調和小学校シックスクール裁判
元調和小学校保護者(東京都)
2004年6月4日、東京都調布市立調和小学校の元児童である私たちの子ども4人は、調布市に対する損害賠償請求訴訟を起こしました。調和小学校の新築校舎の化学物質高濃度汚染による健康被害と、教師等学校関係者の不適切な対応のために精神的・肉体的な被害を受け、教育を受ける権利を侵害されたことに対してです。
■新校舎の化学物質濃度は驚くべき高濃度
2002年9月、全国初のPFI事業(注)を導入した地域一体型の複合施設を備えた公立の小学校という触れ込みで、調和小学校は開校されました。
同年9月3日に原告の保護者の1人が調布市教育委員会を訪ね、調和小新校舎の化学物質の濃度の測定結果の報告を受けました。そこには信じられないほどの高濃度の数値が並んでいました。新校舎の化学物質の濃度は、トルエンについて、同年7月には文科省が定める指針値の38倍、8月には15倍でした。そのほか、ホルムアルデヒド、キシレンについても、指針値を超える高い濃度でした。
しかし、その事実について学校から最初に保護者説明会が開かれたのは、新校舎が開校されてから、1ヶ月以上もたった同年10月11日です。全保護者に通知されたのは10月18日のことです。このような事実を開校当初から知っていたら、子ども達を危険な学校に通わせないという選択も保護者にはできたはずです。
教育委員会は、9月当初から全児童を新校舎のすぐ隣にある旧校舎に避難させることが十分可能であったにもかかわらず、それをしなかったのです。化学物質が高濃度の新校舎とわかっていながら、予算がない事等を理由に適切な対応をすることは一切ありませんでした。
■高濃度汚染を知りながら開校
当時の教育委員会の施設担当は「調和小学校の契約(2001年2月)は、学校環境衛生基準の改訂(2002年2月5日に通知、同年4月1日から適用)の前だから、開校しても問題はない」と発言しました。
高濃度の化学物質が充満している危険な新校舎に子ども達を通わせることが教育者として許されるか否かという事と、建設業者から危険な校舎の引渡しを受けたことが法規制の前だから適法であるということとは別の問題です。引渡しが適法であったとしても、子ども達にとって新校舎が危険な状態であったことに変わりはありません。
子どもの安全という普遍的な問題が、業者との契約の時期によって左右されてよいはずがなく、教育委員会が高濃度の化学物質による汚染を知りながら新校舎を開校したことは、故意に近い重大な過失なのです。
■健康だった子ども達が、ごく低濃度の化学物質に苦しむようになった
原告である子ども達には2002年9月の開校当初から、目の充血や痛み、喉、鼻の粘膜の痛み、大量の鼻血、極度の倦怠感、疲労感等、シックハウス症候群と思われる明確な症状が出ていました。
その後も、いろいろな場所で化学物質に反応するようになっていました。化学物質の濃度が下がった後でさえ、長時間新校舎内にいると気分が悪くなるため、他校へ一時非難したり、隣の小学校へ転校したりしました。
子ども達は調和小の新校舎に入る前は、健康そのものでした。それが今では、ごく低濃度の化学物質にも反応して苦しんでいます。
肉体的被害の他にも子ども達はシックハウス症候群という病気に対する教師の無知、無理解により教育を受ける権利を剥奪されました。教師の不適切な言動により周りの友人からもいじめ・差別を受けたために自己の存在価値さえ否定され、その結果、学校に行けなくなったり、教室に入れなくなったり、化学物質だけでなく精神的にも追い詰められていったのです。担任教師の化粧品で体調を悪くしても、子どもの教育権よりも教師の化粧をする権利を優先させたのです。
学校の室内環境の数値はすでに指針値以下になっていたので、もうこの問題を終わったこと、なかったことにしたい学校・行政にとっては、いつまでも具合の悪い子どもが存在することは都合が悪かったのです。健康被害の他にも、周囲の無理解から二次的な被害をさらに受ける事になりました。
■中学校に入学して
2004年、原告のうち3人は中学校に進学しました。入学の半年前から入学予定の中学校に出向き、この病気を理解して対応して欲しいと働きかけました。先生方は学校内の化学物質について何度も勉強会を開いて下さいました。小学校の時の精神的な問題も把握していただき、無事入学し何とか通学する事が出来ました。
現在も理科、美術、技術等の授業で作業出来ないものもありますが、一番困っていることは校内で頻繁に生徒が使用する制汗スプレー、整髪剤、香水です。これらの使用直後の教室には入れなくなり、授業が受けられなくなりますが、なかなか理解してもらえない上に人間関係がこじれてしまいます。今時の中学生は女子だけでなく男子も使用しますし、年頃の子ども達ですからそれを止める事が出来ないのです。無理やりやめさせると、それがいじめとなって我が子に跳ね返ってくるのです。
また、先生の異動の度に最初からお願いし直さなければなりませんし、理解を示して下さる先生に出会えるかどうかで毎日の学校生活は天国と地獄程違うのです。さらに、高校や大学は義務教育ではないので、受け入れてくれるのか、通うことが出来るのか非常に不安です。
■すべての子どもに教育を受ける権利を
早いもので当時小学生だった子ども達も来年は高校受験です。最近、都の教育委員会にもCSの子どもを受け入れてくれるように働きかけを始めた所です。シックハウス症候群からCSに移行中と主治医に言われているので、これ以上進行しないよう化学物質から遠ざける必要があり、今後も学校や社会で生きていく事は本当に難しいと思われます。
私達が起こした裁判は、二度とこのような事件が繰り返されないため、この問題のすべてを公にし行政・学校の責任を明確にすること、全国のCSで苦しむ子ども達のためにも全ての子どもの教育を受ける権利を守る事、社会に広くこの問題を周知させるための裁判なのです。
後もこの裁判を見守っていただきたいと思います。裁判所にも、CS患者が法廷に入れる環境を整えていただくように要望を続けています。4月12日には当時の教育委員会の施設担当で新校舎の建設責任者の証人尋問が行われます。多くの方に傍聴に来ていただきたいと思います。ぜひお越しください。
編集注:4月12日の証人尋問は、裁判所の都合で延期となりました。日程が決まり次第、お知らせいたします。(2006年4月5日)
●日時:4月12日(水) 1:30〜3:30
●場所:東京地方裁判所八王子支部・401号法廷
〒192-8516 東京都八王子市明神町4-21-1
Tel:0426-42-5195
●JR八王子駅徒歩12分・京王八王子駅徒歩7分
注:PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法。
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