ピコ通信/第88号
発行日2005年12月22日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 12月5日 4省に対して化学物質過敏症対策の要望書を提出
  2. 東京都教育委員会にCSの子どもの教育について要望書提出
  3. インキ会社研究所で化学物質過敏症に
  4. 海外情報/テフロン化学物質 PFOA デュポン−EPA 危険報告義務違反訴訟 史上最高の過料で和解
  5. バーゼル条約事務局・日本環境省共催 / E-wasteの適正管理のためのアジア地域ワークショップ/バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)  高宮由佳
  6. 化学物質問題の動き(05.11.25〜05.12.21)
  7. お知らせ・編集後記


12月5日 4省に対して化学物質過敏症対策の要望書を提出


 2005年12月5日、化学物質問題市民研究会は化学物質過敏症支援センターほか36団体とともに、厚生労働省、文部科学省、環境省、国土交通省に対して化学物質過敏症対策に関する要望書を提出しました。提出にあたっては上田いさむ衆議院議員に協力をお願いし、2月頃、4省との話し合いを持つ予定です。
 今号では要望書の概要を紹介し、今後の動きについては順次報告します。
(要望書は当会のウェブサイトに掲載しています:4省への要望書と要望団体リスト

■厚生労働省への要望書(概要)

要望1.全国規模の疫学調査を実施し、発症者の実態を把握してほしい

要望2.化学物質過敏症を病気として正式に認めてほしい
・医学界が認めていないことをその理由にしているが、その根拠は何か。どういう条件を満たせば、医学界が認めたと見なすのか。
・化学物質過敏症の科学的究明が十分でないとしても、何らかの救済策を講じてほしい。

要望3.療養施設と避難施設を早急に作るか、または既存の療養施設・避難施設への助成、療養・避難する発症者への支援を行ってほしい
 被害者は化学物質の被害から逃れて住む場所がなく、路頭に迷っている状況である。キャンプ生活を余儀なくされている人もいる。

要望4.保育園、幼稚園におけるシックスクール対策を進めてほしい
 学校においてはシックスクール対策が徐々に進んできているが、保育園・幼稚園等の社会福祉施設においては、ほとんど取られていないのが現状である。

要望5.化学物質による被害者救済のための対策委員会を早急に発足させてほしい

要望6.予防原則に立った化学物質の使用規制に関する総合的な法律を制定してほしい

■文部科学省への要望書(概要)

要望1.化学物質過敏症(以下CS)の児童・生徒の全国実態調査を実施してほしい

要望2.国としてシックスクール問題対応マニュアルを作成してほしい
 一部自治体においては、シックスクール問題対応マニュアルが作られてきている。国においても作成しているとのことだが、その進捗状況を示してほしい。

要望3.シックハウス症候群に関する調査研究協力者会議の進捗状況について示してほしい

要望4.学校長・副校長・教職員等、学校関係者への研修体制を確立してほしい

要望5.CS児童・生徒のために、副担任を置いたり、訪問教育を行う場合に必要となる教員の加配について、当該教育委員会へ財政支援を行ってほしい。また、通信制・インターネットを使った授業なども実施してほしい。

要望6.幼稚園におけるシックスクール対策を進めてほしい

要望7.農水省通知「住宅地等における農薬使用について」(平成15年9月16日付け 15農安第1714号消費・安全局長通知)の周知・徹底をはかってほしい
 学校敷地内において、この通知が守られていない実態があり、CS児童・生徒は苦しめられている。周知・徹底のための方策を示してほしい。

■環境省への要望書(概要)

要望1.化学物質過敏症を疾病として認めること
 また、化学物質過敏症に関する研究の昨年2月の報告書発表後の進捗状況と、今後の見通しについて示されたい。

要望2.公園や街路樹、庭等に撒かれる農薬等の薬剤による被害防止対策を徹底すること公園や街路樹、庭等に撒かれる農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤等)によって、化学物質過敏症(CS)を発症する者が後を絶たない。また、すでに発症した者も、これに非常に苦しんでいる実態がある。農水省の通知の周知・徹底をはかり、有効な対策を講じてほしい

要望3.野焼きの取り締まり強化と周知徹底をはかること
 化学物質過敏症患者は、野焼きにひじょうに苦しめられている。農家の野焼きは自然物については禁止されていないが、稲わらやもみがら焼きの煙に、ぜん息などの原因となる化学物質が含まれていることが明らかになっている。よって、農家の野焼きはすべて禁止してほしい

要望4.印刷工場、化学工場、機械工場、クリーニング店等からの有害ガス・悪臭等による被害対策を講ずること

■国土交通省への要望書(概要)

要望1.改正建築基準法を満たしても発症者が出た住宅の実態調査を実施してほしい
 改正建築基準法を満たしているにもかかわらず、発症している例が見受けられる。国として実態調査を実施し、建築基準法の見直しを行ってほしい

要望2.療養施設と避難施設を早急に作るか、または既存の療養施設・避難施設への助成、療養・避難する発症者への支援を行ってほしい
・中長期間住める療養施設と、一時的に避難できる施設を各地に建設してほしい
・民間が患者の要望に応じて建設した同様施設への助成をしてほしい


東京都教育委員会にCSの子どもの教育について要望書提出


 12月1日、化学物質過敏症の児童・生徒をもつ東京都内の保護者有志8名と当会は、東京都教育委員会に「化学物質過敏症(CS)の児童・生徒の教育に関する要望書」を提出しました。提出にあたっては、泉谷つよし都議会議員に協力をお願いし、今後、都教委と話し合いを持つことになっています。今号では、要望書の内容を紹介します。

東京都教育委員会への要望書内容(概要)
  1. 都内のCS児童・生徒に関する人数・実態等を調査してください。
  2. 「都立学校における室内化学物質対策の手引き」の周知・徹底をして下さい。 また、23区、市町村に対しても「手引き」に沿った対応をするよう指導して下さい。 特に、ワックス、農薬散布、学校で行う工事については、CSの子どもが通えなくなる可能性が高いので指導をお願いします。
  3. 「都立学校における室内化学物質対策の手引き」には、既に発症した児童・生徒への対応についての記述がありません。「手引き」中に追加するか、別に対応マニュアルを作成して下さい。
  4. 対応マニュアル作成に際しては、CS児童・生徒の保護者の意見を聞いて下さい。
  5. 教職員へのCSについての研修を、定期的に行って周知・徹底させてください。
  6. CSの子どもが通う学校については、学校内でも勉強会を新学年開始時に必ず行うようにして下さい。 7.CS児童・生徒について理解をするために、児童・生徒への教育、保護者への働きかけを進めてください。 CS児童・生徒については周囲の理解が必要です。教職員だけでなく、同じ学校へ通う他の児童・生徒およびその保護者にも理解して頂く必要があります。
  7. そのための方法の一つとして、CSに対する理解および注意事項等に関するパンフレットを作成し、配布して下さい。
  8. 校外学習については、宿泊先、コンサートホールなどにも配慮が必要な場合があるので、保護者や本人と十分に話し合ってください。
  9. 過敏症専用の空気清浄機を購入し、CS児の在籍する学校には、必要に応じて貸し出して下さい。
  10. 症状の重いCS児童・生徒について、先生の加配、自宅で学習できるように訪問支援をして下さい。また、通信制・インターネットを使った授業などを充実させてください。
  11. CSの児童・生徒のいる学校同士の連絡会を作り、代替の授業や使用できる教材などの情報交換を行ってください。
  12. 外壁工事についても、室内空気を測定して下さい 「手引」には、外壁のみの工事の場合は測定しなくてもいいと書かれています。しかし、外壁工事でも明らかに室内環境に悪影響を及ぼしますので、測定をするようにして下さい。
  13. 都立高校においては、CSの生徒が受けられない授業(プール・理科の実験・美術など薬品を使用するもの等)や学校工事等のために欠席した時の代替として、レポート提出・補習などで単位を補ってください。
  14. CSの生徒が、どこの高校に入学しても学校生活を送れるようにして下さい。 CSの生徒には地下鉄やバスに乗れない、混んだ電車に乗れない、長時間の電車通学に耐えられない子どももいます。自宅近くの学校に通えるように学校環境を整えて下さい。
(まとめ 安間節子)


インキ会社研究所で化学物質過敏症に
茨城県 O.H.



 ■突然、天井から悪臭が

 2003年11月18日、私はAインキ会社研究所の派遣社員として実験室で一人、データ解析の仕事をしていました。すると突然、硫黄系の腐ったような悪臭が天井からして気分が悪くなってきました。(上の階の排気装置の配管にヒビがあり、化学物質DMSOが換気ダクトを通って階下に漏れたとの会社説明を後で聞く)。実験室を退室し、上司に気分が悪くなったことを伝え更衣室で横になっていましたが、吐き気や頭痛はだんだん強くなり、30分の間に2〜3度吐くような状態でした。事務員がお茶と濡れタオルを持ってきただけで、放置されていました。私は早く医師に診てもらいたいという一心で、早退させてくれるよう総務に相談し、自宅の近くの病院に急ぎました。
 総務の担当者からは「害のないものだから大丈夫です。朝から体調が悪いかなんかで過敏になっているのかもね」(しかし、その日は朝から体調は良好でした。)と言われ、自宅から一番近い内科の病院にかかりました。しかしそこでは、「化学物質のことはわからないので」と言われ、吐き気、頭痛、喉、口、舌、目のヒリヒリ感等があることを話すと、その症状に対する風邪薬を処方されました。家に着く頃にはだんだん身体が冷えてきて、口の中が痛い状態だったので、おかゆのようなものだけを食べ、その日は横になっていました。

■"害は無いから、大丈夫"

 翌日、総務の担当者から「災難でしたね。ハハハ、DMSO(ジメチルスルホキシド 注)ですよ。害はないから大丈夫」と電話があり、私も1〜2日で症状は収まるとその時は軽く考えていたので、ただただ休んでいました。
 けれども3日経っても症状は治まらず、筑波大学付属病院の総合内科を受診したところ、薬品の中毒に間違いないだろうと言われ、労災申請しました。
 すると、インキ会社からT病院のM先生(会社の産業医で週に1度来る医師)の診察を受けるようにと言われ、指定された日に行くと、M先生はおらず別の医師でした。「会社が提示した薬品は、毒性のあるものではないから大丈夫です。症状は全て精神的なものです。肝機能、腎機能にも異常はありません」と言われ、私の話はろくに聞いてももらえず、勝手に妊娠の検査までされていました。そして、「症状があると言うのなら、精神科で診てもらってください」と言われました。
 症状はなかなか収まらず、他にも動悸、同じ姿勢でいることがつらい、不眠、身体が重く胸が張るような感じ、体温が上下する、視覚異常等様々な症状に苦しめられました。しかもそれは、風邪や下痢等通常の体調不良で感じる症状とは違い、今までに経験したことのない身体の変調で、恐怖感すら感じました。

■「いつから100%の仕事できるか」と催促

 11月27日に症状が少し和らいできたので出社すると、総務の担当者に「絶対におかしな薬品は無いので安心してください」と説得されました。そして翌日、派遣会社の担当者も交えて話をした時に、「体調不良の状態で出社されて会社で具合を悪くされても困るから、医師から診断書をもらってくるように」と言われ、12月8日から出社することになりました。いくら何でも、それまでには体調も良くなるだろうと私自身も思っていたのですが、自宅のパソコンでちょっとした作業をしても、集中できず頭痛がひどくなり、散歩をすると動悸が収まらず体温不安定となります。
 体調が良くならないために、インキ会社に連絡して12月8日も会社を休み、M病院で診察を受けました。すると派遣会社から電話があり、「いつから100%の状態で出社できるのかと会社からクレームがきました。企業様もつくば研究所開業以来初めて労災を申請されて、本社からの指導や対応で大変な状態なんですよ。出社するなら100%の状態で100%の仕事をしてもらわないと企業様も迷惑なんです。仕事中にまた、具合を悪くされたら企業様にとってもたいへんなことですよね。いつから出社できるんですか?」と言われました。
 具合を悪くされたら困るというのはどういうことでしょう。体調不良で苦しんでいる私に対しての思いやりの言葉はまるで無く、具合を悪くしたことに対して私を攻め立てる言葉だけでした。検査結果が出る12月15日まで待ってもらうことになりました。

■「症状は精神的なもの」と、契約切られる

 同病院の医師からは、「検査結果に異常値はありませんが、症状はあるのでいきなり100%の仕事をしようと思わずに少しずつならしていくようにしたらどうですか?」と言われたので、そのことを派遣の担当者に報告すると、「今までの経過をみると、精神的なものから症状が出ているとしか思えないですね。内科的に異常がないと医師からも言われているのだし、わが社としては精神的なものには対応できません。今日付けで契約を終了してください」と言われました。
 「医師からは少しずつならしていくように言われているので、明日から少しずつでも働きたい」と言うと、「企業様は100%の状態で100%の仕事をするように言ってるんですよ。折り合いがつかないので今日付けで終わりということにします」と言われ、「2月まではもともと契約があったのだから困る」と言うと、「じゃあ、いつ100%の状態で仕事ができるんですか?」と強く言われ、頭が真っ白になりました。
 具合が悪くなったのは私のせいなのでしょうか? 良くならないのは私が悪いのでしょうか? 私が仕事でミスをして曝露したのではありません。データ整理中にいきなり天井の空調から異臭がし、具合が悪くなったのです。空調からの異臭騒ぎはその時一度ではなく、私がそこで働き出した2002年7月29日以降3〜4回はありました。本当は、私が「早く100%の状態に私の身体を戻してください」と言いたいところでした。

■有機溶剤中毒、化学物質過敏症と診断

 その2日後の12月17日に、労働基準監督署に相談に行きました。相談員のかたは親身に話を聞いてくれ、そこで初めて北里研究所病院のことを知りました。また、たまたま主人が筑波大のかかりつけの医師に私のことを相談したところ、水戸の志村病院脳神経外科の先生を紹介していただき、診察を受けました。志村病院で「有機溶剤の中毒によるすい骨動脈不全で、小脳の機能が低下しています」と言われ、北里研究所のほうでも「化学物質過敏症です」と言われました。
 診断を受けた時、それまでは"何故こんな症状が出て、いつまで経っても治らないのだろう? 精神的なものからだけのはずはない"と思いながらも、他の病院では「異常ありません」と言われ、不安は膨らむばかりでしたが、症状の理由、原因等がわかり精神的にかなり楽になったのを覚えています。

■急性中毒の部分だけ労災認められる

 2003年11月18日に曝露してから1年5ヵ月後の2005年4月13日に、急性中毒の部分(03年11月18日〜04年年1月20日の期間)だけ、労災認定されました。
 被曝した時、早く医師に診察してもらいたいと思いましたが、医師の全てがこの病気に対して知識があるわけではないということ も初めて知りました。知識のない医師の所へ行って診断書を書かれてしまうと、その後の労災申請にとても不利益を被ってしまうということも知りました。化学物質の中毒について知っているのはほんの一握りの医師で、そういう人にめぐり合える病院を一般の人が探すのはとても難しいことです。
 志村病院を紹介してもらえず、北里研究所病院の情報も得られずにいたら、労災を認めてもらうこともなく、精神病のレッテルを貼られ、今も悶々とした日々を過ごしていたかもしれません。医者を選ぶも寿命のうちというのは本当です。
 急性中毒の部分だけ労災認定されましたが、私が労働できなかった期間は1年以上にわたります。家族3人は私の収入で生活していたので、その間足りない生活費は結局個人で長年積み立てていた年金や保険を解約して充て、心身はもちろん経済的にも大変つらい思いをしました。未だにインキ会社と派遣会社からの正式な謝罪は一切ありません。
 大分回復しましたが、とても疲れやすいですし、以前のように集中してパソコンの仕事を長時間するようなことはできません。現在は主人と一緒に料理店を始めて、体調を見ながら何とか働いています。
 私が経験したことが、私と同じような症状で苦しむ人やこれからなってしまうかもしれない人のために少しでも役立つならばと思い、書かせていただきました。


注:ジメチルスルホキシド。顔料、塗料、溶剤等の用途。動物実験で催奇形性あり。皮膚、眼の刺激剤。過敏症の反応や角膜の混濁の原因となり得る。(化学物質安全情報提供システム(kis-net)情報)

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