は、街路樹や公園緑地の樹木・草花等、その他市有地等における病害虫・雑草の防除の実態について質問したもの。
(1)病害虫・雑草防除のための農薬散布の有無等について
 農薬散布を行っているとの回答が自治体別で95%、部署別で86%とほとんどの自治体・部署で農薬散布が行われていた。農薬散布のみとの回答が自治体別で29%、部署別で38%であったのに対し、併用しているとの回答が自治体別で65%、部署別で48%。なお、農薬散布以外の防除方法の主なものとしては、病害虫被害枝葉の剪定、人力あるいは機械による除草及びマルチによる除草など。
 農薬を使用していない自治体もあった。
 ・農薬散布以外 7自治体 21部署
 ・防除実績なし 5自治体 40部署

(2)代表的な農薬の散布時期等について
@散布時期
 街路樹(緑地帯を含む)、公園緑地及びその他(市有地等)のいずれの散布対象でも4月頃から農薬散布が始まり、6月をピークに10 月頃までに終了するという傾向がみられた。
A散布要否の判断
 いずれの散布対象においても、定期的に散布しているとの回答は17%〜36%と低く、発生状況に合わせてその都度判断しているとの回答が60%〜77%と多かった。
B散布回数
 いずれの散布対象においても、1 回の回答が最も多く、調査部署の40〜47%。次いで2 回と回答した部署が24〜31%であり、これらに1〜2回との回答を加えると、2回以内の部署は散布対象別に74%〜78%を占め、多くの自治体では概ね2回以内の農薬散布との回答。
C散布範囲
 いずれの散布対象においても、病害虫の発生部位のみに散布するとの回答は、8〜10%と低く、病害虫が発生した樹や花壇ごと等に散布するとの回答が40〜54%と多くを占めた。また、植樹帯等のまとまった区画単位で散布しているとの回答も21〜42%見受けられた。

(3)使用農薬について
 フェニトロチオン64%、トリクロルホン60%、エトフェンプロックス24%、イソキサチオン24%(以上殺虫剤)、グリホサート20%(除草剤)(以上いずれも自治体数)。また、殺虫剤が72%と最も多く、次いで除草剤等(15%)、殺菌剤(9%)の順となった。
 対象病害虫では、アメリカシロヒトリとチャドクガが多くを占めた。

(4)防除作業実施者
 約6割の部署が防除業者に委託していると回答し、これに「直営及び委託」と回答した部署を合わせると8割弱の部署が防除業者への委託を行っている結果となった。

(5)防除計画表や防除記録
 防除計画表や防除記録を提出できるか?
 ・可能 39部署、不可 300部署。

(6)散布地周辺への安全対策について
 散布に際して要領やガイドラインを定めている12%、口頭等で注意喚起している53%、特段何もしていない18%(以上部署数)。注意喚起の具体的な方法としては、事前に回覧等による文書、チラシ、広報車、看板等により散布日程と当日の窓閉め、洗濯物の取り込み、車のカバー等を促すなど。

(7)農薬の散布に関する苦情
 48%の部署が苦情を受け付けたことがあるとの回答。頻度は年3件が48%と最も多かった。苦情の内容は、農薬による洗濯物・車の汚染等及び健康不安に対する訴えが多くみられた。苦情に対しての対処法は、謝罪・補償が最も多く、次いで農薬散布時期の調整、農薬散布の中止、説明会の開催等広報活動の順となった。

(8)安全対策に関する調査
 過去に公園緑地や街路樹等に散布した農薬の周辺への影響について、飛散状況や散布後の気中濃度の測定、サンプリング方法の開発など、安全対策に関して調査等を行ったことがあるか?
「ある」と回答した部署は2部署、「ない」363部署であった。

■調査の問題点など
 今回の自治体アンケート調査は、環境省が農薬散布による周辺住民の健康被害を防ぐための対策に着手すると、農薬被害に苦しむCS患者さん達等が大変期待している取り組みの一環です。
 しかし、以下のように問題も多くて、このまま進められると期待に背くものになりかねないと危惧されます。
1.農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会について
・非公開なのは何故か、環境省に電話で尋ねたところ、「モニタリング調査で協力してもらう自治体に非公開を前提にお願いするので」という回答でした。非公開でないと協力できない自治体に、わざわざ依頼することはないのではないでしょうか。
 また、開催についても公表されていません。配布資料は公表されていますが(いつ掲載されたのか不明)、議事録も議事概要のみです。この秘密主義は何なのでしょうか。
・委員は11人。内訳は自治体(金沢市、川崎市)2人、学者・研究者7人、造園業者1人、消費者団体1人です。農薬による被害者(あるいは団体)はもちろん、専門医も入っていないので、農薬被害について実情が分からないのではないかと危惧します。
・2006年度に予定されている農薬散布の影響を調べるモニタリング調査の委託業者は、なんと(社)農林水産航空協会です。同協会は、農薬の空中散布(有人、無人)を推進する農水省の外郭団体です。航空会社(農薬散布)、ラジコンヘリメーカー、農薬散布業者団体、農業団体、農薬工業会が構成メンバーです。こんな所に、調査を委託するというのはどう考えても、納得できません。

2.自治体アンケート調査
・公表されたのは数のみで、自治体名は一切公表されていません。環境省の説明は「正確な実態をつかみたいので、公表しないと断って回答していただいた」というもの。
調査結果を、「多くは適切な対策を取っているけれど、一部で行われていない」と結論づけていますが、我々がつかんでいる実態は、「一部では適切な対策が取られているけれど、多くで行われていない」というものです。公表されてこそ、正確な実態がつかめると考えますが、環境省の考えは逆のようです。
・「散布に際して要領やガイドラインを定めているのが12%の部署」という結果に、自治体の"真の実態"が表れているのではないでしょうか。(安間節子)


廃棄物輸出
何がおきようとしているのか?



 これまでのピコ通信で取り上げてきた、有害廃棄物の輸出の問題について、今回は全体像をもう一度確認し、いま直面している問題を考えてみたいと思います。

■バーゼル条約
 1980年代の後半、先進工業国での環境規制が厳しくなってくると、有害廃棄物を安く処理する手段として規制が弱い開発途上国や東欧諸国などに向けて輸出されるようになりました。その結果、アジアやアフリカなどでは、輸入された先進国の廃棄物により人の健康や生命、環境を脅かす事件が次々と起こりました。
 それをとめるために、1989年、有害廃棄物の国境を越える移動を規制する国際的な環境条約としてバーゼル条約が採択されました。しかし、バーゼル条約は、リサイクルを目的とした廃棄物を禁じていないので、その後も「リサイクル」を目的として、有害廃棄物の輸出は続きました。そこで、アフリカ諸国など多くの途上国から、「リサイクル」目的も含めて有害廃棄物を先進国から途上国へ送ることを禁じるための改正が提案されました。これが「バーゼル禁止修正条項(Basel BAN)」です。
 日本は、バーゼル条約には加盟していますが、「バーゼル禁止修正条項」には強硬に反対し、現在も批准していません。そして今日でも、「リサイクル」目的で有害廃棄物の途上国への輸出を続けています。

■3Rイニシアティブと廃棄物輸出
 2005年に開かれた3R(注)イニシアティブ閣僚会合において、掲げられた5つの目標のひとつに「国際流通に対する障壁の低減」があります。これが、バーゼル条約の下での有害廃棄物輸出に伴う厳しい手続きを簡略化させたり、有害廃棄物の越境移動を容易にすることにつながるのではないか、という懸念や批判がアジア・アフリカの途上国、そしてバーゼルアクションネットワークやGAIA(Global Alloance for Incinerator Alternatives)などの国際NGOからあがっています。当会もウェブサイトの「バーゼル条約」のページやピコ通信などで、一貫して3Rイニシアティブの問題点を指摘しています。
注:Reduce(抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(リサイクル)の3つのR

■経済連携協定と廃棄物輸出
 一方、2002年頃から、日本はアジアの諸国と、二国間の経済連携協定(EPA)を締結する交渉を始めました。これは、特定の国や地域の間で、物品や金融、人(労働者)の移動をより自由化するため、これまでの国内の規制や関税の撤廃などを行うものです。
 シンガポールとの協定は発効していますが、フィリピン、マレーシアは署名の済んだ段階、タイは署名されるかどうかという段階です。他にも1月に交渉開始されたインドをはじめアジア諸国との協定が次々と進められています。
 この経済連携協定で、関税が撤廃されるなど自由化の対象となっている品目の中には、医療廃棄物、下水汚泥、焼却灰、放射性廃棄物などが含まれており、もし、発効すれば、こうした危険・有害な廃棄物が途上国へより輸出されやすくなってしまいます。こうした動きに抗議して、今年(07年)2月11日には、廃棄物問題を扱うグローバルなNGO連合のGAIAや、Waste Not Asiaから日本政府や日本大使館へ、有害廃棄物を除外することなどを求めるFAXやメールが送られています。日本からも、当会も所属する廃棄物貿易監視ネットワークなど16団体から総理大臣、環境大臣、経済産業大臣に対して声明を発表しました。
(URL:http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/jpepa_master.html

■何が問題なのか?
☆バーゼル条約のルールが崩れていく
 バーゼル条約の11条では、「二国間、多国間、または地域的な協定などがバーゼル条約で義務付けられている"有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上適正な処理と両立するならば"、こうした国々の間での廃棄物の越境移動に影響を及ぼさない(注 移動を可能とする)」と定めています。これを根拠に、日本は、アジア地域を主体とする3Rイニシアティブや、二国間の経済連携協定といった枠組みを作って、有害廃棄物などを越境移動できる道を探っていると見られます。
 その証拠の一つは、日本の経済産業省が「国際間で適正な有害廃棄物等の移動と処理・リサイクルを確保するための課題を整理し、環境汚染の拡散の防止と資源の有効利用の両立を実現することを目的」とした調査を行っていることです(神鋼リサーチ株式会社が受託)。この公募の中には「我が国とアジア諸国で双方向の有害廃棄物等の移動を行うための協定について、課題の整理を行う」といった記述もあるのです。
 バーゼル条約は、有害廃棄物の輸出を規制するだけでなく、その国内処理を求めていますが、そのことにより有害廃棄物の発生を最小限にするという力が働く、そして、発生源(国)から遠ざけないことによって安全性のためのより効果的な監視を行う、という重要な目標があります。これは先進国、途上国ともに、汚染のない社会を築いていくために不可欠な要素です。
 もし、バーゼル条約のルールが、3Rイニシアティブや経済連携協定によって弱められたり、あるいはとって代わられたりすれば、こうした目標へ向かう努力が損なわれてしまいます。そして、国内のリサイクルシステムも今よりもさらに深刻な破綻を来たすことになるでしょう。

☆監視システムは機能不全
 これまでの当会の調査の中で見えてきた問題の一つに、有害廃棄物を監視するシステムがほとんどないことが上げられます。たとえば、過去の記事でも取り上げたように、廃棄物同然のE-Waste(電気電子廃棄物)が、「中古品」と称して、大量に途上国に輸出されている問題があります。輸出先で人の健康や環境を著しく汚染していることが、NGOや国の機関の調査でも報告されています。国・業界・研究者は、その輸出量と流通経路を把握しようと何年も、何度も調査をしていますが、いまだに正確な数値は得られていません。
 把握する方法がないのです。輸出される物品は、税関を通るときに、国際的に共通の分類番号がつけられるのですが、中古品と新品が区別されないからです。また、輸出業者が書類に書き込んだ分類番号が、実際の中身と違っていたというケース(2006年の台湾への焼却灰輸出)や、日本からタイへ輸出された焼却残渣のデータが二国間で食い違っている、といった現状もわかってきました。データの信頼性はこれだけ低いのです。当研究会では、これらについて、情報公開請求を行いより詳しい実態を調べています。

☆経済連携協定の中身を誰も知らない
 経済連携協定の自由化品目の中に、有害廃棄物が含まれていることを、最初に私たちが知ったのはフィリピンのNGOの警告によってでした。日本ではこのフィリピンとの協定を審議した国会議員さえ、その中身を把握していませんでした。今、タイやその他の国々との経済連携協定の中身が交渉されていますが、その自由化品目の交渉中リストは、経済産業省、外務省、財務省で、担当するごく一部の人たちが知るだけで、国会議員にも提供されていません(経済産業省からのメールによる)。当会では、情報開示請求を行いましたが、請求する前から「外交文書だから不開示です」といわれました。

■むすびに
 他の国に危険な廃棄物を輸出しないためにはどうしたらよいだろうか、という問いは、「私たちは、アジアの諸国の人々と、どのような関係をつくりたいのだろうか」「政府と市民の関係は、どうあるべきなのだろうか」そして「私たちは、どんな社会をつくりたいのだろうか」ということにつながってくると思います。
 国内で、リサイクル体制をどうやって充実させるのか、有害廃棄物の流通監視をどうやって強化するのか、有害廃棄物の発生を減らす計画をどうつくっていくのか、そのために制度や私たちの暮らしはどう変える必要があるのか、また、アジアの国々と、より持続可能な社会をめざすためには、経済連携協定の中身にはどういう条件が必要なのか。
 そういった問いがすべて置き去りにされたまま、内容を市民にも国会議員にも伏せたまま、政府の中の一握りの人たちによって、危険な廃棄物貿易の枠組みがつくられている状況を変えたいと、当会では考えています。そのために、現実をよく把握し、この議論を市民と共有したいと思います。今後、政府への意見書などの賛同などを広く集めることがあると思います。ピコ通信やウェブサイトを読んでくださる皆様のご協力をよろしくお願いします。
(関根彩子)


化学物質問題市民研究会
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