ピコ通信/第84号
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8/6アスベスト学習会 「私たちに今何ができるか」 から
この間のアスベスト問題の経過 古谷杉郎さん 石綿対策全国連絡会議事務局長 共催:有害化学物質削減ネットワーク(Tウオッチ)、石綿対策全国連絡会議、中皮腫・じん肺・アスベストセンター、東京労働安全衛生センター、化学物質問題市民研究会 ◆クボタショックはなぜ起きたか 石綿対策全国連絡会議は1987年にできました。1986年にILOがアスベスト条約を採択しますが、この条約の批准が閣議決定されたのが、ついこの間です。内容は一番有害な青石綿の禁止、種類にかかわらず吹きつけを禁止、可能な場合は代替品を使うというものでした。 クボタ・ショックの裏話をします。多くの人にはクボタが突然発表したように見えるでしょうが、前段があります。 昨年2月に「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」が作られました。メディアとしては唯一、NHKラジオがフォローしてくれ、それを聴いた朝日放送の下請番組制作会社の社長が、これこそわが社がやるべき仕事だということで動き始めました。取材の過程で、どこで曝露したのかわからない中皮腫患者さんがいるということが分かりました。住まいの近くにクボタの神崎工場があることに気がつき、周囲で話を聞くと、ガソリンスタンドの社長さんも中皮腫だということが分かり、さらにもう一人患者が見つかりました。 お互いに孤立していた3人の中皮腫患者さんは、知り合う中で沸いてきた当然の疑問―「一体工場のなかで何が起きていたのか」ということをクボタにぶつけました。クボタは結局、患者さんたちと会い、社内の資料を出してきました。患者の数はもちろん、過去の在職者を把握していて、会社の費用で診療を呼びかけていました。在職者何人中何人患者が出たという資料や、どういう段階でどのような対策をとったかも明らかにしてきました。さらに、工場が発展したのも地域のおかげであるので、一切の付帯条件をつけずに、患者に200万円の見舞金を支払いたいと申し入れてきました。 この経過の一部は、朝日放送のドキュメンタリー番組として、最初は1月末の深夜時間帯に放映されました。さらに5月末にパート2が放映され、このときはクボタの部長のインタビューも収められていました。しかし不思議なことにどこのマスコミも書きませんでした。6月29日になって、毎日新聞の関西方面の夕刊が一面トップで特ダネとして書きました。朝日放送がニュースで追いかけ、その日の夜の報道ステーションが取り上げて全国的に広がりました。クボタの英断という面はあったが、事態を動かしたのは、あくまでも3人の住民の小さな勇気だったということを強調しておきます。 ◆患者や家族が声を上げ始めた 日本では去年10月1日にアスベストが原則禁止になりましたが、それが決まったのは2003年の6月に当時の坂口厚相の発言からです。その1か月前に交渉をもって、全国から患者さんが行政に生の声をぶつけました。 政府に原則禁止に踏み込ませたのは、被害が隠せないほど増えてきたことと、患者さんや家族が自分たちの声で話し始めたことです。世界で禁止が潮流になってきたこと、日本でも使用量が減ってきたこともありますが、そういうふうに見ないと、歴史の教訓を誤ります。患者、家族が自分たちの声を上げ始めたことが、この一連のアスベストパニックの引き金になっていると、私自身は認識しています。 アスベストの専門の相談窓口が必要だということで、一昨年末に「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」を作りましたが、その2回線の電話が7月30日から鳴りっ放しです。しかし、マスコミの報道は激減しています。マスコミの人には、1か月騒いでいるが、何も変わっていないぞと言っています。口約束は乱発されていますが、具体的に制度が変わったとか、新しくこうするという話はまだゼロです。 ◆第一次アスベストパニックの教訓 私たちは一度そういう経験をしています。第一次アスベストパニックとでもいうものが、1987年に学校での吹きつけ、横須賀の空母ミッドウエイの改修問題で起きました。アスベストが発ガン物質であることの認識は広まりましたが、いろいろなガイドラインやマニュアルが出されただけで、法律や規則で禁止されることは全くなされませんでした。にもかかわらず、夏休みの集中工事などが終わってマスコミが取り上げなくなるにつれて、アスベスト問題は終わったという認識が定着してしまいました。 今、いろいろな人がざんげをしたり、過去の検証をしています。特に役所がやっている。今回、環境省が召集した検討会の座長が、アスベスト業界団体の顧問だったことがすっぱ抜かれて辞任したように、専門家の責任も問われています。労働組合も批判されました。しかしマスコミこそ何をやってきたのでしょうか。 ◆4本柱の提言発表 その二の舞になっては困るので、私たちは、4本柱の提言「アスベスト問題に係わる総合的対策に関する提言」http://park3.wakwak.com/~banjan/050726teigen.html(注)をまとめました。 一つは、一日も早く、原則禁止ではなく、全面禁止にしてもらいたい。 二つ目は、健康被害対策。全面禁止にしても過去のアスベスト使用による被害を止めることはできない。今始まったばかりの被害の増大への対策に取り組むこと。中皮腫は、診断がむずかしく、早期発見法がなく、治療法もありません。 三つ目が、すでに私たちの身の回りに使われている既存アスベストをどうするか。今のところ、埋めて掘り返さないということしか対策はない。使用された累積1000万トンが、処分場のものも含めて、どこにどういう状態であるか、早急に調べて、誰でもあそこにアスベストがあると分かるようにした上で、さわらないようにする。あわてていいかげんに除去するより、あそこにあるとはっきりさせた上で、どうしていくのかというリスクコミュニケーションを始めるべきです。 四つ目は、日本だけでなく、生産や輸出が海外へ行かないように、地球規模で解決を目指すこと。 この間のマスコミ報道も受けて、これに五つ目を加えると、予防原則の教訓を引き出す観点から、過去を検証すべきでしょう。役所や業界の内輪だけではなく、第三者を含めた作業が必要です。 緊急に決断すべきことは一刻も早く迅速にしていただいて、その上で総合的対策は腰をすえてやらないと、同じ失敗を繰り返すことになります。特に省庁の縦割りの弊害を排さないと、解決しない問題がたくさんあります。 1か月騒いで、まだ実際に変わったことは一つもありません。これから世間の関心が急速に冷えたあとに、国の対策がまとめられて出てきます。マスコミや市民の皆さんには、関心を持続して、何がどういう方向に進んでいくのか、見守ってほしいと思います。 (まとめ:花岡邦明) 注:Yahooで「アスベスト対策情報 」で検索すると、トップページ中程に掲載されています。 |