ピコ通信/第100号
発行日2006年12月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 市民団体共同声明(2006年12月8日)/日本政府は廃棄物の「国内処理原則」を守り、資源循環に名を借りた「途上国への輸出」戦略を止めるべき
  2. 化学物質管理のあり方に関する市民からの提案/新化学物質NGOフォーラム
  3. 欧州議会 REACH採択 来年6月から施行/当初の内容からは大きく後退 しかしその理念は変わらない
  4. 化学物質過敏症に苦しむ女性たち−下
  5. 海外情報/ サムソンの"ナノ銀"洗濯機の回収を要求 リスクの懸念が高まる中で
  6. 海外情報/著名な疫学者が利害抵触を隠していた
  7. 化学物質問題の動き(06.11.22〜06.12.22)
  8. お知らせ・編集後記


市民団体共同声明(2006年12月8日)
日本政府は廃棄物の「国内処理原則」を守り、
資源循環に名を借りた「途上国への輸出」戦略を止めるべき

 日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)は、日本の廃棄物のフィリピンへの輸出に道を開くとして先月号(ピコ通信99号)で報告しました。この協定は我々が気がついた時にはすでに衆議院で承認されており(11月14日)、急遽、参議院の外交防衛委員会で民主党の榛葉賀津也(しんばかつや)議員にJPEPAの廃棄物問題について質問を依頼しましたが(12月5日)、遅きに失して翌6日には参議院で承認されてしまいました。

 このJEPEPAについては、日本からの廃棄物の輸出の懸念があるとしてフィリピンの市民団体や一部の議員らが強く反対しており、批准を承認するために上院に送付されていた同協定案は審議ができず、来年に持ち越されることになりました。

 当研究会を含む環境・健康・人権の問題に関わる9団体は、参議院通過直後の12月8日に末尾に示す共同声明を発表し、内閣総理大臣、外務大臣、及び環境大臣にこの共同声明を送付しました。また12月14日には他の団体ともに外務省に出向き、この共同声明の要求事項を伝えましたが、外務省はフィリピン側の懸念は杞憂であるとし、日本政府には他意はないという、12月5日の参議院外交防衛委員会での外務省答弁と同じ紋切り型の説明と回答でした。

 ピコ通信99号の記事で解説したとおり、日本は廃棄物最終処分場が逼迫していることもあり、3Rイニシアティブで「物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減」を主張し、資源循環の名の下に製品寿命のほとんど終わった例えばパソコンや家電製品などの中古品や廃棄物を、主にアジアの開発途上国に輸出しようとしています。そして、日本政府がアジアの各国と結ぼうとしているJPEPAのような二国間自由貿易協定をこれら中古品や廃棄物の輸出の促進に使うというのが日本の戦略です。

 我が国で発生する廃棄物の処理を途上国に押し付けることで、自国の廃棄物問題の軽減をはかり、その結果、途上国の人々の健康と環境を脅かすということは許されません。バーゼル条約及び日本の廃棄物処理法で明確にされているように廃棄物は「国内処理」を原則とすべきなのです。

 フィリピンだけでなく、タイとの日本タイ経済連携協定(JTEPA)も大筋合意しています。同協定本文は日本でもタイでも公表されておらず、タイでは国家経済社会評議会やNGOsが、国民と立法機関が協定の影響を調査できるための時間と適切な情報の開示を要求しています。国家経済社会評議会や関連機関は、この協定によってもたらされる産業廃棄物や電子廃棄物などによる有害影響を防ぐために十分な法的ツールを持ち、措置がとられていることをタイ政府が保証すべきであるとしています。


市民団体共同声明(2006年12月8日)
日本政府は廃棄物の「国内処理原則」を守り
資源循環に名を借りた「途上国への輸出」戦略を止めるべき


内閣総理大臣 安倍晋三 殿
外務大臣 麻生太郎 殿
環境大臣 若林正俊 殿


 私達は環境問題、健康問題及び人権問題に取り組む市民団体です。
 2006年9月9日に小泉純一郎総理(当時)とフィリピンのアロヨ大統領により署名された日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)は、日本からフィリピンへの有害廃棄物の輸出の問題が内在しているにもかかわらず、それらが十分に明らかにされぬままに11月14日に衆議院で、12月6日に参議院で、それぞれ承認されました。

 このJPEPAの関税削減対象リストには有害廃棄物が含まれています。したがって、バーゼル条約でその移動が厳しく管理されている有害廃棄物のフィリピンへの輸出に道を開くものとして、フィリピンの市民団体や政治家の間にもこの条約の批准に反対する抗議行動が起きており、「既にマニラ近郊で日本の廃棄物を受け入れる場所が用意されつつあると農民グループらが訴えている」という現地英字紙や毎日新聞の報道もあります。また、フィリピン上院では批准のための審議ができない状態になっています。国際的にも大きな懸念が寄せられています。

 JPEPAの日本からフィリピンへの輸出物品の関税削減を示す「フィリピンの表」には、ヒ素、水銀などを含む残渣、焼却灰、医療廃棄物、生活ゴミ、下水汚泥、有機溶剤などの廃棄物が関税即時撤廃の物品として記載されています。一方、フィリピンから日本への輸出物品の関税削減を示す「日本の表」にはこれらの廃棄物は記載されていません。外務省のJPEPAの和文テキストには廃棄物の示されていない「日本国の表」だけが記載され、廃棄物が示されている「フィリピンの表」は"省略"されています。これは廃棄物輸出を日本国民の目から巧妙に隠していると言わざるを得ません。

 12月5日の参議院外交防衛委員会における質疑で、「関税削減リストから全ての廃棄物を削除すべきではないか」、「有害廃棄物は絶対輸出しないとの約束が必要ではないか」との質問に対し、政府答弁は「バーゼル条約とJPEPA23条/GATT20条(人・動物・植物の健康・生命の保護に必要な措置)に国際的な約束がある」とはぐらかしました。しかしJPEPA第4条の「法令の見直し」は、「・・・一層貿易制限的でない態様で対応することができる場合には、その法令を改正し、又は廃止する可能性を検討する」としており、廃棄物輸入を規制する既存の法を改正することによる有害廃棄物貿易の可能性を明確に述べています。
 日本政府は「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(1998年)」は批准しています。しかし、リサイクル目的であってもOECD/EU/リヒテンシュタインの先進国からそれら以外の諸国に有害廃棄物を輸出することを禁止する「バーゼル禁止修正条項(1995年)」には、日本はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージランドなどとともに強硬に反対しており、批准していません。

 また、2005年4月に東京で開催されたG8/3R閣僚会議において、"物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減"を打ち出し、資源の国際循環という名の下に、有害物質を含む中古品や廃棄物を開発途上国へ輸出して、製品としての寿命をほとんど終えた中古品や廃棄物の処分を途上国に押し付けようとしています。

 さらに、日本フィリピン経済連携協定と同様の二国間経済協定をアジア地域の各国と結び、これらの協定を利用して日本の中古品や廃棄物のアジア地域内での処理を推進しようとしていることは明らかです。

 バーゼル条約及びわが国の廃棄物処理法においても、廃棄物の「国内処理の原則」を明確に規定しています。それにもかかわらず、わが国で発生する廃棄物の処理を途上国に押し付けることで、自国の廃棄物問題の軽減をはかり、その結果、途上国の人々の健康と環境を脅かすということは許されません。

 そこで、私たちは日本政府に対して、以下のことを求めます。

  1. 日本フィリピン経済連携協定(JPEPA)が発効しても有害廃棄物は絶対輸出しないと約束する。
  2. 今後締約されるアジア地域内を含む途上国の二国間経済協定に廃棄物を含めない。
  3. 廃棄物及び中古品の処理には厳格に「国内処理の原則」を適用し、開発途上国での処理に依存するような政策をやめる。
  4. 廃棄物の発生削減を最優先として、国内循環を基本にした3R政策を推進する。
  5. 3Rイニシアティブから"物品・原料の国際的な流通に対する障壁の低減"を削除する。
  6. バーゼル禁止修正条項を批准し、リサイクル目的を含めて有害廃棄物の途上国への輸出を禁止する。
以上

化学物質問題市民研究会
フィリピンのこどもたちの未来のための運動(CFFC)
脱WTO草の根キャンペーン実行委員会
市民がつくる政策調査会
化学物質過敏症支援センター
「『日比友好50 周年』を問い直す市民・NGO のつどい」実行委員会
アジア農民交流センター
ジュビリー関西ネットワーク
バーゼル・アクション・ネットワーク(USA)

-問い合わせ先:安間 武ac7t-ysm@asahi-net.or.jp
(化学物質問題市民研究会)


化学物質管理のあり方に関する市民からの提案
新化学物質NGOフォーラム


 今年春から、環境省、経産省は、2007年の化管法の見直し、2009年の化審法の見直しを見据えて、化管法に関する懇談会と化学物質政策基本問題小委員会を設置し、今後の化学物質政策についての検討が始まりました。
 れに対して我々市民の側は、「新化学物質NGOフォーラム」(当会も参加※)を発足させ、両委員会を毎回傍聴し、NGO代表委員と一緒に内容を検討して意見を出してきました。そして、12月11日、「化学物質管理のあり方に関する市民からの提案」を記者発表し、同日開かれた化学物質政策基本問題小委員会に提出しました。
 同委員会は12月22日に第9回(最終回)を開催し、「中間取りまとめ」を決め、来年1月パブリックコメントにかける予定になっています。
 その後、今後の化学物質の政策のあり方を決める具体的な検討のための委員会が発足し、2年間かけて結論を出す予定です。フォーラムは市民提案を実現するために、NGO代表委員をサポートしながら、活動していきます。
 今号では、市民提案の概要を紹介します。(全文は当会のホームページ掲示板に掲載しています。)

※化学物質問題市民研究会、有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ)、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、WWFジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議、中皮腫・じん肺・アスベストセンター

《概要》
1.化学物質管理のあり方の基本的方向性に関する提案
 現行の管理制度は、原則的には用途別・省庁別となっていますが、昨今のアスベスト問題が示しているように、縦割りの管理だけでは、どうしても施策の間隙が生じたり、情報や認識のギャップが生じることは避けられません。そもそも環境には省庁のような境界はないことを考えると、中枢的役割を担う組織を整備して、総合的な管理システムを確立することが不可欠です。
 したがって、「化学物質安全庁」(仮称)を新たに設置するか、内閣府に「化学物質安全委員会」(仮称)を設置するとともに、「化学物質安全基本法」(仮称)を制定して、総合的管理システムを確立することを提案します。  そのために、ライフサイクル管理システムの構築や、現在の化審法を改正した既存化学物質を含む事前審査制度の確立、化学物質の製造、使用に関する予防原則及び代替原則の確立、市民参加の保障を求めます。

2.化学物質に関する情報収集、伝達のあり方についての提案
 化学物質管理のためには、情報の活用が重要です。収集すべき情報は、国際的な調和の観点から、GHSやOECDガイドラインに準拠したものとすべきです。対象試験の範囲は、一律ではなく、生産量や用途に応じて異なることとします。川上メーカーと川下メーカーが分担し、収集した毒性データのほか、生産量や用途に関しても国に届出る制度を確立すべきです。
 届出データのチェック・評価は国の第三者機関が行うべきであり、前述の「化学物質安全庁」又は「化学物質安全委員会」の中に、評価システムを設けるのが望ましい と考えます。また、届出データについては、原則公開とすべきです。特に、SAICMの包括的方針戦略WのBの第15項(c)にあるように、人の健康・安全と環境に係る化学物質情報については機密情報とみなすべきではありません。

3.GHSの本格導入に関する提案
 国連のGHSに関する勧告の趣旨は、「全ての化学物質及び混合物を対象として、危険有害性(ハザード)に基づき分類し、表示すること」にあります。日本では、2006年12月からGHSが導入されますが、労働安全衛生の分野だけにとどまっています。法令が適用される物質数も制限されています。
 国連勧告の趣旨に則り、労働安全衛生の分野だけでなく、環境・消費者分野も統合した総括的なGHS制度を確立し、広く表示及びMSDSの交付を義務づける必要があります。したがって、私たちは、すべての化学物質を対象とした一元的な「化学物質表示法」(仮称、略称GHS法)を制定することを提案します。
 当面の対処として、現行の労働安全衛生法、化管法、毒劇法で制度化されているMSDS文書の作成に関し、GHSに対応したMSDS文書に作成し直すことと絵表示を早急に義務づけること及び、早急に家庭用品規制法等の関係法令を見直し、消費者保護の観点から、消費者製品への危険有害性分類と絵表示を義務づけることを提案します。

4.化学物質管理手法に関する提案
 化学物質管理にあたっては、上市前の事前審査制度を整備することが重要です。上市後の管理については、総合的管理システムの下で、領域別・用途別に規制を実施する必要があります。管理手法は、規制的手法、枠組み規制手法、経済的手法、情報的手法、自主管理手法を適切に組み合わせて、効果的な管理を行う必要があります。管理システムの整備にあたっては、子どもなどのハイリスクグループや生態系に配慮することにも留意する必要があります。

5.リスク評価・リスク管理のあり方に関する提案
 私たちは、化学物質管理にリスク・アプローチを採用する際、事業者のリスク評価の実施義務付けと国の第三者機関による評価、予防原則の適用、高懸念リスクに着目したリスク評価の実施、複合曝露、複合影響を勘案した評価・管理体制の構築、市民参加の保障などに留意する必要があります。

6.新たな被害に関する対する救済制度についての提案
 近年、シックハウス・シックスクール症候群や化学物質過敏症など、従来の公害被害とは異なる新たな化学物質被害が発生し、増加傾向にあります。これらの被害については、未だその発症メカニズムや原因物質、治療方法についての知見が著しく不足しており、被害者の救済にはまったく手がつけられていません。そこで、私たちは、このような新たな被害に対する知見を確立するための調査・研究を積極的に推進することに加え、救済制度を整備することを提案します。

7.新たな課題への対処
 ナノ技術や遺伝子組換え技術などの新技術についても、それらを利用した製品等が市場に出る前に、技術の安全性や社会経済的合理性について総合的な評価制度を市民参加の保障の下に確立する必要があります。
 ナノ技術はあらゆる産業分野に革命を起こす新たな技術として期待されており、日本を含む世界各国はナノ技術の開発にしのぎを削っています。ナノ技術の発展を図ろうとするなら、ナノ技術が人の健康と環境に及ぼすリスクを適確に評価するとともに、その安全性を確保する必要があります。
 安全性が確保されるまで、ナノ製品の製造、使用等を一時中止すべきです。


欧州議会 REACH採択 来年6月から施行
当初の内容からは大きく後退 しかしその理念は変わらない



 REACHは12月13日にEU議会と欧州閣僚理事会の妥協案がEU議会(第二読会)で採択され、12月18日に閣僚理事会で形式承認されました。1998年4月のイギリスのチェスターでのEU環境閣僚理事会から9年、2001年2月の『将来の化学物質政策のための戦略に関する白書2001年』から6年、そして2003年5月のREACH案発表から4年費やして、ようやく2007年6月1日に発効することになりました。
 すでにREACHは当初の内容から大きく後退させられていましたが、それでも第二読会ではNGOsが支持する議会案と産業側が支持する理事会案の攻防があり、最終的に理事会案に大きく妥協する案が採択されました。しかしREACHの基本理念は少しも変わっていません。

■REACHの基本理念
  • データのない化学物質は市場に出さない
  • 安全情報の立証責任は企業側にある
  • 予防原則及び代替原則に基づく
  • 消費者には製品中の成分について知る権利がある
■採択された主な内容(<注>は安間によるもの)

◆ヘルシンキ化学物質庁

 新たに化学物質庁をヘルシンキに設立し、REACHの運用・管理を行う。

◆有害物質の認可
 認可手続きは、より有害であると考えられる約3,000物質を対象とする。

1.残留性及び生物蓄積性のある化学物質(PBTs、vPvBs)は、経済的なコストでより安全な代替が入手可能なら代替されるべきこと
<注>これらの物質には、それ以下なら健康にリスクを及ぼすことはないと考えられる"閾値"は存在せず、"管理使用"はできないという前提。

2.発がん性、変異原性、生殖毒性物質(CMRs)に対する条件はもっと緩く、製造者がリスクは"適切に管理される"ことを示すことができれば認可される。
<注>これらの物質には、それ以下なら健康にリスクを及ぼすことはないと考えられる"閾値"が存在し、その閾値以下で管理使用できるとする前提。
2.1これらの物質について、より安全な代替が存在するなら、製造者は最終的にはそれらに代替できるよう代替計画を提出することが求められる。
2.2これらの物質について、より安全な代替が入手できないなら、製造者は将来代替できるようにするために研究開発計画を作成することが求められる。

3.見直し条項の下で、内分泌かく乱物質は社会経済的コストとベネフィットの分析に照らした上で認可され得る物質のリストに含まれるべきかどうか、6年後に最新の科学的データに基づき決定される。
<注>これは内分泌かく乱物質が"認可対象から外されたということであり、大きな後退である。

◆物質の登録
 欧州委員会は今後12年の間に、製造量又は輸入量が年間10トン以下の物質の化学物質安全性報告書(CSR)の要求事項を拡大することを勧告するかどうか決定しなくてはならない。この期限は発がん性、変異原性、又は生殖毒性物質については7年に短縮された。
<注>10トン以下の化学物質のテスト要求が大幅に緩和されたことに対する措置。

4.知的所有権条項は強化され、データ保護期間が3年から6年に拡大された。

◆一般注意義務
 REACHの中で"一般注意義務"原則が規定された。合理的に予見できる状況の下で人の健康又は環境が有害な影響を受けないことを確実にするために、物質の製造、輸入又は上市は先を見越して責任を持ってなされなくてはならないということを説明文の中で規定する。これは問題となる物質に関する必要な全ての情報を収集すること、及びリスク管理についての全ての情報を流通チェーンに沿って流す義務を含む。
<注>後退させられたREACHの中で、数少ない評価される内容

◆物質の評価
 議会は、ヘルシンキに設立する欧州化学物質庁に二人のメンバーを任命する。エグゼクティブ・ディレクターを任命する時には事前に議会の審問を受けなくてはならない。しかし、産業側に対する同庁メンバーの独立性の保証及び利害関係の公表についての議会要求は受け入れられなかった。
<注>産業側に対する同庁メンバーの独立性の保証及び利害関係の公表が受け入れられなかったことは大きな問題。企業との関係を公表せずに企業のために働く学者の例は、本誌記事『著名な疫学者が利害抵触を隠していた』他、世界で数多くある。

◆情報の伝達
 製品中に含まれる有害物質について公衆に知らせる義務に関する条項が追加された。消費者及び流通チェーンは製品合計重量の0.1%以上を含むどのような化学物質についても知らされなくてはならない。欧州委員会は化学物質製品の欧州品質マーク確立の可能性を検討しなくてはならない。
<注>これも評価できる点で、消費者は要求すれば製品成分を知ることがでる。
(文責:安間 武)


化学物質過敏症に苦しむ女性たち−下


事例2 京都府在住 女性

 私は、19歳で新築の家に移り、シックハウス症候群を発症しました。その後、歯科の根管治療により体調悪化、寝たきり状態などを繰り返しつつも、拘束時間の短い仕事をしながら、ピアノ演奏、ピアノライブ活動、音楽指導等を行ってきました。

 ひどい体調不良を抱え、何度も倒れ何十件も病院にかかりましたが、異常なしとの診断でした。再度、歯科根管薬によりショック状態になり、ようやく、自宅周囲の果樹園の農薬、田畑の農薬、除草剤による健康被害の影響を知り、28歳で「シックハウス症候群」「化学物質過敏症」と診断されました。
 その後、この2年間、この病の患者の置かれている状況や背景を調べたり、環境問題を勉強したりしつつ、生活用品全て石けんに切り替え、家具を7割処分して、何とかシックハウスの家に住めないかと対処してきました。

 しかし、自宅周辺の農薬散布がひどい状態で、とても難しいです。家の真ん前にあり、家を取り囲む様に並ぶ果樹園の農薬散布(3月〜9月頃)の時期になると、体が、痙攣したり、顔面麻痺、呼吸困難、記憶障害、激しい胸痛等を起こし、住める状態ではありません。自宅付近から離れると、体が軽くなり、楽になります。 6〜8月は、ほぼ毎日、どこかで農薬や除草剤が使われていて、それがガス化して、常に周囲に漂っている様で苦しくてたまりません。

 20軒程の農家が、好きな時に好きなだけ、農薬を撒いて帰って行きます。農薬散布時は教えて下さいとお願いしていますが、連絡を下さるのは数十軒ある内の、3軒のみです。
 その3軒だけでも、週に2度ずつ、液体農薬を霧状にして空に向って散布します。1度の散布で1週間は苦しく体が反応してしまうのに、3軒の農家だけで、1週間に6回も撒くのです。

 それに加え、田圃への散布、除草剤もあります。連絡をくれない残りの農家の薬剤使用量も考えると、私の体が弱いのではなく、おかしくなって当然という気がします。神経にも異常をきたしているのを強く感じます。ここは、人をも殺す農薬天国としか、思えません。

 「農家が、農地の一部を売り(農薬中毒)、販売業者が粗悪な建材(シックハウス)を使い、建売住宅を建て、都会から田畑の事を何も知らない人が、移り住む。」これは、我が家をはじめ日本中で起きている事です。
 当然、周囲は田畑、果樹園に囲まれており、農薬被害も受ける。しかし、農薬がどの程度、いつ、散布されているのか知らない住人は、外に洗濯物を干し、布団を干し、窓を開け掃除をする。農薬にまみれた布団で眠り、農薬にまみれた衣類を身につけ、農薬にまみれた空気を吸って、体調はどんどん悪化していく。

 自分の体に何が起こっているのか!?と、医者巡りを繰り返し、対症療法でしかない投薬を受け、更に悪化し、家族に説明できる病名もなく、「怠け者」等と誤解を受け、孤独とストレスを抱えて、力尽きる。私は、この様な10年を過ごしてきました。

 まさしく、私の人生は化学物質との戦いです。今、あらゆる日用品(洗剤、香料等)にも反応する為、社会に出ることが困難です。満足に人にも会えず、仕事も失い、路頭に迷っています。このまま、家族のやっかい者のまま、死ぬのかと思うと、口惜しくてなりません。

 家を離れれば、症状は改善していくのが分かっていながら、住環境や、金銭的な面で行く所がありません。その間も、農薬とシックハウスにより、身体は壊れていきます。田舎へ行けば農薬、都会は排ガスに香料という世の中で、何とか身体を治そうと、必死でもがいています。

 人間をこんな状態に追い込む「農薬」は、もっと慎重に取り扱われるべきです。人体に蓄積された化学物質の影響など分からないのに、安易に安全であると断言すべきではありません。

 農地と住宅地が混在している事も問題視すべきだと、私は思います。農地と住宅地の間に一定の距離をとる、飛散防止柵を設けるなど、何らかの法規制が一刻も早く行われることを強く望みます。



化学物質問題市民研究会
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