ピコ通信/第101号
発行日2007年1月22日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. ピコ通信100号&結成10周年を迎えるにあたって
    化学物質問題市民研究会事務局長 安間節子
  2. 経産省・化学物質政策基本問題小委員会「中間取りまとめ」に対するコメント
  3. 1/13 群馬県主催シンポジウム/シックハウスと有機リン問題の最前線
  4. 海外情報/ マウス胎児期のビスフェノールA曝露は初期卵子形成をかく乱する
  5. 化学物質問題の動き(06.12.21〜07.01.21)
  6. お知らせ・編集後記


ピコ通信100号&結成10周年を迎えるにあたって
化学物質問題市民研究会事務局長 安間節子

 化学物質問題市民研究会は、今秋結成10年を迎えます。ピコ通信も前号で100号となりました。ここまで続けてこられたのも、みなさまのご支援・ご協力があったからこそと、心から感謝申し上げます。

 ここで、化学物質問題に関するこの10年を簡単に振り返ってみたいと思います。

 1997年に当会は結成しましたが、その前年、テオ・コルボーンさん等による『Our Stolen Future』がアメリカで発行され、世界中が衝撃を受けました。日本でも98年に邦訳版「奪われし未来」が出版されると、環境ホルモン問題への社会の関心が一挙に高まりました。国も環境庁(当時)が98年に「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を発表、第1回国際シンポジウム(京都)を開き、2005年第8回(沖縄)まで続きました。しかし、06年のチビコト問題に象徴されるように、環境ホルモン問題は終わったという姿勢に転換してしまいました。

 99年には、ダイオキシン特措法が議員立法で成立しましたが、同年、所沢産野菜のダイオキシン汚染報道問題が起きました。この後、報道のあり方をめぐって「煽ってはいけない」という批判が続き、マスコミによる自粛が起きて今日まで続いています。

 99年には、パブリックコメント制度が導入されましたが、これは米国が毎年日本政府に要求する"規制改革要望書"によって実現したものと思われます。

 この頃、塩ビのおもちゃ規制の運動も活発となり、02年の規格基準改正へとつながりました。また、シックハウス問題、化学物質過敏症の問題もクローズアップされてきました。00年室内ガイドライン値(3物質)が初めて設定され、現在の13物質へと進みました。03年には、建築基準法が改正され、ホルムアルデヒドとクロルピリホスが規制されました。シックスクール問題も起き、学校衛生基準の改正も行われました。

04年にはアスベスト国際会議が日本で開かれましたがマスコミの関心は薄く、05年、クボタの汚染問題が判明して初めてアスベスト問題が大きな社会問題となりました。

 一方、国際的な動きが活発になってきました。OECDの勧告に基づき、99年には有害化学物質の事業所や車、家庭などから環境への放出・移動を把握・公表する化管法(PRTR法)が成立、03年に第1回データの公表が行われました。

 01年、EUは「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」を発表、新たな化学物質規制REACHについて初めて記載されました。そして、REACHは様々な攻防を経て06年12月採択、2007年施行されることになりました。私たちNGOはREACHを支持し、04年と05年にはEUからNGOを招き、国際市民セミナーを開きました。今年も3月4日に開きます。そして日本にもREACHの理念の実現を求めて、04年に化学物質汚染のない地球を求める東京宣言を発表し、05年に署名活動を展開しました。

 06年には、国連環境計画(UNEP)によって国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)が採択され、今後国毎の行動計画の作成と実施が求められます。

 このような国際的な動きもにらみ、我が国の化学物質政策の見直しを視野に、06年から環境省、経産省による化学物質関連の委員会が持たれ、中間とりまとめが今パブリックコメントにかけられています。今後2年かけて、化管法、化審法など国の化学物質政策が見直されていくことになります。

 このように見てくると、人の健康と環境にとって望ましい政策が実現したのは、多くは国際的な動向・圧力、あるいは大きな被害の発生の結果だと分かります。日本が外圧ではなく、その必要性を認識して化学物質政策を実施したのは、79年の化審法から98年の環境ホルモン戦略計画SPEED'98くらいまでであり、その後は人の健康と環境の保護よりも経済優先の政策を取り続けています。

 当会では、これらの動きをみなさんにいち早く伝え、調査、研究、意見・提言の表明、交渉、他団体との共同活動などに取り組んできました。04年の東京宣言発表以来、宣言の理念を化学物質政策に実現するよう他団体と共に活動を続けてきました。昨年には、その活動を発展させて"新化学物質政策NGOフォーラム"を結成し、12月に「化学物質管理のあり方に関する市民からの提案」を発表しました。今後も市民の力を結集して、人の健康と環境を守る政策を実現させる活動を続けていきます。

【2007年の主な活動計画】

■化学物質政策に関わる活動
 今年から始まる環境省・経産省化学物質政策検討委員会に対して、NGO委員を支援しつつ、当会の意見を表明していきます。合わせて、審議の内容および当会の意見を広く市民に知らせていきます。
 化学物質政策基本問題小委員会"中間とりまとめ"に対してパブリックコメントを本日、経産省に提出し、概要を今号に掲載しました。この"中間とりまとめ"は、今後の日本の化学物質政策の方向を決めるひじょうに重要なものです。みなさんもぜひパブリックコメントを出してください(1月28日締め切り)。

■化学物質過敏症(CS)・シックスクール問題
 国はシックハウス症候群についてはその存在を認めていますが、CSについては、学界のコンセンサスが得られていないとして、依然として具体的な発症者対策を取ろうとしていません。当会にはCS患者さんからの悲痛な声が数多く寄せられています。
 国に対して引き続き、CSを認めること、避難場所の確保や医療支援、安全な職場の確保などCS患者が生きていくための基本的な権利の保障を要求していきます。
 また、昨年末に出した文科省と東京都へのシックスクールマニュアル市民提案の実現に向け、活動していきます。CS患者さんたちへの支援活動にも引き続き取り組みます。

■ナノテク問題
 ナノテクノロジー(ナノテク)については、安全性が確認されないまま、既に多くの製品、技術に使われています。当会は、安全性に懸念がある、または安全性が確認されていないナノ粒子の環境への放出、およびナノ製品を市場に出すことは、一時的に中止すべきであると主張しています。
 国は、ナノテクの安全性に関する情報、および国のナノ政策を国民に適切に知らせるべきです。また、ナノテクの安全性に関する国の検討会や意思決定に、市民やNGOsを参加させるべきです。ナノテクの危険性を懸念する国際的なNGOsとも協力しながら、ナノテクの問題に関する情報を広く市民に発信していきます。

■廃棄物輸出問題
 3Rイニシアチブの「物品等の国際流通に対する障壁の低減」政策、及び途上国との自由貿易協定により、国内で発生する中古品や廃棄物を開発途上国に押しつける政策を止めさせ、これらを「国内処理」するよう求めていきます。さらに、バーゼル禁止修正条項批准に反対する国の政策を変えさせるよう活動していきます。そして、廃棄物輸出に反対する国内及び海外の団体とのネットッワークを強化します。また、電子廃棄物の海外輸出問題の調査・研究と解決のための提言にも取り組みます。

【ピコ通信100号・10周年記念事業計画】

 当会では、ピコ通信が100号を迎えたのに加え結成10周年を迎えるのを記念して、以下のような事業を計画しています。みなさんの更なるご協力とご支援をいただきたく、よろしくお願いいたします。

1.記念連続講座-T 脳神経と化学物質
黒田洋一郎さんによる脳神経に関する学習会
(2回予定)
 子どもの学習障害(LD)、注意欠陥多動症(ADHD)、自閉症、キレやすい子どもなどの発達障害が増えていることが問題となっています。これらには、脳神経の発達障害が深く関わっていることが分かってきました。そしてその原因として化学物質の関与も強く疑われています。
 脳神経の基礎知識、最新研究の成果、化学物質の影響、対策などについて、2回にわたって学習する予定です。

2.記念連続講座-U 有機リン問題
(4回予定)
 有機リンは田圃、畑、果樹園、家庭内、庭、畳、公園、街路樹、電車・バスなどの交通機関、図書館・児童館・学校など公共機関、ビル、病院、シロアリ防除などで殺虫剤として、さらには学校のワックス中の可塑剤、カーテン、カーペット、パソコン、壁紙などの難燃剤などとして、生活のあらゆる所で多用されています。
 有機リンはCSの主要な原因物質で、うつ病などの精神症状も伴うために、健康に大変深刻な影響を与える物質です。ところが、これまで分解性がいいとして規制がほとんど取られてきませんでした。
 群馬県が06年7月にラジコンヘリによる空中散布を中止しましたが、これに続く自治体は未だ出てきません。環境省がようやく農薬の大気中濃度を測定し、基準値を設ける事業に着手すると発表しましたが、一刻も早く有機リンを止めるために、本講座を企画しました。

3.若者向けウェブサイトの立ち上げ
 当会ではこれまで、10代の若者向けの化学物質に関するウェブサイトの構築を準備してきました。若者の身の回りの製品、例えば化粧品、シャンプー、香水、各種スプレー、携帯電話、食べ物などについて、健康や環境への影響、代替品の提案などの情報を発信していきたいと考えています。

4.ピコ通信のCD作成
 1号から100号までをPDF化して、CDにします。活用方法はこれから検討します。


1/13 群馬県主催シンポジウム
シックハウスと有機リン問題の最前線



 1月13日、群馬県前橋市で開かれた群馬県主催のシンポジウム「シックハウスと有機リン問題の最前線」に参加しましたので、その内容の一部を報告します。
 ピコ通信95号(06年7月発行)でも報告したように、群馬県は昨年6月に、全国で初めて有機リン農薬のラジコンヘリによる空中散布の自粛を農業団体に要請し、中止が実現しました。10団体のうち、8団体がラジコンヘリ散布をやめ、2団体が他の農薬に切り替えたということです。

群馬県知事あいさつ
小寺弘之さん


 昨年春頃、有機リン農薬のラジコンヘリ散布の中止要請の手紙を、市民の方から受け取った。日本の行政は、これまで水俣病、HIV、アスベストなど、ある程度科学的に分かっていても皆が100%駄目と言うまでは対策を取らないまま放置して、責任を取らないできた例が数多くある。特に環境問題はすぐに目に見える形で現われない。
 手紙を受け取って、有機リンについて、○か×か△か色々調べてみたところ、止めたほうがいい方に近い△であることが分かった。農業者の立場はよく分かるけれども、人の健康はより大事なことであるから、農業県としても考えなくてはいけない。それで、農業者のみなさんに自粛をお願いした次第である。

シックハウス症候群と有機リン系化学物質
青山美子さん(青山内科小児科医院)


(患者さんたちの症状のビデオ上映の後)
 住宅金融公庫の融資の条件に、シロアリ消毒をすることが入っていた。平成14年にシロアリ防除の農薬クロルピリホスは禁止になったが、シロアリ防除の農薬で汚染された家が既に500万戸もできてしまった。1戸に4人家族が住んでいると、2,000万人の患者さんがいることになる。クロルピリホス汚染の家に住んでいる患者さんの中に、ひじょうに重篤な化学物質過敏症が発生している。
クロルピリホスは塩素がついた有機リン系農薬。クロルピリホス中毒はひじょうに治りが悪い。ところが平成8年頃から、シロアリ消毒をしていない家に住んでいて有機リン中毒になる患者さんが増えてきた。そういう患者さんの家を調べてみると、壁は塩ビの壁紙、畳は防虫畳で、塩ビの中に含まれる有機リン系可塑剤、難燃剤、畳の殺虫剤が原因と思われる。例年、ラジコンヘリによる有機リン散布が行われる7月から8月は、私の病院には大勢の患者さんがつめかける。ところが、散布が中止された今年はそれがなくて、患者さんは10分の1に激減した。
 平成9年の自殺者数は2万3,000人、ところが10年の数は3万3,000人で1万人も急に増えている。バブルが崩壊した4〜5年後であるし、これはおかしい。ちょうど同時期、ラジコンヘリによる農薬散布が急増している。農水省が補助金をつけて推奨したからだ。私はラジコンヘリによる有機リン散布が自殺者が急増した原因だと疑っている。有機リンはセロトニン(注)の代謝にまで影響を及ぼすということを石川先生(北里研究所)が言われているが、セロトニンが神経系に与える影響によってうつ病が起こるという論文が続々と出ている。
 (注)脳内神経伝達物質の一つ。ドーパミン、ノルアドレナリンなどの情報をコントロールし、精神を安定させる。

有機リンの慢性毒性について
木村博一さん(国立感染症研究所感染症情報センター第6室長)


 我々の体は元素、さらには分子が集まって細胞を作り、さまざまな生命現象を発現させている。細胞の中では数千の化学物質が整然と化学反応を行っている。きちんとした化学反応が行われなければ生命体としての働きが損なわれるということになる。
 これら数千の物質がどのような代謝(生命体の中で行われる物質の分解と合成)の経路をたどるかという代謝マップを示すと、このように畳1畳分くらいの広さになる。代謝は酵素というたんぱく質によって精密にコントロールされている。これがかき乱される、あるいはおかしくなると病気になると考えられる。
 体に取り込んだ物質は毒性が低くても、代謝されて毒性の強い物質に変わるということも多々ある。有機リンは、急性毒性として、アセチルコリンエステラーゼ(注)のような酵素を直接阻害するという毒性が上げられる。有機リンが分解される時に、代謝産物と、それとは別に活性酸素という有害産物が出来てくる。 代謝された物質には毒性を持つものが相当あるだろう。さらには、代謝産物はひじょうに長い間体の中に留まるという問題がある。それは代謝産物の中には、分解されにくい物質が多いからである。その結果、体の中でこれらの物質に長い間被爆することになる。これがおそらく、慢性毒性の主な説明になると思う。
 有機リンを分解したり、代謝物や活性酸素を分解する酵素が人間の体には約100種類あると言われている。つまり、有機リンを体の中で分解するには、相当数多くの酵素が関与していて、その酵素が多い、少ないということが毒性にも影響してくるだろう。遺伝学的な個体差によって、そのような酵素の出来具合が違ってくる。
(注)神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素

群馬県衛生環境研究所における有機リンの毒性に関する研究
加藤政彦さん(群馬県衛生環境研究所感染制御センター長)


 1950年代以降、有機リン問題に関する医学文献は約5,000件も報告されている。それだけ多くの問題が存在したことを示している。現在も、世界中で毎年、数百万人が有機リン中毒になっていると報告されている。多種化学物質過敏症(MCS)の原因物質のうち、重症患者の発症原因を調査したところ、農薬の曝露が34%であった(タバコの煙33%、自動車排ガス26%)。  有機リン農薬による神経障害については、有機リンがアセチルコリンエステラーゼ酵素に結合して、アセチルコリンの代謝を阻害、正常な神経伝達を障害する。その結果、さまざまな中毒症状が起きる。
 有機リン農薬の障害の種類と時期については、曝露直後〜1日:急性中毒、数日〜1週間:中間症候群(突然の呼吸停止、致死的な心筋障害)、1週間〜数週間:遅発性障害(弛緩性麻痺、予後不良)、1年〜数年:慢性毒性となっている。
 有機リン急性中毒の後遺症を調べた研究では、記憶力、抽出能力、運動反応に異状が認められた。米コロラド州農業従事者の調査では、急性中毒後、うつ症状が出現する可能性が高かった。有機リン遅発性障害は、主に手足の脱力と運動失調、その後の麻痺をもたらすし、一般に農薬曝露の2〜3週間後に起きるという報告がある。
 慢性中毒に関する研究では、フェンチオン散布従業者(平均曝露期間10.5年)に記憶力や脳波に軽度障害が認められたという研究。果樹園男性農業従事者について、長期高曝露群で読み取りテストの結果に反応時間の遅延が見られた。フランスのぶどう農家作業者(平均曝露期間22年)では、低濃度であっても長期の認識能力の低下が見られた。エジプト綿花畑の有機リン長期曝露者には、視覚障害だけではなく、言語抽出力、注意力にも障害を与えている可能性があったなどが報告されている。
 我々のネズミの神経細胞を使った研究では、有機リンあるいはピレスロイド系、ネオニコチノイド系の農薬は神経様細胞の突起伸張を抑制する結果が得られ、神経の発達を阻害する可能性が認められた。また、健康人の血液の単核球(リンパ球と単球)を使った研究では、有機リン農薬は免疫細胞がつくるサイトカイン(注)の量を減少させることが認められ、免疫能を抑制する可能性が考えられた。
 ぜんそくに関する研究が10万件もあることを考えると、有機リン研究が5,000件であるのはまだまだ少ない。臨床医学、社会学を含め各分野において今後さらに研究の継続が必要である。
(注)免疫/生体防御、炎症/アレルギー、発生・分化(形態形成)、造血機構、内分泌系、神経系に直接的あるいは間接的に関与する細胞間情報伝達分子。

(まとめ 安間節子)



化学物質過敏症に苦しむ女性たち−下


事例2 京都府在住 女性

 私は、19歳で新築の家に移り、シックハウス症候群を発症しました。その後、歯科の根管治療により体調悪化、寝たきり状態などを繰り返しつつも、拘束時間の短い仕事をしながら、ピアノ演奏、ピアノライブ活動、音楽指導等を行ってきました。

 ひどい体調不良を抱え、何度も倒れ何十件も病院にかかりましたが、異常なしとの診断でした。再度、歯科根管薬によりショック状態になり、ようやく、自宅周囲の果樹園の農薬、田畑の農薬、除草剤による健康被害の影響を知り、28歳で「シックハウス症候群」「化学物質過敏症」と診断されました。
 その後、この2年間、この病の患者の置かれている状況や背景を調べたり、環境問題を勉強したりしつつ、生活用品全て石けんに切り替え、家具を7割処分して、何とかシックハウスの家に住めないかと対処してきました。

 しかし、自宅周辺の農薬散布がひどい状態で、とても難しいです。家の真ん前にあり、家を取り囲む様に並ぶ果樹園の農薬散布(3月〜9月頃)の時期になると、体が、痙攣したり、顔面麻痺、呼吸困難、記憶障害、激しい胸痛等を起こし、住める状態ではありません。自宅付近から離れると、体が軽くなり、楽になります。 6〜8月は、ほぼ毎日、どこかで農薬や除草剤が使われていて、それがガス化して、常に周囲に漂っている様で苦しくてたまりません。

 20軒程の農家が、好きな時に好きなだけ、農薬を撒いて帰って行きます。農薬散布時は教えて下さいとお願いしていますが、連絡を下さるのは数十軒ある内の、3軒のみです。
 その3軒だけでも、週に2度ずつ、液体農薬を霧状にして空に向って散布します。1度の散布で1週間は苦しく体が反応してしまうのに、3軒の農家だけで、1週間に6回も撒くのです。

 それに加え、田圃への散布、除草剤もあります。連絡をくれない残りの農家の薬剤使用量も考えると、私の体が弱いのではなく、おかしくなって当然という気がします。神経にも異常をきたしているのを強く感じます。ここは、人をも殺す農薬天国としか、思えません。

 「農家が、農地の一部を売り(農薬中毒)、販売業者が粗悪な建材(シックハウス)を使い、建売住宅を建て、都会から田畑の事を何も知らない人が、移り住む。」これは、我が家をはじめ日本中で起きている事です。
 当然、周囲は田畑、果樹園に囲まれており、農薬被害も受ける。しかし、農薬がどの程度、いつ、散布されているのか知らない住人は、外に洗濯物を干し、布団を干し、窓を開け掃除をする。農薬にまみれた布団で眠り、農薬にまみれた衣類を身につけ、農薬にまみれた空気を吸って、体調はどんどん悪化していく。

 自分の体に何が起こっているのか!?と、医者巡りを繰り返し、対症療法でしかない投薬を受け、更に悪化し、家族に説明できる病名もなく、「怠け者」等と誤解を受け、孤独とストレスを抱えて、力尽きる。私は、この様な10年を過ごしてきました。

 まさしく、私の人生は化学物質との戦いです。今、あらゆる日用品(洗剤、香料等)にも反応する為、社会に出ることが困難です。満足に人にも会えず、仕事も失い、路頭に迷っています。このまま、家族のやっかい者のまま、死ぬのかと思うと、口惜しくてなりません。

 家を離れれば、症状は改善していくのが分かっていながら、住環境や、金銭的な面で行く所がありません。その間も、農薬とシックハウスにより、身体は壊れていきます。田舎へ行けば農薬、都会は排ガスに香料という世の中で、何とか身体を治そうと、必死でもがいています。

 人間をこんな状態に追い込む「農薬」は、もっと慎重に取り扱われるべきです。人体に蓄積された化学物質の影響など分からないのに、安易に安全であると断言すべきではありません。

 農地と住宅地が混在している事も問題視すべきだと、私は思います。農地と住宅地の間に一定の距離をとる、飛散防止柵を設けるなど、何らかの法規制が一刻も早く行われることを強く望みます。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る